単純作業
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、宗岡さんはどんな感じでしょうか。
- 宗岡
- 最近は結構、部屋にひきこもって編み物をしたり、ミシンを使ったりと一人で作業する事が多いです。劇団しようよ に出演した時に、共演したピンク地底人2号さんに棒針編みを教えてもらって。北九州公演の時とか、ずっと二人で編んでたりしてたんですよ。
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- どんなものを編みますか?
- 宗岡
- 帽子とか、シュシュとか、ルームシューズとか、バッグも編みました。
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- 集中出来る単純作業という事かな。編み物をしているとき、何を考えていますか?
- 宗岡
- あまり何も考えず、集中してる事が多いですけど、これバイト先の人に行ったら引かれたんですけど、針を差したり抜いたりをずっと続けているとだんだんちょっといやらしい気持ちになってくるんですよ(笑う)本当に頭おかしいと言われて、言わないようにしてるんですけど。
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- 針と布の交差が何度も反復して、それが一つの形を生むという意味では同じでしょうね。
- 宗岡
- あ、ホントだ。ホントだホントだ。
劇団しようよ
2011年4月、作家・演出家・俳優の大原渉平と、音楽家の吉見拓哉により旗揚げ。以降、大原の作・演出作品を上演する団体として活動。世の中に散らばる様々な事象を、あえて偏った目線からすくい上げ、ひとつに織り上げることで、社会と個人の”ねじれ”そのものを取り扱う作風が特徴。既存のモチーフが新たな物語に〈変形〉する戯曲や、想像力を喚起して時空間を超える演出で、現代/現在に有効な舞台作品を追求する。2012年「えだみつ演劇フェスティバル2012」(北九州)、2014年「王子小劇場新春ニューカマーフェス2014」(東京)に参加するなど、他地域での作品発表にも積極的に取り組む。野外パフォーマンスやイベント出演も多数。2015年「第6回せんがわ劇場演劇コンクール」(東京)にてオーディエンス賞受賞。同年よりアトリエ劇研(京都)創造サポートカンパニー。(公式サイトより)
宗岡ルリ一人芝居「撲滅ならず今日」
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- さて、宗岡さんの一人芝居「宗岡ルリ一人芝居「撲滅ならず今日」」。このチラシのグラビアについては後で伺っていくとして、原案が3つの漫画作品ですが、これは朗読劇という形なのでしょうか。
- 宗岡
- いえ、完全にお芝居で。物語がメインになる訳じゃないんですけど。
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- あ、そうなんですね。あまり想像が付かなかったです。
- 宗岡
- 元々一人芝居に興味があって。自分が脚本を書くんだったら絶対この3作品が入ってくるほど、自分の元になっていると思うんですね。影響を受けて作品を書くぐらいだったら、原案として。
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- チラシに書いてある文章からは、「あなたと交じり合う」瞬間をずっと求めている自分がいるという印象を受けます。そういう宗岡さんを描きたいという事ですか?
- 宗岡
- 主題は、演じるという事だと思っています。だったら「演劇と私」って文章でも書いてろよって感じかもしれませんけど(笑う)。この3つの本の主人公も何かになろうとしているんですね。例えばこの「pink」(岡崎京子)の主人公は、昼はOLをして夜はホテトル嬢をしていて。それは自分から望んでやっているんですが、そういうカラっとした感じが好きなんです。それからこの「バナナブレッドのプディング」これは中学生の頃から好きで。
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- どんなお話なのでしょうか。
- 宗岡
- 大人になれない女の子の話で、両親から精神病院に入れられそうになって、お友達の力を借りて偽装結婚するんですね。「世間に後ろめたい思いをしているゲイの男性が好き」だとか言って、彼のカーテンになるという。でもその友達の策略で、男性は別にゲイではなくて。
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- 要するに、わちゃわちゃする話なんですね。
- 宗岡
- そうです(笑う)でも、憧れなんですよ。この主人公の女の子みたいになりたいと思って今まで生きてきた部分があります。大島弓子さんの作品はどれも可愛くて、言葉遣いとかが本当にキレイで。
宗岡ルリ一人芝居「撲滅ならず今日」
公演時期:2013/3/1〜10。会場:『わたしの部屋』。
わたしの舞台暦
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- 宗岡さんが演劇を始めたのは大学から?
