静岡の朝/劇団どくんご「愛より速く」
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。ikuさんは最近はいかがですか。
- iku
- 最近はすごく災難な事があって。静岡公演の2日目の朝にムカデに刺されたんですよ。
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- 悪夢ですね。
- iku
- 朝7時半くらいに目が覚めて。イガイガが背中にひっついてて。何かプラスチックの袋でも入ったのかな、寝菓子とか食べてないぞと思っていたらヂクッとして「痛ぁっ!」て。腕ぐらいの長さのムカデがぼろんって転がり落ちて、外に出てったんです。ムカデに刺されたんですけどどうしたらいいですか、って、たまたま起きてたどいのさんに相談して、何人か起きて調べてくれて。お湯で流したらいいらしくて、五月さんがお湯を沸かしてくれて・・・毒を全部流さないといけないらしくて、ムカデは足の全部に毒が入っているらしくて、肌の上を這ったところ全部しないといけなくて。本当はシャワーが良かったんですけど、濡れタオルで拭いて。温めると良いというのもあってZIPLOCKにお湯を入れて温めてました。
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- おお・・・
- iku
- その日の公演は肌色のファンデーションを塗りまくって。痒くなくて処置していないところが後から赤く腫れあがってしまいました。昔、新宿のゴールデン街の屋根裏に住んでいた時もダニに噛まれながら寝ていた事があって、その時もバーレスクショウで肌を見せるときには、ファンデーションを塗って隠しましたよ。もう人生で二大虫の嫌な思い出ですね。
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- それは悪い思い出ですね。
- iku
- 刺された日は、あまり刺激物をお腹に入れないで空腹でぐっすりと眠った方が良いだろうと判断し、打ち上げを早々に辞退しました。大好きなお酒を1滴も飲まず。今は噛まれたところ以外は完全に赤くなくなりました。自然治癒で。
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- 辛い思いをされましたね。頑張られましたね。
- iku
- (笑う)災難でした。静岡の土地はとても良かったですよ。街がすごく素敵でした。暖かかったし。
劇団どくんご
劇団どくんごは自前のテント劇場で全国を旅している劇団です。写真が私たちの通称「犬小屋テント劇場」です。 このテントを全国数十箇所の公園や神社などに建て、演劇公演をします。もしあなたの街でみかけたら…、ぜひ! わたしたちのポップでパワフルな芝居を見に来てください!(公式サイトより)
劇団どくんご「愛より速く」
【出演】五月うか、2B、石田みや、ちゃあくん、iku、サドゥ瑞穂 【構成・演出】どいの 【美術・衣装】五月うか 【美術協力】深田堅二 柏野晃 アソマサヤ とべぶんプロジェクト 工藤夏海 【電子工作】レジN 【グッズ協力】aipu 【写真】高平雅由 【制作】黄色い複素平面社 時折旬 暗悪健太 空葉景朗 まほ
どくんごへの道のり
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- どういう事が、どくんごと出会う道のりになりましたか?
- iku
- 3年前に「君の名は」を 観ました。友人のジョン(犬)さんに誘われて、維新派の芝居瀬戸内の犬島で観た帰りに岡山公演に行ったんです。
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- いかがでしたか。
- iku
- 凄かったです!さらわれました・・・どこか別の世界へ。岡山での公演は閉校している学校の校庭にテントを建てて上演されたんですけど、ぼわーっとしている灯りが暗い校庭にあるテントを照らしていて、衣装の役者がいて、始まる前から凄いムード。ファアーってなりました。冒頭の、暗悪健太さんの角砂糖のサーカスの妖しい妖しい、見せ物小屋みたいな怖さもあるんだけど、でもゲテモノじゃないんですよ。
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- そう、ゲテモノではけっしてない。
- iku
- 簡単な言葉なんですけど、ちゃんとしている。
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- 非常に洗練されている。
- iku
- 空間も役者も素晴らしかったです。もの凄く好きな感じでした。五月さんが、旅ガラスくんの演技で「カァー」「カァー」と向こうの方に走っていって、姿が見えなくなるぐらい遠くに行って、でも鳴き声が向こうから聞こえてきたとき、訳の分からない感動に何故か泣いてて。それで圧倒されたのが、始めてのどくんごでした。
旅に出る
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- どくんごとの、初のコンタクトは?
