演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

金田一 央紀

演出家

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「THE DIVER」演出助手として

___ 
本日は、野田秀樹さん東京芸術劇場芸術監督就任記念公演「THE DIVER」の演出助手を務めた、金田一さんにお話を伺います。先ほどの公演を見せてもらいましたが、非常に面白かったです。お疲れ様でした。
金田一 
ありがとうございます。
___ 
いや、本当に良かったです。最後にも幕の間からもチラっと見れたし。
金田一 
あそこで効果音とか出してるんだけど、大丈夫だった?
___ 
いや、大丈夫だったよ。
金田一 
本当に。
___ 
久しぶりに頑張っている姿を見れて嬉しかった。
金田一 
久しぶりだもんね。
___ 
しかし、本当にもの凄い舞台に関わってるんだなあと。役者さんがやっぱもの凄くカッコ良かった。
金田一 
いや、凄いよ。プロだから。
___ 
まあ、プロだからね。当たり前と言えば当たり前の。
金田一 
本当に、あの人達をプロと呼ばずして誰をプロと呼ぶのか。
___ 
だから故にか、カッコイイしね。
金田一 
褒めても仕方ないけどね。格好良いってさ、自分への引け目から発していると思わない? あの人達のは、そこを超越したカッコ良さだと思う。
THE DIVER

野田秀樹氏の東京芸術劇場芸術監督就任記念公演。金田一氏は演出助手として参加。

ロンドンの街中で

___ 
今回の作品には、助演出として参加したという事ですが。ご自分にとって良かった事とは。
金田一 
そりゃあ、あの稽古場にいられたことでしょう。もちろん僕は僕なりに仕事があったんだけど、とにかく居られる訳ですよ。稽古初日は怖かったんだけども、有起哉さんがガチガチの僕に声を掛けて扉を開いてくれて。いっけいさんも何かとツッコんでて楽しかったし、大竹さんも週に2〜3回、稽古場に差し入れ持ってきてくれるしね。今回、役者が4人だけだったから密な関係を作るのが必要だったのかもしれないけど、凄くフラットな雰囲気の現場でした。作品作りをする上で、スムーズに意見が出やすくなるようになっていたんだと思う。
___ 
なるほど。
金田一 
野田さんが、夢の遊眠社の話もしてくれる訳ですよ。僕は大学の時に憧れてて戯曲を大学の劇団でやっちゃうくらい好きだった訳だから。これは凄いことですよ。
___ 
幸せだなあ。ところで、野田さんとはどういうところで知り合ったの?
金田一 
大学を卒業してからロンドンに留学してたのね。演劇とミックスメディアの勉強をしていて。ある時期に、野田さんが今回の作品の製作で来てるというから、劇団や事務所に連絡して。
___ 
ロンドンで。
金田一 
そうそう。橋渡ししてくれる人もいたおかげで会えたし、仲良くなれた。ロンドンの街中の劇場の施設は1階にバーがあって、そこで色んな演劇関係の人や観客が溜まれるようになってるんですよ。楽屋口もないから、上演終了後はみんなそこで集まる。そういうところで会えたんです。その内気に入ってくれて。
___ 
なるほど。劇場のバーか。いいね。
金田一 
日本には中々そういう場所はないんですよ。もっとそういう場所が増えるといいな。

野田さんはイチから・・・

___ 
さて、金田一君的に、今回勉強になった事とは?
金田一 
野田さんの作り方って凄い良いなと思っていて。芝居の基本を作る姿勢というか。例えば、今回の作品の冒頭で野田さんが一番最初にマイムでドアを開けて入ってくるでしょ。その時に効果音が「ガーン」と鳴ると。
___ 
ありましたね。
金田一 
野田さんは、演出手法としてそのシーンを0から作っていくんですよね。普通は安易に、何も意識せずに「ドアを開けるマイムをすると同時に音が鳴る」シーンを作るけど。
___ 
そういう共通認識というか、観客側もコンテクストを既に持ってるからね。
金田一 
野田さんはそうじゃなく、ルールや文法を、イチから作るんですよ。舞台上に出てきて、マイムでドアを開ける時に「キィー」って音を出す。すると、客席でおしゃべりしていた人たちが「あ、始まったんだな」と気づく。「ガーン」って音がするから舞台を見ると、野田さんがドアを締めた格好で止まっている。ここで客電が消えて、作品が始まるから、この切り替えが後々の舞台転換でも使えるようになる、と。そういう、一見基本的な手法を細かく無から作るのね。
___ 
なるほど。あそこは何故か鳥肌の立ったシーンだったけれど、そういう事をしてたんですね。観ていて安っぽい演出だとは全く思わなくて、カッコイイなと思ったんですよ。一見基本的なやり方に見えるけど、全然違う事で。
金田一 
うん。全然違う。
___ 
やり方を作るってことだよね。
金田一 
そう。もう30年も作ってるのにね(笑う)。なるたけ多くの人に表現を伝えたいから、僕たちは苦心するじゃん。だから、導入部分はきっちり作りたい。僕もそういう、舞台上での言語作りをしたいと思っています。

