演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

勝二 繁

脚本家。演出家。俳優

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日本海 第一波「カゾクノカタマリ」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い致します。役者三人のユニット、日本海の勝二さんにお話を伺います。最近はいかがでしょうか?
勝二 
最近ですか、最近はよく忘年会をやっています。日本海の忘年会を2日前にしたんですが、その時来られなかった人も含めて、今日も開催します。
__ 
ありがとうございます。日本海の旗揚げ公演、「カゾクノカタマリ」が終わりましたね。いかがでしたか。
勝二 
色々な苦労がありましたが、色んな反響があって手応えはありました。代表の小嶋くんは経験が無かったので大変だったと思います。劇場を借りたりだとか製作面でだとか。
__ 
大変だったんですね。
勝二 
でも、やって良かったと思います。飲んでる席で出た話からユニットが立ち上がって、結果的には作品に仕上がって。感慨深いです。
日本海

京都で活動する、浦島史生(柳川)、小嶋海平、勝ニ繁という日本海側出身の顔面の濃い役者3人によるユニット。作・演出を固定せず役者による波のような自由なスタイルを目指す。(公式BLOG・こりっちより)

日本海 第一波「カゾクノカタマリ」

公演時期:2014/12/4〜8。会場:元・立誠小学校 音楽室。

バラバラなのに共感を呼ぶ、その不思議

__ 
「日本海」、ユニット名の由来が気になりますね。
勝二 
飲んでいる席での話で、3人とも日本海地方出身だったので僕がポロッと言ったら採用されて。旗揚げのタイミング的にも色々丁度良くて、今年何かやろうという事になって。
__ 
脚本演出は勝二さんでしたね。
勝二 
実質的には全員で書いたようなものでした。まあ僕も書いてきたりはしてきたんですけどね、テンケテンケテンケテンケで。
__ 
ご自身としてはいかがでしたか。
勝二 
一応、目標は達成したんじゃないかと思っています。やりたい事はいくつかあって、動員も300超えて。意義はあったのかなと思います。
__ 
立ち上げたてのユニットでそれは素晴らしいですね。
勝二 
僕も色々ユニットの立ち上げに関わってきましたけど、残る作品になったと思います。
__ 
改めて、個人的にも大きい存在の作品でした。俳優の、家族についての実体験を彼自身が語ると、それを見ているお客さんも、自分の家族についてを思い出して心の中で語り始めるみたいな。そういう共有感があったように思います。
勝二 
これまで僕が書いてきた作品も、家族についてがテーマだったりするんです。割と引っかかる部分なんです。少し前、富山の劇作家コンクールにドキドキぼーいずが参加したんです。僕もキャストとして行って、その折に実家に帰ったんですね。すると実家がですね、兄弟家族がそこには居なかったり父も母も昔と比べると小さくなったりしてて・・・ああ、何年かしたらこの家族は居なくなってしまうんだ、それは受け入れないといけないんだと。一方、兄の家族は子供が生まれて、向こうは向こうで始まっている。
__ 
居なくなっていく家族もあれば、生まれていく家族もある。
勝二 
そういう話をしたい、男女5人ずつの10人で芝居を作りたいと小嶋君に話して、それから始まりました。
__ 
なるほど。
勝二 
でも、家族についての作品なのに、年配の役者さんが周りにはいなかったんですね。父親役とか母親役とか祖父母役が出来ない。なので、役者の語りから始まる劇中劇という形で演じるという演出になりました。そうやって家族の始まりから終わりまで描けたらいいなと。稽古でエチュードしたり皆の話しを聞いたりする内に、自分達の中での問題もそれぞれ発見して。
__ 
誰でもそれなりに問題を抱えているんですね。
勝二 
家族問題を他人の口から聞くと大ごとのように聞こえる。でも僕個人にもそういう問題はある。結局、どんな問題でも全部同じ質量を持っているんですよね。個人的には凄く勉強になった作品でした。(とはいえ、役者さんから聞いたものを直接的には使わなかったんですけどね。なんかそれは違うと思って。)
__ 
全く違う体験だけれど、かすってくる。その接点から投影が始まるような。
勝二 
そこまで狙ってはいなかったんですけど、引っかかって欲しいという気持ちでした。結果、お客さんの中にも受け止めて下さった方もいて。本当に嬉しかったですね。

