演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

北尾 亘

演出/振付/ダンサー。

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26歳の北尾亘が探しているもの

__ 
今日はどうぞ、宜しくお願いします。北尾さんは、最近はどんな感じでしょうか。
北尾 
こちらこそ、よろしくお願いします。僕はいま26歳なんですけど、今年に入ってから色々とお仕事を頂いておりまして、ずっとばたばたとしています。26歳としては、そろそろ将来のことを考えて動いていかないといけないなと思っているところです。一日のなかで、考える時間が多いですね。ネガティブな思考になりがちなので、後ろ向きになってしまわないように気を付けたいです。
__ 
私も基本的にはネガティブなので、お気持ちは分かります。いつか、ここから抜け出せるでしょうか。
北尾 
それを信じて行きたいですね。今年の残りがどうなるかで決まるように思うんです。あと少し、駆け抜けたいです。
Baobab

主宰:北尾亘が全作品の振付/構成/演出 所属メンバー:目澤芙裕子・米田沙織と共に企画/運営を行う。作品毎にダンサーや役者の垣根を越えた人材を募り、経験の有無や得意不得意に関わらず集まった人をみな踊らせてしまう大胆なダンスの扱い方が特徴。コミカルでいてリズミカルな独特の躍動感を持つ振付と、それぞれの関係性にまで手を伸ばす演出を織り交ぜ、[時に喋り歌い 沢山笑ってたまに泣く] 強いパフォーマンス性を武器に身体の先に人間を描く。出演者それぞれの本音として溢れ出る身体・言語を舞台上に充満させ、その熱が客席まで侵食していくような表現を目標としている。 KYOTO EXPERIMENT (京都国際舞台芸術祭)/ ダンス・インパクト吉祥寺/PLAY PARK~日本短編舞台フェス~/こまばアゴラ劇場 サマーフェスティバル 汎-PAN- 等様々なフェスティバルにも積極的に参加し、活動の幅を広げている。またパフォーマンスと観客のボーダレスな関係を求め、作品創作だけでなくパフォーマンスイベントの企画やクラブイベントへの出演なども行う。●トヨタコレオグラフィーアワード2012「オーディエンス賞」受賞●コンドルズ振付コンペディション2010(CCC) アホウドリ賞(準グランプリ)受賞・KYOTO EXPERIMENT(京都国際舞台芸術祭) フリンジ企画 3年連続参加(公式サイトより)

Baobab二都市往復ツアー2013「家庭的 1.2.3」

__ 
Baobab「家庭的 1.2.3」大変面白く拝見しました。KYOTO EXPERIMENT公式プログラムでしたね。完全に個人の感想ではありますが、2012年の「~飛来・着陸・オードブル~」 の時にも感じたんですが、恋をさせるのがうまいですよね。
北尾 
ありがとうございます。恋。それは、舞台上の誰かに、ですか?
__ 
特定の誰かにという訳じゃないですけど、おそらく私より10歳ぐらい離れた彼らが、ただ元気に踊っているだけじゃなくて。彼らが軽やかに踊っているのを見ていると、中学生の時にクラスの女子に抱いていたような、「届かなさ」をかき立てられたんですよ。変な切り口で申し訳ないんですが。
北尾 
いえ。僕は恋愛要素というのを考えたことはないんです。好みもラブストーリーではないんですが、でも、作品をご覧になっていただいてそう思われたということは、僕の目指しているダンスに触れていただいたからなのかな、と。
__ 
というと。
北尾 
出演者一人一人の個性や意識や人格をあぶりだしたいなと常々考えているんです。ある種、人間味というんでしょうか。身体だけ、技術だけでいうのであれば、もっと上手い人がやればいい。そういうダンスを作るのではなく、人のにおいとからだをフューチャーしたダンスが作れればと考えています。
__ 
その人の人格の魅力を引き出すんですね。分かります。彼らが望んでそこにいるような、そんな気がするんですね。みなさんもちろん上手なんですけど、頑張っているようには見えない・苦労を感じさせない、そんな感触。
北尾 
単にフォーメーションのため、作品の頭数としてダンサーを扱いたくないんです。人間味こそが面白いと思っているんです。
Baobab 二都市往復ツアー2013「家庭的 1.2.3」

