演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

三木 万侑加

ピアニスト。女優

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CHAiroiPLIN「三文オペラ」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、三木さんはどんな感じでしょうか。
三木 
ここ最近は、秋に東京で上演されるCHAiroiPLINの「三文オペラ」に参加する事になったので、その為に関西での仕事の整理に動いていました。
__ 
劇伴で参加される感じでしょうか?
三木 
いえ、もう音楽は決まっているそうなので、役者で参加だと思います。
__ 
ありがとうございます。では、演劇を抜いたらどんな感じですか?
三木 
最近だと、去年に録音したものがやなぎみわさんのゼロ・アワーの劇中に流れると思います。あとは、外出した時に思いついたメロディとかを書き留めて家でまとめる、そんな地道な作業をしています。いつか、何かの形でまとめられたらいいなと思います。
__ 
素晴らしい。個人的な事ですが、ウクレレを触り始めたんですよ。楽器楽しいですよね。
三木 
あ、そうなんですね。楽器は楽しいですよね。弦だと私、チェロを大学の副科で習っていました。楽器を触るのが楽しいというのはいいですね。私、ピアノが楽しいと思えたのは大学からだったので。
__ 
つまり、それまでは楽しくなかった?
三木 
実は・・・
CHAiroiPLIN「三文オペラ」

公演時期:2015/10/24~11/1。会場:三鷹市芸術文化センター 星のホール。

わたしと先生

__ 
あ、まず伺いたいのですが、三木さんがピアノを始めたのはいつからなんですか?
三木 
3つからです。
__ 
そんなに前から。
三木 
ピアノをやっていなかった頃の記憶がないんです。気がついたらピアノを弾いて、親に怒られ先生に怒られという。
__ 
大学に入ってから楽しいと思えた?
三木 
いい先生に会ったんですね。もちろんそれまでの先生は技術的な事や感情の表現の仕方を教えて下さる良い先生だったんですけど、先生の思う様に弾かないといけない感じがあって。大学の先生は、私が思うように演奏したらいいんじゃない、と仰ってくださる方だったんですね。
__ 
それは良かったですね。細かい事を伺いたいのですが、大学に入るまでピアノが面白いと思えていなかったのに、大学に入ってもなお続ける事にしたのですね。
三木 
というのはいきさつがあって、高校の制度で留学する事になって、オーストラリアに行ってたんですよ。そのタイミングでピアノを辞めようと思い、音楽の関係ないコースを申し込んだんです。実は、習っていたピアノの先生は家のお隣にあって、ピアノの練習をしていないのがすぐバレる環境だったんです。もうイヤだと思って、これを機に離れようと。先生は音大行かす気満々だったんですけど、他の道に行きますと言うキッカケになると思って。
__ 
留学先ではどんな感じでしたか。
三木 
最初の五日で、すっごいヒマだと感じたんです。それまで学校から帰ってピアノ、寝る、学校行くの繰り返しだったのが何も無くなるから。最初の3、4日はそれでも楽しかったんですよ、散歩に行ったりホストファミリーの方とショッピングに行ったり。でも、単純にヒマだったんですね。
__ 
なるほど。
三木 
で、ステイ先のホストファミリーの方が端的に言うとパーティー好きだったんですね。毎週人を招いてバーベキューして騒いで。2回目のパーティーの時にホストマザーが私のプロフィールを読んでたんでしょうね、ちょっとピアノ弾いてよ、って言ってきたんです。そしたら周りの人たちも「日本の子だからスキヤキ弾いてよ」、って。
__ 
弾いたんですか。
三木 
はい。さすがに「上を向いて歩こう」はメロディとコード進行が頭に入ってたので。そうしたらホストマザーが「凄い!あなた天才なの!」って(後から考えると基本褒める人だったんですよね)。さらに、周りの人たちが「あなたピアノ弾けるのね」って話しかけてくれるし、楽器出来る人からは「セッションしようよ」って。言葉は通じないんだけど、音楽がコミュニケーションになったんですね。言葉は通じないけれど友達は増えている。音楽って楽しい、とまでは思えていなかったんですけど、自分の人生を生きていくツールとして考えられるようになったんですね。
__ 
なるほど。
三木 
日本に帰ったらまたピアノの練習だけが続く退屈な毎日かもしれないけど、音楽は自分にとって大切なものだと考えなおしたんです。オーストラリアに行く前に親には「私ピアノ辞めるから」って宣言してたんですけど、「やっぱりピアノ続ける」ってすぐにオーストラリアから電話しました。今考えると、音大に行く事にして良かったんです。小さい頃からピアノを習い続けても、音大に行かなかったら世間的には音大生には勝てないんですよ。私もプライド高かったんですね。今から考えたら単純ですけどね。でも辞めようと思って行ったのに、続ける決心を付けて帰ってくるとは、面白いなと自分でも思います。

