ちょっとやめてくださいよ
- __
- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。
- 三國
- よろしくお願いします。
- __
- すみません、ちょっとトイレ行ってきます。
- 三國
- あっ。はい。
- __
- もし良かったら、その間、何か言いたいことがありましたらここに向けてお話下さい。
- 三國
- ええっ。
- __
- 喋れたらで大丈夫です。
- 三國
- ちょっとやめてくださいよ。
- __
- 喋れなくても大丈夫ですよ。
- 三國
- 分かりました。
サワガレ
京都の劇団。
ベッドで
- 三國
- ムチャぶりやな・・・あ、面と向かって言い難いんですけど、ここを借りて言わせてもらいます。ずっと前にインタビューの際にいただいたプレゼントの軍手なんですけど、ふとした拍子に右手だけ失くしてしまいました。今は左手だけしかない状態です。幸い、右手だけしかない手袋もありますので、それを合わせてこの冬は乗り切ろうと思います。せっかくプレゼントして下さったのにすみませんでした。・・・戻って来ました。
- __
- すみません。
- 三國
- いえいえ。
- __
- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。
- 三國
- 2回目ですよね。
- __
- そうですね。もう3年くらい前になりますよね。
- 三國
- はい。僕ももう役者ではないので、色々変わったと思います。
- __
- 変わったとは。
- 三國
- 今はサワガレという団体をやっていて、立場的なものが以前と違いますね。
- __
- 最初にインタビューをさせて頂いた時は役者でしたね。
- 三國
- そうでしたね。僕は当初、役者をやろうと思っていたわけではなく、「人手がいないから出て」、って言われて舞台に立ったのがそもそもの始まりだったんです。そのせいか、芝居が上手くいってもそれほど自分自身カタルシスがなくてを実感できなくて、でも演劇自体には魅了されていったので、いつか自分の作品を作れるようになりたいという気持ちはあったと思います。
- __
- なるほど。
- 三國
- でも、バイトしながら演劇を続けるという先人達のようにはなかなか思いきれず、実は悪い芝居 を辞めた後就職したんですよ。
- __
- あ、そうなんですね。初耳です。どのような会社でしたか。
- 三國
- 営業系だったんですがいわゆるブラック企業で、新卒を大量に入れてはその3ヶ月後に1/4しか残っていないような・・・。でもやりがいはあったんですよ。
- __
- 演劇を再開したのは。
- 三國
- ある日突然、上司から東京出向を命じられて。しばらくウィークリーマンションに身一つで宿泊してたんですよ。シャツと下着だけ持っていけば十分でした。少しして、インフルエンザに罹って。
- __
- ええっ。
- 三國
- その年はインフルが流行して、2週間くらい自宅待機で外に出られなかったんです。もうずっと、ベッドの上にいました。その間ずっと、布団にくるまって演劇の事ばっかり考えていたんです。
- __
- なるほど。
- 三國
- もう一度演劇をしようと思ったのはその時です。これはもしかして、大学時代に演劇をやっていたのが人生のピークだったのか、って今後思い続けるんじゃないかという考えがでてきたんです。まあインフルエンザの時に考えた事なんでアレだったかもしれないんですけど。
悪い芝居
2004年12月24日、旗揚げ。メンバー11名。京都を拠点に、東京・大阪と活動の幅を広げつつある若手劇団。ぼんやりとした鬱憤から始まる発想を、刺激的に勢いよく噴出し、それでいてポップに仕立て上げる中毒性の高い作品を発表している。誤解されやすい団体名の由来は、『悪いけど、芝居させてください。の略』と、とても謙遜している。(公式サイトより)
質問 織田 圭祐さんから 三國 ゲナンさんへ
- __
- 前回インタビューさせて頂いた、ニットキャップシアターの織田さんから質問です。「劇団を旗揚げすることについて。どういう所にやりがいを感じますか?」ピッタリな質問ですね。
- 三國