公演時期:2013/9/14~16(東京)、2013/10/19~20(京都)。会場:d-倉庫(東京)、元・立誠小学校 講堂(京都)。

Baobab二都市~フェスティバルツアー2012~飛来・着陸・オードブル~

公演時期:2013/9/26~27(東京)、2013/10/19~21(京都)。会場:こまばアゴラ劇場(東京)、元・立誠小学校 講堂(京都)。

仮定的家庭∋家庭的仮定

北尾 
そういう意味で言うと、今回の題材が「家庭」でしたので、それぞれの人間味をより引き出せた部分もあったと思います。それと、裏のテーマとして「仮定」があったんです。たとえば、お母さん役として踊ってもらった人には母性であるとか内面であるとか、そこまで掘り下げないようにしてもらいました。ダンスの良さが損なわれかねないと考えたからです。だから、仮のお母さん。そういうキャラクタライズをしていました。
__ 
だから、振りの良さが生きて、観客が家族について考える余地が生まれたのかもしれませんね。
北尾 
そういう余白のある作品が作れたとしたら嬉しいです。舞台上で、「お母さん」とか「お父さん」と呼びかけ合う。それだけで想像に奥行きが生まれるといいなあと思っていました。

踊る影たち

__ 
構成として、最初はアップテンポなダンスがあって、そこからだんだんと静かなシーンが増えてきて、ソロダンスのシークエンスになっていって、という流れでしたね。「家庭」というテーマを与えられた作品だったからか、家庭内孤立を強くイメージしました。家庭内だけどだんだんと離れていく。しかし、赤ちゃんの誕生で後半にはまとまっていく。
北尾 
大まかにいうと、その前中後編の構成が「1.2.3」のイメージなんです。前半ではキャラクタライズがあり、集団性を描いて、HIPHOPのシーンで情報量と運動性の強いダンスを見ていただき、そこからソロのダンスに移行していく。孤立している人が見えてくる。この流れをイメージして作り始めました。
__ 
そう、集団で集まっているところから、だんだんと一人離れていく。
北尾 
一年に一度、大阪の実家に親戚一同で集うのが僕にとっての団らんなんです。この作品のタイトルを考えていた時期、祖父が亡くなって家を取り壊したんです。集まれる場所が無くなったということに喪失感を感じました。あの家が僕ら親戚をつなぎ止めていた場所だったんです。それを抽象的に表現したかったんですね。
__ 
私個人の親戚たちも実は結構ドライな人々なんです。なのに、作品を通してある寂しさが生まれましたよ。
北尾 
当初は家族が離散する、みたいなイメージで作っていましたが、それではさすがに寂しすぎるなと思いまして。3ステップ目では全員集うという構成になりました。ですが最後には、赤ちゃんの代わりとして扱っていたシャツを「シャツなんですけどね!」と暴きました。彼らが家族みたいな事をしていたと、全て嘘だと、1ステップ目のキャラクタライズも含めてメタフィクションだったとバラして。そこから、全員がもつれあいながら同じ振りを踊るラスト。現代社会において家庭から出た人々の混迷を見せられればいいなと思っていました。動かされているのか、もつれているのか分からない、家庭の外に出た人々ですね。
__ 
それは、都市部にいる大体の若者がそれに当てはまる筈です。だから、あれは僕らそのもののダンスだったんじゃないかなと思います。

