宝塚文化の中で育って
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- 今日はどうぞ、宜しくお願いします。今回のインタビュー実施場所、ここ宝塚大劇場が関さんの原点だと伺いましたが・・・。
- 関
- 実家がこの近所なんです。大学から東京で、今はまたこの街に戻ってきているんです。それから、子供の頃に習っていたバレエ教室の先生が元タカラジェンヌで。お嬢さんが当時スターで、辞められてからは宝塚歌劇団の振り付けをされるようになって。物心ついた時から、宝塚が身近にあったんですね。
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- 宝塚文化の中で育ったと。
- 関
- そうですね。一時期、すごくはまったんです。凄く好きで。その教室は宝塚受験対策で通われるバレエスタジオでもあったので、両親も「いつ受けたいと言い出すのか」と思っていたみたいです。私はそんな、大それた事は考えもせず。その後、大学時代にH・アール・カオス といいう女性だけの団体に所属していたのはその影響だろうと言われたこともありました。
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- 宝塚。今でも好きですか?
- 関
- 好きですね。先日も見てきました。先のH・アール・カオスの大島早紀子さんなど、コンテンポラリーダンサーも振付を担当される場合があって、仕事上でも距離の近さを感じています。
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- 最近はいかがでしょうか。
- 関
- ぼちぼちですが、ちょっと悩んだりもしていました。東京からこちらに移って5年目になって、一年目は精一杯で、2年目はちょっと落ち着いたんですけど、こっちのダンス界ではあまり人脈も無かったりして。神戸に私がいるという事を、舞台活動を通して覚えて貰いたいと色々。今は、5年目の節目です。本当はどこに拠点を置くべきなんだろうと色々悩んだりもして。今は、関西で頑張っていこう!と思っていますね。
H・アール・カオス
日本のコンテンポラリー・ダンスのカンパニー。東京都を拠点に活動。演出・振付家の大島早紀子がダンサーの白河直子と1989年に設立。独自の美意識と哲学に支えられた大島の空間感覚溢れる作品はどの作品もレベルが高く、ダンスの領域を遙かに超えた総合舞台芸術となっている。衝撃的な天才ダンサーといわれる白河の究極の身体造形と表現力も相まって、多くの支持を集めているカンパニーである。(Wikipediaより)
冨士山アネットpresents[八](エイト) JAPANTOUR2012
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- なるほど。さて、6月の初めですが冨士山アネット「八(エイト)」福岡公演が終わりましたね。改めてですが、どのようなお話なのでしょうか。
- 関
- ある心理療法士のもとに、本が書けなくて苦心している作家が訪れるんですね。治療を続けるうちに、作家の書く本に心理療法士の生活が綴られていく。チラシのキャッチコピーに、「あなたには何に見えますか?」とあるように、個を失って揺らいでいく様が、夢の中の出来事のように描かれる作品です。
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- ダンス作品なのに、台本があるそうですね。
- 関
- ありますね。かっちりあります。特に今回は、10年前に演劇として上演された作品だったんですよ。しかも今回の為に、稽古して振付しながら台本を改編していく進め方だったんですね。
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- まるで演劇作品の作り方ですね。でも、本番でやるのは言葉を使わない。
- 関
- そうなんです。だから、相当、俳優としても即戦力が必要だったんですよ。セリフを覚えて、具体的なシーンを作って、それを振り返りつつ動きに変える作り方をしていました。私はダンサーなので、相手との関係性から生まれた動きがだんだん振り付けになっていってしまって、ダメ出しされたり。単に踊るのではなく、物語とかキャラクターを染みつけて動かないといけないんですね。そんな時、ガイドとしての台本に戻ることで、本来の関係性を取り戻すことができる。私にとっては新鮮な感覚でした。
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- しかし、無言劇ではない。
- 関
- そうですね。マイムとして動いてはいけないし、かといってダンスとして派手な動きでも、それではあまりにもダンス過ぎて意味が分からなくて却下になるし。それが、冨士山アネットの独特のコードというか、面白いところだと思います。
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- これまでの手応えは。
- 関
- 今年の一月に東京で初演したんですけど、作品の完成がかなり直前で。鮮度でお届け!みたいな感じでした。、今回はブラッシュアップする時間もあり、会場も広くなって、より進化した形で、自信をもってお届けできると思います。
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- 伊丹の公演も盛り上がるといいですね。
- 関
- そうですね。私にとっては地元でもありますし。昨年の大阪公演を見て衝撃を受け、京都芸術センター通信「明倫art」に評論を書かせていただいたのが、アネットとの最初の出会いで。観客から出演者への転身、奇妙な感覚を抱きつつ、私と同様に前作に感動された方にもより良いものをお届けしなければと、プレッシャーも感じています。7月14〜15日の三回公演です。挟み舞台になっているので、何度かご覧いただいても楽しめると思います。是非いらして下さい。
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- もちろんです。楽しみにしております。
- 関
- あっ、その前に7月7日、七夕特別企画として、神戸アートビレッジセンター(KAVC)で、一日限りのクリエーションワークショップ&ショーイング「milky way」があり、私も参加させていただきます。こちらも是非。
冨士山アネット
2003年活動開始。類稀な空間演出と創造的なヴィジュアル、身体性を強く意識したパフォーマンスにて創造的な空間を描き出す。近年は、戯曲から身体を立ち上げるといった、ダンス的演劇(テアタータンツ)という独自のジャンルから作品を制作。(公式サイトより)
