奇跡的なスケジュール
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。もう年の瀬ですね。今年を振り返って、いかがでしょうか。
- 坂口
- 今年は本当に、奇跡的なスケジュールが組めたんですよ。もちろん、いくつか断らないといけない作品もあったんですが、よく予定を合わせられたなと思います。
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- そういえば、チラシで坂口さんのお名前を見ない週はありませんでしたね。
- 坂口
- この3ヶ月は「七人の部長」 というプロデュース作品、劇団衛星 、アイ★ワカナ博 、年末の二人芝居とツアーが多かったんです。北は札幌から南は九州まで、毎週のように各地で本番でした。本番の日が一日でもかぶっていたら、そのツアーのオファーをまるごとお断りすることになるので、ヒヤヒヤものでした。
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- よく組めましたね。ということは、全国各地で坂口さんが見られたんですね。
- 坂口
- そう、だから逆に大阪での公演に出てなくて、「最近見ないね」って言われたり(笑う)。
南河内万歳一座・内藤裕敬プロデュース「七人の部長」
公演時期:2011/7/29〜8/24(北九州・大阪・三重・高知)。会場:北九州芸術劇場、ウイングフィールド、三重県文化会館小ホール、高知県立県民文化ホール グリーンホール。
劇団衛星
京都の劇団。代表・演出は蓮行氏。既存のホールのみならず、寺社仏閣・教会・廃工場等「劇場ではない場所」で公演を数多く実施している。
アイ★ワカナ博
公演時期:2011/11/29〜30(札幌)、2011/12/7〜8(大阪)。会場:生活支援型文化施設コンカリーニョ(札幌)、インディペンデントシアター1st(大阪)。
アプローチ
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- さて、今日はお仕事としての役者業について伺えればと。まずは役作りについて。坂口さんは様々な舞台に立たれると思うんですが、与えられた役に対してどのようなアプローチをするのでしょうか。
- 坂口
- 役を自分に近づけることが多いです。舞台上で自由に自然に動けるようになることが理想ですね。芝居を初めてからずっと役作りってのが分からなくて、自分に役を近づけることが安易で悪いことだと思ってました。なんとか演じなきゃ!別人にならなきゃ!って思っていたんです。でも全然しっくりこなくて、これじゃ駄目だなとすっぱり諦めました。
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- 別人になるのを諦めた。
- 坂口
- 自分のままで舞台にいようって、開き直りました。まぁ、今度はそれがすごく難しかったんです。必ず演じる役がありますから。でもそう考えたことで、逆に自分にとっての役作りってのが見えてきました。台本を全ての基本にとらえて、一字、一句、隅から隅まで丁寧に分析して、自分と役との違いを発見する。それを自分の感覚に嘘をつかずにどう処理するのかを見つける作業なんだと思ってます。最初はその部分を力でねじ伏せてごまかしていたんですけど、最近はそのしっくりこない部分を大事にして、そこが自分なりの新しいに役を手に入れるチャンスだと思って注意深く取り組んでいます。
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- なるほど。
- 坂口
- やっぱり自分と遠い役ほど苦労しますけどね。無口な役とかもう大変です。僕はそもそもお喋りだから、「こいつ何でここで喋らないんだ」って。根本がわからない(笑う)。昔はそれっぽく誤摩化してましたけど、それだったら自分より、もっとその役にはまる上手な人がいるじゃないですか。だから今はあくまで僕らしく挑んでみようと思っています。喋らないだけで、体中でめっちゃ喋ってる!とかね。もちろん、普通のやり方よりもっと面白い形じゃないとダメだし、演出にも認めてもらわないと駄目なのでなかなか通らないんですけどね(笑う)。
火曜日のシュウイチ
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- 役作りとご自身のプロデュースを同じ次元で考えておられるように思うのですが、それは、どのようなところから生まれた考え方なのでしょうか。
- 坂口
- 所属していた劇団、T∀NTRYTHMの解散がきっかけですね。劇団がなくなってから、客演というかたちだけで舞台に関わるようになりました。そうなって初めて、劇団のありがたみがわかったんです。客演先では、成長は求められない。自分の培って来た地力で勝負です。これはある意味、消費だと思うんです。フリーになって2年目ぐらいに、劇団が僕に栄養を与えてくれていた事に気付きました。消費して、スカスカになってる自分がいたんです。だから、フリーでやっていくなら自分で自分に栄養を与える場を作らないといけない。そう思って、一人芝居の公演等を企画するようになりました。
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- なるほど。
- 坂口
- 以前、一年間毎週公演を行った火曜日のシュウイチも、色んな方に栄養を頂いた公演でした。
