表現の生活
- 池川
- 僕はいま奈良県に住んでいて、仕事をしながら演劇と音楽をしています。演劇だと、次の出演はニットキャップシアターの「ねむり姫」で、稽古はもう始まっています。それぐらいかな、演劇の活動は。
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- 音楽は。
- 池川
- 今年再開したんですけど、毎月定期的に呼んでいただいているライブハウスがあります。全然お客さん呼べてないんですけど。
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- 池川さんの歌は好きなので、どんな事をしているのか気になりますね。
- 池川
- でも、劇中歌を歌うのとは違うし、ライブは結構ふざけた曲を歌っています。
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- というと。
- 池川
- 前回ニットに出た時、自分が作詞した歌を使わせてもらって。(客演なのに)結構自分の事を歌えた気がしたんですよ。それでちょっと調子に乗って。ちょっと、安全圏から出ていこうという気になって。そうしたら、大阪のちょっとアンダーグラウンドな雰囲気の人たちばかり集まるライブハウスに毎月呼ばれるようになりました。まあちょっと、それが楽しくてですね。
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- どんな詩ですか?
- 池川
- いやあ・・・何か、生々しいです。ちょっとした性的表現も含まれてますし。まあ知れてるんですけど。基盤はフォークです。なんか、きちっと人に聴かせる事を前提に作った曲よりも、友達の家で酔っぱらって適当に作ったような曲の方がウケる気がするんですよ、僕の場合。30秒くらいのうどんの歌とかの方がウケたりする。うどんを2分ぐらいに伸ばして歌ったりしてて。だいたい、30分持ち時間があったとして、伸びたうどんみたいな曲を五、六玉くらい演奏します。
ふざけて音楽
- 池川
- 曲ってやっぱり反復して練習するから、その場で作るMC(おしゃべり)よりも自信の強度が高いんですよ。でもMCは、自信のあるネタを持って行ったとしても本番で全然ウケない場合もある。この間も、熊本の震災関係の事で思う事があって。そのMCをスタジオで前日に予行練習したら、もうジーンときたんですよ一人で。「ええこと言うな〜」って。でも本番ではMCがド滑りして。
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- ええ。
- 池川
- 想定外でした。もっと、自分の中でまとめてくるべきだったんです。お客さんの反応も曲中と比べたらどんどん遠ざかっていく感じで。でも自分の言いたい事は言いたいし。まあでも、何やろう、そうやな。たぶん、話題がその日の自分の一番の出来事じゃなくなってたんですよね。
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- お客さんが遠ざかっていった時、池川さんはどう思いましたか?
- 池川
- 怖かった!僕自身、なんかいかにもミュージシャンっぽい人がMCで大言壮語吐いたりするのって見てられないんですよ。このあいだ、ライブハウスで共演した大学の軽音部出身の男の子がすごく真剣な眼差しで「愛について歌わせていただきます」って。でも愛ってものすごく繊細で、個人差があるじゃないですか。「ちょっとテーマがでかすぎひんか?」とは内心思いました。お客さんに見に来てもらってる以上、自分の表現した愛でお客さんの愛を汚す場合だってあると思いますし。震災の話題もそれと同じで。最近、ネットで言葉を世界発信するのに慣れてしまって、言葉の選択力が自分の中でかなり甘くなってる気がするんです。今みたいに、ちゃんと向き合って話せばあの時みたいに自分の話題を一方的に話してお客さんが困るようなことは起こらなかったんじゃないかとは思うんですけど。
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- ええ。
- 池川
- まあ実際あの時はお客さんがいなくて、ほぼ全員共演者だったんですけどね。終演後に感想聞いてみたら「静かに聞いてた」んだそうです。「間違った事は言ってない」「共感してた」とかも言われて。でも確実に距離感はありました。前触れもなく震災の話題に入ったのが良くなかったんかな。
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- 喋りが上手くいかない事ってありますよね。残念ながら。私も、スピーチで上手く言った経験もド滑りした経験もあります。人に合わせてパッと喋るために、観客とどこまで関係性が築けるか。
- 池川
- そうですね。いやあ、自分が言うべきセリフなんてそうそう見つからないじゃないですか。世の中に。でも何か、意味はないけど、自分で意味を見出すじゃないですけどそういう風にするのは楽しいなって。そうでもしないと生きててもつらいことばっかりじゃないですか・・・30分間、別にお金にならないのに何でこんなしんどい事をやっているのかっていったら、やっぱ自分の為ですよね。
演劇を始めたのはいつからですか?
