2013年9月の木皮成
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、木皮さんはどんな感じでしょうか。
- 木皮
- 最近は、マイブームですがブレイクダンスをやっています。これまでコンテンポラリーしかやってこなかったんですが、既成ジャンルもやりたいなと。結構、まじめに基礎固めしてます(笑)。
試した方法があるなら
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- なぜ、いまブレイクダンスを?
- 木皮
- このところ、コンテンポラリーダンスの文脈について考えていて。そこで今やってみたら面白いのが、ブレイクダンスなのではと。もちろんお客さんに楽しんでもらうのが前提なので、ソリッドなコンセプトを追求するよりは、楽しみやすい開けた表現にしたいと思ってます。手法としては新しく開発していきたいと思いますが。
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- 素晴らしい。
- 木皮
- 実験結果だけ発表されても困ると思うんですよ。そういう追求をして、それがどう面白いのか共有しないといけないんです。
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- 分かりやすさ、ですね。
- 木皮
- 試した方法があるなら、それを商品として高めたいと最近思うんです。
毎晩、公園で
- 木皮
- 僕、ダンスを始めたのが大学の2年からなんですよ。つまり3年前からなんです。師匠もなくて我流でやってたんです。実はそれまで俳優やってたんですけど、壁にぶち当たってて、とりあえずパフォーマーとして何か極めようと思った時、身体の事だったら分かるかなと思って。毎晩広場で踊ってたんです。それも音楽掛けて体を揺らしてたぐらいなんですけど。
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- ええ。
- 木皮
- しばらくしたら「それはコンテンポラリーダンスだね」と言われて。これがそうなのかと。そこから勉強を始めました。
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- 毎晩、公園で?
- 木皮
- 本当に毎晩(笑う)。それをやり続けてたら、どんどん身体に筋力がついていって、踊れるってこういう感覚なんだ、楽しいと思えてきました。
外へ
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- そもそも、木皮さんが表現を始めたのはどういう経緯があるのでしょうか。
- 木皮
- それはですね、僕、中高とひきこもりだったんですよ。ひきこもりを辞めようと、まずは大学入学から始めました。僕の出身は電車が2時間に1本しか来ない田舎なんですが、その時、映画「ウォーターボーイズ」のように全員で一致団結するみたいなのに憧れていて。その思いが昇華出来そうなのは美大なんじゃないかなと。それで多摩美大造形表現学科映像演劇学科に入学しました。最初は、映画を撮ってたんですよ。
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- なるほど。
- 木皮
- 8mmフィルムを使った撮影技術を教えてくれるんですけど、ちょっとこれは「ウォーターボーイズ」とは違うなと思って、途中で演劇にコースを変えました。
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- そこで演劇に出会ったんですね。最初の授業はいかがでしたか?
- 木皮
- 何を思ったのか、演出をやりたいと言ってしまって。何も知らないのに。脚本は、清水邦夫さんの「朝に死す」という二人芝居。ものを作った事がない18歳だったので手探りだったんですけど、出来上がったものが目の前にあるという衝撃がありましたね。最初に演出をやって、その感覚を持てたのは大きいですね。新鮮でした。
アジア舞台芸術祭
- 木皮
- 色々なオーディションを受けたんですけど、軒並み落ちてしまって。向いてないのかなと思い始めてた時に、桜美林大学のダンス公演に、学外の人も出演出来るみたいな企画があって。思い切って飛び込んだんです。表現に関してはよく分からなかっていなかったんですけど踊るのは面白くて。それが2010年の時でした。
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- 3年前ですね。
- 木皮
- その後、アジア舞台芸術祭という企画で、日本の演出家(中野成樹さん、ノゾエ征爾さん、広田淳一さん)と、韓国から二人、台北から一人の演出家が6チームを選ぶ企画でした。日本人18人の中で僕が選ばれて、10分の作品に出演しました。
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- 面白そうですね。
- 木皮
- 6作品のうち、1作品がダンスだったんですけど、僕俳優だったのに、ダンスの作品に入りました。韓国の舞踊協会の会長のクォン先生の作品でしたね。初めての出演作が2作品ともダンスだったんです。これは向いているとは思わないけれど、本気でやってみる価値はあるんじゃないかと。それから踊り続けています。
最高のパフォーマンス
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- 今、木皮さんをダンスさせているのは何ですか?
