正月気分
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- 今日はどうぞ、宜しくお願い致します。最近、大橋さんはどんな感じでしょうか。
- 大橋
- 最近は・・・普通ですね。まだ正月気分です。1月3日には、いま勤めているシアターBRAVA!の舞台で手を合わせてきました。で、明日からは公演の準備が始まります。
「これが演劇ですよ」
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- 大橋さんが演劇を始めたのはどのようなキッカケがあったのでしょうか。
- 大橋
- 当初は声優になりたかったんですよ。それで演劇部に入ったんです。少女マンガが大好きで、ママレード・ボーイとか、こどものおもちゃとか。りぼん系のアニメを好んで見ていたんです。そのうちに声優になりたいと思って。神谷明さんの著書の「きみも声優になれる!!」という本を読んだら、舞台をやれって書いてあったんです。声優というのは元々、舞台をやっている人たちに任せられていたらしく。中3の段階で演劇=ダサいというイメージがあったんですが、高校から演劇部に入りました。
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- というと。
- 大橋
- 何故かと考えたら、それは小学校の頃に見た巡回演劇なんですね。子供に見せるには、あまりに教条主義的というか説教臭いと感じたんです。もちろん素晴らしい作品が多いし、選ぶのは指導をされる先生方であるという構造もあるので、誰が悪いという事ではないんですけれども。演劇に対するそうした思い込みはあったんですが、いい部活でした。
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- 最初は役者だったんですか。
- 大橋
- はい。でも、全然上手く出来なかったんですよ。最初に貰ったのはセールスマンの役だったんですが、県大会進出の二週間前で降ろされたんです。大会ではピンスポを当ててました。何でダメだったんだろう、それはやっぱり、他人とのコミュニケーションが苦手だったんですね。人と対する時に緊張してしまう。そんなのが演技なんて出来る筈がないじゃないか。そういうコンプレックス的な部分が、演劇をやることで、演劇に逆照射されたんですね。しかし、その中で自分を見つめて相手と向き合って、その上で生まれるドラマが演劇の良さだと気づく事が出来ました。そういう芸術ですよね、演劇って。
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- 素晴らしい。
- 大橋
- そういう事を、高1の頃には大体直感していたんです。高校卒業時、進路を考える時期になって色々迷ったんです。みんな、演劇をやればいいのにって思って。その頃、キャラメルボックスの加藤プロデューサーを知って。この人みたいに、世の中に演劇を広めたいなあと思ったんです。あと高3の時に平田オリザさんのワークショップを受けたのも大きいですね。3日間くらいで小作品を作るんですが、「これが演劇ですよ」って分かりやすく解説してもらった気がしました。
全国区をここに作る試み・カラフル3
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- イベントプロデューサーとして一番最初の仕事は何でしたか。
- 大橋
- 高校の演劇大会の実行委員会でしたね。合コンじゃないですけど、他校との合同カラオケ大会はいつも盛況でした。
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- カラフルという演劇イベントが私と大橋さんの最初のキッカケだったと思います。名古屋の長久手でのカラフル3 でしたね。どのような経緯があったのでしょうか。
- 大橋
- 僕が関わり始めたのは第二回からです。第一回の時は、裏で学生演劇合同プロデュースのスタッフをしていました。その翌年、企画者の一人として呼ばれて。3回目のカラフル3は僕の仕切りです。
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- なるほど。カラフル3は、東京大阪を主に全国から劇団が集められていましたね。
- 大橋
- 僕個人の思いとしては、名古屋の演劇はこのままじゃ死ぬなと。
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- 死?
- 大橋
- 名古屋では若手の劇団が中々育っていなかったんですね。その頃はまたお客さんも減っていて。小劇場の折込も数年前に比べて4割くらい減っていたんです。どこかで食い止めないと、と思ったんです。地理的に愛知は東京からも関西からも寄りやすいハブ的な土地なんですが、それなら、全国区をここに作ればいいんじゃないかと。
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- というと。
- 大橋
- 東京イコール中心という考え方って、どうしてもあるじゃないですか。東京イコール全国区というイメージにも繋がるんですけど。東京一極集中に対応して「地方」を「地域」と呼ぶ人もいますが、それでもやっぱり閉塞していくんじゃないかと思うんです。地域じゃない、全国区を、日本の中心である名古屋にこそ実現出来るんじゃないか。
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- なるほど。
- 大橋
- だからショーケースという形式が相応しかったんですね。アウェイで来る人の方が本気になるのが理想でした。会場は長久手でしたが、そこで高い評価を受ければ、ホームでも高い評価を受けられると。
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- 挑発と言えるかもしれませんね。
- 大橋
- 来てくれたらお客さんが1000人入ります、さらに、賞もありますと言って口説きました。その賞についても、誰がどう選んだかを明確にして発表しました。名古屋の人に対しては危機感を煽りたかったんです。実際、呼んできた劇団で賞が総ナメにされてしまったんですけどね。
演劇博覧会 カラフル3
全国の劇団が一堂に会する、まさに博覧会イベント。時期を置いて1stステージ、2ndステージと開催。公演時期:「1st.stage」2009/3/14〜15。「2nd.stage」2009/5/2〜4。会場:「1st.stage」ゆめたろうプラザ(武豊町民会館)。「2nd.Stage」長久手町文化の家。
出会いの連鎖