- 池川
- 僕は地方出身で、大学にまぐれで合格して、大学時代は部室が棟の入り口から一番近かった演劇部に入って。役者は今でも続けていて、観にも行きます。昔は「学生劇団の役者だから」という理由で熱心に見てたんですけど、今は肩の力が抜けてきて、単純に劇を楽しめているような気がします。見ていて「ああ、だからこういう演出になるんや」とか思ったりするんですけど、いつも感想がうまく言葉にならないんですよね。でもそれをただぼんやり眺めているのが楽しくって。昔は役者の演技にばっかり気を取られていたけど。僕は生まれも育ちも奈良なんですけど、奈良で小劇場の演劇なんて見たことなくって。奈良だと自分が役者をやってることに対してどっかで気負いがあるんですよ。でも京都は学生の町で、学生演劇が盛んだから、役者を名乗っていても気負いがない。でも若い人が奈良で演劇を始めようとしたら、やっぱり・・・どうしても偏見を持たれやすいというか。テレビで有名な劇団四季とかのイメージで勝手に一括りにされるみたいな。それは良くないなと思っています。僕が奈良にいながら活動するのは、自分の物差しさえあれば、活動拠点が地方だろうと問題がない、というのを見せたいし、見たいんです。この間は「東アジア文化都市2016」の企画発表会で、奈良に維新派が来ることが決まって。会場にはマスコミもたくさん来たんですけど、僕の周りの奈良県民は誰もそんな事知らなくって。そもそも維新派を知らないし。ぜんぜん動きになってないから。動かなかったらそのへんに落ちてる石と変わらないんで。そこは積極的に動かしたいなと。でも僕の周りにそういう人が本当にいないんで。けもの道です。それでも今まで続けてきた成果で、だんだん気負いがなくなって自分のやっていることに自信は持ててきている気はします。
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- 自分の活動に確信的になっているという事ですね。
- 池川
- なりたてですけどね。
好きになればなるほど
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- ニットキャップシアターにどんな興味がありますか?
- 池川
- 出演していて(ニットキャップシアター こんなにもお茶が美味い)、現場に入った時から、この劇団の作品を見せたいという欲求が強くあって。主宰のごまのはえさんとよく話すんですけど、本当にあの人、キャラがブレなくて。何を話してもちゃんと返ってくるんですよ。借り物じゃないごまのはえ語で。それがめちゃ好きなんですよ。好きになればなるほど、また好きになるというか。単純に憧れますよね。そういう部分を盗みにいってるところはあります。
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- いい出会いですね。
- 池川
- 役者を続けていく上で、いつでもニットの舞台に立てるようなモチベーションは保っておきたいです。
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- 大切なんですね。ニットキャップとの縁が。
- 池川
- はい。だから、ニットキャップシアターの「ねむり姫」 、凄く見に来てもらいたいです。34名出るんですけど、余すとこなく魅力的な出演陣で、これからどんな風になるのか期待しかしてないです。今はそれくらいで稽古も始まってすぐだし、具体的なことは何も言えないけど、でも、ネットの評判を待たずに来てほしいですね。感性とかで。
ニットキャップシアター 第37回公演「ねむり姫」
華やかさと騒乱渦巻く平安末期の京を舞台に、 劇団史上最大規模で描く夢物語! ニットキャップシアターがこの夏放つ最新舞台は、 幻想文学の巨匠、澁澤龍彦の短編小説『ねむり姫』を原作に、 34名の出演者が渦を巻く平安群像劇。 当世最新流行歌「今様」をモチーフにした音楽や、雅で優美な舞踊り、 はたまたアイドルダンス、狂犬達にシュプレヒコールも雨あられ。 「ガラパゴスエンターテインメント」を掲げるニットキャップシアターの 新たな進化をごゆるりとお楽しみあれ! 【会場】AI・HALL 【脚本・演出】ごまのはえ 【出演】門脇俊輔、高原綾子、織田圭祐、下川原浩祐、仲谷萌、池川タカキヨ、黒木夏海、佐藤健大郎、佐藤都輝子(劇団とっても便利)、西村貴治、細谷史奈、山岡美穂、山谷一也、山田レイ(Reiworks)、安藤明、石井歩(流刑芝居)、生方友理恵、ガトータケヒロ、楠海緒、越賀はなこ、坂本彩純(演劇集団Q)、私道かぴ、進真理恵、土橋夢子、豊島勇士、にさわまほ(同志社小劇場)、長谷川めぐの、前原一友、松井壮大、道咲とも子、山内庸平、山下多恵子(京都演劇サロン)、Ryosuke、大木湖南〈声の出演〉 【公演日程】 7月8日(金)19:00- 7月9日(土)13:00- / 18:00- 7月10日(日)13:00- / 18:00- 7月11日(月)14:00- 【料金】 一般 前売 3,200円 / 当日 3,500円 ユース・学生 前売 2,200円 / 当日 2,500円 高校生以下 1,000円(前売当日とも) ※ユースは25歳以下。全席自由、日時指定券。