冨士山アネットpresents[八](エイト) JAPANTOUR2012
公演時期:2012/6/1(福岡)、2012/7/14〜15(兵庫)。会場:イムズホール(福岡)、AI・HALL(兵庫)。
質問 中西 ちさとさんから 関 典子さんへ
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- 前回インタビューさせていただいた、ウミ下着 の中西さんから質問を頂いてきております。「お体に、どんな気配りをされていますか?体調管理はもちろん、体型の維持ですとか、その辺りのコツを」。
- 関
- 至って自然体なんです。本能の赴くままに・・・。そんなにストイックなダイエットとかトレーニングをコンスタントにやっている訳ではなくて、反省しているんですけど。
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- 意外ですね。
- 関
- 好きなものを食べ、睡眠を取って。作り上げるというよりも、自然に過ごしていますね。本番に照準を併せて、適したものになるというのに委ねています。でも、これからは意識しないといけないですね。
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- 関さんのサイトにある写真、かっこいいですよね。
- 関
- あれを見て、ちょっと痛々しいとおっしゃる方もいるんですよね。時々。絞りすぎたりして。踊る側と見る側の求める身体像、探っていきたいと思っています。
ウミ下着
2007年中西ちさとを中心に結成したダンスパフォーマンスグループ。妄想を喚起させ、五感に訴える身体表現を目指して大阪を拠点に活動を始める。女心のように時にポップ、時にアングラ風と作品ごとに表情をころころ変える。作品に「咲かせてみて」「少女は不幸がお好き」等がある。(公式サイトより)
非日常
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- 関さんが舞台に立つ上で、ご自分にしか出来ない事はなんだと思われますか?
- 関
- オリジナリティという事ですよね。まず身体が自分の個性かなあと思っています。そんなに器用という訳では全くなく、他の人の振り覚えも遅いので、素材として使うのは結構厄介な存在なんじゃないかなと。自分で作る振付はそうでもないんですけど。
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- 振付家としては。
- 関
- 最近の傾向のひとつとして、テクニックから離れていきつつあって、例えばダンスらしくないダンスが新しいとされていたり。
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- それは、ウミ下着がそうですね。
- 関
- それも素敵だと思うんです。でも、私自身がお客さんとして見る時は、身体なり、動きだったり、テクニックや特別な肉体を見たいんですよね。私も、そういうものを提供出来たらなと思っています。
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- そういうもの?
- 関
- 非日常という事ですね、きっと。特別なものを見たいし、見せたいですね。それを表現するために、例えばバレエは客席と舞台が全く分離した、違う世界として扱うんですね。それにも惹かれるんですけど、受動的に鑑賞しているだけではなくて、本能的に、身体的に共感するような交流が舞台と客席の間で出来ればなと志向してきました。例えばサーカスは、映像で見るのとテントで見るのとはまるで違いますよね。映像は視聴覚的な情報だけで、身体に訴えかけるような感覚は伝わらないんです。
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- 共有感覚ですね。相手の感覚がこちらで想像出来る。
- 関
- そうですね。追体験みたいな。それはもしかしたら痛さであるかもしれないし、笑いかもしれない。
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- そうした、特別なものを共有したいという思いはどこが出発点なのでしょうか。
- 関
- 元々はバレエをやっていたんですが、高校入りたての時に続けていいのかどうか迷っていたんですね。もちろんダンスを仕事にしたいんですけど、バレリーナにはとてもなれないのではないか。それにはちょっと故障があったりとか、そもそも素質的に、バレリーナは無理だわと。
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- そうでしたか。
- 関
- それ以前に、バレエの演技に疑問を感じてしまったんですね。バレリーナは役柄になりきって踊るんですけど、もっと、自分として踊りたいと思っていたんです。自分として、お客さんに向き合いたいと。一年半ほど踊ることを休んでいました。ダンスを嫌いになった訳じゃないんですが。
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- 休んでいたのですね。
- 関
- その間は舞台を見に行っていました。コンテンポラリーダンスとか演劇とか、色んな表現を見て、そうした思いはさらに強くなりました。もちろんバレエも特別な事は起きますけど、スタイルとして・様式として追求するものが予想を裏切らないように思ったんです。そこを裏切っていくものを見たいし、やりたいなと。
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- それはきっと、革命とか変革とかとはちょっと違うんですよね。関さんのような、クラシックとは違う方向を目指す人がいる事に、むしろ全体の意思を感じます。
運河の音楽
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- 舞台で踊る時、誰に向かって踊っていますか?だれを意識しているか、という意味で。
- 関
- それはもちろん、その場の生のお客さんに踊っています。共有感の話につながっていると思うんですが、何年か前に兵庫運河で、「運河の音楽」 という和太鼓との即興セッションをやった事があるんです。動画が上がっていたと思うんですが。
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- はい。拝見しております。
