春までもう少しのある日
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- 今日はどうぞ、宜しくお願い申し上げます。最近は、春野さんはどんな感じでしょうか。
- 春野
- ピースピット「TRINITY THE TRUMP」 が終わって、ほっとしています。お料理なんかもしちゃったり。基本的には、浪曲のお稽古が中心ですね。それから、3月に出演するお芝居、女性芸術劇場「光をあつめて」 の稽古なども始まりました。
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- あ、3月の。色んな方が出演されますよね。楽しみです。
- 春野
- 全然ジャンルの違う方がたくさん集まっているんですよ。それぞれ、アプローチの違っているんですよね。稽古に参加しているだけで、すごく勉強になります。演出の深津さんもどんな演出がされるのか、とても楽しみです。頑張ります。
ピースピット2012本公演「TRINITY THE TRUMP」
公演時期:2012/1/22〜1/30。会場:HEP HALL。
第17回女性芸術劇場「光をあつめて」
公演時期:2012/3/23〜3/25。会場:ドーンセンター (大阪府立男女共同参画・青少年センター)。
声の作り方
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- 浪曲師・春野さんの演芸。実は私、三回程しか拝見していないのですが、どれも非常に面白かったです。迫力があって、いつの間にか世界に入り込んでいるような感覚があるんですよね。特に、浪曲で男性役を演じられる時は何故か凄くカッコいいと感じるんですよ。
- 春野
- ありがたいことに、それは良く言われるんです。女性の声はもちろん、男性の声色を使い分けて演じるんですが、宝塚みたいだと仰って頂けたり。
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- しかも、男性の声色にバリエーションがあって、演じ分けされているんですよね。
- 春野
- 実は、浪曲を初めて最初の頃は声がヒョロヒョロしていたり、音調も高くて迫力が無かったんです。野武士のような、猛々しい声も出さないといけないのに。もっと、厚みのある声を作るのが今の目標です。
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- 声に厚み! そのためには、どのような練習が必要なのでしょうか。
- 春野
- 浪曲の場合はひたすら声を出す事なんですよ。声帯にタコが出来るくらい。その状態で耳鼻咽喉科に行くと「声を出してはいけません」とか、「ポリープが出来たら切りましょう」とか言われてしまうんですけどね。
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- なるほど。
- 春野
- でも、浪曲の稽古は論理じゃないんですよね。タコが出来てもさらに出す。さらに出なくなったら、どこから出すかという話なんです。そうやって鍛えていくんですね。
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- 声帯を保護するという思想とは、また違うんですね。
- 春野
- 声楽のように、キレイな声を作るというよりは、説得力のある声を目指すんですよ。私も、昔とは全然声が変わっています。昔の友達に会ったら「風邪引いてるの?」って心配されちゃうんです(笑う)。でも、当初よりは力のある声が出来たと思っています。とは言ってもまだぺーぺーなので(笑う)とにかく今は声を出して声を出して。よりよい声を作っていきたいです。
引き込む力
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- さっきおっしゃられた「説得力」について。浪曲も落語も、複数人の会話ではなくたった一人で全てを演じる訳ですよね。では、どのような演じ方が説得力を持ちうるのでしょうか。
- 春野
- いま語っている物語に、どれだけ聴いている人を引き込めるかどうかが勝負だと思うんです。例えば、私の師匠の二代目春野百合子という人は凄く物語にお客さんを引き込む引力を持っているんですね。それはもう、「演じる」という枠を越えて、何者にも負けない引力で。今は現役ではいらっしゃらないんですが、口演を拝見した時の事。お客さんが完全に引き込まれていたんです。会場全体を掌握して、お客さんを物語に引き込んでいる。その様子が目に見えるんですよ。そういう空気感があったんです。
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- 凄い。そういうお言葉を伺っているだけで、凄さを感じます。
- 春野
- きっと、声だけではなく色んな要素があるんでしょうけど、そういう芸人になりたいですね。
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- 浪曲で観客を引き込む。舞台上では、どのような実感がありますか。
- 春野
- 例えば、「あ、このお客さんは前のめりになって聞いてくれているな」って、そういう事が分かるんですよね。浪曲だと、その時その時の反応によってどう演るかを変える事もあるんです。ライブの面白さですよね。お客さんがノってきているなと思ったら、このあたりはタップリ間をとってやってみたり。ダレてきちゃったなと感じたら、少しペースを上げたり、聴かせたい部分はあえて声を小さくして耳を寄せてもらったり。
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- お客さんと会話するみたいな。
- 春野
- やっぱり、その日その時に来て下さっているお客さんにインスパイアされる部分があるんです。もちろん、ステージによっては真剣に聴いて下さる方だけではないんです。でも、最初はあまり興味がなくても、いつか聞いて頂けるように頑張ります。
