演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

長谷川 直紀

劇作家。演出家

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突抜隊♯4 Reborn 2015/11/27~29 @東山青少年活動センター

___ 
今日はどうぞ、宜しくお願いします。最近、長谷川さんはどんな感じでしょうか。
長谷川 
宜しくお願いします。そうですね、10月に入ってからは稽古と仕事の往復、という感じです。僕が基本的には台本が遅いので、台本を書いて稽古して・・・なかなか、それ以外は出来ていないという状況です。
___ 
そうなんですね。今日の稽古はどんな感じでしたか?
長谷川 
今の時点はまだ、役者にイメージが落ちきっていない感じだったんですけど、感触は良かったです。一本筋の通った形になれればなと思ってます。
___ 
なるほど。
長谷川 
まだ台本は出来ていないんですが、まだまだ考え続けていこうと思います。ただ、書いていく過程でああじゃないこうじゃない、と書き換えていくので、書くのが遅いんですよ。感覚的な人間なので、役者さんには迷惑を掛けています。
___ 
なるほど。まあ、二週間前に脚本を差し替える劇団もありますしね。
長谷川 
僕らも、小屋入り前はてんやわんやです。
突抜隊

2012年に京都を中心に活動開始した演劇集団。メンバーは長谷川、澤、山田のパッとしない男子3名。他メンバーは公演の度に集めている。日常的に誰もが持つ感情や、人の白黒つかない複雑な一面を探りながら、お芝居を作っている。団体名とはギャップのあるお芝居をするらしい。(公式サイトより)

突抜隊♯4 Reborn

異世界を思わせる独特の佇まい、どれだけ時が回っても人が回っても変わらない何か、この街。1人の女と惚けた男。2人は未来の話をする。2人は過去の話をする。男は女を抱きしめた。ギュッと強く抱きしめた。女が強くそれを望んだ。 作・演出 長谷川直紀 出演 澤雅展 川本泰斗【BokuBorg】 高橋志保 弘津なつめ 他 演奏 山田佳弘 舞台監督 北方こだち 照明 真田貴吉 音響 道野友希菜 日時 2015年 11/27 19:00     11/28 14:00/19:00     11/29 13:00 会場 東山青少年活動センター 創造活動室 料金 前売り1500円 当日 1800円

出来るだけ加工せずに

___ 
次回の「Reborn」。どんな作品になりそうでしょうか。
長谷川 
基本的に、突抜隊が題材にするのは劇的ではない平凡な日々であったり、人生の甘苦を出来るだけ加工せずにお芝居にしたいと思っていて。生活する上で避けられないようなイヤなことをテーマにすることが多かったんです。例えば家族のこととか。全体のテイストはちょっと暗かったりします。
___ 
舞台に立つ出演者に、どんな佇まいを求めますか?
長谷川 
飾らないこと、ですかね。カッチリした演技がそんなに好きじゃなくて。細かい調整はするにしても、その人の人となりが役に反映されるといいな、と思っています。
___ 
なるべく日常生活に近い演技、ですね。そこに魅力を覚える?
長谷川 
フィクションなんですけど、フィクションを前提とされると嫌なんですよね。TVドラマの演技とか、あそこまでされると見る気を無くしてしまうんです。あまり、劇的さを求めていないのかもしれません。劇的ではない些細なことに興味があるんです。
___ 
些細なこと。
長谷川 
それから、ふと日常に寂しさを感じることがあって。具体的に何かがあった訳じゃないんし、何だかよく分からないですけど。だからかありきたりなハッピーエンドがあまり好きではない、人間の実生活には続きがありますから。それと答えをはっきり提示されるのが苦手なんですよね。半分はこっちにちょうだい、と思うんですよね。お芝居の最後の落ち自体、なるべく避けたいんです。

終幕すら放り出す

___ 
「River」のDVDを頂いて拝見したんですけど、最後あっけなく終わるというのが変わった味わいでしたね。なぜ、答えを提示したくないのでしょうか。
長谷川 
僕の見る側としての意識としては、いわゆる完結したキレイな感動モノに、どこか「上から目線」を感じてしまうんですよ。よく「感動の超大作」とかいうキャッチコピーがありますけど、それを決めるのはこっちじゃないか、と。僕らは「どう感じるかはご自由に」という姿勢で作品を作っています。
___ 
避けられない不幸を見せて、ハッピーエンドは迎えない。それどころか明確な終わりも告げられない。見たお客さんは困るんじゃないでしょうか。
長谷川 
なぜこういう姿勢になったのか、時々自分でも分からなくなってしまうんです。苦しいですが、みんなと一緒に作品を作る喜びもありますし、自分の中にある鬱憤を吐き出すこともある。人間、誰しもどこかで暗さを持っているんじゃないか、そんな事を確かめたいのかもしれません。
___ 
どんな気持ちで見てもらいたいですか?
長谷川 
暗いとは言いましたが、フラットな気持ちで見てもらいたいです。それで忌憚のない意見を聞かせて頂ければなと思っています。