突然さ

__ 
恋愛についてもうちょっと。去年拝見した「~飛来・着陸・オードブル~」で、ダンスホールで社交ダンスを踊るシークエンスがありました。ダンスが終わってから、全員で集合写真を撮るまでちょっとフリーになる時間があって、あるダンサーの方がすごくナチュラルな流れで別のダンサーとキスしてたんですよ。それはもう自然に。あれは確かに、恋愛の持つ飛翔力を象徴するかのうような・・・
北尾 
(笑う)
__ 
びっくりしたんです。盛り上がって、演出の上で演技としてキスするならともかく、あんまり作品そのものとは関係のない場面でキスが行われる。
北尾 
あの作品は、ざっくばらんに色々なダンスをオードブルの盛り合わせみたいに提示するのを目的にしていたんです。あのシーンに関してはギャグ色を強めたいと、ここでチークを踊り始めたら面白いなあと、さらに歌い出したらいいんじゃないかと。そういうムードを作って、その後にクールな群舞に移行しようと思っていました。キスをしだしたのは福原冠さんです。「練習の時にキスをしたらしい」という噂がスタッフから流れ、確認したところ「いやあ、ちょっと真剣にやらないといけないと思って・・・東京版を超えられないと思って。した」みんな触発されて、瞬間瞬間の積み重ねを大事にする作品だったのに、ちょっと意識がそれたのか。そこからみんなし始めたという事です。僕は黙認しました。
__ 
あのキスは、本筋から離れているからこそ、価値があるのかもしれない。正直に言うと、悔しさを感じました。あの場所にいれたらなあ、と久々に思いましたね。あっさりともの凄い事が実現する場所。そこに着地したダンサーたちがはっきりと存在している。

誰何

北尾 
今回の作品は、舞台上に立つことにまっすぐになりすぎてしまうと、見せる者としてちょっとダサいかなあと思う部分があって。ダンサーとしては誠実に身体を投げ出すというのが大前提なんですけど、何かの役として真剣になりきっているのではなくて。だからあまりガチガチに役柄を固めず、家族内での役割が変わっていくような演出にしました。
__ 
例えば「お母さん」「お兄さん」という強い、具体的な代名詞をダンサーに投げかけた時に、不自由さと同時にイメージの広がりと同時に不自由さも得られる訳ですけど、その辺りは上演を通していかがでしたか?
北尾 
東京公演を経て京都公演では、キャラクタライズ・集団性(有象無象)というものを強めた感じで改訂しました。踊る時には、その必然性を言い訳だと思っているんです。踊るというのはすごく非日常的な行為だと思っています。路上で、ダンスが始まる事はないと思っています。そことの距離を何か考えたいと思って、言葉を扱ったりしているんですね。お客さんとの壁を取り払う、一つのてがかりとして。すごく難しいんですけど。そこで、家族という身近なテーマをストレートに扱いました。作用としてはうまくいったんじゃないかなと思っています。仰って頂いたように、家族の事を想起していってもらったらと。

__ 
いつか、どんなダンスを踊れるようになりたいですか?
北尾 
自分の身体に対するコンプレックスがずっと付きまとっていまして。それを払拭してくれたのがコンテンポラリーダンスだったんです。やっぱり身体が小さいという事は、良い点もあるんですが、身長が大きくて手足も長いダンサーに出来る事が僕には物理的にはムリなので。そういった、ビジュアルだけじゃない、踊るだけで醸し出せる何かや、見ている人の心を揺さぶれる表現、目に見える身体のみじゃなくて、背景に何かが浮かびあがるようなダンスを大舞台で踊りたいと思っています。遠い目標だとは思いますが。集団創作をしている今だからこそ、自分の身体への認識を深めて、磨いていきたいですね。
__ 
今後、この人と一緒に創作してみたいという方はいますか?
北尾 
一番遠い方という意味では、BATIKの黒田育世さん。一ファンとして素晴らしい方だと思います。ただ、自分のダンスの思考としてはかけ離れているなと。でも、いつか出会って、あの人の表現と思想に触れてみたいと思っています。それから、一緒に作品を作ってみたいという意味ではイデビアン・クルーの井出さんという方。大変感触のいい作品を作られるんですよ。ダンス創作ではないですけど、今回初めて楽曲提供してもらって。やっぱり音楽のすり合わせから始めるというのは大変な作業なんだなあと。これまで多く使ってきた民族音楽系のビートの早い音楽を、ダンスと一緒に作っていく事が出来たらなと思っています。まだ、出会ってはいないんですけど。

