演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

大崎 けんじ

脚本家。演出家

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あの時代の事と、こないだの公演の事

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近は大崎さんはどんな感じでしょうか。
大崎 
4月4日にザゴーズ(悪い芝居)のイベント があるので、イッパイアンテナで出ます。それと、金田一央紀さんのHauptbahnhof の演出助手をやっています。
__ 
演劇以外では、どんな感じですか?
大崎 
最近、パトレイバーにハマってますね。あとはM_Produceのリーディング公演を見ました。
__ 
私も見ました。面白かったですね。
大崎 
面白かったですよね。あの時代の土田さんとか花田さんの戯曲の読後感に、しばらく出会ってないなあと、ふと思ったりして。
__ 
そうそう、そういう感触でしたね。
大崎 
あの雰囲気や気分を京都っぽいと言うのかなと思いましたね。小さな声で「ちょっとここで立ち止まって感じてみない?」みたいなのが聞こえる。切なかったけど、楽しかったです。懐かしかったり寂しかったりな空気感で。好きですね。
イッパイアンテナ

同志社大学の学生劇団「同志社小劇場」のOBを中心に、2007年に旗揚げしたコメディ集団。京都を中心に活動中。 宇宙船や野球部の部室など、作品特有の空間を忠実に建て込んだ作品、また町家や銭湯、小学校など既存の空間を使った作品、主にはこの2種類の空間使いが特徴。メンバーの外部での活動も活発に行い、より自立した集団を目指し勢力的に活動を続けている。劇団の脚本・演出家、大?けんじ以外の役者による作・演出作品の上演企画「イッパイアンテナジャック」も不定期で開催。(公式サイトより)

ザゴーズPresents SHITAGOKORO vol.1

公演時期:2014/4/4。会場:二条 公○食堂。

Hauptbahnhof

Hauptbahhof(ハウプトバンホフ)は、金田一央紀によって2010年末に結成されたパフォーマンス団体です。読みにくいのと書きにくいので、「Hbf」と呼んでいただいてもかまいません。Hauptbahnhofはドイツ語で「中央駅」という意味。見知らぬ町にやってきても「中央駅」にとりあえず行けば町の大まかな形は見えてきます。そんな駅のような存在が演劇にもあっていい。演劇といってもどんなものを見ていいのかわかんないという人たち、演劇とは全く縁のないところにいた人たちや、これまでもこれからも演劇に携わっていく人たちにとって、とりあえず集まって自分の位置を確認したり、自分の活動の拠点にしたりする場所を作ろう、という気概で設立されました。(公式サイトより)

イッパイアンテナ16th session「オール」 /夜の共犯者

__ 
イッパイアンテナ「オール」が終わりましたね。大変面白かったです。今回はシチュエーションコメディではなかったですね。ある町の夜を舞台に、徹夜する6人の若者の旅立ちが描かれる。常々思っていたんですが、イッパイアンテナの作品は「自分探しが終わる旅」なんじゃないかと思っていて。例えば落語家が、虚勢を捨てて裸にコートだけの格好でニューヨークに行ったり、友人の父親を殺した若者が、罪を認めて許されたり。
大崎 
そうですか。
__ 
夜を抜け出して解放された彼らが、明日以降もきっと生きていてくれるんだろうというような希望があるんですよね。大崎さん個人としてはどんな公演でしたか。
大崎 
まず、劇団員だけで公演をしようと考えて。最初は野球部の話にしようと思ってたんですよ。野球部のメンバーが夜にファミレスで、抜けたメンバーの話をするという話。そういう話を、3チームの二人組でやろうと。そこから、自分の好きな題材を詰め込もうという事も加わって。まあ具体的に並べると落語・歴史・ゲーム、それぞれの二人組に取り組ませたら、ああいうカタチになりました。
__ 
何故、夜なのでしょうか。
大崎 
夜中を通して起きてるのって面白いじゃないですか。あの感覚を何とか舞台に立ち上げたいなと。
__ 
なるほど。徹夜は確かにテンションが上がりますからね。ところで、大崎さんが今までにした徹夜の中でもっともテンションが上がったのは?
大崎 
覚えてないですね(笑う)でも、初めて徹夜したのは覚えてます。高校2年の時に友達と一緒に焼津の海で朝まで騒いでました。何で朝までやってたんだろう?海に行こうぜという話になって、焚き火して、気付いたら朝になってて。その時に撮った写真は、今回の芝居にこっそり使いました。
__ 
徹夜の何が好きですか?
大崎 
何か色んな事が許せそうな気がするんです。心が開くというか。夜特有の自由さってあると思うんですよ。昼は何でもが明るみに出されてしまうから、装備が必要になる。いろいろ覆い隠してくれる夜にいると、自分も夜の共犯者のような気分になってくる。ハイになっているその高ぶりも、眠りに誘われるローさも舞台に上げたいなあと。
__ 
眠さがだんだんと元気に変わるみたいな。そして、何だか気持ち悪い。
大崎 
寝たら全部ゼロになって再スタートですね。
__ 
夜の空気感を舞台上にあげて、どう感じてもらいたいですか?
大崎 
オールしている人たちを面白がってもらえればそれに越したことはないですね。楽しい事は夜にこそ詰まっているんじゃないかと、僕らなりに仮説を立てて作りました。
__ 
楽しかったですよ。後半、朝になるにつれてどんどんテンションが変になっていく彼ら。塾講師・浪人生ペアは最後、ハイになって訳わからん事してましたよね。偶然拾った大金を交番に届ける勇気がなくて、道を急ぐマイケルジャクソンの隠し子にレスラーのふりをして渡そうとしたり。みんな徹夜してたから、一時的に常識が通用しなかったんでしょうね。
大崎 
人間、追いつめられたら何でも出来るっていう可笑しさは好きです。
イッパイアンテナ16th session「オール」

