演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

松田 裕一郎

俳優

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dracom Gala公演「たんじょうかい」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。
松田 
宜しくお願いします。
__ 
松田さんは最近はいかがでしょうか。
松田 
最近はですね、dracomの「たんじょうかい」の稽古が始まっていますね。後、このインタビューサイトに載るという事で、過去のインタビューを読んでいました。
__ 
ありがとうございます。
松田 
あれ凄いですね。もう何年ですか。
__ 
現時点(2013年)で10年です。
松田 
顔ぶれを見ていると、今もやっている人もいれば辞めた人もいて。「この人は載るだろうな」という人もいれば、意外な人もいらっしゃいますよね。春野恵子さんとか。改めて読み直してみると、関西演劇界の一時代の貴重な資料になるのではないかと思いましたよ。
dracom

1992年、dracomの前身となる劇団ドラマティック・カンパニーが、大阪芸術大学の学生を中心に旗揚げ。基本的には年に1回の本公演(=「祭典」)と、同集団内の別ユニットによる小公演を不定期に行う。年に一回行われる本公演では、テキスト・演技・照明・音響・美術など、舞台芸術が持っているさまざまな要素をバランスよく融合させて、濃密な空間を表出する。多くの観客に「実験的」と言われているが、我々としては我々が生きている世界の中にすでに存在し、浮遊する可能性を見落とさずに拾い上げるという作業を続けているだけである。世界中のあらゆる民族がお祭りの中で行う伝統的なパフォーマンスは、日常の衣食住の営みへの感謝や治療としてのお清め、さらには彼らの死生観を表現していることが多い。我々の表現は後に伝統として残すことは考えていないが、現在の我々がおかれている世界観をあらゆる角度からとらえ、それをユーモラスに表現しているという意味で、これを「祭典」と銘打っている。(公式サイトより)

dracom Gala公演「たんじょうかい」

公演時期:2013/5/17〜19。会場:心斎橋 ウイングフィールド。

未知の世界で最初に出会う

__ 
松田さんがお芝居を始めたのは、どのような経緯があったんでしょうか。
松田 
私は30歳の頃、一度転職をしているんですよ。前職場と今の職場の間に少し間があるのですが、その間に「滋賀県演劇アカデミー」というWSに参加したんですね。今から考えるとものすごく安い料金でした。しかも講師は青年団の志賀廣太郎さんで、丁寧に教えて頂きまして。それが最初ですわ。子供のとき、学校で「嫌いな先生の教科が嫌いになる」っていうことってあるじゃないですか。それぐらい未知の世界で最初に出会う指導者って大きいんですよね。志賀廣太郎さんという良い人に出会えてラッキーだったなと思います。
__ 
ああ、社会人になってから演劇を始めるって結構珍しいかもしれませんね。
松田 
演劇人って、学生時代に演劇を始めて30歳を過ぎたあたりで辞めいく人が多いでしょう。結婚とかで生活がかかってきて続けられなくなって・・・本当に惜しい事に。私の場合は逆で、30歳から始めて、その時点で既に仕事をしていた訳ですから、今も仕事をしつつ芝居を続けてます。
__ 
確かに、その意味では松田さんは逆ですね。

俯瞰する

__ 
今まで、この芝居を機に自分の演技が変わった、というような公演はありますか?
松田 
ありますね。今はもう解散しちゃったんやけど、France_pan の「家族っぽい時間」 という作品に参加させてもろうた時。それこそ20代ぐらいのメンバーの中に一人混ざってやってたんです。そこで結構、演出というか演技の細かい指示を色々出されたんです。「松田さん、そこ1秒間をとって」とか。
__ 
細かい演技の指示があった。
松田 
それまでは、そのままのキャラクターを期待されて声を掛けられる事が多く「素」のままでやっていればよかった(笑)。だから、かなり細かく演出を付けられて、ずいぶん戸惑いました。でもその作品が出来上がるプロセスを目の当たりにして、全体の中における自分の果たす役割をきちんと認識することができた。それ以降、役者の立場でありながらも、全体的な作品の仕上がりを見る事は多くなりましたね。
__ 
「家族っぽい時間」では、作品としての完成度をはっきり認識する事が出来た。
松田 
はい。具体的には「台本の読み込み」「セリフの間」「どれくらいの集中力が必要か」そして「稽古の質と量」などについて考えさせられました。それまでは「地でやらしといて面白いから、そのまんまでやらしとけ」みたいな。前田司郎さんの「生きてるものはいないのか」に出演させてもらったときも、そんな感じだったんちゃうかな。
France_pan

04年結成。演劇における恥ずかしい境界を壊しつつ護りつつ、覚束無い言葉のコミュニケーションを軸に、真面目と不真面目の中間地点を探り続ける。揺らいじゃった身体性、現代人の悲喜劇性、ペンペケピーな前衛性。作品はポリリズミックに展開。観客の過剰な能動性や批評眼の重要性を各方面に訴えながら、演劇知の可能性を弄ぶ。(公式サイトより)