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- 本当に興味がなくても、観客席とコミュニケーションを取ろうとしている人に、心が惹かれるんじゃないかなと思いますね。もちろん、芸はしっかりと披露しながら。
- 春野
- そうなんです。でもやっぱり、覚え立てのネタだとそういう事を考える余裕はないんですね。ところが、何十回も上演したネタだとまた違う。お客さんと気持ちが通わせやすかったりするんですよ。
芸を育てるという事。
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- 十八番のネタって、そう考えてみると素晴らしいものなんですね。演じている方の練度が高いから、説得力がある。
- 春野
- そうですね。落語にしても、人によって演じ方が違うし、さらに同じ人でも常におなじ演り方をする訳じゃないんですね。いつもここでウケてるのに、今日はウケない。でもやっぱりここは持っていったね〜〜、みたいな。
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- そうそう、そういう時に立ち会うとなぜか興奮しますよね。
- 春野
- コンディションが違う、会場の雰囲気が違う、お客さんも違うんです。その中での違いを楽しめるんですね。楽しみ方がその時その時で違うんですね。演者にしても、今日はこうしてみようとか、その時の自分なりのテーマがあったりするんです。演者も観客も、回を重ねる事で新しい味わいを発見する楽しみ方があると思います。
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- 戯曲は同じだけど、だからこそ一期一会のもてなしが出来るのかもしれない。舞台と客席が、じっくりと心を通わせる関係がそこにあるのかもしれない。
- 春野
- はい。・・・浪曲の世界に入る前から、時間を掛けて一つのものを作り上げていきたいという気持ちがあったんですよね。浪曲の世界に入る前はTVドラマに出させてもらった事もあるんですけど、台本を渡されて、カメラの前で演技して。OKが出たらもう終わり、の世界なんですね。その分、瞬発力が必要とされる現場ではあったんですよ。たくさんの素敵な共演者とご一緒させて頂いて、凄く勉強になったんです。が、よりブラッシュアップされる事もないんです。
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- なるほど。
- 春野
- そういう意味では、浪曲という、一人の演じ手・一つ一つの作品を磨いていけるジャンルに出会えて、とても幸せです。
質問 高橋 志保さんから 春野 恵子さんへ
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- 前回インタビューさせて頂きました、高橋志保さんから質問を頂いて来ております。「表現活動を続けていくと、同世代の人がどんどん辞めたり変わっていったりします。それでも続けていく中で、持ち続けたいポリシーはありますか?」
- 春野
- この歳で私、浪曲界のぺーぺーなんですよ。どんなに下手くそでも、一生懸命やっていれば何とかなるだろうという・・・ある意味低い志で始めたんです(笑う)。でも、浪曲に出会った時に、「私は、これを一生続ける」という決心で入ったんです。
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- そういうものに出会えるのはとても幸せな事ですよね。
- 春野
- そういうものに出会わないうちは、自分の人生は始まってもいないし、生き始めてもいないんじゃないかって思っていました。何も知らない世界に飛び込むのも無謀だとは思うんですけど、でも、そこまで散々悩んで来ているから。出会えるのも稀ですからね。だから、ずっと続けていこうと決心しました。
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- 素晴らしいと思います。
- 春野
- それに、出来なくて当たり前・一生続けていれば何とかなる、というぐらいから始まっているので。だからこそ、応援して下さるお客様を裏切れないし、人並み以上にお稽古しないといけないんです。・・・幸せな事に、浪曲の世界に入って、「私には違うかも」って思った事が一度たりともないんですよ。
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- それは素晴らしい。しかし、一生のものに出会えるのがまず奇跡ですね。
- 春野
- 母の育て方があるかもしれませんね。母は、「女性らしく結婚しなさい」とか、「子供を産みなさい」とかはあまり言わないんです。自分の一生を賭ける仕事を見つけなさいって言ってくれたんですね。まさか、浪曲師になるとは思わなかったでしょうけど(笑う)。
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- 大変でしょうけど、仕事が楽しいというのはとても幸せですね。
- 春野
- やりがいがありますよね。だから、もう少し上手くなりたいですね(笑う)。私の場合は全然出来ないところから始めたので。お客様も「上手になったね」って仰って下さるんです。最初に比べてこんなに伸びてます!って感じかな(笑う)。
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- お客さんも、そういう成長ってとても嬉しいと思いますよ。次の質問です。「2.表現活動をやめる事について、考える事はありますか?」
- 春野
- 才能ないんだろうなあと考える事はあるんですけど・・・でも、無くてもがむしゃらに努力するタイプなんです。才能ある人だけしかやっちゃいけない訳でもないと思っています。
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- どのようなパフォーマンスを発揮出来るかは、才能とか頭の良さだけじゃないですからね。
