演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫
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伝舞企画 第一回公演 「Desperado Party ザ・ラストオーダー」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。鈴木さんは最近、どんな感じでしょうか。
鈴木 
よろしくお願いします。一番近い本番が伝舞企画で、もうじき本番なんです。いまその稽古中です。初めて殺陣をやる事になりました。今まで運動をしてきてなかったので、試行錯誤しつつ体力作りから初めています。それから、劇団「オレと松本」の番外企画に出演させてもらう事になっていて、その後は高間響国際舞台芸術祭 の企画。笑の内閣には12月の「ツレがウヨになりまして」のツアー公演にも参加させてもらいます。
__ 
お忙しいようですが、乗り切れますか?
鈴木 
そうですね、伝舞企画が台本を覚えつつ殺陣もしつつ、大変なので、それを乗りきれるかなという感じですね。
__ 
大学の卒業もありますしね。大丈夫ですか。
鈴木 
秋の学期に掛かっていますね。卒論も書きつつ、4回生で卒業出来るように頑張ります。ギリギリ。
伝舞企画 第一回公演 「Desperado Party ザ・ラストオーダー」

公演時期:2013/9/20〜23。会場:京都大学西部講堂。

高間響国際舞台芸術祭

公演時期:2013/10/11〜14。会場:アトリエ劇研、イーヴァ別館。

重なる背中

__ 
鈴木さんがお芝居を始めたのはどのようなキッカケが。
鈴木 
元々は、地元いわきの高校の演劇部からでした。でも、2年くらいからあんまり部員と上手くいかなくて。大学に入ってどのサークルにしようかと思ってたらやりたい部活がひとつもなくて。やっぱり演劇部に入ろうかと思って劇団紫に入りました。でも、もやもやした気持ちで・・・そしたら、大学1年の春休みに帰省した時に、東日本大震災を経験したんです。しばらくは放心状態というか、演劇をするとか全く考えられず、芝居自体をすごく嫌なものだと思ったこともあって、大学2年の秋の公演で演劇部自体をやめようと思っていました。そうしたら、2年生の10月公演が終わった時くらいに笑の内閣の高間さんから外部出演のお話を頂いたんです。「ヅッコケ三人組の稽古場有料化反対闘争」 という作品。学生だけの公演とはちょっと違うんですよね、共演している方々も意気込みが違うし。初めて、芝居が楽しいと思ったんです。今までは、本番を迎えるまでに必ず1回は「もう辞めよう」と思ってたのに。
__ 
なるほど。
鈴木 
外部に出た時はそういう後悔が1回もなくて。それが、みんながお芝居に没頭している理由なのかなと思ったんです。
__ 
「ヅッコケ三人組の稽古場無料化闘争」。傑作でしたね。面白かったです。その後は「非実在少女のるてちゃん」 でしたね。鈴木さん演じる腐女子の妄想シーンが評判が良かったですね。
鈴木 
実はKAIKAで、のるてちゃんの公演を見て。聖羅さんがのるてちゃん役でのびのび演技しているのを見て、羨ましいなあと憧れたんです。私がよく分からないまま演技しているのに比べて・・・。だから、今自分が実際にその場に立って、当時の自分が憧れるに相応しい演技をしているだろうかと。そういう事を考えています。石原正一さん が「筋肉少女」 に私を呼んで下さった理由を聞いたんですが、「『のるてちゃん』での私の演技が伸び伸びしていて、いまこれだけ演技をやれている人がいるならオファーしたい」と仰って頂いたんです。そういう気持ちは演技に出るのかなと思います。
__ 
そう、石原正一ショーではテリーマンの娘役でしたね。
鈴木 
物凄く貴重な体験でした。周りの方々は全員私より断然経験の差があって、どうしていいか分からないくらいの。私なんかで大丈夫かと思っていました。
第14次笑の内閣ヅッコケ三人組の稽古場有料化反対闘争