公演時期:2014/2/20〜24。会場:芸術創造館。

二つの意味で透明なモノローグ

__ 
異彩を放っていたシーンがありましたね。渡辺さんの、最後に落語という形のモノローグ。そこだけが具体的にはシチュエーションという訳じゃなかったなと。
大崎 
クールキャッツ高杉が演じた落語家も、劇中、ラジオで落語を口演するんですよ。そのシーンは舞台上で演じられるんですが、だんだんとモノローグへと変わっていく。ラジオはラジオで演じられているんですが二重になっているんですね。そんな彼と一晩一緒にいたインタビュアーの女の子にも、その演じ方が移ってしまう。マイケルジャクソンの隠し子で、本当はキャビンアテンダントの彼女は、普段本音はあまり口に出していなくて。それが落語っていうカタチで、飛行機の客席に向かって自分の事を喋ってしまう。その客席から見ていた一人が近づいてくる。彼は初恋の女の人をようやく見付けたんですね。彼女は彼女で、ようやく自分の事をずっと見てくれていた人に会えたって感じで。
__ 
なるほど。
大崎 
発見してもらう事で面白い物に出会えた。ちゃんと物事を見てる人間はちゃんと他の物からも見てもらえると思います。

質問 鄒 樹菁さんから 大崎 けんじさんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた、ツォウさんからです。
大崎 
おお!知り合いです。
__ 
ジャンケンのグー・チョキ・パー。どれが一番好きですか?
大崎 
グーです。勝った時、一番気持ちいいじゃないですか。

ポジション

__ 
今回、クールキャッツ高杉さんは最終的に裸にコート一枚という格好になりますね。
大崎 
あれは劇中でプレイされていた「ポポロクロイス物語」の主人公の格好なんですよ。緑コートに金髪。
__ 
あ、そういえば。
大崎 
山本・村松演じる幼なじみは、劇中ずっと部屋の中でゲームしているんですけど、最終的に他の登場人物全員がポポロクロイスのキャラと同じ服装になります。それは本人たちも自覚していなくて、お客さんしか分からない。そういうおいしいポジションをお客さんに味わってほしいと思ってます。例えば「男はつらいよ」では、渥美清の本当に辛い顔は妹の桜しか知らないのに、見てる人は知る立場にいる。寅さんは、東京じゃ絶対見せないような格好良い表情で旅をしていて、彼が関わった誰かが彼の行動の余波で涙を流したりすることもある。すべてを見られるポジションを観客に提供するのが大事なんだろうと思っています。それと同時にまあ、いろいろと好きに想像してもらって。

