演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫
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アレクサンダーテクニックのワークショップ

__ 
今日は宜しくお願いします。
豊島 
宜しくお願いします。
__ 
今日は確か、アレクサンダーテクニックのワークショップを受けられていたと伺いましたが。
豊島 
そうですね。
__ 
この近くにそういう場所があったんですね。
豊島 
はい、ご自宅で開催されていて、今日は1年ぶりくらいに行きました。友達と一緒に、ペアレッスンという形で。
__ 
内容としてはどんな。
豊島 
とてもいろいろあると思いますが、たとえば、身体の正しい知識というか。自分が思っている身体のイメージに気付かされたり、そのうえで実際の身体のつくりはどうなのかを教えていただいたりですね。
__ 
それを実際に確認していくという内容なんですね。例えば、どんな感じで役立ちますか?
豊島 
楽になることが多いです。思い込みのイメージがいつの間にかあって、そのことでつらくなる身体の使い方をしていたりするので。たとえば、今日のことでいうと、これまで背骨の位置を後ろに、またとても細く捉えてしまっていたりしていました。でも、もっと身体の中心に近いところを通っていて、太さも握りこぶしの手首まであるのだ、と知ると、案外しっかりした身体だなと思って、安心する気持ちが生まれました。また、していたい姿勢がすこし変わり、そうするとただ座っていることがいつもより楽に思えました。 そもそも、はじめて行ったのは5年ほど前です。そのころ、関節が痛くなってしまって。おおげさですけど、手足がちぎれるように痛くて、洗面器が持てなくなるような時があったんです。色んな病院に行っても原因が分からなかったんですね。そういう時に友達の影響で行ってみたんです。そこで、自分の体の癖に気づかされたんですね。
__ 
ああ、客観的に身体の事が見えたと。
豊島 
はい。今でもそうなりがちなんですけど、手首に力を入れてぎゅっと握る癖があったんですね。自転車のハンドルとか、何でも握りすぎる、力んでいる。それが、一ヶ月二ヶ月と受講していくうちに、そんなにぎゅっと握らなくてもいい事に気がついたんですね。すると、関節が千切れていくような感覚がなくなったんですよ。
__ 
何かそれ、良く分かります。
豊島 
でもこれは私の場合で、アレクサンダーのことを人に話す勉強が私にはできていません、すみません。自分の身体が見えなくなってきたりするとアレクサンダーのことを思い出すみたいで、また、いま少しずつできたらいいなと思っています。こころを見ることにもつながると思うので。背骨のことも、以前に教えていただいていたのに、忘れてしまって、長年の思い込みのほうが出てきちゃっていたようで、もったいないなと思いました。

「かえるくん、東京を救う」

__ 
さて、この間のウイングフィールドでの「かえるくん、東京を救う」。非常に面白かったです。
豊島 
ありがとうございます。
__ 
あれを見ていて、何かこう全般的に、「正しい方法で演技している」という印象を受けました。丁寧に出された言葉が、こちらに正確に、優しく伝わってくるというか。豊島さんの力もそうですし、そして村上春樹の言葉にもそういう正しさがあったのかなと。
豊島 
そうなんです。凄いんです。村上春樹さんのテキストはやさしい言葉で、なのに、強度があって、深みがある。それがすごいな、と思います・・・ありきたりな言い方しかできなくて恥ずかしいんですけど・・・。配列も無駄がないし。たとえばセリフ忘れで何か一つの言葉を抜かしたり加えたりするときはもちろん、入れる箇所を間違えたりしてもすぐにおかしいなって思うんですよ。それはあたりまえですけれど。でも、その言い間違いによって文章としての精度がぐんと落ちるのがわかるような、かなりパンチのある気持ち悪さです。セリフを間違わずに音に出す時に、気持ちいいというとおかしいかもしれないんですけど・・・。
__ 
分かります。正しく気持ち良く出したセリフが客席に気持ち良く流れ込んでくるというか。
豊島 
そうなんです。何で読んだんだったかな、ある記事に、村上さんは原稿を声に出して確認しているっていうようなことが書いてあったんです。やっぱりそういう作業をされているんだなと思いました。
__ 
だから、朗読劇という形式だったんでしょうか。まあ、実際は本を持って読んでいるシーンはあんまりなかった訳ですが。
豊島 
そうですね、少なめですね。
朗読劇 かえるくん、東京を救う

