夕暮れ社 弱男ユニット『教育』
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- 今日はどうぞ、宜しくお願い致します。最近はどんな感じですか?
- 村上
- 3月に芸術創造館で公演をするんですが、その稽古と脚本をとにかく書いています。
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- あ、そうなんですね。タイトルは。
- 村上
- 『教育』です。今までやったことのないような劇場の使い方をするので、一体どうやって立ち上げようかなと思っている最中です。
夕暮れ社弱男ユニット
2005年、京都造形芸術大学にて村上慎太郎の個人ユニットとして始動。作品ごとに出演者を募り、大学を拠点にコンスタントに公演を発表。ゲルニカとテポドンが戦ったり、男同士が愛し合いゴリラを人の子に育てて不幸になる等チープなストーリーと、俳優の個性や爆発力のある演技・スピード感溢れるテンポの良い芝居作りが特徴。(公式サイトより)
夕暮れ社弱男ユニット 第二回劇場公演『教育』
大阪市芸術創造館マンスリーシアター。公演時期:2010年3月25日〜28日。会場:大阪市立芸術創造館。
演劇?
- 村上
- 演劇を何のためにするのか分からない時期があって。舞台上で俳優が叫んではるのを見ていて、急に、彼らは何に向かって叫んでいるのかなって考えちゃって、演劇ってなんだろうとわからなくなったんです。そういう時期を経て、「演劇をやるってどんな事なんやろうな」と、すごく考えたんです。
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- というのは。
- 村上
- 演劇ってなによりまずは、見世物を前提としてて、でも、何のためにわざわざ見世物にするのかという事が疑問だったんです。その時に哲学者のアンリ・グイエという人の本で「劇は、舞台上にある前に、世界にある」と言う言葉を見て、演劇というのは芸術の一ジャンルで、劇は世界に含まれているもので、演劇は劇と現実をつなぐ役割を果たしているってスッとはいってきたんです。
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- 一般社会で行われるイベントを劇という言葉で改めて定義したと。
- 村上
- 演劇をやる前に、まず世界に劇があるという話ですね。3月の『教育』では、そこを、ド直球に取り組んでみようと思っています。それをするには、劇を演るという行為を捉え直してます。いままでの知ってるやりかたを考え直さなくてはいけない。
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- いままでのやり方を考え直す。
- 村上
- それは、体にしみこんでいて、ごく自然で根深いものなので、難しいですね。だから本質を突き詰めて演出しようと思ってます。
喧嘩みたいな許可
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- 村上さんは芸大のご出身との事ですが、ご自身にとって芸大とは。
- 村上
- (笑う)入る前の事からいうと、高校の時に電視游戲科学館が近所で、元々当時の友達と普段から遊びに行ってたんですよ。地元だから。舞台芸術コースがある、ではそこにしようと。そして、自分の仲間になってくれる人をみつけようと。
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- ご在学中色々あったように聞いております。学園祭で、なんか無許可で構内で上演したとか噂がありますよね。
- 村上
- あ、それは違うんですよ(笑う)。確かに無許可でやる人もいますが、そういう人は実行委員の人に見つかって、押し出されちゃうんで。僕はそういうのが嫌いなのでちゃんと許可を。
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- あ、取ってたんですね。
- 村上
- でも許可をもらうにも喧嘩みたいになります(笑う)。
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- 喧嘩?
- 村上
- 狙ってるイメージがやっぱり、ハプニング的な公演で。どうしても許可をもらうにも喧嘩みたいになっちゃうんですね。例えば、学内を赤ふんどしの男が走り回ったりするっていう。そういうのが当時は許されない大学でもあったので。
電視游戲科学館
京都の劇団。大がかりな舞台装置、凝った音響・照明、しかし行き過ぎない美意識のもとに作られたエンターテイメント演劇を得意とする。
京都造形芸術大学
京都市左京区北白川瓜生山にある私立芸術大学。芸術学部に舞台芸術学科が置かれている。
僕たちは世界を変えることができない〜自衛隊に入ろう
- 村上
- 入学当時、教授の方が教えてくれることとか、やっている事が、全然理解出来なかったんですよ。その時は電視游戲科学館の影響もあってかわからないですけど、カラフルな照明で、音も低音きかしてバンバン流したかった。だから単純にそれができそうになかったんで、あんまり授業通ってなかったんです。今では、教授の方たちがやっている事がすごく理解できるし、身近になってきたんですけど。
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- すると、今の村上さんの作風は今と昔でかなり違う?
- 村上
- 結果的にはもともと、とりあえず同級生の子たちとは違った事をしたい、そう思っていたので、今でもその姿勢と作風は変わってないつもりです。変わったという人もいますが、昔から様々な作品をやっていたので。
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- ご自身の創作活動で、このとき決定的に変わったというタイミングってありますか?
- 村上
- 造形大の舞台芸術コースの卒業製作のときですね。グループを作って公演を打つんですけど、選考があって、上演できないグループもあるんですよ。で、僕のグループが落ちちゃったんですね。その時、「造形大、俺の事がわかってない、あかんわ」と半分ヤケクソな時期に書いた戯曲が初めて同級生とか教授の方に読んで褒めてもらえたんですよ。その時、それまで絶望してたものとはまたちょっと違う気持ちになりましたね。本当に気持ちが救われましたね。あ、ちゃんと見てくれてるんやって。もっと信用しようって。
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- どんな作品だったんですか?
