演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

大崎 けんじ

演出家

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仕切り直しのイッパイアンテナ

__ 
今日はどうぞ、宜しくお願い致します。
大崎 
はい。宜しくお願い致します。
__ 
最近はいかがでしょうか。
大崎 
新入団員が入ったり、面子も変わったり。仕切り直しって感じですね。これまでやってきた積み重ねと、これからやっていきたい事の為に。
__ 
ありがとうございます。次回公演のタイトルが「サマースクイズマウンテン」ですね。田舎と農業を題材にしたコメディだそうですが。
大崎 
そうですね。都会から離れた山の中でのコメディです。
__ 
アウトドアなんですね。どんな面白さを狙っているのでしょうか。
大崎 
基本的にはシチュエーションコメディです。好きなんですよ。でもそれは、どうしてもマジョリティに伝わる演技というのを要求されるんですね。
__ 
アメリカから来たというのもあるでしょうね。
大崎 
そういう形式を、たとえばマジョリティそのものである都会から離脱した田舎の人にあてはめてみたら面白いんじゃないかと。それが一番の趣旨ですね。
__ 
たしか、前回公演の舞台は町でしたね。
大崎 
そういう意味でいえば、今回は田舎・農業への原点回帰ですね。現代の人にとって、魅力的なテーマだと思います。そこで、この間山に行ったんですよ。
__ 
どうでしたか。
大崎 
それが不安でしょうがなかったんですよね(笑う)。取り残されている感覚があって。都会人が持つ、山でゆっくりするというのは幻想に過ぎないんです。とはいえ、都会あるいは日本の文化も実は迷子になりつつある。だからこそ、あえて原点回帰しようと思います。2世代・3世代前の世界に。
__ 
意気込みを聞かせて下さい。
大崎 
今までやってきて、イッパイアンテナの方向性はそろそろ固まってきたと思うんです。これからに向けて、新しいスタートラインを切る作品になります。京都という町に発信するお芝居を作っていますので、是非ご覧になって頂きたいと思います。
イッパイアンテナ

京都を中心に活動する劇団。シチュエーションコメディを得意とする。明るい作風だが、単純な笑いだけではない。

イッパイアンテナ6thsession「サマースクイズマウンテン」

日時:2009年7月10日〜12日。会場:京都大学吉田寮食堂。

勝算

__ 
さて、イッパイアンテナ旗揚げについて伺えればと思います。まず、旗揚げはどういったご理由で始められたんでしょうか。
大崎 
個人的には、高校の時に映画とか演劇にハマって、楽しませてもらったんですね。言ってしまえばその恩返しがしたいんです。
__ 
恩返し。
大崎 
時代順に言うと、バスターキートンとか、エルンスト・ルビッチ、ビリー・ワイルダー、三谷幸喜さんとか宮藤官九郎さんとか。先人たちがその時代その時代で誠実に世の中を見つめて、同世代に生きる人達に生きる糧を与えてきたんですよね。今の自分が、コメディという大きなジャンルの中で、その橋渡しが出来ればと思うんです。ありがたいことに、バイタリティのある仲間も集まりましたし。
__ 
なるほど。
大崎 
で、やっぱり先達がやってない事をやりたいんですね。オリジナリティなんてものはコラージュの仕方でしかないと思うんです。その時代によって素材は違うんですけどね。今行った5人が悔しがるような作品を作りたいと思います。それが僕にとっては一番大きいモチベーションです。
__ 
勝算はありますか。
大崎 
もちろん。

「待てセリヌンティウス」

__ 
少し前になりますが、前々回公演の「「ドミノ」」。非常に面白かったです。中でも印象的なのは、「走れメロス」のパロディ「待てセリヌンティウス」。
大崎 
はい。ウチの俳優であるクールキャッツ高杉と、女優の西山さんの。
__ 
シチュエーションコメディというには、演出が変わっていましたね。高杉さんが舞台前面でセリヌンティウスを体で演じ、西山さんが後ろで声をあてるという形式でした。高杉さんのコミカルな演技と西山さんのいつにない熱いセリフが面白いコントラストでした。
大崎 
やっぱりパロディが、コメディの原点だと思うんですよね。ならば出来るだけ古くて重厚感のあるものをやった方が面白いと。そこで、「走れメロス」のセリヌンティウスをやってみようと。彼も、メロスが走り込んで来た時に疑いの葛藤があったことを告白するんですが、そこが太宰治の書きたかったことなんだろうなと。
__ 
ええ。
大崎 
セリヌンティウスがずっと独り言を言っててもどうしてもわざとらしくなるから、演者を動きとセリフに分けたんですね。で、男の心情だからと言って男に語らせるのはあまりにどうかと。で、長セリフを喋った事のない人にやってもらって、危ない橋を渡ってる感じを出してもらいました。俺が逃げれば終わるという葛藤を、背の低い高杉と背の高い女性の西山さんが演じるという。見た目の面白さも狙っています。
__ 
そういう、結構な思い切りの良さもイッパイアンテナの武器だと思います。
イッパイアンテナ4thsession「ドミノ」