暗くなった

___ 
突抜隊は、どのようにして結成されたのでしょうか。
長谷川 
これはほかの劇団さんとは全然違う成立の仕方をしているんですけど、まずメンバーは僕と澤くんと山田くん。澤くんは元々、高校の時の演劇とか全く関係ない部活の後輩でして、かれは僕が小劇場で芝居を始めた頃にお客さんとして見に来ていて。で、何年かした頃に会社を辞めて芝居を始めたいと。そして、山田君はいとこなんですよ。社会人劇団に一緒に俳優として参加してたんです。僕が脚本を書いてみたいとなった時に、彼らとは好きな作品の方向が一致してたんです。じゃあ、ちょっとやってみようか、とC.T.Tに出したんですよ。そうしたらボロッカスに言われたんですよね。このままじゃ終われないと、もう一度出そうと考えていた時に東日本大震災が来たんです。どうしても、このメンバーでもう一回作品作りたいっていうのと震災をこの目で見ておきたいと思って。C.T.T仙台に無理矢理参加させてもらったんですね。そうしたら仙台のお客さんに暖かく迎えて貰って。また仙台の演劇人の熱さに触れて、その気になってしまったという。
___ 
突抜隊はどんな存在でありたいですか?
長谷川 
そうですね、これからも僕らが気になった事とかを、お芝居に限らなくてもいいかなと思っているんですけど、何かに創作したいと思っています。
___ 
なるほど。ちなみに、最近は何が気になっているんですか?
長谷川 
格闘技です。去年からムエタイをやっているんですが、演劇ばっかりやっててストレスが溜まっていたのかな、と。体力作りぐらいの気持ちで始めたらめちゃめちゃハマりました。

夕焼けの時差

___ 
どんな演劇を作ったら良いと思いますか?
長谷川 
結構、このままじゃ演劇ってやばくないか、という意見を聞くことがあって。わざわざ足を運ばないといけないというシステムはつまり、知っている人しか見れないメディアですよね。それから京都にいながら東京を意識している方が未だに多いですが、東京いかないなら、もっとみんな地元を意識して演劇やってもいいんじゃないかと。もっと地元で演劇とか全然知らない人とかも巻き込んでいけないかな?と思っています。じゃなきゃ縮小していくと思うんですよね。最近は稽古場も減ってきていますし、演劇自体下火なのかなと思えてきています。必要とされなければ、そのまま消えていくしかないんじゃないか。具体的に僕に何か出来るか?というと難しいですけど、関わってる人全員で考えていかないといけないと思います。
___ 
そうですね。
長谷川 
やっぱり、演劇を知らない人が見ても分かる作品は作りたいんですよね。芸術に特化した作品を見て、その良さが分からないなんて事もあって、そこは素人目線で、誰が見てもある程度分かるようなものを作りたいと思います。
___ 
なるほど。作り手としては手法は分かりやすいものを使い、でも答えは最後まで提示しない。

石ころの不幸、コンビニ前にちるらん

___ 
見た人にどんな影響を与えたいですか?
長谷川 
普段取り上げてこないような些細な不幸を思い出すキッカケになれたらいいなあと思っています。
___ 
見えない不幸?
長谷川 
さらっと流しているけど、改めて見ると悲しい事。誰にでもあるような不仕合わせというか。見過ごしているという事は解決していない。そういう傷跡を誰でも多く持っていて、だったら人ってそんなに強くないのかなあ、と思ってるんですよね。
___ 
「River」では、家族の中にある問題を、そのまま時間に解決させてましたよね。行方不明の兄が「半年後」だとか「1年後」には、家族とそこそこうまくやっている。和解した訳でも誰かが改心した訳でもないのに。
長谷川 
僕自身も弱い人間ですから。社会的に暗黙の価値観というのがある気がして、そこから外れた人はどうしたらいいのか、という事に興味がありますね。アウトサイダーじゃないですけれど、そういう弱い人たちに惹かれるんですよ。お芝居を始めた頃に、コンビニの前でワンカップ大関を手にした、黒い顔をしたおじさんを見て妙に切なくなる瞬間があって。その人たちだって人生を謳歌しているのかもしれないので簡単には言えないんですけど。
___ 
おいて行かれそうな人たちを取り上げたい。
長谷川 
僕自身がそうなってしまいそうな気がしてたんですよ。

そのままの彼がいる

___ 
そんな、置いて行かれた人たちは、本当に置いていかれたのか?そして、彼らを救うとか理解するとかいうのは、果たして彼らが望んでいる事であろうか?という事なんじゃないか。
長谷川 
別に救って挙げたいとかではなくて、偏見的にならないようにしたいだけなんですよ。今もそれなりに謳歌しているんだったらそのまま描きたいし。僕個人も偏見を持つのではなくて、そのままのフラットな姿を描きたいんです。そういう人たちにある種憧れているのかもしれません。
___ 
職業に貴賤なし、とか言いますよね。例えばスラムの中にだって楽しい事はある。幸も不幸もある。彼らを、「逞しいスラムの人々」じゃなくて、そのまま描く。
長谷川 
そこはまだ、僕自身の差別意識なんでしょうね、勝手に上から目線で見ているんだろうと思います。弱者を弱者として描くべきなのか、それではいけないのだろうか、とか。

質問 東 洋さんから 長谷川 直紀さんへ

___ 
前回インタビューさせていただいた、東洋さんから質問を頂いてきております。「僕は絵画からインスピレーションを与えられる事が多いんですが、あなたはいかがですか?」
長谷川 
僕は歌から頂く事が多いですね。
___ 
なるほど。「僕は稽古場で曲を掛ける事が多いんですけど、例えば趣味で中島みゆきを掛けたりするんですけど、どうですか?」
長谷川 
掛けますが、歌詞の付いていない曲がいいですね。引っ張られないような曲がいいです。

栗羊羹

___ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
長谷川 
地に足の付いた。生活を大事にして、生活で感じたものを蓄積して題材にして作品を作りたいです。
___ 
ありがとうございました。今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。つまらないものですが・・・。
長谷川 
ありがとうございます。(開ける)
___ 
栗羊羹です。
長谷川 
稽古場で、みんなで頂きます。
(インタビュー終了)