断片集の軸にあったもの

__ 
ひとつ、気になるシーンがあったんですよ。出村さん演じる長女が、新しく生まれた兄弟を受け取って、無表情で取り落としてしまうシーン。あの時に他の役者が全員、反応する演技を全くしていなかったんですよ。それがこう、何だかとてもリアルに感じたんです。
勝二 
ありがとうございます。ともすればオムニバス公演に取れてしまう構成の作品だったんですけどね。一応、僕と出村さんの夫婦役をなぞるみたいな軸があって、そのうちの一つのシーンとして。
__ 
ええ。
勝二 
この作品を作るにあたって、僕も家族関係についての資料で勉強したんです。今でこそよく言うようになったんですけど、虐待を受けた人が自分の子供にも虐待をしてしまうコトがあるかもしれないって。実はそれが分かったのは本当につい最近の事で、それが広まった僕らの世代が丁度、次に親になるんです。つまり、僕らがその負の連鎖を止めるべき世代なんですね。それを乗り越えた親の子達が手を取り合って生きていくという軸を作品に出したかった、というのはあったんじゃないかと思います。もちろん、それをはっきり出すというのもどうかと思ってたんですが。
__ 
素晴らしい。さらにそこに断片集としての良さが手伝いましたよね。俳優が自分の体験を語るという体裁があったので、一本の線として見ていました。
勝二 
出村さんの役は、愛情を受けられなかった子供が、自分の子供に対してどう接していいか分からなくなるという伏線があって。ロープの塊を落とした時の音が凄くて、全員自然に見てしまったんですよね。
__ 
そのロープ。赤いロープでしたが、色々な意味を持っているように見えたいい小道具でした。
勝二 
そうなんですよ。あれが来た時に色々な見立てが成立して。
__ 
様々な小道具、劇中劇による断片集仕立て。いやらしくない程度に有機的でバランスが良かったように思いました。
勝二 
ただ、お話として成り立っているのか?が不安な点もあったので、お話として着地させた部分はあります。投げっぱなしにしても良いと仰ってくださるお客さんもいたんですが・・・結婚とか男女とかの対立になぞらえて、綱引きをするシーンをラストに設けたんです。あれも賛否だったんです。
__ 
あの綱引きは大切なシーンだったと思いますけどね。
勝二 
それを僕の役と出村さんの役がやってもいいのか、と。とはいえ、そういう色々な反応が貰えた事が嬉しかったです。これまで練習してきた結果が出たなと思いました。

日本海の未来

__ 
日本海の今後の展望を教えて頂ければと思います。
勝二 
一つあるのは、「カゾクノカタマリ」をどこかに持って行きたいなと。あのスタイルなので、ブラックボックスに小道具を持っていくだけですからね。でも、キャストはあの10人でやりたいです。冗談で言ってたのは、みんなの地元を回れたらいいなと思っています。
__ 
実家公演ですね。
勝二 
ちょっと本当に、再演は考えています。日本海公演は一応、来年は2回ぐらいやれたらいいねと言っていますね。
__ 
楽しみです。
勝二 
今回の作り方はまあ特殊というか、普通に台本があって演出してという形じゃなかったですしね。だからこそ2回目って大事だなと。元々この三人はお笑いから来ているし、振り幅としてコント公演もいいんじゃないかと。またお知らせ出来たらいいなと思います。