- iku
- 元々私は絵画とか映画とか芸術が好きで。1920年代のサーカスとか大道芸人とかにすごく憧れていたんです。映画は「ベルリン天使の詩」とか、「ポンヌフの恋人」が好きです。何にも持たずに旅暮らしをしている人達に憧れていたけれど、実在するなんて!と、衝撃を受けて、その日はすぐに夜行バスで東京に帰りましたが、その年の暮れに五月さんが東京に公演準備でいらしていて、ジョンさんがカウンターには入ってる、新宿ゴールデン街の奥亭って店で飲んだんです。その時にゲスト出演しないか、とお話を頂いて。ジョンさんは犬の着ぐるみでオルガンを弾くというパフォーマンスを20年ぐらいやってるんですが、最近はダンスも始めていて、私とはJON and IKUというバーレスクユニット で活動していました。東京公演でゲストパフォーマンスをさせてもらい、その時に、芝居の経験が無いのも関わらず、五月さんに旅公演の志願をしたんです。タイミング良く拾っていただけて、参加する流れに。
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- 全て必然ですね。
- iku
- 初めて見た時には、自分がこの世界に入ろうとか、そんな事も思えないぐらい圧倒されました。見切り発車でしたけど、その分稽古場では苦労しました。踊りはやってましたけど即興舞踏の経験しかなかったので、振り付けがあるダンスだったり、芝居で客観的に自分をコントロールして見せる、という表現に関してはほぼ赤子同然でした。
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- そうだとは思えない。
- iku
- 頑張っています!!(笑)
どこかで
- iku
- 自分自身の話を始めると、勉強が割と得意だったこともあって、進学校に通って大学に入るまでは将来やりたいことって深く考えずにきてしまいました。
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- まあ、まじめだったんですね。
- iku
- うーん。本を読んだり映画を見たりして自分の世界に引きこもっていたタイプだったんですね。高校時代からヨーロッパの映画とかよく見ていました。その影響でパリに行ったり。
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- というと。
- iku
- 九州大学で出来た縁で、フランス語の先生が当時のNHKのフランス語会話に出演していたパトリス・ルロアという人(ニコレットのCMに出てた人)で、その人に「私フランスに行きたいんですよ!」って相談したら、交換留学よりも、興味のある分野で自費で向こうの専門学校に行った方がタメになるよと言われて、映画に興味があるならジャック・ルコックに行ってみたら、と。演劇の専門学校なんですけど。じゃあそうします、と。
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- 思い切りましたね。
- iku
- そこから急激に色々やり始めました。演劇や踊りのWSを受けたり。
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- 18歳ぐらいからですね。
- iku
- 舞踏と出会ったのはフランスに行く直前で、原田伸雄さんの青龍會と、アメリカから来たダンスセラピーが専門のソンドラさんとの合同WSでした。与えられた言葉のイメージを手掛かりに身体ごとで手探りする感じが私は気に入って、それから誘われて何回か青龍會の稽古に行かせてもらいました。その少し前の時期には福岡にある劇団GIGAに半年ぐらい入ってました。だから12年ぶりですね、劇団で活動するのって。当時の主宰の菊澤将憲さんが東京公演をみにきてくださったんですが、どくんごとGIGAが似ているねといいました。劇団GIGAにも、芝居を観て衝撃を受けて飛び込んだのでしたが、自分の好みって全然変わってないんだなって可笑しかったです。
夜景と役者たち
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- どくんごの芝居は、役者一人の内面がものすごい反映されていると思うんですよ。役者が喋っていると、夜景全体が役者自体のような気がしてくる。発されている台詞をその世界自身が聞いているかのような。その集中と拡散が絶え間無く繰り返されていて。
旅
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- 今は、どんな旅ですか?ムカデ以外で。
- iku
- 7ヶ月もかけて40箇所で一つの作品を繰り返すというのは初めての体験で。旅公演の中でもそれを深めていくというのも初めてです。各地の受け入れの人々とどくんごの交流も目の当たりにして、熱い気持ちになります。
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- そうですよね。
- iku
- もの凄い人数の協力者がいて、テントの設営の時にも駆けつけてくれたり、終演後の打ち上げでも作品の話やそれ以外の話にも花が咲きます。こんなに早くフィードバックを貰うことは今までなかったです。どんどん出会って、どんどん次に行くって、こんなに目まぐるしいなんて。でも、私たちの持ち物は同じテントと同じ服と、同じ物。どこに行っても私たちは同じ設備で暮らしている。朝に目覚めて、同じテントだけど周りの景色が変わっている。
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- はい。
- iku
- 私、Facebookで朝のテントシリーズという写真を上げているんです。各公演地で、客席からステージを抜けて向こうの景色の撮るんですが、毎回違う眺め。公演自体も、ロケーションや天気や雰囲気にも左右されます。自分の体調もそうだし。その全部と付き合って深めたりやりきったり持ちこたえたり。けっこう純粋な体力勝負ですね。
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- 今は周りにビルが建っちゃってるけど、この間までは全然違ったんですね。このテントの周りは。
- iku
- 旅してると天気の変化にはめちゃ敏感になりますね。夜中急に冷えるから備えたりとか、外のこの場所は声が響く、だとか。
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- このテントと一緒に移動しているんですもんね・・・
- iku
- だいぶ、建て込みもバラシも早くなりました。最初はオロオロする時間が多かったですけど、今は自分に出来ることがわかってきて、パッと動けるようになりました。
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- 各地にいる者としては、どくんごには来てくれてありがとうとしか言いようがないですよ。
ホームメイドスタイル!
