したため#4「文字移植」
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、穐月さんはどんな感じでしょうか。
- 穐月
- 今はしたための「文字移植」の稽古のまっただ中です。実は最近、大阪から京都に引っ越しました。祖母の一軒家を借りてるだけなんですけど。今回東京から来てくれている多田さんはウチに滞在してて。晩ご飯が終わったらそのまま多田さんと台詞の読み合わせをしたり。家で稽古が出来るのが良いですね。
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- 幸福度高いですね!
- 穐月
- 凄い充実してます。
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- 何だか、合宿みたいですね。さて、いまおっしゃって頂いた「文字移植」。このチラシカッコいいですよね!モノトーンだけど情報量の多いこのデザイン、印象的なこの何かを言おうとしている4つの唇。
- 穐月
- これは今回の舞台美術を担当してくれる林葵衣ちゃんの作品で。彼女は美術家で、これ過去に発表した作品らしいんですけど今回「文字移植」用に同じ手法で作ってもらいました。ある言葉の唇拓なんですけど、何だと思います。
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- おお、何を言ってるんでしょうね。「うあうい」?「おあうん」?
- 穐月
- 私も最初解らなかったんですけど。是非劇場に来て謎を解いてもらえたら。チラシのデザインは岸本くんがやっているんですけど。
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- 美術作品とチラシと演劇公演がそれぞれ結びついているんですね。素晴らしい打ち出し方ですね。
したため#4『文字移植』
原作|多和田葉子 演出・構成|和田ながら 出演|穐月萌 岸本昌也 菅一馬 多田香織(KAKUTA) わたしはどうしてもこの〈小説〉を翻訳してしまわないといけないと島へ来てからそのことばかり考えているくせに実際にはまだ何もしていなかった。あと一日しか残されていないというのにわたしはまだ何をどう訳せばいいのか見当もつかずにいた。 多和田葉子『文字移植』より(講談社文芸文庫「かかとを失くして|三人関係|文字移植」) ある物語を翻訳するために訪れた島で、言語と言語のあわいで惑う"わたし"―― 言葉はどのように「移植」できるのか、その「移植」をおこなう者の身体とは、 どのような運動のさなかにあるのだろうか。 出演者の日々の生活のドキュメントから演劇をたちあげてきたしたためは、 2016年、テキストと出会う旅をはじめました。 アトリエ劇研創造サポートカンパニーとしての京都公演、 そして創作コンペティション受賞公演としての福岡公演、 したため初の2都市ツアーで臨むのは、日本語とドイツ語、 ふたつの言語を往復しながら精力的に活動し、文芸賞の受賞も続く 作家・多和田葉子の初期作『文字移植』(1993 年、『アルファベットの傷口』より改題)。 言葉と身体が発火するところへ。 ■京都公演〈アトリエ劇研創造サポートカンパニー公演〉 日程|2016 年6月10日(金) 〜 13日(月) 10日(金) 19:00*1 11日(土) 14:00/19:00 12日(日) 14:00*2/19:00*3 13日(月) 14:00*4 ポストパフォーマンストーク| 終演後、作品を軸に、演出・和田ながらが同世代のアーティストと おしゃべりしたり、みた人同士で感想をシェアする場を設けます。 *1 ゲスト 林葵衣(美術家、本作舞台美術担当) *2 ゲスト 守屋友樹(写真家) *3 ゲスト 中川裕貴(演奏家、音楽家) *4 「余韻の時間」をつくって、いっしょに作品をみた人たち同士で話しながら、 普段以上にじっくり作品を味わいます。(運営=「Listen, and...」プロジェクト) 会場|アトリエ劇研 >>access 〒606-0856 京都府京都市左京区下鴨塚本町1 TEL 075-791-1966 ( 月〜土 9:00-17:00) http://gekken.net/atelier/ ■福岡公演 〈FFAC企画 創作コンペティション「 一つの戯曲からの創作をとおして語ろう」vol.5 最優秀作品賞受賞公演〉 日程|2016 年6月18日(土) 〜 19日(日) 18日(金) 14:00/18:00 19日(土) 14:00*5 ポストパフォーマンストーク| *5 ゲスト 手塚夏子(ダンサー/振付家)、大澤寅雄(文化生態観察) 会場|ぽんプラザホール >>access 〒812-0038 福岡県福岡市博多区祇園町8-3ぽんプラザ4F TEL 092-262-5027 http://pomplazahall.jp/ ■料金 一般 前売2,500円 当日2,800円 学生 前売1,700円 当日2,000円 高校生以下 無料 ※各回、受付は開演の30 分前より開始いたします。
どんな公演になりそうですか?