- シンプルですが、自分の表現したものへの反応がダイレクトに感じられる事ですね。作品にしろ、団体としての見せ方にしろ。役者として所属劇団の作品に参加していた時は、どれだけその作品に反響があっても他人事というか・・・。やっぱり自分が仕掛けたものを「これ、面白いだろ」って出して、そこに反応が返ってくるのが面白いんですよね。
- __
- なるほど。
- 三國
- 学生劇団にいた時、一回だけ作演出をしたことはあったんですよ。その時は凄く良い反応を頂いて。まあ、見に来てくれたお客さんが日常的に芝居を見てない学生が多かったっていうのが多分大きかったと思うんですが。アンケートもほぼ「良かった」としか書かれなかったんですよね。
- __
- ロリータマザーコンプレックスですね。
- 三國
- よくご存知で。サワガレを立ち上げた時に思ったのは、世間は凄い。良くも悪くも正直で、だからこそやりがいをより強く感じます。甘くはないですね。今後どうサワガせていこうかなと思っています。
サワガレ「あいめまいみめい」
- __
- そんな三國さんが作られた芝居ですが、実は私は2本しか拝見していなくて。まずは「あいめまいみめい」 ですね。宮崎の狂牛病と昭和の怪事件をモチーフにした作品でした。この素材は、どこから生まれてきたのでしょうか。
- 三國
- 当時、宮崎での狂牛病がヤバいとか、日本は終わりだ、とテレビなんかでも報道されてたんですけど、肝心なところはなにも伝わってこない。変な話、すごく隔たりがあるように感じたんですよ。向うで牛が次々と感染しているのに、スーパーに行ったら牛肉が売られている。価格もそんなに違わない。騒がれている事件と僕の間に、見えないけど距離があるように思ったんですよね。それを芝居にしようと思ったのが始まりです。
- __
- あの時は日本中がその事でばかり騒いでいましたね。それとはあまり関係がなさそうな下山事件も、切り口の一つになっていましたが。
- 三國
- 口蹄疫と似たような話ですが、下山事件が起った当時と今の日本の間のにある隔たりが気になりました。戦後すぐの時期で、革命がどうとか、学生運動がどうとか、日本の共産主義が元気あったりとか・・・。色んな資料を読んでも距離感があったんですよ。宮崎も下山事件も、両方共現実に起こったことかもしれませんが起こったことですが、今の僕自身の生活との距離感が拭えなかったんですよ。
- __
- その距離感は、いつ頃から感じられたものですか?
- 三國
- 感覚として、分からない事があると気付いた日からですね。例えば、僕から見て全然分からなかった芝居を他の批評家が見事に切り口を付けて解説してることあるじゃないですか、僕には感じえないものを感じる人がいる。逆に言えば僕にしか感じられないものもある。もしかすると、演劇を通して身についた感覚かもしれません。
- __
- 客観的な批評を通して対象と自分との間に距離を見つけたと。
- 三國
- そうですね。逆に、必ず批評を出来なくてはいけないのか?という疑問も出てきたんですよ。出来る奴はする、出来ない奴はしない。僕は批評をしたいと思ったらするし、何も感じないものは放っておくし×。それが僕の感性なのかな、と、今は思っています。
サワガレ「あいめまいみめい」
公演時期:2010/9/10〜2010/9/12。会場:アートコンプレックス1928。
サワガレ「小部屋の中の三匹の虫」
- __
- さて、「小部屋の中の三匹の虫」 。大変面白かったです。後から知ったんですが、マルチエンディングだったそうですね。私が見たのはバッドエンドだったのですが。
- 三國
- 全部バッドエンドです。ハッピーエンド?も一応考えたのですが、会場を扉も窓もない密室に見立て、そこから出ることだけが目的の芝居だったので、ハッピーっていっても、「出れる!出た!」だけで終わっちゃいますからね。なら別にいいかなって。
- __
- なるほど。スリラーというジャンルだと思うんですが、最初に脚本をきっちりと作った訳ではなく、稽古場のエチュードで作られた作品だそうですね。
- 三國
- 稽古場で出てきたもので構成を考えて、それを基に作っていきました。だから変な話、4カ月稽古を続けてきたんですけど完成したのは本番直前なんですよ。
- __
- そうなんですか!
