演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

黒川 猛

脚本家。演出家。俳優

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THE GO AMD MO'S 第7回公演『春子の夢』

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。黒川さんは、最近はいかがでしょうか。
黒川 
最近はまあ、普通ですね。今日は19時からWBCの日本対オランダ戦があるので、ソワソワしています。
__ 
あ、そうでしたね。そして今月末、THE GO AND MO's次回公演「春子の夢」が。
黒川 
はい。いま、稽古中です。
__ 
毎回、タイトルが面白いですよね。具体的な人名が出てきていますが。「高木の舞」「小野の陣」「新海の虎」「後藤の銀」「岡山の槍」「松尾の凛」。そして今回は、「春子の夢」。
黒川 
毎回、タイトルを決めるのが邪魔くさいんですよ。「○○の○」というのを付けていったらいいんじゃないかと、勘で付けています。最初の人名は、僕の知り合いです。暴露すると奇数月が大学以降、偶数月が高校以前の友人です。
__ 
意気込みを教えて頂けますでしょうか。
黒川 
笑わせる。ただそれだけです。
THE GO AMD MO'S

2012年1月より本格始動した黒川猛のパフォーマンス企画ユニット。(公式ブログより)

THE GO AMD MO'S 第7回公演『春子の夢』

公演時期:2013/3/30〜31(開場後すぐ、場内にて「ドキュメンタリー 「当たり屋・田島太朗」「当たり屋Gメン・北銀馬早苗」(各約15分)」を連続上映)。会場:ウイングフィールド。

明日への狂気

__ 
黒川さんの作られた作品で私が最も笑ったのは、ベトナムからの笑い声公演 「チェーンデスマッチ」 の「パン屋のパン子ちゃん」でした。戯曲もネタも、俳優の演技力も素晴らしいものでしたが、一つの演技が何度も繰り返され、次第に熱狂へと高まっていくという。
黒川 
あれは僕の中でもダントツ上の部類にはいる、ちょっと狂気じみてましたね。役者も冴え冴えで、これは凄いなと思いました。
__ 
死を覚悟しました。
黒川 
いつも言っている事ですが、笑わせる為に手段を選ばないんですよ。映像でも文字でもいいんです。人を笑わせる為なら。そのための引き出しはたくさん持っておきたいですね。「パン屋のパン子ちゃん」は、それら全ての中でも、中々・・・行ききったなという作品でした。
__ 
たくさんの引き出しを置いておきたい。
黒川 
そうですね。その為に常にアンテナを張るようにしています。「これ面白いな」と思った、TV、新聞、映画、本、自分や他人が言ったことは頭の中に置いています。メモにも書いて、あとで読み返したり。あとは自分の中でいくつかやってはいけないというルールがある、ぐらいですね。
__ 
それに触れると、人を傷付けたりする?
黒川 
多少はありますね。ただ、笑いを作っている以上、誰かを傷付けたりすることはあります。手段は選ばないのですが、たとえ誰かを傷つけることになっても行ききらない笑いはダメ。よく「毒のある笑い」と言われるんですが、それも笑わせるための手段です。あとは、真似というのはあります。ただの真似ではなく、面白いと思ったものをどう真似られるか、超えられるか。僕はダウンタウンやナンシー関に影響を受けてるんですけど、そういう人たちにどこまで迫れるか。そして、どこまで脱する事が出来るか。
ベトナムからの笑い声

丸井重樹氏を代表とする劇団。手段としての笑いではなく、目的としての笑いを追及する。2011年末をもって無期限活動停止。

ベトナムからの笑い声第28回公演『チェーンデスマッチ』

公演時期:2010/12/3〜5。会場:スペース・イサン。

何をしても一人

__ 
ベトナム時代とは違って、役者が黒川さん一人だけになりましたが、どのような点が違いますか?
黒川 
単純に、稽古が一人なんですが、辛いですね。何をしても一人。これが面白いかどうかの判断も一人ですし。まあ、丸井も中川さんもいますけど。「これで合ってるのか?」と悩む事は増えましたね。もちろん、一人しかいないから生まれてくるものもあります。
__ 
出演者一人だけという事で、何というか、黒川さんの方向性に合ったらどこまででも笑う事が許されるような気がします。逆に言うと、観客個人が持つ悪趣味を、そのまま肯定してくれる気がする。そういう意味で、優しい笑いなのかもしれないと思っています。
黒川 
僕は、その辺に落ちてる石ころでも面白いと思ったら引き出しに入れてしまうので。だから受け付けない人は全く受け付けないと思います。仕方ないんですけど。受け付けない人でも、ちょっとでも笑ってほしいんですよね。

