子供鉅人2008年10月公演「電気女夢太る」
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- 今日は、宜しくお願い致します。
- 益山
- 宜しくお願い致します。
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- しかし、凄く良い雰囲気のお店ですね。
- 益山
- ボロいだけですけどね(笑う)。
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- いえ、こういう感じ好きですよ。さて、前回公演の「電気女夢太る」。非常に面白い作品でした。
- 益山
- ありがとうございます。
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- 俳優の演技のスタイルや、演出や、音楽が一つにまとまって、面白く拝見できました。
- 益山
- ミュージシャンの方とも、仲の良い人たちとやれたんですよね。今回は初めての長尺のお芝居でしたが、それまでは習作の短いお芝居をライブハウスなどでやっていたんです。それの集大成としての作品でしたね。
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- ええ、お芝居としても最後のカタルシスがきちんと演出されていて、終わった後に確かな見ごたえがありました。主人公のデブが、それまで周囲にはひた隠しにしていた電話を全員に掛けてハーメルンのバイオリン弾きよろしく電気町に連れていくという・・・。舞台となった町が洪水で流されてしまうという展開も良かったですね。
- 益山
- ちょっと、力技の落ちでした。
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- 良いシーンがいっぱいあった芝居でした。益山さんは、どのシーンがお気に入りですか?
- 益山
- 僕ですか? 全てのシーンが好きですね(笑う)。まるで我が子のように。あえていえば、最後のシーン、オーラスの後に死体が結婚式を挙げるというのが。
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- あそこはキレイでしたね。カーテンコールも起きましたし。そういえば気になっていたんですが、序盤で川に流れ着いた死体が動いたりしてましたよね。その死体がまたキレイな身なりをしていて。幻想的なお話だなと思っていたんですが、あれはどういった着想があったのでしょうか。
- 益山
- 昔、私の実家の隣の川によく死体が流れてきたんですよ。それを膨らませて。
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- あ、凄いですね。
- 益山
- 子供の時下町に住んでいたんです。まあちょっと金持ちのあんまりいない、まあそういう空間だったんですよ。極貧じゃなかったんですけど、ちょっとさびれた。
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- ええ。
- 益山
- デパートとか行くと、金持ちの空間が広がってる訳じゃないですか。何だかんだいって、世の中はそういう感じで分けられていくんだなと思ってたんですよ。
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- それが作品の世界観のベースにあったんですね。王様が出てきたり。
- 益山
- 身分制度が好きなんですね(笑う)。
アナログ人間と音楽劇
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- そういえば昨日、YouTubeで「電気女夢太る」のダイジェストを拝見したんですよ。
- 益山
- ええ、上手く編集して頂きました。
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- 音楽劇ということで、かなり挿入曲が重視された作品でしたね。
- 益山
- 今回は全部、オリジナル楽曲だったんですよ。1曲だけ、以前のお芝居で作った曲もあるんですが、それ以外はバンマスの高岡さんとメンバーの方が考えてくれました、フルオリジナルということで。
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- 作品全体を幕開けから引っ張っていきましたよね。お客さんのノリとしてはどんな感じでしたか。
- 益山
- 楽日が最高でした。その時に来て頂いたんですよね。
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- あ、そうなんですよ。盛り上がりましたね。
- 益山
- 音楽劇ですので、基本的に楽しいお芝居を見せたいんですよね。そうするとやっぱり、お客さんのグルーブが重要だと。
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- 生演奏というのが大きいですよね。
- 益山
- 僕は基本的にアナログ人間なので・・・(笑う)。
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- 今後も、ああいった感じの音楽劇を作られていくのでしょうか?
- 益山
- ああ、それは劇団ミーティングで話し合っていくつもですが、元々僕も含め、そんなに劇が好きで好きで仕方ないという人たちではないんですよ。色んな事をしたいね、と。僕は高校時代は写真学科で、他のメンバーも絵描いてたり色々しています。演劇作品のみならず、そういう創作活動もやっていきたいなと思っています。
何しても楽しい空間
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- 演劇作品の方向性としては。
- 益山
- 以前、このお店で大体3週間くらいのロングランの公演をした事があるんですよ。その時は会話劇でしたね。けっこうぴしっと。まあ、節操無いんでウチは。
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- ええ。
- 益山
- 次は、3週間毎日やり続けたらどうなるか?と。お芝居って、なかなか行きづらいじゃないですか。3週間あれば、空いた時間を使って来てもらえるんじゃないかと。作品としても実験的に、短編をいくつか集めてシフトを組んで、ミュージシャンの方に演奏もしてもらって、横にバーも作って。
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- ロングランは嬉しいですね、平日も公演があって。土日に仕事がある人にとってはなおさら。
- 益山
- はい。この間、ミナミを散歩してたんですけど、どこへ行こうかと思った時に「芝居を見に行く」という選択肢が無かったんですよ。それって凄く悲しいなと思ったんです。落語は寄席があるし、お笑いは吉本を見に行けばいい。でも芝居はない。いわゆる小劇場を観にいくことがない。
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- それは単純に、やっていないからですね。
- 益山
- そうですね。場がないんですね。それはちょっとさみしいんじゃないかなと。昨晩はライブ行って飲んだくれてたんですけど、昔はこういうみんなでワーワーする場所は芝居が担ってたんだろうなと思うんですよ。歌舞伎とか、みんな黙って見てるのは最初の1時間くらいで、あとは騒いでたと思うんですよ。飲んで食って。ある意味、何しても楽しい空間というのを、今演劇が作れていないのはちょっと力が落ちてるんじゃないかなと。
