演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫
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乾杯

魚森 
じゃあ。
__ 
乾杯。
魚森 
乾杯。
__ 
このビールは・・・?
魚森 
ハートランドっていう日本のビールですね。何でも好きって言うと節操が無い気がしますけど、とにかくビールが好きで。
__ 
なるほど。魚森さんは、最近いかがですか。
魚森 
1年くらい、アシスタントをしていた作品が落ち着いて。人の作品づくりのサポートですから、緊張状態が1年くらい続いていたんですけど、いい感じで終える事が出来ました。
__ 
なるほど。
魚森 
今は、下鴨車窓ですね。今月末(6月)から立て続けに。その準備をしています。
下鴨車窓

京都の劇団。アトリエ劇研プロデューサー、田辺剛氏が演出・脚本を務める。

烏丸ストロークロック

1999年、当時、近畿大学演劇・芸能専攻に在学中だった柳沼昭徳(劇作・演出)を中心とするメンバーによって設立。以降、京都を中心に、大阪・東京で公演活動を行う。叙情的なセリフと繊細な演出で、現代人とその社会が抱える暗部をモチーフに舞台化する。(公式サイトより)

10年

__ 
魚森さんは、どういった経緯で照明さんになられたのでしょうか。
魚森 
京都市立芸大に入ってから、部活動で舞台に関わっていたんですが、舞台に立つ事よりも、舞台の成り立ちそのものに興味が沸いてきたんですね。
__ 
成り立ちですか。
魚森 
大学2年の時に世田谷美術館で、ジェームズ・タレルというライトアート作家の作品を見たんですね。「光」そのものを知覚させるという作品にショックを受けたんです。「光」そのものが、美術作品になりうる素材なんだという事に。で、自分が舞台をやっているという事で「照明」を身近に扱える環境にいる事と、美術の勉強をしている事が丁度良くリンクしたんですね。
__ 
どんな作品だったんでしょうか。
魚森 
展示空間の奥にもう一つ壁を作って、その隙間から光が出てて、光源のありかは見えないけれど、光そのものが空間に満ちていて、光の箱のなかに居るような。普段から家とか学校とか、毎日光の箱のなかに入って生活してるのに、あえてその光の存在を、高い純度で知覚させる技法に感動しました。見えているつもりなのに、気づいてない事がたくさんあるんだ、と。「光」って、照射対象物が無い限り、そのものに着目するという事は出来ないじゃないですか。それをこう、計画的に配置する事で、作品に出来るんだなあと。
__ 
それは凄そうですね。
魚森 
他にも、真っ暗な部屋に20分入れられて目が暗順応すると何かが見えてくるという作品も見てしまって。これはやばいと。それから大学を出て、「光」に触れながら生きて行こうと照明の仕事を続けたんですが、「照明」に日々忙殺されるあまり、「光」のことをだんだん忘れてきちゃったんですね。勿論、一般的な舞台照明技術の獲得はいっぱいさせて頂いたんですけど。一般化された技術的なデザインを、現場の規模に応じて取捨選択していくシステムを、リスペクトはしますし、共感もできますが、そのデザインの方法論自体にはあんまし興味が持てなくて。既存のシステムから軌道をずらして活動するには、かなりの覚悟がいる世界ですから、元々求めていた光の知覚とかのテーマはどうしても。
__ 
はい。
魚森 
で、しばらくしてGEKKEN staff roomに入って。私達は団体といっても会社じゃないので、社会的な立場はフリーのスタッフの集まりなんです。仕事の技術習得も、ごはんを食べて行くのも全て自己責任で、それぞれの技術的な特性やキャラクターで仕事をしています。私はそこで、「照明」の技術的なことを研ぎながら、「光」について、忘れずにやっていこうと。とりあえず10年続けようと思っていて。
__ 
10年?
魚森 
技術を獲得するのに10年掛けて、その後自分のやりたい事をやったらあんまり怒られないんじゃないかなあと思って。
__ 
あと何年ありますか?
魚森 
あと1年ですね。「照明」で食べ始めて10年。
__ 
これは良いタイミングでお話を伺えました。
魚森 
はい(笑う)。怒られるかもしれないですけど、私は「照明」を美術表現の一つだと思っているんですね。私の職業はあくまで「照明」なので、作品のなかの必然をクリアするのがもちろん最優先ですが、観客が光そのものを知覚することに直接アクセスできる可能性は、自分の中でつねに持っておきたいコンセプトです。そろそろ、そういう事をより具体的に考えて行かないとな、と思っています。