帰りの電車のなかで

__ 
これは自分を変えた、という経験はなんでしょうか。
北尾 
僕は桜美林大学に入るまで、ミュージカル俳優を目指していたんです。入学した年の冬に野田地図の「ロープ」という作品を見させてもらいまして、衝撃を受けたんですよ。ミュージカルこそがエンターテイメントで最も輝くジャンルだと思っていたんですが、歌もダンスもなくても観客に迫るお芝居があるんだと。その時は何日も考え続けていたんです。僕の考えを打ち崩されたというか。
__ 
何日も考え続けた。それはどんな気分でしたか?
北尾 
その当時は気持ち悪かったですね、というか、何なんだろうとずっと考え続けてしまう。生活にも支障が出るくらい、ずっと考えていました。今考えると、あれは心地良い事だったんだと思います。
__ 
きっと幸せな事だと思うんですよ。表現者って、どうあれ、そういう体験を始めの頃にするんだと思っています。

質問 小林 欣也さんから 北尾 亘さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂きました小林欣也さんから質問です。「最近ハマっている健康法はなんですか?」
北尾 
僕は結構怠惰なので、あまり意識することはないんですけど・・・最近、家族でスーパー銭湯の岩盤浴に行く機会がありまして。いい時間でしたね。とても貴重だなと。

踊る

__ 
北尾さんにとって、魅力的なダンサーとは。
北尾 
身体だけじゃなくて、魂を捧げているように踊る人ですね。僕は振付をする時、テクニックとビジュアル面と、ダンサーの体幹のバランスを考えてやっているんですが、今年ソロ作品を一本作った時に客観性がどんどん入ってきたんですよ。振り払いたいなあと思っても中々出来なくて。そうした視点を払拭して踊れる方は凄いなあと思いますね。
__ 
結論ありきで舞台に出て行くと、観客と対立を起こしかねない、みたいな事を小林欣也さんと話していまして。日常生活も同様、対話する時にこちらが結論を念頭に話すと上手くいかない。相手と何かをやりたいんだったら、そういう姿勢を取らないといけないんだろう、と。
北尾 
でも、見られる事についての意識も持たないといけない。それを超えたところに、魂で踊れるダンサーの姿があるんじゃないかなと思いますね。

Baobab

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
北尾 
アフタートークでも言わせてもらったんですが、今回の作品を通して言葉と身体の関係、そのリスクの面を痛感しました。今一度、身体の方に立ち返っていきたいなと。Baobabも4・5年目と段々と規模が大きくなりつつあるんですが、常々情報量の多い作品を作ってきたんですが、もう少し焦点を絞ったやり方が出来ないか。そして、自分にとってダンスが何なのか、そうした視点を作品の中に芽吹かせたいなと。それが重要な作業だと思いますので。なので、Baobabとしては充電期間に入りたいかなと思っています。
__ 
ご自身にとって、ダンスを見直すと。
北尾 
そうですね、歳相応に傑作を作りたいですね。でも僕にとっては、作ってきた作品はみんな財産なんです。死ぬ時にはその作品を胸に抱いて死んでいきたいと思っています。全ての作品が一つの大きな樹木を構成していて、この作品はこれこれこういう構造の建築物で、これらの作品群が一つの幹を構成していて。そんなイメージの、まるで国を作るような。そんな作品創作をしていきたいなと思っています。

ライオンのソフビ

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントをお渡しようと考えていたんですが、申し訳ありません、ちょっと急いでいたため持ってくるのを忘れてきてしまいまして。
北尾 
はい。
__ 
ライオンのフィギュアなんですが・・・。
北尾 
あ、ライオン!僕、小さい時からライオンが好きな動物なんですよ。狩りはメスにさせて自分は寝ている、でもあの風貌という。去年までグリグリのパーマを掛けていたので、似ていたんですよ。
__ 
後日、お送りさせて頂きます。
(インタビュー終了)