公演時期:2008年10月22(水)〜23(木)。会場:ウイングフィールド。原作:村上春樹。

しっぽを掴む

__ 
引き続き、「かえるくん」について。本番で言葉を出す時に、何か気を使った事はありますか?
豊島 
恥ずかしいんですけど、今回はもう一つ出来ていなくて。でも、お客さんに助けて頂いた点が多いですね。結局、本番で、セリフを通してお客さんと会話する事が重要だなって。
__ 
朗読であれば、そういうコミュニケーションに集中出来そうですね。
豊島 
それが朗読が好きな理由の大きなひとつですね。実は、初演の時に何かもう一つ奥に声のありようみたいなものがあるような気がしたんです。それを探りたいという気持ちがありました。再演の稽古期間では、そのしっぽを触った気がしたんです。
__ 
奥ですか。
豊島 
お客さんが向こうにいて、稽古ではそれを仮定しながらするんですが、そちらへの向かい方で声の出方も変わるのだと思います。その感覚のなかにあるものですね。でも公演の直前数日に情けないことがいろいろあって、本番のころには、しっぽがちょろちょろと動いて・・・。
__ 
そのしっぽというのは、朗読をする上でのもう一つ上の段階、という事だと思うんですけど、声を発する事の真価ですよね。発話して、向こうの人に伝わる間の事だと思うんですけど。
豊島 
そうですね、そのあいだの事ですね。
__ 
しっぽを掴む為に、どのような努力が必要なのでしょうか。
豊島 
きっと、得なければいけない感覚もあると思うんですけど、外していかないといけないものがあるとも思うんですよ。中学から演劇をやってきて、その経験から来る意識や癖から抜け出ないと。
__ 
というのは。
豊島 
舞台でお客さんと関係を結ぶ時の、簡単に依ってしまう便利な型みたいな。私は悪い意味で複雑さを排除しがちなんですよ。すると、単純だけども薄っぺらで嘘くさい表現になってそれが声に出てしまうんです。単純という言葉は好きなんですが、本当にシンプルで美しいものは、逆に凄く情報量が多いと思うんです。もちろん、役者の訓練をしないという事ではなく、余計なものを纏わないようにすることが必要だと思いますね。
__ 
余計なニュアンスをセリフに重ねてしまうのではなく。
豊島 
はい、ここにある本当に見たいものを鈍らせない為に。

マークのお芝居

__ 
今回は演出が田中遊さんでしたね。
豊島 
そうですね。初演の時もお願いしたんですけど。
__ 
あ、そうだったんですか。良ければ、経緯を教えて頂きたいのですが。
豊島 
以前、田中さんの「イス」という作品を見たんですよ。
__ 
それを見れなかったんですよ私。もの凄く面白かったという評判を伺っています。
豊島 
あ、そうだったんですか。面白かったです。イスを使って、パズルみたいに組み立てていくみたいな。さっきちょっと、シンプルの話をしたんですけど、人なのに情とかをそぎ落としたみたいな。
__ 
デザインされた、みたいな?
豊島 
私、タバコの箱のデザインとかが好きなんですよね。そういったものを想起するんです。美しくデザインされた演出なんですよ。それで彼のファンになりました。それで、彼の作品を見るようになって、また、彼を役者としても見て、マレビトの会や、水沼さんの演出の作品に出ておられたときのとか、いずれも、声が興味深かった。声のありようが面白かったんです。彼の演出作品にしろ、役者としての彼にしろ、面白かったです。その声の出どころや向かう先を探りたかったし、知りたかったんです。でも今回、田中さん大変だったと思います(笑う)。どうしても私のやりたい事はあったし、でも彼にも言って欲しいし聞きたいし、そういうややこしいなかで凄くよく付き合って下さって。共同演出というのは、とくに依頼されているほうはしんどいだろうなと思いました。
田中遊さん

正直者の会代表。作家、演出家。

もうちょっと、先に

__ 
全てひっくるめて、ご自身の手ごたえとしてはいかがでしたか。
豊島 
もうちょっと、先にいきたいなと。貰ったものは大きかったんですよ。観て頂いた方から聞いた感想やイメージとか。人によっては、それが、私の表現したものよりも膨らんだりしていたんです。それはとても嬉しかったんですが、同時に悔しかったり、申し訳なかったりする面もありましたね。こんなに豊かな感性を前にさせていただいていたんだなとあらためて思って、私の方でもっとできていれば、どうなっていたんだろうと思うんです。ちょっとギュッとしていたなと・・・。でも、それはそれで、あそこであったかけがえのないことだし、とても大事に思います。ただ、つぎは名古屋に行くんですけど、ちょっと硬くなってしまったものを放したい、と思っています。
__ 
お客さんからの感想って、参考になりますよね。まして一人芝居だと、尚更だと思います。

ほそぼそとでも、こつこつとでも

__ 
今後、「かえるくん」は再演を重ねていきたいとパンフレットにありましたが。それはどのような狙いがあるのでしょうか。
豊島 
色々あります。前に音楽が弾ける人と共演したことがあるんですけど、そういう技術って財産だなと思ったんです。バイオリンをぱっと弾けたりとか、その人のもので。役者は一回一回稽古する必要があるんですね。それはすっごくすっごく好きな作業なんですけど。
__ 
ええ。
豊島 
一つの舞台作品を自分の一つの仕事にして、人に喜んでもらえるようなレパートリーを持ちたいですね。元関西芸術座の新屋英子さんという女優の方が、2000回以上一つの作品を続けられたという自伝を読んだことがあって、素敵だと思ったんですね。ひとつの作品を再演し続けたら、その先があるんだと思うんです。一回一回の作品が通過点であり、到達点である、過去のものが低いということではなくて。
__ 
なるほど。では、豊島さんご自身は今後、どんな感じで。
豊島 
ほそぼそとでも、こつこつとでも。かえるくんは、ちょこんちょこんと続けていきたいですね。友達の家でやるというお話も出ているので。そんな感じでも出来たらいいなと思います。でもやっぱり、お芝居したいなと。
__ 
ええ。
豊島 
相手がいて、会話をしたいですね。そういうお芝居の稽古って、ジャンプしていくというか。ドキドキするんですよ。人とやると、やはりそういう面は強くなりますね。
__ 
会話もやっていきたいと。
豊島 
はい。
新屋英子さん