コミュニケーションの積み重ね

__ 
魚森さんが照明のプランを決めていく上で気を付けている事は何ですか?
魚森 
やっぱり、お話をする事ですね。演出家だったり振付家だったり、その作品に責任を持つ人とどれだけお話をするかに懸かっているんじゃないかと思います。照明に関する打ち合わせというのは抽象的な言葉の積み重ねで。その結果が、小屋入りしてやっと具体化するのが照明なんですね。稽古を見る事も大事で。通し稽古も見ますが、実は普段の稽古を見る事も、見ないと分からない事があるんですね。
__ 
何が違うのでしょうか。
魚森 
普段の稽古だと、どういう実験や試行錯誤をしているのか、どういう演技を採用するのか、そういう考え方が分かるんです。これらは場当たりで反映されるんですよ。
__ 
場当たりというのは、仕込みの段階ですね。
魚森 
そうですね、このシーンではスタッフワークや演技をどうするか、という事を決めるんですが、普段どういうコミュニケーションをするかを知っていればやりやすいですね。演出家がどんな考え方をするか、というのも分かりますし、現場に入って突然「こうしたい」というのに共感しやすいんですね。逆に、「こう変えたいんだけど照明さんは困るかな」って思って秘密にしないで、それが必然だったり、実験が必要なら、遠慮なく提案して欲しい(笑う)。もちろん時間的な制約はあるんですが。現場でびっくりしたいなあと思うし、稽古場で緻密に積み重ねてきたものを出したいというのもあります。
__ 
ええ。
魚森 
どちらも大事で。
__ 
普段を知っていればその演出家の哲学やロマンも分かるし、現場での限られた調整時間も有効に使えると。つまり、コミュニケーションを大事にされているんですね。
魚森 
はい。照明って、空間と時間を扱うものだと思っているんですね。理想としては、空間の話は美術デザイナーともしたいし、時間の話は音響デザイナーともしたい。とにかく現場に入るまでにどれだけ話せるかに懸かっているんですね。
__ 
逆に言うと、話さなければしょうがない訳ですね。
魚森 
はい。例えば、私がどこまで作品の事を感知しているかまで話さないと、小屋入りしてからまずい事になる場合もあります。ですので、打ち合わせは大事にしています。
__ 
お話から察するに、魚森さんとの打ち合わせによって演出家が「自分の作品をどう見せたいか」がより明確になっていくという重要なプロセスが組み込まれているように思えます。

撮る

__ 
そういえば、写真を撮るのが趣味なんですよね。
魚森 
3年くらい前からかな。はじめは、自分が見ている風景を「美しい」と思ったり、良い構図の研究だったり。何を選択してどう作品として作るか、とか、自分を整理する為に写真を撮りだしたんですね。それが最近、とっても良い方向に動き出していて。何を見ているか、何を見ていないかを思い知らされるようになりました。美しいとは一概に言えないけれどこういう着眼点はどうだろう、と思うと人に見せています。照明は空間の中で構造を作る仕事なので、写真を「作る」時も生かされているんですね。毎日現場にいられる訳ではないので、良いトレーニングになっています。
__ 
重要なところは、言ってみれば、キレイな風景を見たらどれだけ感動しても写真に撮る必要は生じないと思うんですよ。思い出として頭に焼き付けておけば、可能な限りクリアに再生出来る訳ですから。でも、フレームの四角に切り取るという事は、その感動を作品化するという事ですよね。そこに知覚と感動と製作の密な関係を感じます。良い練習ですね。
魚森 
うん、もう本当に、撮るようになってから光についての説明が出来るようになったんですよね。今では、大事な作業の一つです。
__ 
なるほど。
魚森 
あとは、自分の照明プランの成り立ちを、文章で書き留めておこうと思ったのも、写真を撮るようになってからです。写真と打ち合わせで得たものを照明にして、それを言葉にして取っておくというサイクルが出来始めています。でも、まだ柳川のしかアップしてないんですけどね(笑う)。
柳川

1998年、立命館大学の学生劇団を母体に結成。洗練されたシチュエーションコメディを目指すも、良くも悪くも洗練されず「なんだかよくわからない、面白いのかどうかすら、ちょっと判断しかねる笑い」を目指す、どちらかと言えば、ひとりでこっそり観に行きたい劇団。(公式サイトより)

非常灯

魚森 
柳川どうでした?
__ 
あ、面白かったですよ。めっちゃ。魚森さんは観客席からすぐ見える舞台脇でオペレーションしていて、何とセリフがありましたよね。しかも1ページくらい。
魚森 
あれは、見た人にとってどうなんだろうと思って。私も、出ていて本当に面白かったんですよ。緊張するし、でも、あんな位置から舞台を見る事の楽しさったら無くって。
__ 
ええ。
魚森 
まあ、色々絡まれたり、喋ったり。
__ 
芝居自体は魚森さんが死んで、同時に暗転して終わりましたね。
魚森 
死に方も練習したんですよ。死んでも、フェーダーは握っておかなくちゃならないので。結構無理な体勢でした。
__ 
あの芝居は、非常灯を消す為の芝居でしたね。
魚森 
劇場に既設された非常灯や、舞台上演のために消灯する、消防上の約束事そのものに着目する、というのは私にとっては事件だったんです。照明的に。人工の環境光としてあった非常灯が照明効果になったという。舞台奥にも非常灯があったんですが、暗転中にもつけっぱなしにしていたんですね。消したり隠したりせずに。
__ 
はい。
魚森 
あの視点を持てるのは凄いなあと本当に思いました。
__ 
珍しいですね。
魚森 
次に柳川が何をするか楽しみです。

信念

__ 
魚森さんは、今後どんな感じで攻めていかれますか。
魚森 
どんな感じで攻めていこうかなあ。まあ、さっきまで言ったように自分なりの仕事をしていこうと思います。信念を持って(笑う)。信念というものがあるとして、それが何によって支えられているのかを説明する能力が必要だなと思っています。それは演劇の世界と美術の世界を行き来する上で重要だと。そんなに美術の世界を語れるわけではないんですが。
__ 
はい。
魚森 
自分のキャラクターとして、新しい光の知覚を発見していきたいし、それを舞台上で扱いたいですね。その上で、演出家・振付家さんとちゃんとお話を出来るようになればいいなと思います。

ブレスレット・ネックレス

__ 
今日はですね、魚森さんにお話を伺えたお礼にプレゼントがあります。
魚森 
わあ。
__ 
どうぞ。
魚森 
わあ、素敵。開けちゃいます。何だろう。(開ける)凄い。どんぴしゃ。私、アクセサリーとかを欲しいなと思っても、じっとみて買わずに行ってしまうタチなんです。
__ 
良かったです。それはブレスレットとしてもネックレスとしても使える筈なんですけど。
魚森 
へえー。いいなあ。
(インタビュー終了)