- 穐月
- そうですね、私がこの1年関ったしたための公演とは違う感じになると思います。
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- これまでとは違う?
- 穐月
- まずビジュアル的に違うというのは大きいです。私が出たのは素舞台で普段着で自分の言葉で喋るというのが多かったけど、今回は林葵衣ちゃんの美術も印象的だし衣装も清川敦子にカッコいいのを作ってもらうんです。これまでになく武器をたくさん持たせてもらってる感じですね。素舞台に丸裸で立たされるのではなく、鎧を。
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- この作品のどんなところが好きですか?
- 穐月
- この作品は多和田葉子さんの小説が原作なんですけど、その小説には読点がなくて。それが気持ちの良いリズムでだらだら続くんです。冒頭で風景描写が続くんですけどその文章の波が気持ちよくて。私、最初良いリズムに酔わされて綺麗な風景を想像してしまったんですけどよく読んだら別に綺麗な風景なんて描写されてなくて。どこかダマされたというか。こういう文体は好きだなと思いました。
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- 穐月さんをダマす文体なんですね。今回の舞台にその冒頭は出てきますか?
- 穐月
- 出てきます。私も楽しんでやっています。
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- 原作を読んできた方が楽しめそうですね。さて、「文字移植」は物語のある小説なんですよね。では本当にこれまでのしたためとは違いますね。
- 穐月
- そうですね。物語のある小説ですけど、どう演劇にするのか悪戦苦闘はしてます。この小説で常に物語りを語っているのは翻訳家である「わたし」という主人公なんですけど、「わたし」もある小説を翻訳することに悪戦苦闘していて。「わたし」と私達の立場が同じなんだと気づいたとき、どう舞台に立ったらいいのかちょっと先が見えたような気がしました。
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- つまり、その「わたし」に付き合い続ける作品なんですね。したための作品は、人間の行動そのものについての思考を挑発するところがあるように思います。以前拝見した作品「わたしのある日」は人間の日常行動、とりわけ仕草についてをその人自身の生活から追求する、みたいな観点があって。私はどこまでその点を考えたことがあるのかを問われているような気がして、非常にスリリングでした。
- 穐月
- そうでしたね。今回の作品も、わざわざ虫眼鏡で視なくてもいいものを虫眼鏡で視てしまうがために、全体をどう説明すれば良いのか収拾がつかなくなって何でか最終的にずっ転けちゃう人達みたいな、例えばですけど。その感じは「わたしのある日」と共通してるような気がします。それと今回の「文字移植」で「わたし」が翻訳している小説自体が、小説と呼んでいいものかどうかさえ見当もつかないものらしくて。どう訳す?ってずっと悩んでるんですけどそれと同じ距離感で、どう演劇にする?て悩みながらここまで来ている気がします。その作り方が案外楽しいなって今回思ってます。
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- 理解する術がないものに対して向き合い、そして迷う。それは楽しそうですね!
- 穐月
- 作り方が分からないものって、いいですよね。
誰も見たことがないものを作っている
- 穐月
- そういう意味ですごく良いテキストだなと思いました。作り方から迷うのって面白い。
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- 作り方から作る作品。
- 穐月
- こんな「かっこいい」今まで知らなかった!ていうものに出会ったときにすごくときめきます。もう出尽くしたとか諦めずにそういうもの作れたら良いなとか思います。
気がついたら踊っていたい
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- 穐月さんの事をこれまでダンサーだと間違って認識してたんです。何でだろう。
- 穐月
- 全然ダンサーじゃないです。でも、ダンサーだって認識されたのはうれしいかもしれないです。台詞を喋っている時でも、あわよくば体が踊りだす瞬間があればいいな、みたいな気持ちがあります。他人の台詞によって、でも同じく。
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- 体から動きが飛び出したがっている?
- 穐月
- さて踊るぞっていう意図的なことをしたいのでは無いのですが。
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- 「ハイアガール」 の時の穐月さんのお姉ちゃん役はそんな感じでしたね。
- 穐月
- ありがとうございます。
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- 自ら出たがっているその動きとは何なんでしょうね。その人の経験か、時代のもつうねりなのか、もっと大きい自然なのか。人格を無視した話ですが、そういう事はもちろんあるでしょうね。巫女を依代にするように。
- 穐月
- 私は踊るというのがどういう事なのか良く分かってないですけど。台詞を脳味噌につめこんでふぃーって出すだけでは駄目で。台詞がフィットしたとき身体も動いてくれる感覚はあります。
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- 本番にはお客さんがいて、それぞれに時間軸を持っています。舞台上で、言葉と身体を一致させ続ける事で、それぞれの時間に追いつく可能性がありますね。
- 穐月
- 稽古場で大ヒットすることはあるんですけどね。繰り返せるようになりたいですね。お客さんに伝わらないと意味が無いので。
夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「ハイアガール」
公演時期:2016/1/20~24。会場:京都芸術センター講堂。
わたしだけの観客
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- 穐月さんは、どんな表現が出来るようになりたいですか?