退屈な時代の歩き方

__ 
いつか、どんな演劇を作りたいですか?
大崎 
お客さんが劇場出たあともしばらく退屈しないような、、、普段の生活が面白くなってしまうぐらい。一年くらい前に、「暇と退屈の倫理学」という、國分功一郎さんという哲学者の方が書いた本を読んでそれがすごく面白かったんですけど。人はいかにして退屈とつきあっていくのかを考えてみるという。
__ 
暇を有意義に過ごす方法という事でしょうか?
大崎 
その本には解決策は書いてないんです。それぞれ全てのケースが個別で特殊な問題だから、答えなんて出しようがない。でも、退屈ってのはなかなか恐ろしいものだという仮説があって。僕の芝居に出てくる人々は基本的に退屈しているんですよね。その退屈からどう抜け出していいか分からない。退屈な生活が普通の状態だと思いこんで生きている人たち。でももっと楽しく生きられるような状況が作れるんじゃないか。自分の力だけじゃなく、他人の力も借りたりして。見方をちょっと変えるだけで人生を楽しく生きられるかもしれない。楽しく退屈さと付き合う方法があるはずだ。そこに対しては、まだまだ掘り下げたいと思ってます。ヨーロッパ企画さん も、そういうところを見ているんじゃないかなって、作品見ると思ったりします。
__ 
なるほど。
大崎 
パッと見騒いでいるだけのように見えて、その先の希望を見据えているんじゃないか。その上で舞台上でシュールな事が起きても「なんかいいな」ってなっちゃいますね。
__ 
大崎さんにとっては、人生を楽しく生きる事がテーマなんですか。
大崎 
そうですね。それが、逞しく生きていく事なんじゃないかと思います。もののけ姫で、「曇りなき眼で見据えて生きよ」って台詞があるんですけど、なんか心に留まってますね。なかなか自由に生きてくってのは難しくて。ものを見るときにバイアスが掛かったり、思考がどうしても自分を慰める方向に向かったり。それを振り切って楽しくね。
__ 
自分は捉われていると自覚する。
大崎 
なるべく忘れないようにしたいですねえ。ちゃんと物事を見ようってのは、大人にだなという事でもあるし、子供だなという事でもあるんです。それは、「オール」で書きながらも考えてました。
__ 
実存的な、リアルな生き方。それは確かに逞しい生き方ですね。ただ、人によってはマッチョな考え方だととられるかもしれない。
大崎 
いやあ、楽しく生きていくってのはどこかしらマッチョなんじゃないかなあ。言い方変えれば、楽しく生きることとか、自分の好きなことにたいしてマッチョな人はほんとにイキイキしてると思うし、僕はそういう人を素敵だと思う。子供って遊ぶことに対してマッチョだと思いますし。ただ、こだわりというか好き嫌いというか、善悪というか、意志をはっきりすると損することもあるのが世間ですから。こだわりを持ったまま楽しい方向にするっと抜けれるのが逆にストイックでいいんじゃないですか。マッチョマッチョ言ってますね。マッチョってなんでしたっけ?
ヨーロッパ企画

98年、同志社大学演劇サークル「同志社小劇場」内において上田、諏訪、永野によりユニット結成。00年、独立。「劇団」の枠にとらわれない活動方針で、京都を拠点に全国でフットワーク軽く活動中。(公式サイトより)

明日から

__ 
次は、どんな芝居を。
大崎 
次のザゴーズのイベントにイッパイアンテナで出す作品が、次の作品の雛形になるかもしれません。
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今後、どんな感じで攻めていかれますか?
大崎 
ひとまず、目の前の事をしっかりやっっていきます。ザゴーズのイベント、Hauptbahnhofの演出助手。それが終わってみないと、次の事はあんまり考えられない気がします。何せ、前回の公演に全てを突ぎ込みましたから。こっちにいったら、面白いかなと思いつつ進んでいます。
__ 
もったいない事に、全てを選びとる事はできませんからね。
大崎 
突拍子もない事を始めるかもしれませんね。

BEAMSのハンカチ

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
大崎 
ありがとうございます。これ、BEAMSじゃないですか。
__ 
いや、大したものじゃないですけどね。
大崎 
(開ける)これは、実用的ですね。僕にBEAMSか。ちょっと意外な。でも嬉しいです。
__ 
何となく、柄は「オール」を意識しました。何となくですが。
(インタビュー終了)