- iku
- おかげさまで色んなところに運んでもらえて、合間にちょこっとあるプライベートの時間に飲みに出たり、私はかなり満喫していますよ。
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- 旅劇団に参加してみないと分からないことはありますか?
- iku
- ありますよーそりゃ。外国のお客さんが「ホームメイドスタイル!」って評したんですけど、テントも生活も小道具とかも、一個一個全部自分たちで手を掛けているから。最近ではどの世界も分業化がすすんでいると思うんですけど、ここは7人しかいないので、担当はあるんですが、どこに誰が何を手掛けてどうなっているかを間近で見ていて、それをまた繰り返していくというのを良く分かっているんです。私にはまだ見えていない部分はたくさんあって。受け入れの人たちがどんな苦労をしてくださっているか、とか、地域ごとの担当メンバーが各地とやりとりをして集客をして、現地に行くまでの制作業務をしていて。見えないぐらいの手間と時間が掛かっているのを想像して、途方もないです。お芝居のことしかやっていないという状況にくるのも初めてです。どくんごに来るまでは東京で6年間、仕事をしながらぼちぼちの頻度で踊ったりイベントに出たりしていまたのが、まるまる一年、全ての時間をステージに捧げるというのは初めてです。
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- その分の影響のある旅公演ですから。
質問 菅 一馬さんから 園田 郁実さんへ
声
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- 最近のテーマは何ですか?
- iku
- 力まないで声を響かせる発生を追究中です。声を使った表現が初めてなので、課題です。声を張り上げないで響かせる。芝居のことを言い出したら色々ありますし、踊りも改善しないと行けない部分も沢山ですけど、いっこ挙げるとしたら声ですね。
深いところへ
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- 今後、どんな表現をしていきたいですか?
- iku
- 具体的なことは頭では想像が出来ないですけれど、舞台で自分なりのベストパフォーマンスが更新されていくようにというのが願いです。自分の集中と、お客さんの集中が一緒になって、しっかり深いところにまで連れていけるような、そんな踊りがしたい。
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- 集中するって本当に素晴らしいことですよね。たとえば自分の作業に没頭している時、本当にリラックスしている気がするんです。そして良いステージを見ているときも、ちょっと種類は違うけれど、深く集中している。
- iku
- 自分の心の中がそのまま踊りに映っているようなそんな感覚。良い踊りにはそういう正直さがある思います。気持ちが素直に動くような。正直にやりたいですね。カッコ付けないで。難しいですけどね。青龍會で学んだのは「嘘を付かない」。それしか学んでないですね、でもそれがすごく大事な財産で。踊りの上手な人は沢山いるけど、舞台に立つ時、私が魔法みたいなものを持てているとしたら、「正直にやる」。舞台が始まったら毎回毎回、そこに投げ出してしまう。降参するみたいに。
その場所へ
- iku
- どくんごは自分の意志でしっかり生きている人たちの集まりで、それが自由ということだと思います。旅をして、外に出れば出るほど、色んな生き方をしている人に出会ういます。生きるってほんとうに自由だな、っていうのがより深く知れて良かったです。
スカーフ
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- iku
- そういうのがあるんだ。うれしー。
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- 大したもんじゃないですけどね。
- iku
- あ、スカーフだ。綺麗。ありがとうございます。
夜と演劇(終演後に取材しました)
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- 今日はお疲れさまでした。本当に、夜の演劇ってキーワードですよね。夜と演劇の相性の良さ。
- iku
- 陽が沈んで、お祭りが始まるって感じじゃないですか。日常が終わって、非日常が始まる。人工の灯りで世界を作っていく。昼公演やらないんですかと聞かれても、「照明がすごく大事なのでしていない」とどいのさんや五月さんが答えていました。照明って大事です。
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- ここで見ていると、夜の中、照明に当たっている役者の告白が夜の空間の中を通して聞こえてくるようです。