公演時期:2012/1/20〜22。会場:東山青少年活動センター。

第16次笑の内閣 「非実在少女のるてちゃん」全国ツアー

公演時期:2012/8全国各地でツアー。

石原正一

演劇人。石原正一ショー主宰。1989年、演劇活動開始。1995年、"石原正一ショー"旗揚げ。脚本演出を担当、漫画を基にサブカル風ドタバタ演劇を呈示。関西演劇界の年末恒例行事として尽力する。自称”80年代小劇場演劇の継承者”。外部出演も多数。肉声肉体を酷使し漫画の世界を自身で表現する"漫画朗読"の元祖。"振付"もできるし、”イシハラバヤシ”で歌も唄う。(公式BLOG『石原正一ショールーム』より)

第27回石原正一ショー「筋肉少女」

公演時期:2013/5/1〜3(東京)、2013/7/5〜8(大阪)。会場:こまばアゴラ劇場(東京)、in→dependent theatre 1st(大阪)。

質問 丹下 真寿美さんから 鈴木 ちひろさんへ

__ 
前回インタビューさせて頂いた、丹下真寿美さんから質問を頂いてきております。「行き詰まった時に行く場所や、頼るモノはありますか?」
鈴木 
行き詰まったり寂しくなると、恥ずかしい話ですが、よく親とskypeでテレビ電話をしています。距離的にだいぶ離れているんですが、家族と喋るのは自分にとってはかなり大きいです。年に1、2回帰るぐらいなので、たくさん喋ります。地元の言葉全開で。親に喋ってもどうしようも無い事もあるんですけど。
__ 
愛情に囲まれた生活を送っている感じがしますね。
鈴木 
それはだいぶあると思います。この間まで教育実習に行ってたんですが、最後の日に生徒さんに喋った事が(ありきたりなんですけど)「人との出会いやつながりを大切にしてほしい」と言いました。本当に大切にしたいなと思っています。

舞台上にいるだけで面白い!

鈴木 
やっぱり、舞台上にいるだけで面白い!と思えるような雰囲気が作れる人になりたいですね。
__ 
例えば?
鈴木 
私の場合だと近衛虚作さんと伊藤泰三さんが喀血劇場でやった漫才のシーンなんです。近衛さんにはのるてちゃんと京都学生演劇祭の時、あと今の伝舞企画でも凄くお世話になっていて、稽古場で頂いたアドバイスをまとめてあるんですよ。いまあります。
__ 
え、見せて頂けるんですか。
鈴木 
はい。これです。

鈴木さんのノート

__ 
これは素晴らしい。
鈴木 
もったいないなと思ってしまって。一回一回の稽古が。映画や舞台も見ただけで終わったら意味がないなと思って。同じ感じで、ビラとパンフをノートに貼って感想を書くというのをいつもやっています。
__ 
へえええー!
鈴木 
毎日、何かしら自分が吸収できる事はあると思っているんです。
__ 
素晴らしい。そんな事をしている人って中々珍しいと思いますよ。普通はtwitterか何かに感想を書いて終わりかもしれない。自分の演劇活動をここまで几帳面にノートに書く人はあんまりいないでしょうね。
鈴木 
やっぱりネットに書く感想は外向けの感想で、自分の中には残らないので。誰々の仕草が良かったとか、そういう、誰にも言わない程度の感想を書いています。
__ 
しかも、こんな几帳面な字で!
鈴木 
残したいという気持ちはありますね。例えば、初めての通しが終わった時に感じた悔しさって本番が終わったら忘れてしまうと思うんですよ。達成感で。本番が終わって良かったな、になるまでの悔しさや苦労を残しておかないと、結局そのお芝居が「良かったな」だけで終わってしまうので。
__ 
残す。
鈴木 
私が何故、客演に呼ばれているのかについて高間さんと話していて。特筆すべき見た目の良さや派手さはないし、演技が上手いという訳じゃないし。髭だるマンさんみたいな、舞台栄えするインパクトや存在感もないし。だったら、努力面でカバーするしかないのかなと思っています。
__ 
努力以上のものをこのノートからは感じますね。