言葉が通じなくても伝えられる

__ 
そのホストマザーはきっと、三木さんはピアノを弾くべきだと思ったんでしょうね、きっと。
三木 
そうですね。実は留学する直前までコンクールに参加していて根を詰めて弾いていたので、しばらく弾きたくないと思っていたところだったんです。でもパーティーで「弾いてよ」って言われて、これは日本人的なんですけど場の空気を壊したくないという気持ちが働いて。
__ 
まさに「上を向いて歩こう」、ですね。
三木 
今から考えるといいホストファミリーでした。お母さんはぐいぐい人に近づく人で、お父さんは逆に距離を置く人で。きっとバランスの取れたカップルなんだろうなと思います。
__ 
悪い芝居の岡田太郎さんも同じような事をインタビューで言ってましたね。「言葉が通じなくても音楽で伝える事が出来る」って。
三木 
あ、そうなんですね。私、彼と高校の同級生です。
__ 
え、そうなんですか。
三木 
実は最近まで同級生だと知らなかったんですけど。私、全然覚えてなくて。向こうも覚えてないと思うんですけど、共通の友達が「いやいや知り合いやで」って。「オーストラリアで会ってるかもよ?」って。でも私ちゃんと喋った記憶ないんですよ岡田さんとは。
__ 
それは面白いですね。
三木 
共通の友達は何人かいるし学校ですれ違って挨拶程度には喋ったかも知れないけれどちゃんとした接点はなくて。彼がギターを担いでた姿を見た記憶はあるんですけどね。彼は軽音部だったし。今度会ったらそれを話そう。で、そうなんですよ、言葉が通じなくても伝えられるんですよね、音楽は。私はクラシック専門だから、昔から受け継がれるだけにどこでも通じるんですよね。クラシックはクリスチャンの宗教観に結びついているものなので、ある曲を弾いたらそれについてずっと話しかけてくれる人もいたし、老若男女問わず愛されているんです。ずっと引き継がれるだけの事はあるんだ、と思いますね。楽曲が持つそれぞれの意味や物語があるんです。

ピアノって絶対に本性が出るんじゃないか

__ 
ピアノをやっている時の感覚について。「芽吹きの雨」と「キャバレーナイト」で劇伴をされていましたね。「キャバレーナイト」は原作の疾走感を拡大解釈して奇妙でハデな世界にしていました。寂しい曲も激しい曲も弾かれていた三木さんが素敵でした。どんな感覚で弾いていましたか?
三木 
普段の演奏の時とは違いました。私はまず、普段は自分の中でストーリーを作るんですよ。こう言うストーリーを表している曲だ、と、情景を具体的に思い浮かべて。でもキャバレーナイトの時は、路地から来たオバ達の役として弾いてくれと言われていたんです。だから私としてでは無くオバとして路地から見送ってきた者達への想いを鎮魂歌にのせたんですね。自分の気持ち的にもの凄くしんどかったんです。自分が見送ってきた者を思う気持ちがずっしりとあって。あのまま終わっていたらしんどかったと思うんですけど、でもその後のキャバレーのシーンでは華やかに吹っ切れていました。私もキャバレーのお嬢さんの役でしたし。私としてではなく他の誰かとして演奏する。不思議な感覚でしたね。
__ 
そうですね。
三木 
私が大学を出てから演劇に関わろうと思ったのは、ピアニストの出てくる作品を見た時、「絶対にこの役柄の人はそんな弾き方はしないだろう」という違和感なんです。ピアノって絶対に本性が出るんじゃないかと思うんですね。大学の先生はいつもはフワフワしてはる人なんですけど、いざという時はパシっと言う人で、門下生はみんな「こっちが本性だな」と思っていました。そしたら実際演奏もパシっとした感じで。本当の性格って音に出るんですよね。そういうのが分かっていると、劇中での演奏の仕方と役柄の性格に違和感を感じたりするんです。繊細なキャラクターのはずが、音楽の弾き方がバリバリしてたり。代弾きする人も、役者と同じぐらいその役について研究するべきなんじゃないかなと思うんですよね。だから、お音楽だって性格があるんだと、それを表現したいなと思って演劇を始めました。

