精華小劇場
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- 今日はついに、お芝居の客席でよくお見かけする長尾さんにお話を伺えるということで。
- 長尾
- はい(笑う)。
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- どうぞ、宜しくお願い致します。さて、本日は精華小劇場でのオリジナルテンポの公演をご一緒に観れましたね。長尾さんはいかがでしたか?
- 長尾
- 面白かったです。これまで見たオリジナルテンポの作品では、一番。今までのとは確実に何かが違うなと思いました。
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- 私も非常に楽しかったです。何て言うか、盛り上がりを越えてお祭りのムードまで漂ってましたね。
- 長尾
- それもそうだし、作り込み度が半端ではなかったですね。偶然が必然的に起こるように作ってあったと思います。例えば、お客さんを舞台に上げて色んな事をして貰うパフォーマンスで、そのお客さんの反応を先読みして作ってあったりとか。
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- そうですね。あんなに面白くて安定感のある客いじり、初めて見ました。
- 長尾
- 偶然に起こる面白いことを必然的に起こすための作り込みが半端じゃなくて。海外でもウケが良かったというのもうなずけます。
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- まさに、精華演劇祭にピッタリの演目でしたね。精華小劇場5周年記念事業、「越境する表現者」。舞台と客席がゆるやかに繋がっていくようでした。それは、すんなり作品の世界観に入って行けるような雰囲気作りが入念にされていたからだと思うんですよね。開場してから開演までの時間から既にパフォーマンスが始まっていて、世界観にすぐに溶け込めました。
- 長尾
- お客さんへのアナウンスも良かった。今回のパフォーマンスは普段の芝居とは違うっていうのをオシャレにしかも明確に伝えてくれていました。携帯電話の電源は切らなくてもOKですって。写真撮っててもいいし、飲食もOK、しかも「隣の人と喋っててもOKです。仲良くなって帰って下さい」って。素敵だなと。
精華小劇場
大阪市難波。元・精華小学校をリノベーションした劇場施設。
オリジナルテンポ
2002 年に演出家ウォーリー木下を中心として設立。台詞を一切使わないパフォーマンスグループとして活動中。(公式サイトより)
「Shut up, Play!!」
会場:精華小劇場。公演時期:2009年10月30日(金)〜11月3日。
ベトナムからの笑い声 第26回公演「キャプテンジョー」
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- 長尾さんは、月に何本くらい劇場に行かれるんですか?
- 長尾
- 週に、4本くらい観ますね。
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- 凄い。金曜日の夜から行かれる感じですか。
- 長尾
- たまに行かないですね。
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- あ、たまに行かないんですね。
- 長尾
- うーん。土日は大体観てますね。
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- 今年、印象に残ったお芝居と言うと。
- 長尾
- ベトナムからの笑い声ですね。「キャプテン・ザ・ジョー」。あれはだいぶやられました。
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- 私も凄く面白く拝見しました。
- 長尾
- 長編にした意味があったと思う。前半の下らないコントがあったからこそ、後半のシュールな展開が生きてた。構成的に良かったと思います。あの終わり方も印象的で。
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- 潔かったですよね。ベトナム、お好きなんですね。
- 長尾
- 好きですね。あと、ユリイカ百貨店も良かったです。悔しくて泣くのでも辛くて泣くのでもなくて、胸がいっぱいになって泣くのはユリイカだけですね。
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- というのは。
- 長尾
- この前のも泣いてしまって。ライオンが猛獣使いの女の子に語りかける、「僕はきみのためなら火の輪もくぐるし芸もする。君の憧れている人にはなれないけど、今きみの傍にいるのは僕なんだよ」。けして結ばれないけども、ライオンは今、幸せなんですよ。それが伝わってきて、胸がいっぱいになりました。
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- 私も前回のユリイカ百貨店は凄く良く出来ていたと思います。カフェ公演、しかも朗読劇ということで気軽に見れるものなのかなと思いきや、雰囲気を作るための非常に地道で注意深い作り込みが見られて。ああ、空気を作るってこういう事なのか、と思いましたね。そこからちょっとずつ、はみ出していくファンタジーというか。
- 長尾
- 次も楽しみです。
ベトナムからの笑い声
丸井重樹氏を代表とする劇団。手段としての笑いではなく、目的としての笑いを追及する。
ベトナムからの笑い声 第26回公演「キャプテンジョー」
会場:京都スペースイサン。公演時期:2009年7月3〜5日。
ユリイカ百貨店
2001年に脚本・演出を担当するたみおを中心とするプロデュース集団として結成。その後劇団としての活動に形を変え、2005年4月、再度プロデュース集団となる。幼い頃の「空想」と大人になってからの「遊び心」を大切に、ノスタルジックな空気の中に、ほんの少しの「不思議」を加えたユリイカ百貨店ならではの舞台作品を作り続けている。(公式サイトより)
ユリイカ百貨店 8th「喫茶店であいましょう」
会場:cafe&gallery etw。公演時期:2009年9月1〜3日。
伊藤えん魔プロデュース「悪いヒトたち。」
- 長尾
- あとは、ファントマも良かったですね。「悪いヒトたち。」
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- あ、そうなんですか。伊藤えん魔さんの作品、イベントで拝見した事しかなくて。
- 長尾
- 美津乃あわさんがいた時は西遊記とか海賊とかある種のファンタジーの世界をやっていたんですけど。
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- ええ、それが最近では現代に舞台を移したとか。
- 長尾
- そうですね。以前は、強い感情を表現しようと思ったら現代の日本ではどうしてもウソっぽくなってしまう。だから、現実ではない世界で怪物と戦うみたいなシチュエーションで表現していたと。
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- 強い感情?