日時:2008年12月12日〜14日。会場:アートコンプレックス1928。

脚本の先にある

__ 
いつもどんな感じで作品を作っていかれるのでしょうか。
大崎 
ウチは結構、固い作り方をしますね。脚本ありきなので。まず僕が、あらすじ立ててプロット組んで稽古場に持っていって、読み合わせをして、台本を持って動いて。実は、そこからが勝負なんですよね。
__ 
勝負とは。
大崎 
一番最初に、僕の具体的な上演イメージをすべて役者に伝えるんですよ。こういう動きで、こういうトーンのセリフで、こういう流れをやってくれと。一回、ガチガチに決めてしまうんです。
__ 
完成イメージをかなり早い段階で、想定というか、決定するんですね。
大崎 
100を作るんです。でも、それをそのまま舞台に出すというのは余りにも意味がないんです。その100プラス、役者の100に期待するんですよね。僕の脚本の先にある、役者の解釈に面白さがあると思っているんです。
__ 
役者個人の解釈に重点を置くと。
大崎 
いえ、個人で来た時にはそれほど重視しないです(笑う)。役者間の共犯関係から出てくる解釈の面白さに、僕は非常に魅力を感じるんです。それは僕が一人で考えることは出来ませんから。
__ 
大崎さんVS.役者たちということですね。
大崎 
それらがぶつかって昇華した時に、次のステップに進めるんですね。逆に、そこまで持っていかないとお客さんには見せられないですね。
__ 
そういうプロセスで作品を作られるんですね。では、大崎さんの演出家としてのこだわりというのは。
大崎 
距離感ですね。具体的な、舞台上での立ち位置に気を配るんですよ。そればっかりは役者には分からない、俯瞰している僕にしか考えられない事なんです。セリフ回しなんかよりも全然大きい問題だと思うんですよね。
__ 
というのは。
大崎 
数センチ変わるだけで見え方が違うんです。細かいところまで突き詰めたいんですよ。どこに立って誰とどのくらい離れているか。本当に、1メートル離れているだけで笑えなかったりするので。
__ 
それは突き詰めると、新しい境地に発展しそうですね。
大崎 
はい。次は高さも含めた、3次元での立ち位置を考えていこうと思います。

質問 亀井 妙子さんから 大崎 けんじさんへ

__ 
今日はですね、前回インタビューさせて頂きました兵庫県立ピッコロ劇団の亀井妙子さんから質問を頂いてきました。1.今まで一番みた、怖い夢はなんですか?
大崎 
起きたと思ったら起きていない夢ですね。起き上がって部屋の中を歩いていても何か体が縛られている感覚があって、本当はまだ寝ていたと気づくという。その繰り返しに陥る夢が怖いですね。たまにあるんですよ。
__ 
あ、ちょっと身に覚えがあります。2.最近の最大の関心事は。
大崎 
笑いの世界で、いかに新しい笑わせ方を見つけるか、ということですね。京都というのはいろいろな企画を立ち上げやすい場所だと思うんですよね。町も狭いし、大学も密集していて。だから、新しく出来た劇団の芝居には興味がありますね。

海外へ

__ 
今後は、どういう感じで攻めていかれますか?
大崎 
やっぱり、僕らの世代というのは内側に目標を見いだせないんですよね。浅はかな考え方かもしれませんが、希望を持つとしたら外側、つまり海外ですね。新しい文化を作ろうとした時に、日本とは全然違う、海外に方向性があるんじゃないかと。もちろん、こちらからも文化を持って行きたい訳ですから、ノンバーバルな方法を取り入れようと思っています。バスターキートンみたいなサイレントですね。
__ 
「ドミノ」でもありましたね。
大崎 
はい。典型的な話立て(女の子をギャングから救い出す)をやった後に、その2幕目に舞台裏を見せるという形式でした。セリフもダブルミーニングにして。それは持って行けるんじゃないかと。
__ 
分かりました。頑張って下さい。

中村光「聖☆おにいさん」

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
大崎 
ありがとうございます。
__ 
どうぞ。
大崎 
(開ける)おおー。これ大好きなんです。あ、超嬉しい。近所の喫茶店に置いてあって。買おうと思ってたんですよ。
__ 
あ、それは良かった。
大崎 
ギャグ漫画界って結構厳しい世界だと思うんですよ。ナンセンスであったりスラップスティックであったり、色々開発されてしまっていて。そんな中これはよくやったなという漫画だと思うんですよ。
__ 
元ネタの大半が宗教のディテールやエピソードですからね。
大崎 
海外にも受けがいいらしいですね。日本人はよくこんな事をやると。
(インタビュー終了)