でも、最近はちょっと、楽しもうと

__ 
「お酒に酔っている時にこそその人の本性が出る」、とよくいいますよね。俳優や演奏者にしても、集中が高まるにつれ陶酔状態になるのかもしれません。それは無意識状態になる、とも言われていますね。先日インタビューさせていただいた吉見拓哉さんが仰っていたんですが、彼はそういう状態には大きく「トリップ」と「メディテーション」の二つがある、と。彼は仏教に造詣が深いのですが、トリップは自己を忘れた破壊的な衝動に基づく酩酊であり、「メディテーション」は自己に沈潜し調和の世界に溶け込んでいく、うんぬん・・・
三木 
メディテーションしているような状況になった時は、「芽吹きの雨」をヴォーリズ学園の記念祭でやらせて頂く機会があって、その時が近いかもしれません。学園の創設者、一柳満喜子さんが弾いていらっしゃったピアノを特別に使わせて頂くことになって。目の前に満喜子さんのお写真があって、見守られている感覚が出てきて。で、後ろから満喜子さん役の飛鳥井かがりさんの声が聞こえてきた瞬間に涙が出てきて、フアーってなったんです。飛んでるみたいな溶けていくみたいな感覚でした。外的な要因があると、持っていかれるような気がするんです。トリップだったり無意識になる時は内的な要因が多いと思いますね。
__ 
無意識になる事もある?
三木 
私は入り込んでしまうんですよね。ピアノの置き位置上お客さんに真正面を向いて演奏する事が少ないですけど、その時にグァっと入り込んでしまうんですね。でも、私らしく演奏していると言われる時は、そう言う時になりふり構わず弾いていた時ですね。誰かが聴いている、採点しているとかは全く気にせず、自分の演奏を聞いてくださいというワガママを言っている状態。酔に酔って周りが見えていない時。自分の常日頃抑えている感情が爆発している時、ですね。私は大学がカトリック系だったんですけど、音楽は神に捧げる演奏と言う前提はあるにせよ、自分の事を伝えようとしている時の方が感情的になっているのかな。だから、例えば学生の演奏の方が自由なんですよね。先生方の演奏はテクニックが凄くて、あの技は凄いなとか思うんですが。
__ 
なるほど。どちらが良いとかではないのかもしれませんね。
三木 
私の場合ですが、聞かせたいメロディがあったら、そこは無意識でも弾けるまで練習します。意識している時点で前後とつながらなくなる気がするんです。ここは盛り上げたい、なら、無意識のレベルで出るまで・指がメロディに持っていかれるぐらいの勢いで、自分の感情を導かないといけない。多分お芝居でも同じだと思います。私は基本は無意識でやる事が多いんですよ。先日、映画監督の武正晴さんにWSでお世話になった時、「無意識だけじゃダメなんだ」と実感して。お芝居で完成させる時には、ちゃんと狙ったところに何かをしないとダメだと。もちろん、狙いだけで行ってもダメ。無意識から出た事をちょっとだけ大きめにすること。・・・意識と無意識を、この五月に考えに考えたんですよね。その時改めて、ピアノも演技もダンスも、表現するって全部繋がってるんだなと思いましたね。難しいですね。でも、最近はちょっと、楽しもうと思っています。
__ 
楽しむ?
三木 
二年程前にコンドルズの近藤良平さんに「どうして踊っているんですか?」って聞いたんですよ。私は「何かをやるんだったら良いものが生み出せないと、と思っているのですが」と。そうしたら、もちろん良平さんには何か考えていらっしゃるものがあると思うんですが、私が思い詰めているのを察されたのか、「そんな事考えなくてもいいんじゃない?楽しかったらいいんじゃないか、楽しいという気持ちは重要だよ」と。その時は単に、そうなのかなと表面的に理解しただけだったんですが、最近改めて考えたら、これまで続けてこれたのは楽しいという気持ちがあったからだし、楽しいから・楽しそうだからやってみようというのは大切なのかもな、と。