- 宗岡
- 西一風 からです。高校の頃は演劇部が無くて、美術部と科学部と数学研究会に入ってたんですけど、演劇にはずっと興味があって。大学に入って、新入生歓迎の立て看板が素敵で、ビアズリーのサロメの絵をパロディにしたものだったんですよ。サロメや三島由紀夫の作品みたいなものがやりたかったので、あ、ここだと思ったんです。
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- 西一風の何年かはいかがでしたか?
- 宗岡
- 本当に楽しかったです。2回生の春に辞めちゃったんですけど、その時3回生だった市川さん の作品が凄く好きで。
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- それから悪い芝居 やサワガレ やZTON や努力クラブ に出演されましたね。参加していて思い出深い作品は。
- 宗岡
- やっぱり悪い芝居さんの「キョム!」 だったかもしれません。唯一、最後まで不貞腐れずにやった作品で、いやいつも真面目なんですけど。元々、京都に来て初めてみた芝居が「嘘ツキ、号泣。」 だったし、山崎さんは西一風の先輩なので。有難かったです。
劇団西一風
劇団西一風は立命館大学を拠点に活動を行う演劇サークルです。1985年、越あゆみ氏を筆頭に創立されて以来、「内的爆発」、「身体的速度」、「独創性」をモットーに、京都で独自の表現方法を模索し続けてきました。オリジナルの脚本を使用した様々な表現活動は、大きな反動を呼ぶこともあります。劇団名の由来は『関西を吹き抜ける一陣の風』。本公演は年に三回、春季・夏季・秋季に行われ、その他有志によるプロデュース公演などの活動も精力的に行っています。(公式サイトより)
市川タロ
「デ」。2011年、市川タロの個人ユニットとして活動開始。場所と記憶を俳優の身体を通しながら見つめ直すことを模索する。過去の活動に2011年10月『ルーペ/私のための小さな・・・・・・』。(公式サイトより)
悪い芝居
2004年12月24日、旗揚げ。メンバー11名。京都を拠点に、東京・大阪と活動の幅を広げつつある若手劇団。ぼんやりとした鬱憤から始まる発想を、刺激的に勢いよく噴出し、それでいてポップに仕立て上げる中毒性の高い作品を発表している。誤解されやすい団体名の由来は、『悪いけど、芝居させてください。の略』と、とても謙遜している。(公式サイトより)
サワガレ
「オルタナティブスタンダード」な作品に“非日常の中に片足を突っ込んだ曖昧な感情”を紛れ込ませ、京都の片隅から宇宙に向けて発信している集団。客観的に世の中をとらえたシニカルな作風でありつつも「フィクション性」「エンターテイメント性」を意識しながら独自の世界観を描き出す。スローガンは「謙虚に且つ虎視眈々と。」2012は原点に立ち返り、ちゃんとサワガレますので、どうぞお騒ぎください。(公式サイトより)
劇団ZTON
2006年11月立命館大学在学中の河瀬仁誌を中心に結成。和を主軸としたエンターテイメント性の高い作品を展開し、殺陣・ダンスなどのエネルギッシュな身体表現、歴史と現代を折衷させる斬新な発想と構成により独自の世界観を劇場に作りあげ、新たなスタイルの「活劇」を提供している。(公式サイトより)
努力クラブ
元劇団紫の合田団地と元劇団西一風の佐々木峻一を中心に結成。上の人たちに加えて、斉藤千尋という女の人が制作担当として加入したので、今現在、構成メンバーは3人。今後、増えていったり減っていったりするかどうかはわからない。未来のことは全くわからない。未来のことをわかったようなふりするのは格好悪いとも思うしつまらないとも思う。だから、僕らは未来のことをわかったようなふりをするのはしない。できるだけしない。できるだけしないように努力している。未来のことをわかったふりをしている人がいたら、「それは格好悪いしつまらないことなのですよ」と言ってあげるように努力している。(公式サイトより)
悪い芝居vol.11「キョム!」
公演時期:2010/12/18〜26(大阪)2011/1/14〜16(東京)。会場:精華小劇場(大阪)駅前劇場(東京)。
悪い芝居vol.11「キョム!」
公演時期:2009/4/16〜20(京都)、2009/5/5〜6(東京)。会場:ART COMPLEX 1928(京都)、サンモールスタジオ(東京)。
抵抗
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- 今回の一人芝居で演劇を辞めるという事ですが、もし伺えるのであれば理由を教えて下さい。
- 宗岡
- 言うとアレなんですが・・・あまり興味が無くなってしまったんです。稽古がしんどくて、でも本番が楽しいからまた続けようと思えるんですけど、最近は本番も面白く思えなくて。むしろ、家で作業したり本を読んだりとかの方が楽しくなって。
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- なるほど。
- 宗岡
- 絵画や写真の人ともっと関わりたいと思っていて、私が元々好きだったジャンルの方々と交流をしたいので、一旦お芝居を離れようと思っています。
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- 幸運を祈っています。もしお芝居で身につけたスキルがあるんだとしたら、それが役に立つと思いますか?