京都に残る

__ 
勝二さんが演劇を始めた経緯を教えて下さい。
勝二 
中学の頃、それまで取り柄がなかったんですが、文化祭で舞台に立ったら認められた感があって。高校で演劇部に入ったんですが、それが30何人も部員がいる強豪だったんですよ。何となく始めたハズだったのに、熱心にやっている人もいて・・・高校の有志が集まって年度末に公演する劇団もあって、そこに参加していたら面白いなとなってしまって。大学で京都に来たんですけど演劇部が合わない感じがして入らなかったんですけど。
__ 
なるほど。
勝二 
で、ニットキャップシアター の「愛のテール」 をアーコンで見たんですけど、それが衝撃で。京都にもこんな演劇がやってたんだ、と。それからごまのはえさんやハラダリャンさんのWSを受けて、しばらく京都に残ろうと思いました。それまでは実家に帰ろうぐらいに思ってたんですけどね。ハラダリャンとも出会って、テンケテンケテンケテンケを旗揚げして活動していました。7回公演までやってましたね。
ニットキャップシアター

京都を拠点に活動する小劇場演劇の劇団。1999年、劇作家・演出家・俳優のごまのはえを代表として旗揚げ。関西を中心に、福岡、名古屋、東京、札幌など日本各地で公演をおこない、2007年には初の海外公演として上海公演を成功させた。一つの作風に安住せず、毎回その時感じていることを素直に表現することを心がけている。代表のごまのはえが描く物語性の強い戯曲を様々な舞台手法を用いて集団で表現する「芸能集団」として自らを鍛え上げてきた。シンプルな中にも奥の深い舞台美術や、照明の美しさ、音作りの質の高さなど、作品を支えるスタッフワークにも定評がある。(公式サイトより)

ニットキャップシアター第13回公演 スロウライフとことこ vol.3「愛のテール」

公演時期:2003年7月12~17日。会場:アートコンプレックス1928。

2014年で出来たこと

__ 
そしていま勝二さんは、ご自身のやりたい演劇が出来ていますか?
勝二 
そうですね、日本海にしてもきちんとした団体として立ち上げられたし、僕自身はフリーの役者として今年は3本も出演出来たし。脚本としても自分の書きたいものを書けているので。
__ 
そう、今年はドキドキぼーいず にも出演されましたね。匿名劇壇 の佐々木さんとのインタビューで、勝二さんとのシーンが話に出ました。
勝二 
あれはもう役者としてとても楽しいシーンでしたね。役としては楽しくないんですけど、見ている側は腹立たしいところだったと思いますけど(笑う)それから、トリコ・A・プロデュース に参加出来た事ですね。山口茜さんがやっぱり役者さんを大事にしはる方なので、貴重な経験でした。猛き流星 で西部講堂も踏めたし、今年は本当に出会いが多かったなあと。
__ 
今後、やってみたい活動はありますか?日本海はもちろんとして。
勝二 
学生劇団は通ってきていないので、やっぱり下の世代との交流はあまり無くて。もっと、面識の無い方からもお話を頂くようになれればいいですね。自分は会話劇の役者だと思ってたんですけど、案外それだけでもないのか、身体表現的なのも興味があります。日本海でやった実感としては、喋らずとも語れるなという事も分かったし。もしオファーがあるなら是非やりたいし、オーディションも受けたいなと。
ドキドキぼーいず

2013年、代表である本間広大の学生卒業を機に再旗揚げ。京都を拠点に活動する若手演劇チーム。虚構性の強い演劇を目指し、『リアル過ぎる嘘っぱち』の創作に挑んでいる。生み出されていく衝撃を、時に優しく、時に激しく、作品として観客に提示することで、人間の本質を描き出す。いつまでも青臭い、カワイイ奴らでいたい。(公式サイトより)

匿名劇壇

2011年5月、近畿大学の学生らで結成。旗揚げ公演「HYBRID ITEM」を上演。その後、大阪を中心に9名で活動中。メタフィクションを得意とする。作風はコメディでもコントでもなく、ジョーク。いつでも「なんちゃって」と言える低体温演劇を作る劇団である。2013年、space×drama2013にて優秀劇団に選出。(公式サイトより)