- 木皮
- ダンスで何かをしたいというよりは、たまたまその後求められるものがダンスだったんです。色々な方にお世話になっていて、その感謝を返したいんですよ。自分に関わった事が、ある種喜びになれるような振付家でいたいなと思っています。求めてくれる人がいるから、それに見合う最高のパフォーマンスがしたいです。それが僕の創作欲求だと思うんです。
質問 村本 すみれさんから 木皮 成さんへ
FUKAIPRODUCE羽衣「Still on a Roll」
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- 木皮さんが振付で参加したFUKAIPRODUCE羽衣の「Still on a Roll」。大変面白かったです。そして、昨日芸劇eyes番外編「God save the Queen」で拝見したうさぎストライプの作品も面白かったです。ええと、木皮さんが振付をされる時、どのようなポリシーがあるのでしょうか?
- 木皮
- 劇団によって僕の振付は違いますね。僕が特にこだわっているのは演劇中のダンスなんですが、やっぱり踊る人のクセや個性を生かした振付がしたいと思っています。「格好良さ」を見せるだけには作らない、その劇団に見合ったダンスはコンセプトになっています。
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- 確かに、劇団毎に振付のイメージが全然違いますね。
- 木皮
- うさぎストライプではダンストゥルグという役職を持っています。うさぎストライプの主宰の大池さんが、可愛い動きがほしいと言っていて。それが思いつける人として僕を横に置いているという感じですね。
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- そういうポジションなんですね。
- 木皮
- だから、気に入った動きでなければあっさりボツにされます(笑)。でも、気に入られれば「これだ!」となるので。
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- FUKAIPRODUCE羽衣では。
- 木皮
- 10代の時にお手伝いをしていまして、踊るようになってから糸井さん(作・演出・音楽)に声を掛けてもらいました。もともとの羽衣のダンスの振付って糸井さんが振付を考えてらしたんですが、踊る人の発想じゃないというのが気持ち悪くていいなと思っていたんです。如何にダンサーが思いつかないアイデアを入れられるかが勝負ですね。まさかこんなところでこれはしないだろう、みたいな。最近の羽衣のコンセプトとしては、「うまく踊れすぎずかつ下手になり過ぎず」というところを狙っています。10何人かの出演者が全員踊れて、人間賛歌をテーマにしている羽衣の雰囲気が発揮出来るように構成していますね。
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- 人間のクセと個性を生かす。
- 木皮
- 個性とクセを、嫌わないで愛するという事ですね。クセが魅力になるように。おかしくなっていれば直しますけど、基本的なベースはそういうスタンスです。
FUKAIPRODUCE羽衣
2004年女優の深井順子により設立。作・演出・音楽の糸井幸之介が生み出す唯一無二の「妙―ジカル」を上演するための団体。妖艶かつ混沌とした詩的作品世界、韻を踏んだ歌詩と耳に残るメロディで高い評価を得るオリジナル楽曲、圧倒的熱量を持って放射される演者のパフォーマンスが特徴。(公式サイトより)
FUKAIPRODUCE羽衣「Still on a Roll」
公演時期:2013/7/11〜28。会場:東京、香川、大阪の全国ツアー。
夢の組み合わせ
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- 新しく組んでみたい人はいますか?
- 木皮
- 具体的に挙げるのは少し恥ずかしいですが、先輩ですけど、快快の方々は気になります。集団創作という形をとっておられるんですけど、予想でしかないですけど、振付に対して結構コンセプチュアルなキャスティングをしているんです。振付がおそらくストーリーに噛む事がある。つまり、振付が外付けじゃない人たちとやりたいというのがあるんです。そういう劇団と仕事させていただいたら、きっととても楽しいなと思います。それから、羽衣のファンの方からミジンコターボの振付をやってくれという声も頂きました。
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- それはやってほしいですね。夢の組み合わせですね。
ミジンコターボ
大阪芸術大学文芸学科卒業の竜崎だいちの書き下ろしたオリジナル戯曲作を、関西で数多くの外部出演をこなす片岡百萬両が演出するというスタイルで、現在もマイペースに活動中の集団、それがミジンコターボです。最終目標は月面公演。(公式サイトより)
勘違いしないで
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- 踊る時に、お客さんの視線と向き合う時に何を考えますか?