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- あれは凄かったですね。
- 坂口
- 一年通して「お前はこうだぞ」と言われ続けた公演でした。台本も演出も毎月変わって、しかも毎週火曜日にそれをこなさないといけない。
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- しかも別の作品の客演も減らさない。凄い事をされていましたね。あのシリーズの後に、平日夜の公演が意識に定着したように思います。大きな影響を与えていると存じます。今更ですが、お疲れ様でした。
人生で、最も強い負荷が掛かった瞬間
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- 坂口さんは、なぜ役者を続けているのでしょうか。
- 坂口
- 芝居を始めたのは大学の頃です。でも卒業したら芝居をやめて就職しようとしたんですよ。そんな時、就職して九州に行った先輩が、突然大阪に帰って来て「劇団を旗揚げするぞ!坂口も一緒にやろう」って声をかけてくれたんです。嬉しいじゃないですか。「やります!!」って思わず返事しちゃったんですけど、実はその時既に内定が決まっていて・・・。
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- あはは。
- 坂口
- 4月から新入社員なのに、旗揚げ公演は5月! 両立は絶対に無理だったので、どちらかは断らないといけない。断りやすいのは当然、旗揚げの方・・・。
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- 残念ながら、そうですね。
- 坂口
- でも何故かその時、内定の方を断ったんです。一時間も二時間も公衆電話の前で迷って、震える手で電話をして、「電話では言えないことなので今から本社に行っていいですか」と伝えました。そして「他にやりたい事があるんで辞めさせて下さい」って(苦笑)。で、今度はこのことを親に言えなくて・・・。内定式の前日まで隠し通してましたね。入社式に着て行くスーツを買いに行くことになって、もう限界だと思って告白しました。その後、僕の人生で初の家族会議が開かれました(笑う)
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- なるほど。
- 坂口
- この時に、僕は役者に就職したんです。バイトしながら芝居するんじゃなくて、役者を仕事にしようと決めました。僕の、のんべんだらりとした負荷のない人生で、最も強い負荷が掛かった瞬間だと思います。
質問 阪本 麻紀さんから 坂口 修一さんへ
ありがたさ
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- 坂口さんは、色んな演出家から様々な指示をされても対応出来るように思いますが、いわゆる「引き出し」を沢山持つにはどういう事をすれば身に付くのでしょうか。
- 坂口
- いやー、引き出し少ないのよ。ホントに。
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- ええっ。
- 坂口
- ゼロからは何も思い付かないもん。台本があって、演出家から栄養をたくさんもらって何とかやってます。作家さんは0から1を生み出すのが仕事じゃないですか。これは本当に大変だと思うんです。
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- 考えてみればそうですよね。
- 坂口
- だからこそ僕ら役者は指示待ちになっちゃいけないと強く肝に命じてます。自分で考えることを放棄しちゃいけないって。だから稽古場には自分の中で最高に面白いと思うプランを用意して、そこから演出家と稽古してもらうようにしてます。でも、残念ながら自分の引き出しは少ないなあって、いつも思うんです。もっと増やさないといけないんですけど。
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- すみません、坂口さんの特長って、これ私が勝手に思っているだけですけど、分かりやすさだと思うんですよ。キャラクターという意味だけじゃなく、どんな役柄の演技でも強い表現力があるんじゃないかって。だから、坂口さんの引き出しは丈夫で大きくて深いと言えるんじゃないかと。
- 坂口
- いつも、そこばっかり開けてるからね(笑う)
目指してもらえるような
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- では今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 坂口
- 僕はフリーなので、当たり前ですけど呼ばれないと仕事がないんです。マネージメントからプロデュース、全て自分で考えないといけないんですけど、やっぱり自分にはそこが向いてないというか、甘いなと痛感してます。だから、本気になってそこを頑張るか、頑張りきれないなら、代わりに自分を売ってくれる人を見つけないといけないと思ってます。あと、今まで自分には出来ないと諦めていた、作品を0から生み出す作業にも挑戦してみたいし、今年は海外で長期に渡って作品を創る機会がありそうなんで、新しいフィールドで自分がどんな評価を得れるのか試してみたいですね!