France_pan 14th「家族っぽい時間」

公演時期:2008/12/12〜14。会場:AI・HALL。

質問 渡辺 ひろこさんから 松田 裕一郎さんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた、渡辺ひろこさんから質問を頂いてきております。「普段はどういう事をしているんですか?」
松田 
普通に仕事してますね。プライベートで言うと、最近はよく料理をしています。タジン鍋ってあるでしょう、あれが楽でね。あれでよく、ピラフみたいなのから何から、色々。
__ 
ピラフも作れるんですか。
松田 
はい。炊飯器で作るよりおいしいですよ。直接火に掛けるだけで簡単で、弱火でやったら、油も敷かなくていいんですよ。このあいだ、鯛の酒蒸しをやりました。

「業」

__ 
松田さんは定職をもちながら演劇をしているという事で、しかも役職についていながらかなり様々な公演に出演されていますよね。それはきっと大変な事だと思うんですが、どういうバランスでやっているんですか?
松田 
少なくとも楽ではないですよね。自分にとって「芝居って何なんだろう」と考えた場合、ここまで来るともう趣味とは言えないんですよ。趣味って、余暇を利用して、自分の中に何か活力が再生産する役割があるでしょう。ところが、逆にヘトヘトに擦り切れることも多いですから(笑)。
__ 
それはまあ、演劇は作って上演するのにとんでもない労力を費やしますからね。
松田 
もう、「業」なんじゃないか。「それをやらないと生きていけない」という・・・。
__ 
芝居を辞めたらどうなりますか?
松田 
目に力がなくなって、死んだ魚みたいな目になるのではないかと。実際には死ななくても「死んだも同然」だと思います。しかし、その対象は「現代演劇でないといけないのか?」と考えてみると別にそうでもなさそうで、昔から落語や狂言もやってきましたしね。後、文章を書くのも面白いと思います。私、東北に4回ほど震災のボランティアに行ったんですが、その事を勤務先の広報誌に書かせてもらったりして。おかげさまで好評でした。結局、表現する事が自分にとっては大事なんじゃないかと思います。

dracom Gala公演「たんじょうかい」

__ 
次回に出演される作品、意気込みを教えて下さい。
松田 
dracomの「たんじょうかい」。これは短編上演会の略でして、深津篤史さん(桃園会)、中村賢司さん(空の驛舎)、サリngROCKさん(突劇金魚)の短編作品を上演するという企画です。私が出るのは深津篤史さんの「コイナカデアル。」。正直、色々な意味で手ごわい作品ですが、自分の頭の中で創造性を働かせて、面白い作品を作りたいですね。演出の筒井潤さんを信用して。やっぱりあの人は信頼出来ますから。
__ 
ええ。
松田 
筒井さんと芝居を作っていると「この人の頭の中は一体どういう構造になってるんだろう」と思うことがよくあって非常に面白いです。前衛的なことに取り組む一方、メチャクチャ「ベタ」なことも取り入れたりするところもうれしい!そして、演出家で一番大切なのは「信頼出来るかどうか」だと思いませんか。演出の意図が理解できなくても「この人についていけばいい」と役者に思わすことができるかどうかという・・・。
__ 
それはとても大切ですね。俳優としていくら作品の中身を知っているとはいえ、作品としてまとめて、客席に届けるのは演出家ですからね。
松田 
もちろん演出力や演劇に対する知識なども重要なことは間違いないんですが、もっと幅広く人間として信頼出来るかどうか・・・筒井さんは、それを満たしている人なので、安心してついていけるんですよ。

可能な限り

__ 
今後、松田さんはどんな感じで攻めていかれますか?
松田 
ええとね、どこまで続けていけるかの勝負です。私は今まで一度も劇団に所属したことがないのですが、その理由は責任が持てないから、なんですよ。例えば、宣伝したり知人に声を掛けて回ったり、その他制作的な仕事が、定職を持っていると厳しいですよね。だったら、最初から団員になるな、という事になってしまう。
__ 
どころか、芝居に出る日を押さえるのも大変ですね。
松田 
いくら出演のオファーを受けても、仕事と重なったらどうしようもない。今は以前いた部署に比べて休日出勤が少ない部署なので、その意味では、少しやりやすくはなりました。よく出演させていただいている「てんこもり堂」 の藤本隆志さんも結婚して正規雇用で働きつつ演劇を続けています。お互いに「同士!」なんて冗談で言い合ったりしています(笑)。
__ 
いつか、子供も生まれるかもしれない。
松田 
そうですね。そこで私は挫折するんでしょうか(笑)。いずれにしても、劇団に所属しないから、定期的に舞台に出られる訳ではないのですが、今まで同様オファーがあれば可能な限り受けていこうと思っています。
てんこもり堂

「てんこもり堂」とは、『面白い』と思うものを徹底的に「てんこもり」=「てんこ盛り」で上演していこうと2007年に結成された演劇ユニットです。(メンバーは藤本隆志、金乃梨子)「面白いもんとはなーんだ」と捜索し、色々な遊びから創造していこうと思います。(公式サイトより)

ストレージブック

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
松田 
ありがとうございます。
__ 
どうぞ。
松田 
開けていいんでしょうか。
__ 
もちろんです。
松田 
(開ける)これは?
__ 
それはですね、旅行者用の思い出ボックス、というものだそうです。そこに写真やチケットや記念品をしまっておく、という使い方だそうですよ。
松田 
私は、海外旅行が好きでよく行くんですが、まあ整理せえへん人間でしてね。よく嫁に怒られまんねん。私のこと、よく分かって下さって(笑)。
(インタビュー終了)