ピンク地底人「散歩する侵略者」
- __
- 諸江さんは最近、どんな感じでしょうか。
- 諸江
- 次の舞台の稽古が始まっています。ピンク地底人の「ココロに花を」 ですね。
- __
- 東京・福岡の公演ですね。
- 諸江
- そうですね。残念ながら関西では今回見れないんですけど・・・実は台本が2/3くらい出来ている状態です。演出の3号本人も演出に力を入れたいみたいです。
- __
- 見れないかもしれませんが、各地で楽しまれたらいいですね。諸江さんが初めてピンク地底人に出たのはどの作品でしたか?
- 諸江
- 去年の8月の公演「明日を落としても」 でした。ここ最近の地底人の作り方に興味があったんです。雑踏を役者達全員がマイクで表現する「マリコシステム」と言ってる演出なんですけど。出来るまで、超しんどいんですよ。それに、出来てからじゃないと雰囲気を出すのは難しいし。
- __
- 意気込みを教えてください。
- 諸江
- やっぱり、それなりに傷跡を残したいというのはありますね。作品が出来てくると欲が出てきて、もっともっと深めていきたいんですね。それには適したバランスがあるはずなんです。物語と雑踏の間に、ギリギリのラインがあるんですよ。音楽的なたとえでいうと、バンドだって、なんぼボーカルが気合い入れて歌ってもバックがうるさかったら気が散ってしまうので。
- __
- そこが、「散歩する侵略者」ではいかがでしたか。
- 諸江
- 今回はずっと僕、散歩してたんですよ。上手く行くときもあればいかない時もあって、それは肌で感じていました。
- __
- 雰囲気の演出としては上手くいっていましたね。最後に片桐さんが演じる妻役とのシーンで雑踏が消えますが、そこが非常に、キレイなシーンが描き出されていたように思いました。
- 諸江
- ありがとうございます。そこに到る事が出来れば。用意した演出が、全て必要なものとして意味があるんだと受け止められれば、という事なんですよね。
ピンク地底人
京都の地下は墨染に生まれた貧乏な三兄弟。日々の孤独と戦うため、ときおり地上にあらわれては演劇活動をしている。夢は関西一円を征服することと、自分たちを捨てた母への復讐。最近は仲間も増え、京都を中心に大阪にも出没中。(公式サイトより)
ピンク地底人策略と陰謀の第11回公演 「散歩する侵略者」
公演時期:2013/2/15〜18。会場:アトリエ劇研。第8回アトリエ劇研舞台芸術祭参加作品。
ピンク地底人 大噴火の第12回公演「ココロに花を」
公演時期:2013/5/5(福岡)、2013/5/31〜6/2(東京)。会場:王子小劇場。
ピンク地底人暴虐の第10回公演「明日を落としても」
公演時期:2012/6/30〜7/1(大阪)、2012/8/17〜8/19(東京)。会場:インディペンデントシアター2nd(大阪)、王子小劇場(東京)。
ノーを言う前に
- __
- 諸江さんは高嶺格さんの作品にも出演されるそうですね。
- 諸江
- そうなんです。元々高嶺さんは厳密にはダンサーではないので、で、集まってくる人もダンサーがメインではないんですね。こっちからどんどん提案していくんですよ。これやったら面白いんじゃないかって。みんなで大笑いしながら。しんどかったのは、30分間ずっと同じ動きをし続けるというものでした。結局使わなかったんですけど、たとえばカップを持ち上げるという行為をずっと繰り返すとか。
- __
- そんなダンスがあるんですか。ちょっと見たいです。
- 諸江
- それはお客さんに見せられないので使わなかったんですけど、そこから発生する何かを掴むんです。それらを高嶺さんが編集して、作品としてまとめるんですね。一枚のアルバムを作る、みたいなイメージです。
- __
- 他には、どんな提案を。
- 諸江
- 原始的な、こんな事してみたいよね、みたいなのをやってました。全然下らないんですけど、楽しいんです。芝居のエチュードもしたし。作品を作る上で、全裸になる事も提案して、全員裸になったことがありました。もちろん裸はタブーなんですけど、作品として必要であれば裸になる事は納得出来る、そんなメンバーでした。
- __
- なるほど。
- 諸江
- 高嶺さんの作品には、世間一般ではタブーとされているものをモチーフにした作品がありまして。そういうのを学生の時に見てきて、ああ、自分の中にも、確かにタブー意識というものがあるなと。何も知らずに見たら拒否感しかないが、作品内で語られる背景を知ったらそんな事は言えない。拒否するのは後にしよう、という。一度試してみて、それでもダメだったらノーと言おう、と。そういうスタンスが学生の時に身について、今でも続いています。
- __
- 外の物を受け容れる前に拒否してしまうのではなく、ですね。
質問 御厨 亮さんから 諸江 翔大朗さんへ
- __
- 前回インタビューさせて頂きました、御厨亮さんから質問です。「ついつい見てしまう体の部位はどこですか?」多分、好きとか嫌いとか以前の問題として。ちなみに御厨さんは耳だそうです。
- 諸江
- 御厨君らしいですね。フェチとかではないんだったら、お尻を見ますね。結構、その人の生活の態度ってお尻に出るんじゃないかと思うんです。座ったり寝たり、必ずお尻が大事なので。あとは、目ですね。ものすごく見ます。演劇でもダンスでも、その人がどこを向いているのか、何を対象に喋りかけているのか。その人がどこを見ているのかは凄く注目します。
- __
- その人の方向を直観したいという事ですね。
- 諸江
- そうですね、思考の部分では目を見て、肉体的な部分はお尻を見て、です。
言葉以外の色々な方法
- __
- これは俳優としての諸江さんに伺いたいのですが、演技するという技術を誰かにかいつまんで説明するとしたら、どんな言葉になりますか?