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- 私としては、坂口さんが元気で芝居をやっていてくれたら嬉しいです。
- 坂口
- 少なくとも、もう少し羽振りよくなりたいよね。芝居でもっと儲けたい。今は芝居を続けてても次に登って行く階段が見えないもんね。下の世代の子達の為にも、僕らの世代が頑張らないと!!新しい道を開拓したいと思っています。
僕らがやってきた表現
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- 海外で舞台に立つ坂口さんは容易に思い浮かぶんですよ。凄く楽しそうな坂口さんと、受けてる観客が。そうだ、オリジナルテンポ も何回も海外行ってるし。
- 坂口
- 僕にとって演劇って言葉、日本語の占める割合がすごく大きいんです。台本の読み取り、セリフ、どれも日本語の能力が試されています。オリジナルテンポはその言葉を使わない。自分が頼りきっている日本語を使わないで、どんな表現が出来るのか知りたかったんです。
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- つまり、海外でも通じやすい?
- 坂口
- 言葉の壁はないですね。でも結局、言葉を使ってなくても、日本人が持っている表現の引き出しでしか自分たちが演技していないことに気付かされました。日本を意識しようとしまいと、もう僕らの創る作品は日本での生活とは切り離せないものになっているんだと。後は、それを海外の人たちがどう受け取るかだけなんです。想像以上に好意的に受け取ってもらえてビックリしました。楽しむのが上手なんですね、向こうの人は。
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- 僕らのコミュニケーションがこういう事になっていて、成立していると。考えてみればオリジナルテンポ、凄い試みですよね。
- 坂口
- ほんと良い機会を与えてもらったと思います!
オリジナルテンポ
2002 年に演出家ウォーリー木下を中心として設立されたThe original tempo(TOT)は、海外での作品発表を目標とし、台詞を一切使わないパフォーマンスグループとして活動しています。TOTでは、国内で評判のよい作品を海外で発表するのではなく、はじめから海外で発表することを目的として、ポータビリティや言葉の問題などを意識し、作品に反映させていくことを活動の主題としています。言葉に頼らないパフォーマンスを通し、私たちが生きる現代日本の文化や日常生活をより身近でより直接的な感覚として感じ、楽しんでもらうことは、TOTの活動における最終的なミッションと考えています。その趣旨に賛同した俳優や映像作家、舞台技術者、制作者などが集まり、定期的に実験・稽古を繰り返し、作品を制作ししていくTOTは、柔軟性な組織性を活かしたファクトリーとして成立しています。(公式サイトより)
スーツリフレッシャー
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
- 坂口
- プレゼント? はー! ありがとうございます。
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- 毎回、お礼として、お話を伺えた方にさせて頂いているんですよ。どうぞ、宜しければ。
- 坂口
- これは・・・?
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- スーツリフレッシャーというものです。シャツにスプレーしてスーツを着ると、ほのかに清潔な香りが。
- 坂口
- これ、めっちゃ嬉しいなあ。外でタバコのにおいがつくの本当に嫌で。僕用に選んでくれたの?
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- はい。スーツで舞台に出られているのを見た事があって。もし共演しているひとが、シャツからいい香りがしてきたら驚くんじゃないかと思いまして。
- 坂口
- ありがとう〜!早速、帰ったらつけますね!