質問 向井 咲絵さんから 池川 タカキヨさんへ
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- 前回インタビューさせていただいた、弱男ユニットの向井咲絵さんからです。「ギターを始めたきっかけは何ですか?」
- 池川
- 学生時代、周りがヤンキーばっかりで。どうすればいいかというと、ヤンキーの金魚の糞になるしかないんですよ。ヤンキーはワガママだから、ちょっと柔軟性があるとめっちゃチヤホヤされるんですよ。でもそうしたらヤンキーの思うままじゃないですか? そこでヤンキーにはない何かを始めようと思って、誕生日占いで知った、同じ誕生日の尾崎豊にならってギターを始めて。EmとCで下剋上してやりました。
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- 「今、音楽をやりたいと思っている?その理由は?」
- 池川
- やりたいです。理由ですか。やっぱり最初に、テングになってたころのCコードって今と全然違うんですよ。「お前ソレどうやって弾いてんの」ってヤンキーをビックリさせながら弾いたEmは、今と全然違うんですよ。あの時の恍惚感とか幸福感にはなかなかいたれなくて。あの時に弾いたEmの感覚を忘れるまでは続けるでしょうね。思い出したいし。
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- その状態には中々行けないでしょうね。高度な悟りが、その人を幸せにするとは限らないじゃないですか。
- 池川
- 関係する人間の数にもよると思うんですよ。一人で生きてたら、自分一人の為の悟りでいいと思うんですけど、芸能人とか会社の社長並に関係する人がたくさんいたら・・・僕がそうじゃないし僕からこれってことはあまり言えないですけど。関係する人がいればいるほど、個人主義では通用しない部分って増えますしね。やっぱし、基本は生きづらいんですよね。
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- 幸福の絶対量が大きくなればなるほど幸福のレートが上がっていく。関係者数も多くなればなるほど、期待される以上の悟りを得なければならない?
- 池川
- はい、だからその逆もありますよね。震災関係の話題で、芸能人のSNSに一般人が「不謹慎だ」とかいって炎上するようなニュースを最近よく見かけるんですけど。カロリー使う場所明らかにおかしいですよね。「言葉って一体何のためにあんのや?」みたいな。やっぱりネットは怖いですよ。萌え系アニメのヒロインがアイコンのツイッターアカウントとか・・・
熱中したい春
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- いつか、どんな演技が出来るようになりたいですか?
- 池川
- 演じた役にそのままなりたいです。そういう熱中できる役を見つけたい。毎回同じような役になるのもそれはそれで構わないんですよ、それは、自分の個性がそうさせているところもありますから。
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- そうですね。
- 池川
- プレーンな人の仕草が好きなんで。あれを、物怖じしないで出来たらいいのにと思っていて。そこを採取出来たらなと。材料の選択肢が演劇界の中だけになってしまうのはなんか嫌ですね。
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- 演技が退廃する事を恐れている?
- 池川
- コピーじゃないですか。小劇場界の中ですら、コピーのコピーをずっと見続けていて、だから当時演劇が面白く思えてなかったのかもしれないですけど。結局、モデルの背中を追いかける事が、役者の完成度みたいな事になっていって(今はそこを踏まえて面白く見えているんですけど)。でもそれはモデルを必要としているところでやればいいことで、僕は、誰か一人だけでも、もの凄く心に引っかかる芝居が出来ればそれでいいと思ってます。月並みですけどそんなところです。
同世代へ
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- 今後、どんな感じで攻めて行かれますか?
- 池川
- 自分と同世代の人が今どんなふうに活動をしているのかは気になります。今まで年上の人と演劇を作ってきたし。もっと同世代の人と関わって何かがしたいという想いはあります。音楽にせよ。同世代の人にもっと役者として認知してもらえたら。今のところ自称なので。企画とかもやりたいですし。
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- なるほど。
- 池川
- がんばります。
グレート・ギャツビー
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。どうぞ。
- 池川
- ありがとうございます。(開ける)おお。これ読んでみたかったんですよ。まじか。めっちゃ嬉しいです。まさか自分に村上春樹の翻訳した「グレート・ギャツビー」をプレゼントされる日が来ようとは。