- 宗岡
- 元々人と関わるのが得意ではないんですけど、演劇を通して、色々な人と関わりを持てるように自分からアプローチを掛けることに抵抗がなくなったと思います。
質問 川北 唯さんから 宗岡 ルリさんへ
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- 前回インタビューさせて頂きました、オセロット企画の川北唯さんから質問です。チラシのグラビアの話になったんですが、「色気を出すにはどうすればいいですか?」
- 宗岡
- 可愛らしい質問ですね(笑う)私だってあんまり、なんですけど意識するときはします。tabura=rasaという劇団に出演したとき、その時は舞台上に下着で出てたんですが、「色気がある事をさせたら輝くんだな宗岡さんは」って高田さんに言われました。色気を出すのって恥ずかしいんですけど、恥ずかしがらずに出して行ったら自信が付くと思うんですよ。
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- 恥ずかしがらないで、一歩踏み出してみようと。
- 宗岡
- 何だか悪い事を薦めているみたいですけど(笑う)。
近づけない2mm
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- このチラシの文章が気になりますね。「どうやっても近づけない2mmは、切なさの距離。海と空、月と地球、舞台と客席の距離」。
- 宗岡
- それを読まれるの、何だか写真を見られるより恥ずかしいです。
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- 他人へのアプローチが苦手な宗岡さん。このチラシを作ったとき、近づけない2mmに対して強く意識していたと思うんですが、その距離に対してどう思っているのでしょうか?
- 宗岡
- 大事な事だと思うんです。その2mmって、手を繋いだ時、微妙に組織が交じり合うという話を聞いた事があって。
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- マジですか。
- 宗岡
- ホンマかどうか分からないんですけど、それが離れる時の切なさやロマンチックが好きで。これは嶽本野ばらという人がエッセイで書いてたんですけど、「月と地球は惹かれ合ってるから、海で波が寄せたり引いたりする。それは切なさを目にする事だ」と書いてて。そういう儚い関係に惹かれます。
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- 地球も月もそれぞれ重力を持っているから、引力と斥力が引きあっている。それを秘めた宗岡さんが見れるという訳ですね。
- 宗岡
- でも、ちょっと嫌な気持ちになるかもしれません。お客さんを嫌な気持ちにしたいというのもあるんです。想像通りのものが出てくるより、リアルにもっと近づきたくて。演劇の虚構性が嫌いで、でも全て制御されていないのも嫌なんです。いかに私が制御しながら、セーブしながら、お客さんをハッとさせる瞬間を作っていけるかを考えています。
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- 宗岡さんが主導権を握っておきたいという事?
- 宗岡
- そういう指揮者みたいな事ではないですけど、観客として見た時に予想しないハプニングが起こってわたわたする役者を見た時は意地悪な気持ちになるんです。そうじゃなくて、あえてやっているというぐらいの。このチラシだって、私の性格の悪さとか、人との関わりの苦手さとかがないと成立しないと思うんですね。ハプニングがあってもあえてやっているという構造がかっこいいと思うんですね。岡村靖幸さんみたいな、笑えるぐらい・痛いぐらいのパフォーマンスに、かっこ良さを感じるんです。
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- それに憧れを持っている。
憧れ
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- 宗岡ルリ一人芝居「撲滅ならず今日」。このタイトルの意味を教えて下さい。
- 宗岡
- いつも死のう死のうと思っているんですけど、死なないし死ねないじゃないですか。四十ぐらいには死ぬと思うんですけど、けど結局は九十まで生きてるんじゃないかなと。私の祖父がまさにその通りで、四十の時に子供を集めて「俺はもう死ぬからお前たち頑張れ」って言ってたのに93まで生きて(笑う)。いつも終わりたい終わりたいと思うのに、毎朝起きて友達と会って可愛いものを買ったり美味しいものを食べたりして、その繰り返しへの悔しさと、絶望じゃないですけど、そういう思いをタイトルに込めています。
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- その思いはいつからありましたか?