- 長尾
- 例えば舞台で「会社に遅れそうなので急いでいる」シーンがあっても、自分が実際に会社に遅れそうで急いでいる時の「死にそうに切羽詰った感」の半分も味わうことができない。でも「銃撃戦のさ中、残弾があと一発になってしまった」シーンを観た時に感じられる「死にそうに切羽詰まった感」でやっと自分が体験した感情に追いついてくる・・・とでもいいましょうか。
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- そういう表現をずっとしてきた伊藤さんが、現代ものですか。
- 長尾
- でも、やってみたら「現代もそれはそれで過酷だなと思った」とトークで仰ってました。観ているこちらとしても面白かったんです。プロ化して、一時代を作った人が、それでもなお新しい方向性を探っている。そういう謙虚さというか誠実さって、力ですよね。
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- ああ、今まで見てなかったんですが。見てみたいです。
伊藤えん魔
俳優。演出家。ハードボイルドとギャグを融合したエンターテインメントを追求する劇団ファントマ主宰。
伊藤えん魔プロデュース「悪いヒトたち。」
会場:ABCホール。公演時期:2009年12月3〜7日
帰り道にもう一度、泣いてしまう舞台
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- 長尾さんが芝居を面白いと思うポイントってどこなんでしょうか。
- 長尾
- やっぱり、芝居の価値って、あくまで見ている最中の体験にあると思っていて。昔、PM/飛ぶ教室の作品を見た時に帰り道でもう一度泣いてしまった事があるんですよ。
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- というのは。
- 長尾
- 親友の女の子3人が国籍の問題や事件に巻き込まれて一人が行方不明になるお話だったんです。3人は最後には再会できるんですが、そこで泣きながら「また昔みたいに3人でアホな話しよう」って言うんです。それ以外何も言えない。その頃、私の2人の友達それぞれが家庭や仕事で大変な時で、私だけが色々うまくいってて・・・、オーバラップして泣いてしまったんですね。
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- なるほど。
- 長尾
- それは私の個人的な体験だから、という話ではなく、それを思い起こさせた演出・蟷螂襲さんの力なんですよね。
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- 分かります。それが、観劇の面白さイコール芝居を体験するということなんですね。
- 長尾
- そういう作品は、自分が気付かなかった引出しを開けてくれるんです。
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- やっぱり演劇というか演技って、もの凄く細かい表現が出来るメディアだと思うんですよ。人間を使っているから。
- 長尾
- うん。舞台の上の登場人物の気持ちが分かるのは、それが同じ人間だからかな。やっぱり、人は人が好きなんですよ。
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- 人間は人間から興味を離せないと。だから演劇が生まれて、今まで消えずにあるのかもしれませんね。
ジョジョネタでウケる観客と、隣の分からない人
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- そういう意味で言うと、今回のオリジナルテンポの成功要因って、実は役者が細かい部分まできっちり演技出来ていたからかもしれないなと思うんですよ。その時に何を考えているかが、手に取るように分かるから。
- 長尾
- それは、もしかしたらその人の人となりが分かっているからかも知れません。たとえば全員で段ボールを片付けるシーン。坂口修一さんだけが仕事を押し付けられるネタで、彼のキャラクターを知っている人ならもっとおかしく思えると思うんですよ。いじられキャラだから。
- 坂口
- 誰も協力していない><
- 観客
- いいぞもっとやれ(笑)
- 長尾
- みたいな。
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- あるある。
- 長尾
- そういう内輪ウケに近いノリって、実はテレビドラマではあんまり見られない。小劇場だから許されるんでしょうね。たまにそういうネタがあると思えば、作ってるのが舞台出身の人だったりする。
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- ただし、内輪受けというのはあまり良いイメージはないんですよね。分かる人だけ分かるというのは、他の人たちを拒んでいるようでもある。
- 長尾
- でもこの時代、全方向の人にウケるものを生み出すのは難しいんですね。60〜80年代は、まだ同じ世代の人たちは同じものを見て笑うことが出来たんですけど、今は価値観が細分化されているんです。
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- 自分はもの凄く面白いけれども、隣の人は笑ってないと。
- 長尾
- ここまでウケればOKというのは無くなって、どこを狙って投げても客層ルーレットでは「赤の8にしか当たりがない」んですよ。
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- ターゲットの割合から、5割〜8割が消えてしまったということでしょうか。
- 長尾