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- なるほど。そこでいつでもやってるロングランの劇場を。面白そうですね。
- 益山
- 今そういうのがないのは、ライフスタイル的に求められていないからやらないと思うんですよ。夜はテレビ見てた方がマシだし、みたいな。そういう要求がないのは寂しい事で、もしこれから私たち演劇人が生き残るのであれば、そういう楽しさをこちらが打ち出していかなければと思うんです。
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- ええ。
- 益山
- 今またどんどん不景気になりそうじゃないですか。でも、そういう時にこそ芸の華が咲きやすいんじゃないかと思うんですよね。今こそ、私ら河原者のチャンスだと。
グルーブ感、楽しい音楽劇
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- 先ほど、お客さんとグルーブ感を共有するというのが重要だとおっしゃっていた訳ですけれども。本番の一瞬ってあるじゃないですか。演技して、お客さんに届くか届かないかっていう、あの感覚ですよね。やっぱりそうする為には、劇の最初の方でお客さんを乗せる事が凄く重要なんだと思うんですよ。そういう思考を持つ事は、実は作品を作る上でイマジネーションの次くらいに重要なのかもしれないなって。まあ良く言われる事ですが、ツカミが重要という。「電気女〜」は、一番最初の入り方が低いところから入っていったんですよね。トランペットの低い音程の。
- 益山
- それからテーマソングに繋がっていくんですけど、「これは楽しい音楽劇なんだよ」って提示すれば、たとえば暗いシーンになったとしてもお客さんは付いてきやすいんですよね。基調さえ作ってしまえば。
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- 俳優もやっていきやすいでしょうね。あ、そういえば、聞いた話によると舞台に出るのが初めてという人が何人かいたとか。
- 益山
- 私がやってた工場長役の娘役の女の子と、王様と。誰でも当たり役ってあると思うんですよね。私、自分でもその辺のキャスティングは上手いかなっと思っちゃったりなんかしちゃったりしてるんですけど(笑う)。パッとその人を見て「この人ならこれをやってもらえば絶対ウケる」というのが分かるんですよ。それを見つけさえすれば、1回はいけますね。
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- なるほど。
- 益山
- でもそれは、ウチの劇団の今後の課題なんですよ。素材だけではなく、もうそろそろテクニックというか、芸という部分の磨きを掛けないと。
ダサいか、カッコいいか
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- さっき録音が回っていない間におっしゃった、この間ご覧になった劇団の芝居が全然面白くなかったというお話ですが。そうですよね、つまんないお芝居ってのは確かにキツイですよね。何ででしょうか。
- 益山
- 単純な話、何でもそうだと思うんですけど、芝居でも映画でも音楽でも、それこそ一般的な職業でも、結局それしか出来ないっていう人がやるべきなんですよ。無理やりやるこたないんです。私なんか、ものすごくぐうたらなんで、何か作ってないと死んでしまうんですよ。
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- なるほど。
- 益山
- 上手い下手は別にして、魂で何かを作る、そういう表現でなければ必ず滅んでしまうんですよ。だから理屈で作ったものなんて全く面白くないんです。
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- ええ。
- 益山
- 以前そうした作品を見たことがあるんですけど、ひね媚びた視線で「ちょっと変わったことしてみたらカッコいいんちゃうん」みたいなことしてて。お前なめてんのか?って。表現行為そのものをなめてるんですよ。一片でもその人の魂を削るようなものが見れたら僕は全然OKなんですよ。
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- ああ、分かります、それは。
- 益山
- 極端に言えば、ダサいかカッコいいかの世界になってくると思うんです。いくら理屈がしっかりしていても、ダサいものには人は寄ってこない。ムチャクチャでも、カッコ良ければ人が集まるんですよ。
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- ええ。
- 益山
- 結局、色気があるかないかなんです。そこを見据えずに理屈に走るところはホンマに面白くないです。色気と理屈が合致すればそれは本当に面白いです。一流と呼ばれている人はそうですからね。どっかに寄りかかりすぎると良くないんですね。私はそのバランスを持っていきたいですね。色気も欲しいし、ただ笑かすだけじゃなくて、感動させる芝居も作りたいですね。
質問 長沼 久美子さん から 益山 貴司さん へ
藤田ミラノ画集・あしたの少女たち
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- さて、今後は演劇人としてどんな感じで攻めていかれますか?
- 益山
- 結局そこなんですよ。演劇人になるかならないか。僕は今、外から見たら演劇人というくくりで見られるんですが・・・。さっきおっしゃった、演劇村の村民にはなりたくないですね。あくまでも、社会の中での演劇という立場に立って胸を張りたいです。
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- それはもちろん、これしかできない、という魂の問題ですよね。
- 益山
- そうです。僕は器用貧乏で色々出来ちゃうんですけど、それでも演劇をやり続けているのは、自分の魂にフィットしている部分があるからだろうなと思います。そういう風に見極めるっていうのは大切な事なんじゃないかなと思います。
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- 分かりました。頑張ってください。今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがあります。
- 益山
- えっ。そんなものがあるんですか。
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- どうぞ。
- 益山
- ありがとうございます。(開ける)あ、いいじゃないですか。藤田ミラノ。好きなんですか。
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- 古本屋で買ったものです。これしかないなと思いました。60年代後半に描かれた作品が中心ですが、全く古くないというより、現在の感覚で美しいと思えるんですよ。それが40年前に描かれているという驚きが、何だかいいなと。
- 益山
- この時代の絵は主張があって良いですよね。ありがとうございます。