トリコ・A

トリコ・Aは、山口茜が「自分で戯曲を書いて演出をしてみたい」という安易な気持ちを胸に、1999年、勢い余って立ち上げた団体です。当初の団体名は、魚船プロデュースと言いました。以来11年間、基本的には上演ごとに俳優が変わるプロデュース形式で、京都を拠点に演劇を上演してまいりました。やってみると意外と大変だった事が多い様に思いますが、皆様の暖かいご支援のもと、現在も変わらず活動を続けております。(公式サイトより)

猛き流星

役者の小西啓介が主宰する演劇ユニット。京都を拠点に活動している。2012年、当時小西が所属していた劇団ヘルベチカスタンダードの劇団内ユニットとして発足し、翌々年独立。毎回、新しく人を集めるスタイルで公演を行う。熱くて派手な芝居を志向する。(公式サイトより)

質問 白神 ももこさんから 勝二 繁さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂きました、モモンガ・コンプレックスの白神ももこさんから質問です。「しょうもない失敗を教えて下さい」
勝二 
しょうもない失敗・・・パッと出てこないなあ、こういうのがすぐ返せるようになりたい。聞き間違いとか意味を間違える事が多いですね。小学校の頃、TVから「ガンセイ疲労」という言葉が聞こえてきて。Cancerの方のがんだと思ってしまって、医学の進歩はここまで来たのかと思った事かな。

引き出しをお互いに開ける

__ 
いつか、どんな演技が出来るようになりたいですか?
勝二 
すごく抽象的なんですけど、自分が光る事によって相手役がもの凄く光るようになったらいいなあと。やっぱり自分一人では出来ないなあという事を、もう長いあいだ痛感していて。芝居を始めた最初の方はああしてやろうこうしてやろうみたいなのがあったんですけど、そういう風に自分で考えてきたものは9割面白くなくて。現場に入って相手とやる事によって生まれるものがホントなんだなと。相手を引き出せる役者に魅力を感じています。そういう事をやるには自分がまず光らないといけないような気もしていて、そこから引き出しの開け合いみたいになれば。そういう事が出来たら物凄い楽しいと思っています。
__ 
匿名劇壇の松原さんとの話の中でも近い事が話されたと思います。会話劇で、自分演技が上手くなったと錯覚するほど転がしてくれる人、というのが凄い人だ、みたいな話しになりました。でも、「引き出しの開け合い」とはまさに理想ですね。
勝二 
そうですね、自分から開けてしまうと失敗するんですよね。俺こんなんあるぜ、みたいなんじゃなくて。
__ 
そして、お客さんにも開けられるかもしれませんしね。
勝二 
そうですね、同じく演出家にも言える事かもしれません。

手ぶらでいこう

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
勝二 
手ぶらで攻めます(笑う)自分は何というか、手ぶらの感覚が好きなので。準備して事に臨むと却ってガチガチになってしまったりとかがあるので、フットワークの軽さとか気軽さを持ったスタンスでいけたらいいんじゃないかと思っています。日本海にしても。(笑う)何て言い方だろう。
__ 
今後とも楽しみです。
勝二 
ありがとうございます。

PARAFOIL KITE

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
勝二 
ありがとうございます。
__ 
大したものじゃないし、お住まいによっては使いにくいかもしれないんですが。
勝二 
(開ける)?
__ 
凧です。
勝二 
ああ、御所で上げる、みたいな。
__ 
御所はですね、凧揚げは禁止されているんですよ。
勝二 
あ、そうなんですか。
__ 
鴨川もムリなんです。市内で上げるのは難しいんですよ。桂川の公園だと上げられるらしいんですが。
勝二 
京都なのに上げられないんですね。実家に帰ってやります。
__ 
大したものじゃなくて申し訳ありません。
勝二 
いえいえ。ありがとうございます。
(インタビュー終了)