- だから、むしろ、赤の8であるところの客が500%ウケるものを持ってきたら、隣の黄色の人も笑うんじゃないか。そういうふうなやり方じゃないと、もう面白いものは作れないような気がします。オシャレな人もいれば、気を使わない人もいる。お笑いファンがいれば、嫌いな人もいる。みんなもう、そういう風に向かっているんじゃないかと感覚的に思います。
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- なるほど。
- 長尾
- 例えば舞台でジョジョのセリフを言ったとして、分かる人にはもの凄く面白い訳ですよ。で、分からない人にとってみれば不快かと言うと実はそれほどでもない。モノによるけど、ネタとしてのレベルが高ければ気になる一瞬になるんです。分からなくても面白ければいいんですよ。
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- パロディは分からなくても面白い。そうですね。
- 長尾
- 例えば歴史というジャンルを、中・高でコースの関係で詳しく学んでこなかった女子が戦国時代を描いた舞台を観に行ったとして。歴史の素養がなくても、例えば恋人を殺されたお姫様の気持ちは分かる訳ですよ。感情が引っ張りだされてくるわけだから。演劇は、だから今後マニアックな方向に向かっていくかもしれない。でも当然、人間を描けていないと全然届かないから、基本的な部分は変わらないと思います。
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- 結果、マニアックさを中核に含む高感覚を持ち、ただし誰にでも届くベーシックな演技がきちんと出来ている作品がウケていくと。
「俺は今芝居出来ていたらそれでええねん」?
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- さて、長尾さんは今後、どのように攻めていかれますか?
- 長尾
- 攻めないですよ(笑う)、でも、ずっと言っているのは「辞めないように、儲かるように」努力してほしいと。演劇という、経済的にあまり能率の良くなさそうなメディアにもっと商業的な思考を持ちこんで考えてほしい。役者とか作家って、そういう思考には疎いと思うんですよね。「俺は今芝居出来ていたらそれでええねん」じゃなくて、どうしたら続けていけるのかを考えてほしいんです。ベトナムからの笑い声の人たちとか、それぞれ仕事を持っていて結婚もしていて、だけど本番のこの瞬間だけは思いっきりアホな事をやる、そして面白いものを作る、それでいいじゃないか。
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- カッコイイですよね。
- 長尾
- または伊藤えん魔さん・わかぎゑふさんのように、初めての人もマニアックな人も楽しめる・みんながお金を払ってもいいと思えるエンターテイメントをつくりつつ、自分のこだわりもしっかりと盛り込んでいくとか。
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- プロ化すると。
- 長尾
- 助成金を引っ張るためにこじつけのように頭を使うよりも、何か続けるための自立した方法はないのか、考えていってほしいですね。そういう事は言っていくと思います。
質問 池田 智哉さんから長尾 かおる さんへ
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- 前回インタビューさせて頂きました、東京の劇団ギリギリエリンギの池田さんから質問を頂いてきております。「東京の演劇に対して、どんなイメージを持っていますか?」
- 長尾
- 新しければ価値だと思っているんでしょう?と思ってます。
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- なるほど。
- 長尾
- 関西圏で芝居を見て来て長いんですが、新しかろうが古かろうが、良ければいいんだと。面白ければいいんだとされているんですよね。吉本新喜劇のカンカンヘッドとか、分かっているけど面白い。
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- 愛されているし、実際面白いですしね。
- 長尾
- ベタなんですけど、秀逸なんですよね。その証拠に、面白くないものは消えて行っている訳ですから。でも東京の芝居っていうのは逆で、「新しければいいんでしょう?」っていう感覚が強くて、面白さそのものよりも「あれは前にどこかがやった」とか「これはまだ誰もやってない」とかで判断されているところが凄くあると思うんですよね。
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- なるほど。
- 長尾
- 私はそういう風潮に凄く疑問を感じるんですよね。前に誰かがやっていても面白ければ別にいいじゃないかと。新しさが持つ良さも当然あると思うんですが、それが稚拙だったり駄目だったりすればマイナスになってしまう。
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- 劇団としてはどうなんでしょうね。
- 長尾
- 新しさを求める観客が多いから、その要望に答えるというのもあるでしょうね。その逆かもしれませんけど。
劇団ギリギリエリンギ
主宰・池田智哉による一人劇団。2004年結成。
バスダック
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- 今日はですね、長尾さんにお話を伺えたお礼としてプレゼントがございます。
- 長尾
- そんな。貰っていいんですか。
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- もちろんです。
- 長尾
- (開ける)あ、ヒヨコですね。いいですね。ありがとうございます。