- 宗岡
- 「何かになりたい」という憧れが強くて。この漫画の主人公たちみたいに。でも、なれないじゃないですか。その悔しさがあって。両親共に教職員で公務員で、朝起きて働いて、「何だかんだでいい家庭よね〜」という中で育たせて頂いたんですけど(笑う)それに対する嫌な気持ちや、大分の田舎にいた時はずっと空を眺めていて焦燥感があって、それは今でも続いているんですね。中二病かもしれないけど。
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- 焦燥感が今でも続いている。私は宗岡さんより11歳上なんですけど、確かにその頃は私も持っていたものかもしれない。宗岡さんのそれは、10年後、私みたいに消えてしまうんだろうか?
- 宗岡
- それが消えてしまうのも素敵な事かもしれません。この「バナナブレッドのプディング」の主人公のお姉ちゃんが妊娠しているんですけど、お姉ちゃんが夢で赤ちゃんに「お腹の中でさえこんなに孤独だのに、外の世界に出てきたらもっと孤独に決まってる。生まれてきたくない」って言うんです。でもお姉ちゃんが「まあ生まれてきてご覧なさいよ、最高に素晴らしい事が待っている」って。それは焦燥感を忘れた人の言葉で、大人になるという事だと思うんです。この作品はその素晴らしさも教えてくれたんですけど、私はいまはそうなれないと思う。
「よく21歳まで生きられたね」「生きているとは思わなかった」
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 宗岡
- ハチミツ屋さんで働く事が決まったんです。それから、去年一ヶ月ぐらい東京にふらっと行っていたんですが、その時みたいにギャラリーを回ったり芝居を見たりしたいですね。
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- 演劇は続けるつもりはない?
- 宗岡
- この一人芝居がめっちゃ評判よかったり、または全然ダメダメだったらまたするかもしれないです。
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- そこそこだったらやらない?
- 宗岡
- そうですね。
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- 一人一人の守備範囲って違いますからね。「そこそこ」ではない、強い作品はそれだけ人の強い反応を起こすんでしょうね。プラスにもマイナスにも。
- 宗岡
- 結構、事件を起こしたいみたいな事をいつも思っていて。twitterとかUstとかめっちゃ考えてやってるんですよ。普通だったら面白くないじゃないですか。この作品も部屋で上演するんですが、ドアを開けて女の子の一人暮らしの部屋に入るというのがドキドキする事だと思うんです。演劇のドキドキ感って、上演する場所から始まるんじゃないかと思っていて。
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- 当たり前の事をやりたくない、一つの特別な事を作りたいという気持ちなのかな。
- 宗岡
- だから、「ホントに嫌だった」とか「気持ち悪かった」という感想も、私があえてやっている事なので。田舎にいた時から、ちょっと変であろうと思っていたんですね。色が人より白いであるとか、運動が全然ダメとか。そういう欠点を持っている事を自分のアイデンティティとして自覚しようと思っていて。ちょっと変である事は田舎では広まりやすくて、私はいつも教室から出ずに本ばかり読んでいるポジションに、意識してついていました。それでも、何が自分なのか分からないというのはあります。
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- 宗岡さんは立派ですね。
- 宗岡
- いやいやびっくりします。ありがとうございます。
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- 私、21の時はそんな事一切考えてませんでしたからね。自分の方向性をちゃんと認識して、舵取りしようとしていて、立派だなと。宗岡さん、31になったらどう考えてますかね?
- 宗岡
- いやー、死んでるんじゃないですかね。「よく21歳まで生きられたね」って地元の幼馴染に言われたんですよ。「生きているとは思わなかった」って。
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- その人はきっと宗岡さんに憧れを持っていて、自分の存在が宗岡さんにとって何であるのか確かめたい衝動に駆られた、青春真っ只中のセリフですね。私も言った事があるから分かるんですが。
- 宗岡
- ですね。真っ只中。
チョコレートのようなセッケン
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- 今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントを持って参りました。
- 宗岡
- ありがとうございます。私、モノが好きなので。開けていいですか?
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- はい。
- 宗岡
- (開ける)あ、可愛いー。何かチョコみたいですね。いい香り。一つ一つ違うんですか?
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- そうですね。オリーブ油で作られたものらしいです。
- 宗岡
- じゃあ顔とかにも使えるんですね。磨き上げないと、ですね。