質問 片桐 慎和子さんから 黒川 猛さんへ

__ 
前回インタビューさせていただきました、片桐慎和子さんから質問を頂いてきております。「黒川さんにとって、ベトナムはどんな国ですか?」
黒川 
えっ・・・。国?
__ 
はい。
黒川 
国・・・。何年も「ベトナムからの笑い声」やってたでしょう。そうなると、ベトナム=国とかではなくなるので。パクチーぐらいしか思いつかないかな。行った事もないし。
__ 
そういう劇団名だったのに。
黒川 
僕と丸井の間で決めたんですよ。出来るだけ無意味なものにしました。
__ 
東南アジアに力強く生きる農民と子供たちが太陽の下で底抜けに笑う、現代の人びとへの生命のエールみたいな作品をやる演劇だと思ってたんですが全く違いましたね。笑いだけが目的の作品だと劇場で知った時、目が醒めました。
黒川 
まったく無いですね。タイトル付けるのが面倒臭い人間が大して考えている訳ないんですよ。でも・・・これ、この間の飲み会で言っちゃったんですけど、「ガキの使いやあらへんで」と同じ音なんですよ。
__ 
あ、韻を踏んでますね。そういえば。
黒川 
もう言うてもいいかなと。という事は、THE GO AND MO'sもあるんですよ。何かが。言わないですけど。酔うたら言うかもしれませんけど。

笑わせる奴が凄い。面白い奴が認められる

__ 
黒川さんが演劇を始めた経緯を伺いたいのですが。
黒川 
一番最初に舞台を好きになったのはイッセー尾形さんです。僕、中学高校と寮生活を送ってまして、その時代は外部とほぼ遮断されていたんです。その時にイッセー尾形さんの本を読んで、凄いなと。TVも全く無かったんですが、文字だけで。
__ 
それだけでも面白いと。
黒川 
映像すら見た事ないのに、この人面白いなと。その後、大学浪人時代に実家に戻ってきて、TVでダウンタウンを見て。もうそれで腹が捩れるぐらい、笑ったんですよ。泣きながら。気が狂うほど。同じコントをビデオで何回も何回も見て。妹が「気がおかしくなったのか」と心配するぐらい。大学入学後に学生劇団に入ったんですけど、やはり自分でやりたいことがやりたかったので、ベトナムを立ち上げました。
__ 
その笑い転げたというのが、強い体験だったんですね。
黒川 
強烈な体験でしたね。根底にあるのはそれですよ。そこから、とにかく笑いを取る事が好きで、それが僕の全てになりました。
__ 
そこから、笑いの作り手に。
黒川 
中学・高校時代で身についたベースもあったんだと思うんです。外と接点がないとやっぱり笑いだけが全てになるんですね。男子校の笑いだから下ネタか暴力しかないんですが、僕は、そこのお笑いも好きだったんですよ。
__ 
というと。
黒川 
笑わせる奴が凄い。面白い奴が認められるというね。他の中高生が経験していない、言えないことばかりでしたね。クソみたいな生活で・・・今みたいにお洒落なことなんて何一つないし、女子もいないからモテるとかないし。えげつない事ならあるけど。
__ 
笑いが絶対的な価値観だった?
黒川 
まあ、笑ったり笑わせたりが楽しかったですね。門限の時間後にどの窓から入ったら面白いかとか、デコピンを限界まで試したり、危険な事もありました。外からは何も持ち込み禁止だったので、身一つでしたね。将棋を紙で作る世界でしたから。そういう経験が今でも続いている部分はありますね。

笑いの作り手の円の中

__ 
黒川さんにとって、笑いを作るという事は何ですか。
黒川 
どう言えばいいのか・・・僕が生活するうえでの中心です。好きなんで。その為に他の何かを犠牲にするのは全然苦ではないです。芝居して、ウケる事も好きですし、面白い事が浮かんだ快感もあるんですよね。飲み会で笑いが笑いを呼んでるようなのも好きだし。作品としてまとめた笑いだけじゃなくて。もちろん、笑いを見るのも好きです。
__ 
なるほど。
黒川 
自分の生活の中心に来ているので、もしそれが禁止されるとなると辛いですね。僕は、世の中にたくさんいる笑いの作り手の円の中に、端っこでもいいからいたいです。

これから

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか。
黒川 
去年一年、一人でやらせてもらって。これは最初の頃に丸井とも話したんですけど、他の演者さんとも作っていって、だんだんと大きな作品も作っていけたらなと。どんどん、やれる限りは攻めていこうと思っています。

基本的に僕、笑っていたいんです

__ 
今まで、これはよく作れたな、という笑いはありますか?
黒川 
何かな。オーソドックスなもので良かったのは妖怪シリーズとかかな。
__ 
妖怪に延々とツッコミ続ける奴ですよね。あれは初めて見たベトナムでした。
黒川 
僕はツッコミ体質なので。あと、演劇ドラフト会議とか、もぐらパンチとか、いっぱいあって絞りきれないですね。今回の新作「狂言病」は、かなり手応えを感じています。
__ 
笑いの前衛として、若手に何か一言頂けますか?
黒川 
いやー・・・うーん。若手に?
__ 
いえいえ、すごく偉そうな言い方なんですが、笑いだけを追求している表現者としてモデルケースだと思うんですよ。
黒川 
いえいえ。僕が言えるのは、「面白いものを作ってください」だけですよ。先輩とか若手とか関係なしに。こういう事をしなさいとかは無いですね、笑いを作る人々の円に入って、とにかく面白いものを作ってもらって、笑いたいです。基本的に僕、笑っていたいんですよ。

ブタの貯金箱

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがあります。
黒川 
ありがとうございます。開けても。
__ 
もちろんです。
黒川 
(開ける)あー、いいじゃないですか。母親が大好きなんですよ、ブタ。
(インタビュー終了)