- 木皮
- これまで単独公演を4回しているんですが、踊っている時の感覚として、「見られるシーン」と「見せるシーン」がスイッチする感覚があります。
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- というと?
- 木皮
- あえてお客さんと繋がらないで、お客さんに発見してもらうシーン。そのメリハリは意識していますね。僕のダンス作品では喋ったりアイス食ってたりして、結構マヌケなシーンが多いんです。
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- かなり冷静にダンス中の現在に向き合っている印象を受けますが、木皮さんご自身には何らかの手応えはありますか?
- 木皮
- 手応え。うーん、やっぱり無いですね。それは観客の感覚なので。「さっきはいい空気作れたな」と思っても、実際はそんな事一切ないだろうし。それは僕の勘違いだろうと思うんです。想像で観客の事を理解なんて、出来ないんですよ。そもそも、予想の組み合わせでしか演出は出来ないんだったら、実際に上演している時の手応えも当てにならないんじゃないかと思いますね。終わってから気付けばいいと思うんです。
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- 気構えとして素晴らしいと思います。私はこれまで、劇場が一つになっている状態というのが舞台芸術の至高の一つだと思っていますが、確かに、それを舞台上で感じて、何も出来なくなってしまうというのは恐るべき事ですね。
渋家について
- 木皮
- いま、渋家(シブハウス)というプロジェクトをやっています。僕は運営しているメンバーなんですが、月2万7千円で40人ぐらいが出資して、毎月22日にパーティーする、知り合いの知り合いならいつでも誰でも来て良いというアートスポットです。
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- 凄いですね。
- 木皮
- 美大出身の人たちが始めたんですが、映像・演出・俳優・アイドル・ニート・ダンサー・デザイナーなどなどが一緒くたになっています。地下はクラブスペースになっています。
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- 盛り上がりますね。美大のBOXみたいだ。寂しくなさそうでいいなあ。
- 木皮
- 集団創作を同時にやったりしています。クラブカルチャーとして、渋谷PARCOの2.5Dでシブハウス5周年パーティーをやりました。
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- 梁山泊みたいですね。
- 木皮
- そうなんですよ。
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- 苦労はありますか?
- 木皮
- ありますけど、あんまり気にしていません。それよりも楽しいんですよ。最初はマンションの一室でどんどん人を入れていったらどうなるか?というプロジェクトから始まって、4回の引っ越しを経て今の形になりました。
タネも仕掛けもないダンス?
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- いつか、どんなダンスが出来るようになりたいですか?
- 木皮
- 仕掛けが分からないようなものがやってみたいですね。手品みたいな。何でこれが出来るのか?結局、ダンスって動きだから理由もタネもある。タネも仕掛けもないダンスがやってみたいです。
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- 足が別の空間から出てきて関節と全く逆の方向に行って、かつタネも仕掛けもない、みたいな。それは、お客さんを驚かせたいから?
- 木皮
- それもありますけど、僕が見たいからですね。見たら驚くでしょうな(笑う)。やってみたいですね。
踊る
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 木皮
- オリンピックまでには海外に行けるようになりたいです。あとは、根を詰めなくても済むような環境作りがしたいです。
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- ダンスを踊るのは楽しいですか?
- 木皮
- 練習は楽しいですけど・・・楽しくはないか(笑う)創作過程は辛いです。行き詰まるし、踊る喜びだかじゃないから。
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- 例えば、どんな辛さがありますか?
- 木皮
- 具体的にはアイデアが出ないこと。思いついたアイデアも、自分が楽しめる事ばかりというとそうでもないので。仕事って何でもそうだと思うんですけどね。
羊皮の巾着袋
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- 今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントを持ってまいりました。
- 木皮
- やった。
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- 気に入って頂ければ幸いです。
- 木皮
- ありがとうございます(開ける)。うわあ、巾着袋だ。
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- 羊皮のものです。使っていただければ幸いです。
- 木皮
- これはですね、カメラを入れます。ありがとうございます。