- 村上
- 「僕たちは世界を変えることができない〜自衛隊に入ろう」というタイトルで戦争のお話です。
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- あ、もしかしてこの間のpan_officeプロデュースでやってた。
- 村上
- あれは「単身デストロイ」という30分に改訂したものを伊藤さんが演出したものでした。「僕たちは世界を変えることはできない〜自衛隊に入ろう」は、また違う一時間半のものです。
pan_officeプロデュース「京都かよ!」
アトリエ劇研協力公演。京都の4人の劇作家による作品を大阪の劇団france_panを初め大阪出身の俳優で演じたオムニバス公演。公演時期:2009年11月13日(金)〜15日(日)。会場:アトリエ劇研。
演劇シーン
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- 次の『教育』。すごく前衛的な作品になりそうですね。村上さんとしては、それを見たお客さんにどう感じてもらいたいのでしょう。
- 村上
- 『教育』に限らずなんですが、やっぱり、演劇に興奮してほしいんですね。それは作品を見て、だけじゃなくて、演劇シーン全体、僕らだけじゃなくて。
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- 演劇シーンを楽しむ。
- 村上
- 演劇シーンの中でやっているんだなあと最近感じているんですよね。たとえば(ミニドーナツを机にあける。その内の一つを指して)これだけ見ても面白くないんですよ、たぶん。この全体の中の一つだから面白い、というのがあるんじゃないかと。いろんな味があるんですよ。いちごとか、チョコレートとか。
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- 色々な人が同じ時期に手の届く範囲で色々やっている感覚。
- 村上
- そうです。やっぱり、追いかけられる範囲で同時期に幾つかの団体がやってるのっていいですよね。それを感じたのは、大学の時、学内で公演をしようと思ったら劇場を半年前から申請をしなきゃならないんですよ。そういう制度があるのが、まあちょっと、自由度がないな、という感じがしていたんです。あ、あいつやるんや。じゃあ、俺も違う角度からやってやろう。っていう衝動を作品でやりあえたらいいなと思ってます。
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- 私は最近、いわゆるショーケースを見る事が多いんですよ。いろんな団体が、15〜30分くらいの短い時間でそれぞれの作品を上演する。バラエティ感がすごく楽しいんですよね。もしかしたら、私が演劇という村の一員だから味わえるものもあるかもしれないなと。演劇村って批判的に言われてますけど、もし村って悪い意味があったとしても、実は面白いと思える部分もあるんじゃないかと。例えば一人でも知り合いが出ていたら段違いに面白かったり、とか。あ、もちろんそれは作品自体のおもしろさとは別ですけど。
- 村上
- ネガティブに捉える必要はないですよね。
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- 劇団員嫌いとか、ショッキングな言葉もありますしね。
- 村上
- でも、「劇団員」いいですよね。感覚としては、周りも最近その抵抗は薄くなっているように思いますね。プロデュース公演も一時期よりは、やっぱり減った印象があるし。劇団員と一緒にやるというのにこだわっている劇団って僕は応援したくなります。
現代アングラー
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- これまで、ご自身が作られた中で一番印象に残った作品は。
- 村上
- 全部好きですよ(笑う)。でも、その中で2つあります。「ここでキスして」という、学園モノで。京都造形芸術大学の@カフェでやりました。むちゃくちゃお客さんがリピーターできてくれた公演でした。
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- 楽しそうですね。
- 村上
- 高校生の文化祭までの人間模様を舞台にした作品でした。とにかく音楽も照明も使いたくなくて、音楽は全部エアでやったんですよ。エアギターとか、エアバンドで。それが意外に成立してました。
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- 口でBGMって、面白いですね。
- 村上
- あとは、最近やった「現代アングラー」ですね。
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- 噂の。
- 村上
- 全ての小劇場の人に見て貰いたかった公演ですね。たぶんもう、出来ないですけど(笑う)。
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- その作品の映像、Youtubeで見ました。一番最初に客席から観客を舞台に誘導して、客席をアクティングエリアをしていましたね。それどころか、イスを投げたり崩したり。あのイスは、どこのものなんですか?
- 村上
- それは語れないんですよ(笑う)。ショーケースの内の一つとして上演したんですけど、その場所を破壊するという試みでした。なにより、破壊だけではなく、そのアイデアに一歩踏み込んでストーリーを組み込むというのが大きな一歩だったと思います。その二つは特に印象的ですね。
質問 浦島史生さんから村上慎太郎 さんへ
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- 前回インタビューさせていただいた、柳川の浦島さんから質問を頂いてきております。1.恋人として付き合うなら、演劇関係者を避けるとかそういうのはありますか?
- 村上
- あはは。恋愛の仕方をわすれちゃいました。
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- 2。飲みに連れてって貰ってもいいですか?
- 村上
- もちろん。もちろんというか、口約束は嫌いですので(笑う)これを機に行きましょう。
柳川
1998年、立命館大学の学生劇団を母体に結成。洗練されたシチュエーションコメディを目指すも、良くも悪くも洗練されず「なんだかよくわからない、面白いのかどうかすら、ちょっと判断しかねる笑い」を目指す、どちらかと言えば、ひとりでこっそり観に行きたい劇団。(公式サイトより)
新しい脚本をつくる
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- 村上さんは今後、どんな感じで攻めていかれますか。
- 村上
- 2009年は短編を作る事が多かったんですよ。2010年は長編を作っていきたいですね。
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- どういう風に世界と戦っていきますか?
- 村上
- 今、脚本のオーソドックスなフォーマットに疑問を持っていて。いわゆるト書きがあって、頭書きがあって、セリフがあって・・・もっと色々あってもいいんじゃないかなって思ってて。もちろん、僕もそれを利用してきたわけですけど、作品によっては、なにか新しい形で提示して新鮮味のある表現にをやっていけたらなと思ってます。
カップ&ソーサー
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
- 村上
- あ、いいんですか。
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- どうぞ。
- 村上
- ありがとうございます。(開ける)おお、カップですね。すごい。お皿まである。