「俺達はこれで行く」

___ 
金田一君が芝居を続けている、根本的な理由とは。
金田一 
何だろうね。それは僕もずっと考えていて。伝わっているという事の実感を強く感じられるのが演劇だからかな。酒を飲みながらわいわいやりながら喋れるじゃない。その感じが、芝居にはあるんじゃないかと。
___ 
分かります。
金田一 
舞台で芝居をやっていて、客席の人と、何かが通じ合っているという感触があるんですよ。何か面白い事を言って笑いが出るなんて、そんな単純な話じゃなくて。
___ 
たとえば、舞台は毎回違うナマモノである、だとか、客席の反応が舞台に返ってくるどうこうとかの話でもないですよね。
金田一 
うん。例えばあるシーンで、誰かが手を振り上げる、その時、「あ、みんないまここを見てる!」って感じる。その力強く振り上げた指の先を見てるって思うんですよ。今同じ場所で、私たちは同じモノを見て、同じ事を思いながらそこにいる、みたいな。
___ 
共感覚みたいな。
金田一 
面白い芝居を見ると、そういうのを強く感じるんだよね。そういう感覚をもっと感じたくて芝居を続けているのかな。
___ 
演劇って、何だろう、表現が伝わった時点でものすごく有り難いよね。全然違う人間同士がさ、同じ場所に集まってる劇場で。その濃さを上げるにはもう、伝える為の努力をとにかくしなければならない。だから、野田さんは0から芝居を作るのかもしれないなあ。だから鳥肌が立ったのかも。
金田一 
そうそう。あの「キィー」で、「俺達はこれで行く」って宣言してるんだよな。カッコイイんだよ。それを気合だと言うもいるだろう、古臭いだの新しいだの評価する奴もいるかもしれない。そうじゃなくてさ、「こうでいきます」って。自分たちの演劇の宣言なんだよ。中々ないと思うよ。

質問 伊藤 拓さんから 金田一 央紀さんへ

___ 
ここで、前回インタビューさせて頂いたFrance_Panの伊藤さんからの質問をさせて頂きたいと思います。1.演劇の社会的地位は高いと思いますか?
金田一 
自分たちが何歳であるかによって違うんだろうな。僕らが小学生だった頃はアイドルになりたかったと。そういう時に、演劇の地位は結構上だよね。だけど段々、年を取るにつれて色んな職業を知ると段々平等になっていく訳で。お金が回る仕事と回らない仕事があると分かって来て、就職活動を始める時期には、同世代の演劇の社会的地位はガクンと下がっているかもしれない。
___ 
しょうがないけどね。
金田一 
でも、お金を稼げる年齢になった連中に「俺芝居やってるぜ」って言うと、すげえ!とか羨ましいとかの反応になるんですよ。それも3年位経つと、「お前どうやって食ってんの?」って。常に荒波に揉まれているんだと思う。この社会全体でどうこうというのは、あんまり考えない方がいいんじゃない? まあ、演劇と社会との信頼関係がもうちょっとあればとは思う。
___ 
ありがとうございます。2.月に何本くらい芝居を見ますか?
金田一 
9月入って、まだ2本。ロンドンにいた頃はもの凄い本数を見ていた。一月に12本くらいかな。

メッセージ 七味 まゆ味さんから 金田一 央紀さんへ

___ 
あと、七味まゆ味さんからメッセージを頂いてきています。「今度また一緒に飲もう。がんがってねっ」。
金田一 
がんがる。がんがる。

勉強するしかないよ

___ 
金田一君は、今後どんな感じで攻めていかれますか?
金田一 
とりあえず、いっぱい勉強します。勉強するしかないよ。野田さんの演出の仕方とか、たくさんノートに取れたし。色々な経験を形にしたいな。
___ 
おおー。頑張ってください。今後の予定としては。
金田一 
G2さんがブロードウェイミュージカルの「ナイン」て作品をやるんだけど、その脚本の翻訳に参加してます。自分の予定を言うと、色々ワークショップをやっていまして。その成果として友達と一緒に曽根崎心中をやりたいと思ってるんですよ。
___ 
あ、心中モノ。
金田一 
何だかねー、あの芝居は。ひどい話だよ。何であれが恋物語の手本になっているのか、その辺をちょっと考えてみたいなと。

TAKEO KIKUCHIのソックス

___ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがあります。
金田一 
ありがとうございます。ワクワクしてたんだよ。
___ 
どうぞ。
金田一 
タケオキクチ? 時計で有名だよね。開けていい?
___ 
もちろん。
金田一 
靴下? 柄が何かロンドンっぽいね。ありがとうございます!
(インタビュー終了)