- 春野
- 結局は結果を出さないといけないというのはあると思うんです。だけど、私は誰かの評価よりも自己評価を大事にしているんだと思う。どんな風に頑張ったか、どれだけ上の段階に進めたか。誉められても、自分の中でだめだったら「もっと頑張ろう」と思うし。そこに重きを置いてるからこそ、やっていけるんだと思いますね。
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- なるほど。
- 春野
- 簡単に納得できるタイプじゃないし、不器用なんです。でも、だからこそ面白いんだと思うんです。積み重ねていって、変わってきてると思います。ずっと続けていきたいですね。
無謀な事をしていきたい
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- 積み重ねて、変わっていく。
- 春野
- 積み重ねた経験って、誰にも奪えないと思うんです。最初の頃は、例えばあるイベントで一時間の講演をいきなり任されてもずーっと緊張しているばかりでした。でも、今ではお客さんのペースを見て盛り上げたり、たまに客いじりしてみたり(笑う)。去年、肺炎にかかって40度の熱を出してしまった事がありまして。でもフラフラになりながらでも浪曲を口演させてもらったり。
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- 大変でしたね。
- 春野
- そういう風に、一歩一歩、積み上げた実力で生きていきたいですね。だから、浪曲という世界で生きていても、井の中の蛙にならないように色々な世界を見ていきたいと思います。
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- 最初の頃に失敗をしても、辞めなかったというのが凄いと思うんですよ。そんな、自分に対する評価が基準だったら、最初の失敗で方向転換してしまうかもしれない。
- 春野
- 変なプライドがないのかな。出来ない事が見つけられるのは良い事だと思うんです。逆に、自分が出来る事も見つけられる訳ですから。常にこう、もっと上がって行きたいなと思います。人から見てどうのじゃなくて。無謀な事が好きなんでしょうね。東大に挑戦したり、浪曲を始めたり。あんまり、自分の枠を決めつけないんだと思います。
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- 素晴らしい。
- 春野
- もっとこう、無謀な事をしていきたいですね。
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- 楽しみにしております。
楽々こなせて当たり前の・・・
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 春野
- シゴく会 で貴重な経験をさせていただきまして。まずは自分の声を作らない事にはお話にならないという事が身にしみて分かりました。土台のないところに飾っていったってしょうがないんです。まず、基本の声をちゃんと作っていく為に、さらに稽古を重ねます。
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- 浪曲以外としては。
- 春野
- 私、基本的には来たお話は断らない事にしていて。少し前、NHKの企画でカントリーの曲を浪曲で紹介するというのがあって。丸投げされたんですよ。生放送で。
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- 生放送で!?
- 春野
- もうホントに。何とかやりましたけど。あと、今年に出演させて頂いたピースピットがこれまでの人生で最も追い詰められました。それ以降の無茶な仕事が楽勝に思えるぐらい。たとえば収録の前日に一字一句間違えてはならない台本を渡されても、平気に思えてしまって・・・。ピースピット、大変貴重な体験になりました。台本上の出ハケやキッカケなんてすべて楽々こなせて当たり前で、その次に行こうよという意識が持てるようになりました。
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- 本当に追い詰められていたみたいですね。
- 春野
- twitterでつぶやけない日々が続きました(笑う)。ほんまにようやるわと。
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- 最後の質問です。舞台に出る事と、浪曲師である事は両立していますか?
- 春野
- 自分自身が他の世界を見てみたいのもありますし、演劇界にも浪曲をじわじわ知ってもらいたいですね。浪曲の本を書いてもらったり、あわよくば演出してもらったらどうなるかなとか。演劇界と浪曲界のコネクションをつなげていけないかなと思っています。
京山幸枝若が春野恵子をシゴく会
公演時期:2011/11/21〜11/27。会場:シアターセブン。
花柄の帯上
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
- 春野
- ありがとうございます。やったー(拍手)。何だろう。
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- どうぞ、開けて頂いて。
- 春野
- はっ。これは何? 帯上や。すごいキレイ。ありがとうございます。
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- 良かったです。
- 春野
- 私実は、いつも袴なので。そろそろ着流しを着たら良いと言われていたんです。
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- もうじき春ですので、春の花の柄を選ばせて頂きました。