素朴をまとう

__ 
鈴木さんは、ご自身が演技をするときにはどのような意識があるのでしょうか。
鈴木 
高間さんには「普通の役が出来る奴は中々いない」とか、アンケートに「絶対悪い人じゃないんだろう」とか書いてもらう事が多いです。どんなに役作りしてもそういう見え方をするみたいです。高校まで田舎で過ごしてきた芋っぽい自分のままで作りたいという気持ちが強いです。強い人を演じる時には、引き出しがないので苦労はしますね。
__ 
素朴な人柄。
鈴木 
京都に来て結構経つんですけど、全然慣れなくてまだ挙動不審なんです。でも、その辺は大事にしていきたいですね。

積み上げる

__ 
いつか、どんな演技が出来るようにしたいですか?
鈴木 
難しいなあ。でも、喋ってるだけで面白いような、間の取り方が面白いとか、いるだけで空気が生まれるような。「あの人、喋るだけで面白い」と思われるようになりたいです。それだけでほころぶような。私、まだ必死でセリフを覚えて喋っているだけなんです。覚えたらそれを必死で喋るだけみたいな感じで。まだちょっとそういう所があって、そこはまだ自分で破りきれていないですね。
__ 
いつか破れるでしょうか。
鈴木 
さっき言った事とは矛盾するんですけど、自分の中の引き出しを増やせば無理矢理キャラを作らなくてもいいのかもしれない。自分の中にある独自の何かに行けるのかなあと思うんですけど。
__ 
生田朗子さんみたいな。
鈴木 
そうなんですよ。生田さん凄いですよね。あんな人になれたらいいのに。筋肉少女の時に強く思いました。あんなに凄くて面白いのに、率先してバラし作業を手伝ってくださったり、年上であって経験も長いのに常に周りを気にかけておられて。芸を磨くだけじゃなくて、スレたりせずに、いつでも気を遣える人間性を高めるんだって。
__ 
そうなるためにはきっと努力が必要なんだと思う。努力を積み上げたら、それが余裕になるんだと思う。続けていたら、いつかそうなれるんじゃないかなと思いますよ。ただ、積み上げるのが物凄く難しいですよね。でも、自分のためのノートを付けられる鈴木さんなら、それはきっと・・・

一度きりの一秒

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
鈴木 
伝舞企画は力押しで攻めていく感じです。オレ松さんはまだ配役は決まってないんですけど。で、内閣のツレウヨはまたツアーです。一年前と同じ主演で、プレッシャーもありつつ。その間、のるてちゃんや石原正一ショーも経て、そこで熟成したものが自分の中にはあるはずなので。それから、一回一回を大切にしたいです。
__ 
というと。
鈴木 
ずっと長くやっていると変な感覚があるんですよね。一回のお芝居が4ステ5ステだと、「1ステはミスがあってもしょうがないし」「2ステは中だるみしないように気を付けないと」とかそういう訳の分からない思い込みが出てきてしまって。学生演劇祭の時に、喀血劇場で高校生の子と共演したんですが、最初の本番が終わった後に「あと2回出来るんや!」って言ってて。よく考えたら高校生って一回の本番の時に何ヶ月も掛けて稽古していて、1回の本番に掛ける気持ちって絶対強くて。そういう気持ちは忘れかけてたなあと。それは1回の稽古に対してもそうなんですよね。
__ 
他人との出会いを大切にするようにね。
鈴木 
だから、自分が感じる事もノートに取っておいたりしています。

THE BODY SHOPの練り香水

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
鈴木 
ありがとうございます。開けてもいいですか?
__ 
もちろんです。
鈴木 
あ、これは香水ですか?
__ 
そうですね。練り香水です。
鈴木 
いいにおい!ありがとうございます。
(インタビュー終了)