- 穐月
- 演劇をやるんだったらありえない身体になりたくって。何があったらそうなるの、でも何かわかるわそういう感じみたいな。ある動きが過剰になるとか、多分そういう事でいいんですけど。
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- なぜそうなりたいんでしょうか?
- 穐月
- 何でですかね・・・演劇だからですかね?
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- 子供の頃はどんな子供でしたか?
- 穐月
- さっきの質問何でしたっけ?
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- 「どんな表現が出来るようになりたいですか?」
- 穐月
- ああ、答えられなくてすみません。子供の頃は演劇が嫌いだったんですよ。おやこ劇場とかありましたよね。見にいかされる奴。ああいうのが凄い嫌いで。他の子達と楽しく観てる空間がイヤで、自分は絶対、騒ぎたくないみたいな気持ち。大人になって演劇を見るようになってからはそういうのは薄れていったんですけど、でも完全に無くしてはいけないと思っています、嫌いだという感覚も。
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- 京都造形大に入ったのはどのような理由でしたか。
- 穐月
- 芸大に入りたくって画塾に通って、でも何を学べばいいのか分からなくて。画塾の先生に「演劇は総合芸術だからきっと楽しいよ」と言われてそのまま。演劇なんて何も知らないまま入って。でも大学で見させられた演劇がめちゃくちゃカッコいい奴ばっかりで。演劇ってこういうのもあるんだ知らなかったって。地点とかコンテンポラリーダンスとか教えてもらって。
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- ご自身を揺さぶった価値観との出会い、ですね。それに出会えた事を、どう思っていますか?
- 穐月
- 感謝しています。
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- 私はどうだろう・・・最近フルハウスを見てるんですけど、家族の話って面白いですよね。アメリカの家庭なんですけど、どこかお互いへの距離とか見えない部分も作り込まれてる。
- 穐月
- 面白いですよねフルハウス。私、アルフも好きでした。観客の声が聞こえるのがいいですよね。「オー」とか「フー」とか。
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- あれ、よく聞いていると、実際のお客さんの声っぽいんですよ。完パケしたものを上映して、そのリアクションを録ってるっぽいんですよどうも。
- 穐月
- 日本にはない発想ですね。面白いですよね。
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- 少なくとも、日本のドラマではあの演出は想像も出来ない。なぜかは分かりませんが。穐月さんは、その完パケ上映に招かれていたらどんな感じ?
- 穐月
- あー・・・まあ、外国人の反応は違いますからね。でも、今行ったら「フー」って言うと思います。ちっちゃい頃は出来なかったと思います(フルハウス好きでしたけどね当時から)。子供の頃は本当に乗れなくて。ノってる自分が嫌いでしたね。すごく、自分を傍観してるところがあって。今は大丈夫です。この間もライブに行ってすごくノれたし。変わってきましたね、観客である事に慣れてきた。
質問 近藤 和見さんから 穐月 萌さんへ
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- 前回インタビューさせていただきました、VOGAの近藤和見さんから質問をいただいてきております。「僕はよく、海に行く妄想をするのですが、海と山どちらを思い浮かべますか?」
- 穐月
- あ、山ですかね。私、小さい頃から山によく行ってたので。父と母が山登りが趣味なので、連れられて行ってました。
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- どんな思い出がありますか?
- 穐月
- 初日の出を見に雪山に行くのが恒例で、だから紅白歌合戦を見た事が無くて。紅白観てみたいなと思ってました。あと、雪山に行く格好が自分的にはダサくて、家族4人でそういう格好をするのがイヤでした。
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- なるほど。
- 穐月
- でも雪山の景色はすごく綺麗だったので今でも思い出したりします。
似合わない事もやってみたい
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 穐月
- ええと、ノープランですね。色んな作品に出れたら良いなと思ってます。バリバリのお芝居とかもやってみたいし、ダンスもやってみたいです。似合わない事もやってみたいなと。
ヘアバンド
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 穐月
- ありがとうございます。(開ける)うわ、可愛い。実用的。
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- 宜しければお使いください。