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- 思い返すと、カラフル3というイベント。正気の沙汰じゃないですね。
- 大橋
- 一時間の作品を一日八本、隣接する二つの劇場で3日間。舞監が3人いるというね。
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- お話を伺っていると、ご出身の愛知の演劇界への思いが動機の中心にあるように思いますが。
- 大橋
- やっぱり、地元が好きですね。何回かあったんですけど「大橋くん、俺本気になったよ。東京行くわ」って、演劇仲間が言うんですよ。本気になってする事ってつまり、仕事を辞めて東京に行く事なんですね。ここじゃなくて。住んでるところで結果を出せない奴が、アウェーに行って何かが出来るとは思えないんです。残念ながら、よほどの天才筋か才能集団でない限り東京に行ってもしょうがないんじゃないか。一方で創作環境は東京の方が豊かなのは間違いなくて、それを引き止めるのは躊躇われるんですけど。はっきり言うと、腹が立っていて。
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- ええ。
- 大橋
- ここでやろうや、と思ったんです。ここを日本の中心にすればいいんです。まあ、カラフル3は必死の努力にも関わらず結構な赤字を出してしまいましたけどね・・・。スタッフさんたちも本当に苦しい中で尽力してくれて、カンパニーも「こんな協力の仕方見たことのない」と言ってくれたのに。でも振り返ってみると、世の中に演劇を広めるという、自分の一番最初の動機と重なる部分があって。閉塞感に対して打ち勝てたところもあるのかな。
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- カラフルが大橋さんに残したものは。
- 大橋
- 借金・・・
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- 借金以外では。
- 大橋
- やっぱり出会いですね。名古屋を出るキッカケにはなりました。2年間京都にいって、福岡・金沢で仕事して、大阪に移って。BRAVA!に入ったのも、カラフルのお陰という面もあります。出会いの連鎖ですね。
キャスティングの勉強会
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- 今後、開いてみたいイベントは。
- 大橋
- メディア・アートの展示、プロジェクションマッピングやデジタルサイネージをちょっとやってみたいです。それから、イベントと言えるか分からないですけど、キャスティングの勉強会をしてみたいです。タレント名鑑や出演作のDVDを資料に、「今の彼はどうなんだ」とか、「撮影時期と旬がずれてるよね」とか、そういう話を含めた話。商業演劇のキャスティングが出来るようになりたいんですよ。それを映像関係の人と何回かやった上で、役者を紹介するショーケースを開いてみたいですね。
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- なるほど。
- 大橋
- 「40代男性特集」とか「ぽっちゃり女優特集」とかを重ねて、映画のキャスティングの人にも届くような会を作りたいですね。そうすれば、演劇の人も映画のオファーを受けやすくなるんじゃないか。そういう事をしているうちに、一緒にものを作っていくようになれば。これは来年度にはやりたいですね。
質問 北島 淳さんから 大橋 敦史さんへ
ゼロから勉強
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 大橋
- 攻める。まあ、でも、修行の身ですからね。
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- ああ、そう仰ってますよね。
- 大橋
- まだまだ、ゼロから勉強させて頂いている身分なので。僕が攻めるなんて、いやいやいやいやですよ。二十代でデタラメをし過ぎたんで。攻めるというか、まずは商業の制作が出来るようになります。
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- 頑張って下さい。
- 大橋
- 商業演劇と小劇場の間をつなぐ存在になりたいです。その為のキャスティング勉強会という話になっていくんですよね。まずはコミュニティを作って、実績を作って持っていく。昔に比べれば、小劇場と商業の垣根は低くなっているので。
横断的な、あるいはアメーバ状になった感触
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- 大橋さんがツイッターで書かれた事の中にですね、以下の一文があって。「ジャンルを超えたアートイベントをやろうとしたら、その着地点がまさに『ジャンルを超えたアート』というジャンルに着地してしまう」という一文があったんですよ。これ、凄く分かるんです。
- 大橋
- そうなんですよ。「あ、その枠ね」って。そういうジャンル。同じ人とやってると飽きてくるじゃないですか。だから超えようとするんですけど、いつの間にか舞踏的な表現してるみたいな。
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- 自分の領分を越えようとするからじゃないですかね?私がカラフルの閉幕後に、ある予感を感じたんですね。かつてここに、いくつものオリジナルの劇団が一堂に会していて、一日を分けあっていたという事実が迫ってきて。自分達の世界観を失わずに、同時代でお互いがパフォーマンスを発揮しながら接触したり離れたりを繰り返すというのに立ち会うというのがとても必要だと思うんです。カラフルは「ジャンルを超えたアート」ではないけれども、「垣根を越えよう」という思想を実現したんじゃないかと思うんです。
- 大橋
- 横断的な、あるいはアメーバ状になった感触がね。でも僕が今考えているのはボーダーを超えたアートなんですよ。そんな事が出来るのか?本当に。
ミニハーモニカ
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
- 大橋
- これは。
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- 箱を開けて頂ければ。
- 大橋
- ハーモニカ。次のイベントで披露します。
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- ホイッスルなどに使って頂ければ。