- 関
- お客さんも拘束されていないので、つまらなくなったら行ってしまうというスリリングな空間なんですね。だから共有感をより意識して踊っていたんですが、熱心に見てくれていた小さい男の子が出てきてくれて、一緒にオブジェを登るという一瞬があったんです。一緒にポーズを取ったらシンクロしてくれて。
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- いいですね。
- 関
- コンテンポラリーダンスって、『現代』とか『同時代』のダンスと訳せますが、定義付けがあまりされていないし、その必要もないと考えられています。現代においてユニークな表現が便宜上、その言葉でまとめられているんですね。私が考えているコンテンポラリーとは、『con + temporary』つまり『瞬間の一時的な共有』が一番重要なんじゃないかと(それはライブの芸術なら何だってそうかもしれないですけど)。お客さんとして見ている人のダンスを誘発した時に、そういう思いが強くなりました。「運河の音楽」の時や、別のギャラリー公演で不意に客席にいたおばあさんがゆっくりと踊っていた時も。
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- そういう事をしていきたい。
- 関
- そうですね。目の前のお客さんに届けて、共有したいですね。ただ、もう一つの視点としては、今のコンテンポラリーダンスが将来、どんな形で残っていくんだろうというのはあります。
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- クラシックは良さを追求するから、高まりながら受け継がれていくかもしれません。でも、ここでのコンテンポラリーは同時代の観客を必要とするから・・・
- 関
- この先ずっと、生まれては消えていくのか。アーカイブ的に残していく事も、必要なのではないかと考えています。映像として記録する努力をしてもいいのかなって。例えばピナ・バウシュさんが亡くなってもその舞踊団は引き継いで残っていきますし。
第26回幻聴音楽会「運河の音楽」
開催日時:2009/3/21。場所:神戸ドックから始まり、キャナルプロムナードを経て兵庫運河まで。参考資料(PDF)
幅広い学びの機会を
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- 関さんは神戸大学で講師をされているんですよね。どのような事を教えていらっしゃるのでしょうか。
- 関
- 発達科学部人間表現学科とその大学院で教えています。その名の通り、人間の行為・表現について学ぶんですが、他の同僚は画家・彫刻家・ピアニスト・声楽家・ファッション・映像・建築の研究をされている方など、諸々の研究なり実践なりをされている方がいらっしゃるんです。私はその中で、身体表現論としてダンスの歴史と、身近に体験してもらうためのバレエやモダンダンスの実技をちょこちょこ入れています。
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- 実践ですね。
- 関
- まずは実践を踏まえてもらう事を心がけています。他の先生方もそうなんですけど、教鞭を取る傍ら創作活動を続け、その姿を見てもらう事で学生自身にも学んでもらうんですね。表現者としても、きちんと活動し続ける事が、学生の信頼を得る事に繋がるんですね。
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- 素晴らしい。
- 関
- あとは、なるべく外部から講師をお招きすることで幅広い学びの機会を学生に与える事も心がけています。最近は、冨士山アネットの長谷川寧さん、元ピナ・バウシュ&ヴッパタール舞踊団の市田京美さんとトーマス・デュシャトレさん、マイム俳優のいいむろなおきさんなどをお招きして、ワークショップを行なっていただきました。大学では身体表現の専任講師は私一人なので、偏りのないようにと。
今の夢
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 関
- ダンサーであり、研究者であり教育者であるという活動をもっときちんと・加速していきたいと思っています。
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- というと。
- 関
- 結構、安定した立場になっていて。ダンサーでありながら大学の仕事に就いている事が凄く恵まれていて、後ろめたいじゃないですけど、どちらも中途半端になってしまっていないかと。どれにもちゃんと誇りを持って両立していきたいと思っています。
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- 両立とは、例えばどういう事でしょうか?
- 関
- その辺りもここ数カ月悩んでいたりして・・・。ダンサーとしての賞味期限も若干考えています。言ってみれば、この先30年ほどこの仕事を続けられる資格はあり、でもその長いスパンでうかうかしていると、表現者としてちょっと停滞してしまうなという予感があります。研究者としても表現者としても、もっと実績を積み上げて。まずは、神戸大学でダンスを学べるという事を知ってもらいたいですね。教え子からダンサーを輩出したいと思っています。それが今の夢ですね。
EZ-FLOW キューティクルリニューオイル
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
- 関
- ありがとうございます。恒例の。(開ける)あ、ラブリーな包み方。
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- はい。
- 関
- オイル?爪。
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- 指先の爪周辺に塗って、皮膚と爪の保護をするものです。
- 関
- ありがとうございます。今日は素爪ですが、爪は大事にしています。手が個性の一つだと思っています。爪も普段伸ばしがちなんですよ。アネットでは怪我の基なので、切っていますけど。ハイ、お返しです。宝塚大劇場のチョコレート。ちっちゃなものですが。プレゼント魔・お土産魔って、よく言われるんです。笑。
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- ありがとうございます。あ、宝塚のおみやげっぽいですね。いい記念になりました。