- 諸江
- うーん、何ていうんでしょうか。意識する技術だと思うんです。普段何気なくやっている動作を、改めてやらないといけない。例えばコップを持つ時はいつも右手なんですけど、見せる時は左で持った方がいい場合があるんです。そのとき、考えずに自動的にやってくれていた動作に、意識をあえて挟む事になる。無意識を意識して再確認する技術だと思います。誰かに見せるために。
- __
- その説明の中では、無意識とは何でしょうか。
- 諸江
- 体の慣れとかクセ、ですね。もっと言うと、何も考えずにやっている自分を制御する。
- __
- ありがとうございます。子供に説明するとしたら?
- 諸江
- 子供相手にだったら、「言葉を使わずにお客さんとお話する事だよ」と言いますね。
- __
- おお!それはいいですね。
- 諸江
- 言葉でお話してももちろんいいけど、それ以外の色んな方法があるよね、と。例えば拍手というのがあって、目の前の人に言葉じゃなく、手を叩いてメッセージを伝えている。
- __
- もしかしたら、言葉よりも明確に伝わるのかもしれない。
ブラックボックスに出会う
- __
- 諸江さんが演劇を始めた経緯を教えて下さい。
- 諸江
- 大学より前に、小学校四年生の時に上級生を送る会があって、そこでやる出し物の劇ですね。終わった後に、一度も話したことのない別のクラスの先生が児童劇団に入らないか、って声を掛けてくれて。児童劇団に入って、めちゃ楽しかったんですよね。最初に出た作品では準主役で、名古屋公演にも付いて行きました。
- __
- その後、京都造形芸術大学に入学ですね。その頃に衝撃を受けた作品は何ですか?
- 諸江
- 僕はそれまで、ブラックボックスというものを知らなかったんですよ。緞帳があって、開演したら幕が上がって、みたいな。入ったら途端に舞台のセットが見えていて。お芝居自体も見たことのないものだったんです。何だこれは、って。衝撃を受けた作品といえば、太田省吾さんの「水の駅」。無言なのに成立してしまう何かがあったんですよね。あとは、造形大の卒業制作の蜆ルリイロという作品は色彩的にビックリしましたね。
次は全然別の所に立ってみたい
- __
- 今後、一緒にやってみたい人や劇団はありますか。
- 諸江
- 誰とでもやりたいです。あまり、この人というのはなくて、誰とでもやってみたいです。もっと年上の人とはやってみたいかな。60代、70代の方とか。色々吸収したいです。そこまで俳優を続けているという事は、俳優としてたっていられる根幹がある証拠なんですよね。その技術ってなんだろうと。
- __
- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 諸江
- 飽き症なんですよ。何とか続いているのが演劇なんです。演劇だけは、時々飽きる事もあるけど戻ってこれるんですよね。立て続けに3本ピンク地底人に出させてもらってますけど、次は全然別の所に立ってみたいですね。
- __
- いいですね。
- 諸江
- 舞台畑とはあまり関係ない、美術家さんの方々の考え方が面白いんですよね。高嶺さんもそうだし。去年、梅田哲也さんと雨宮庸介さんの26時間パフォーマンスというのに出させてもらいました。その考え方、どこから出るの?みたいな。そういう考えに触れたいので、芝居の外に出たいなと思います。また戻ってきて、舞台に還元したらいいなと思っています。
- __
- 色んな作品に関わりたい。
- 諸江
- そうですね。本当に、そういう風に関わっていたいです。
- __
- 10年後も続けていると思いますか?
- 諸江
- 続けていると思います。年老いていく事に全然不安がないんです。その歳でしか出来ない事があると思うんです。しかも、演劇は同じ事が出来ないので、楽しみですよね。
- __
- その上、言葉以外のコミュニケーションなんですよね。
- 諸江
- 面白い演劇って、そっちなんですよ、きっと言葉で完全に伝えなくてもいいようなコミュニケーションがある芝居だと思う。全部伝えようとすると、意味にしか意識がいかなくて、自分たちが入る余地がないんです。
絵本 地獄
- __
- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
- 諸江
- いいんですか?あ、でかい。
- __
- 最近ちょっと気になっていた物なんですが・・・。
- 諸江
- (開ける)あ、これ、僕好きですよ。
- __
- 絵本「地獄」です。
- 諸江
- 餓鬼道とかのですよね。
- __
- 色彩感覚が凄くいいんですよ、それ。