女優。劇団野火の会。ひとり芝居「身世打鈴」の再演を1973年以来2000回重ねる。

本当にいい人たちに会えたと思います

__ 
豊島さんはTARZAN GROUPという劇団に所属されていたとの事ですが。
豊島 
はい、今もしています。ここ最近は、1年に1回くらい集まって飲みますね(笑う)。もう一度やりたいという気持ちはみんなあるんじゃないかと思うんですが、お子さんがいたり、仕事が忙しかったりで。でも、もっとおじさんおばさんになってからもう一度やりたいですね。
__ 
昔と今では、ご自身の演技にどんな違いがあると思われますか?
豊島 
ちょっと暗い話なんですけど、TARZANに入った頃舞台に立つのが怖くてしょうがなかったんです。
__ 
怖いとは。
豊島 
お芝居はしたいんですけど、不安だったんです。私もっと好きだった筈、みたいな記憶で立っていたんです。そういう気持ちで立っていたからダメ出しも多かったんですね。
__ 
何が原因だったんでしょうか。
豊島 
それは結局、自分が嫌いだったと思うんですよ。それまで、TARZANに入るまでの頃は演劇が楽しくて仕方なかった。でも、自分が恥ずかしい人間だと気づかされるようになってからは、演劇を好きという理由でうまく逃げ場所にしていると自覚したんです。それからは、どんな役に対してもただ引け目を感じて怖くなった。考えるのは自分の事ばっかりで、舞台に立っていても、こんな自分の事はばれていると。そうした時に大学のサークルの人や、TARZANのみんなには助けていただきました。そのあともいろいろな人や出来事に出会って、だんだん、もうばれてしまったらいいな、ここから人に手をのばしていこうと、そんな力を育ててもらったように思います。
__ 
それは良かったですね。
豊島 
はい。本当にいい人たちに会えたと思います。
TARZAN GROUP

京都を中心に活躍していた劇団。1988年旗揚げ。

質問 益山 貴司さん から 豊島 由香さん へ

__ 
さて、前回インタビューをさせて頂きました益山さんからですね、豊島さんにご質問を預かってきております。
豊島 
はい。
__ 
「好きな映画は何ですか?」
豊島 
ええ、何だろう。うーん・・・是枝さんの、「誰も知らない」という。
__ 
ええと、柳楽優弥の。
豊島 
あ、そうです。
__ 
あの悲惨な。お母さん役のYOUが絶妙なキャスティングでしたね。
豊島 
そうですね。ダメなんだけど憎めない。
__ 
最初に画面に出てきたとき、あまりにハマっていて笑っちゃいました。YOUには本当に失礼な話なんですが。
豊島 
ええ、あのYOUは、誤解を受けるかもしれませんが、魅力的でした。あの母親はひどいかもしれないけど、彼女なりに背負っているものがあって、自分とは無関係に思えない、あちら側の悪い人、とは思えない。あと、「歩いても歩いても」という映画があるんですけど、面白かったです。特に劇的じゃないんだけども感動しました。人はしんしんと怖くて悲しくて、でも同時に面白いなというのをあらためて感じました。是枝さんはドキュメンタリーを以前よく撮られていて、そこで培われたであろう視点が好きなんだと思います。村上春樹さんに通じると思います。どちらの方の作品も、人を、世界をよく見て、耳を澄ましていて・・・。
__ 
それを再構成して作品に昇華するという感じなんでしょうね。作品性に結び付けるって凄いなと思います。
豊島 
都合良くしていないんですよね。あと、料理のシーンがめちゃくちゃおいしそうですね。枝豆とかがザアって出てきたりとか、食材をかき混ぜたりとか。希林さんって料理好きなんだろうなと思いました。一番好きなシーンですね。
「誰も知らない」

2004年日本。監督:是枝裕和。

「歩いても歩いても」

2008年日本。監督:是枝裕和。

SCHLEICHの動物フィギュア

__ 
今日はですね、豊島さんにお話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
豊島 
わあ、嬉しい。ありがとうございます。このコーナーを見ていて緊張していたんですよ。
__ 
いえいえ、それほど大したものではありませんから。どうぞ。
豊島 
ありがとうございます。(開ける)え、これは。楽しいです。小さい時こういうのいっぱいあって。飾らせて頂きます。
__ 
どうぞどうぞ。
(インタビュー終了)