- 三國
- ソリッドシチュエーションスリラーというジャンルの作品を色々研究するうちに、結局は緊迫感が重要なんだと思ったんです。なのでギリギリに完成するくらいがいいのかな、と。3回目の本番ぐらいが、役者の緊張と落ち着きのバランスが絶妙で、僕も手が震えるくらいぞわぞわしました。
- __
- 何回か見に行きたかったです。公演期間はロングランで京都市内6箇所を回っていましたが。
- 三國
- ロングランにしたのはやっぱり、旗揚げして一年経つのですがまだまだ集団としては体力がないなと思っていたからです。団体として強くなるには、1ヶ月ぐらいの公演を乗り越えないと、と。
- __
- 大変でしたね。
- 三國
- 続けざまに6会場25ステージと。ゲネプロもせずに本番、なんてザラで、役者にとっては大きな制約になっていたと思います。もちろん、演出としてもですけど。でもそれ以上に、繰り返しお客さんに見られる中で得られるものも大きかったですね。
- __
- ちなみに、あの血みたいな液体が入っていたペットボトルの中身は何だったんでしょうか。
- 三國
- あれは試行錯誤を重ねた結果ですね、コーヒーとココアを混ぜ、さらに緑と赤の着色料を加えたものです。とろみを付けたんですけど、あまり生かされなかったですね。
- __
- いや、あれはどういう原理の何だったんでしょうか?あのペットボトルを振るとその人が苦しんだりしていましたが。
- 三國
- 映画ならいざ知らず、演劇で出来るリアルな暴力表現は限られていると思うんですよ。足を切断とかはできないし、血を吹き出させてもトリックを疑われてしまって興が冷めてしま。でも、演劇が虚構なら、暴力の対象が別に身体じゃなくてもいいんじゃないか。体の外に暴力の対象を設定することが出来れば、人を実際に殴らなくても、殴ることで発生する「痛々しさ」みたいなものだけ抽出できるんじゃないのかなって。それで、人間の心の醜さを見せられたらと思いました。
- __
- なるほど。
サワガレ「小部屋の中の三匹の虫」
公演時期:2011/8/5〜8/30。会場:元・立誠小学校ほか。
水槽事件
- __
- さて、水槽事件について。というか、そう呼んでもいいですか?
- 三國
- はい、いいですよ。
- __
- 実は私はこの件についてはどちらにも肩入れするつもりはないんです。もちろん事件は良くないですが・・・。
- 三國
- 前科も悪意もない、という事で不起訴になりました。留置所には2日入れられましたけど。実名も団体名も報道され、社会的制裁を受けたと思っています。が、色々と思う事はあります。
- __
- というと。
- 三國
- もちろん、事件を起こしてしまったことについては一同反省しておりますが、僕らの団体名がサワガレじゃなかったら、報道にも載らなかったんじゃないかなと思うんですよね。
- __
- 「劇団HAPPYS」とかだったらまた話は別でしょうね。
- 三國
- 多少、いじりがいがある団体名と劇団のコンセプトなので、取り上げられた上に記事の方でもオチまでつけていただいて・・・。
- __
- 「あいめまいみめい」での成果かもしれませんね。
- 三國
- はい、逆に(笑う)。今までメディア関係の方に資料をお送りしてもあまり反応は無かったんですが、一夜にして・・・。
- __
- 今はサワガレのサイトのTOP、水槽にアイコンが沈んでいますね。面白いと思います。
- 三國
- あれは賛否両論ありますね。でも、ずっと粛々と謝っているだけでは何も生み出せないだろうなと。これに屈して潰れていくのでは、何だか全然意味がないんじゃないかと。来年春まで活動を自粛する予定ですが、その間、各自着々とできることをやろうと思っています。
着々と
- __
- さて、次の公演は。
- 三國
- ウチには僕の他に田中次郎という作家がいます。脚本・演出家が二人いるというのが特色なんですが、そこをうまく打ち出せていなかったんですよね。水槽の件での反省の後、田中の脚本での作品を順々に発表していきたいと思っています。
- __
- 目標は。
- 三國
- 窃盗団というイメージから、2012年の末には田中の作品が見られる団体、というイメージになってたらいいですね。
- __
- 田中さんは、どのような作品を作られるのでしょうか。
- 三國
- 彼は西一風時代の後輩で、自分の持つ世界観を表現に昇華できる数少ない作家だと思っています。僕はコンセプトから作品を作るタイプなんですが、彼は客席を取り込むような世界を作っていくんですよ。力のある劇作家の方も褒めて下さっていて、これから注目を頂けるんじゃないかと。期待していただければと思います。
写植スタンプ
- __
- 今日はですね。お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
- 三國
- ああ、また・・・。ありがとうございます。開けてもいいですか?
- __
- もちろん。
- 三國
- あ、これは。
- __
- スタンプ写植ですね。インタビューでは一切触れませんでしたが、三國さんはデザイナーなんですよね。
- 三國
- はい、おこがましいですが、ちょこちょこそういうのもやらせてもらっています。これ、ありがとうございます。使わせていただきます。