誰かの感情を動かす

__ 
いつか、こういう演奏が出来るようになりたい、等はありますか?
三木 
何だろう。私、誰かの演奏を聞いて救われたと思う事が多いんですよね。私もいつかそう言われたいと思っていたんですが、今でもそれは多分あるんですが、自分のそばにいる人の為に演奏したいんですね。私にとっては両親、特に母なんですが、私がピアノでのお芝居でも、表現の道を選ばせて良かったなと思ってもらいたいんですね。究極的には、自分が想う人に幸せになってほしいんだと思います。
__ 
報いたい。
三木 
誰かの感情を動かす事をしたい。幸せな方向に気持ちが動くようにしたいんですね。例えば、悲しい曲を聴いたとしても「生きていて良かった」と思ってもらえるような。それは自分のエゴかもしれないですよ、そういう安心なのかもしれないし。でも、それは私にとってはお金以上の安心なんですよね。良かったよって千円渡されるよりも、誰かの気持ちが動いた方が私にとっては安心なんです。
__ 
スレた、ビジネスだけのやり取りじゃない、濃い感情のやり取りですね。
三木 
お金を稼ぐ事が価値だという人もいるし、誰かの役に立ちたいという人もいるし。でも今の私は誰かの幸せの為になってほしいなと思っているんですね。もちろんお金を稼ぐ事も大事なんですがそれが第一条件ではないと言うか。例えば思春期って自殺したいとかすぐ思っちゃうじゃないですか。でもその翌日にいい映画を見たら、その映画を見る為に今まで生きてきたんだって思える。なんか、そういうものを作れるようになりたいと思っています。

質問 田辺 剛さんから 三木 万侑加さんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた、下鴨車窓の田辺さんから質問を頂いてきております。「お気に入りの喫茶店があったら教えて下さい。」
三木 
あ、田辺さん。ええと、梅田にあるカフェーヌですね。とても落ち着くお店です。大学時代からたまに行っています。奈良だったらフランツ・カフカですね。背の高い本棚が壁一面にある、静かなお店です。田辺さん、本がお好きそうなので、カフカがオススメですね。
__ 
今興味のある人・分野はありますか?
三木 
何にでも興味を持つので・・・でも、次に参加するCHAiroiPLINの芝居の作り方に興味があります。お話を聞くところによると、皆で案を持ち寄ってばーって作っていくみたいなので、それがどんな感じか興味があります。東京で、今までにないぐらい長期滞在するんです。滞在で何かが変わったらいいなと思っていますね。1を10や100にするのはこれまでやってきた事だから慣れているし得意な方なですけど、0を1にするのはとことん苦手で。自分には向いていないんじゃないかと思う事も多くて。変われるキッカケを掴めたらいいなと勝手に期待しています。
__ 
創造する力、ですね。
三木 
そうですね。周りにはそれが上手い人が多くて。しかもその時に、ちゃんと相手の事も考えたやり方を取る人もいて。すぐにそんな風にはなれなくても、そうなれる様に今回も何かを盗んでやろうと思っています。

方向性を探しながら

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
三木 
一箇所にとどまっているのはあまり好きじゃないんですよ。だから自分に合うのはフリーランスという形なんですかね。せっかく身軽なんだから、色んな事をしようと思います。漠然としていますけど。大学を卒業して3年経つんですが、20代の間はまだまだ勉強だと思っていて、でも勉強しつつもそろそろ方向性を探していきたいな、と。とは言えそれを探すのが人生だと思っているところもありますので、多分一生探し続けるんだろうなと思います。
__ 
分かりました。ありがとうございます。

デッドストックのティーカップ

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。大したものではないんですが。
三木 
ありがとうございます。嬉しい。(開ける)あ、素敵じゃないですか。東京に行くとき、食器をどうしようかと思ってたんですよ。
__ 
デッドストックのティーカップです。
三木 
めっちゃ嬉しいです。ふふ。
(インタビュー終了)