演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

片桐 慎和子

女優

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大阪大学ロボット演劇プロジェクト×吉本興業「ロボット版銀河鉄道の夜」

__ 
今日はどうぞ、宜しくお願いします。最近、片桐さんはどんな感じでしょうか。
片桐 
最近はピンク地底人が終わって。今度は「ロボット版銀河鉄道の夜」に参加するんですけど、その稽古が始まるところです。今は、他の舞台を観に行ったりしています。
__ 
楽しみですね、ロボット演劇版「銀河鉄道の夜」。中々、ロボットと同じ舞台に立つという機会はないですよね。
片桐 
お客さんも、演劇に興味がなくてもロボットに興味がある人が観に来てくれそうな気がして。それが楽しみです。
__ 
それに、吉本興業と平田オリザというのは中々珍しい組み合わせですよね。
片桐 
そうですね。

中学までは人前に立つのは考えられなくて

__ 
片桐さんの芝居を、CTT大阪 の「道の階」を拝見した事があります。とても面白かったです。
片桐 
あ、ありがとうございます。
__ 
月がパン工場に行こうとしていて、それを止める女の子の話でしたね。月が歩く時の音楽が凄く良かったです。
片桐 
嬉しいです。作・演出の久野さんも、またやりたいって言ってて。何か書いているそうですよ。
__ 
またいつか、拝見したいです。まず、片桐さんがお芝居を始めた経緯を伺えますでしょうか。
片桐 
中学までは人前に立つのは考えられなくて、学芸会での楽器演奏は好きだったんですけど。でも高校に入った時、演劇部の新入生歓迎公演を見た時に面白いなって思って。でも、だからと言ってバリバリやっていくとは思って無かったんですけどね。
__ 
なるほど。
片桐 
見学に行って入部したら、面白くてハマってしまいました。でも、あくまでクラブ活動で、卒業してからもやろうとは思わなかったんです。実は中学生の終わり頃から宇宙に興味があってですね、宇宙の研究をする道に進もうと思ってたんですよ。
__ 
宇宙。
片桐 
大学の進路もそのつもりで勉強していたんですが、進路を決める時期に考えてしまったんです。で・・・演劇をやろうと思っちゃったんですよ。親にも先生にも「え?」って顔をされたんですね、そんな潰しの効かない、芸術系の進路を取るなんて、進学校としては前例がなかったらしくて。
C.T.T. Osaka Trial No.11

公演時期:2011/11/29〜30。会場:ウイングフィールド。

引力

__ 
演劇がそんなに面白かった?
片桐 
面白かったですね。周りには宇宙の研究と全然違うのにねと言われるんですが。今でも宇宙の研究には興味があります。何がどうなっているのか知りたかったんですよ、色んな事を。でも、同じ事を、演劇を通して知りたいんですね。
__ 
片桐さんが知りたい事って、何なんですか?
片桐 
星と星の間の引力があって、万有引力があって。その驚異的な、どういう事なんだろうと思うんですよね。何だろう、と疑問を感じるんですよね。自分や他の人たちがここにいるという事自体、何だろって。人が存在する事の意味が分からないんなら、そもそも何もわからないなと。宇宙の研究はそれを知る手がかりになるんじゃないかと思っていたんですが、それを始めると途方もないんじゃないか。でも、演劇で自分が舞台に立ったら掴めるんじゃないかと。理論的に一つ一つ突き詰めていくよりも、自分には合っているんじゃないかと思ったです。
__ 
実践を選んだという事でしょうか。
片桐 
多分そうだと思います。演劇に出会って、その可能性を発見したのかもしれません。
__ 
片桐さんにとって、演劇をやることは知りたい事に迫る行動なんですね。

分岐点

__ 
いつか、どんな演技が出来たらいいと思いますか?
片桐 
作品の内容には関係なく、見た人が元気になって帰ってくれるような演技がしたいです。
__ 
それはどんな演技ですか?
片桐 
元気って言うと雑過ぎるかもしれないんですけど・・・悲しい、暗い話でも元気になる事は可能だと思うんです。人にダメージを与えるんじゃなくて、自分自身に対して、元々あるのに見えない部分に訴えるというのかな。そこが一つでもあったら、目が冴えるような体験になるんじゃないか。その次の瞬間から、世界を見る目が変わるんじゃないか。それは自分だけかもしれないけど、他人にも何らかの影響は与えられるんじゃないかと。
__ 
その、分岐点を作れたら、という事ですね。
片桐 
だから、誰かにとってどこかのポイントを付いた演技をしたら、それが舞台上の私にもフィードバックするんじゃないか?と思うんです。その時、私はお客さんのその変化を頭では分かっていないけれど、皮膚では分かっている筈なんですよ。
__ 
「お客さんに何かが起こっている状態」と、それがフィードバックされている事。
片桐 
それが、私だけじゃなくて劇場の全ての人の間で起こっていると思うと、それはとても面白い事だと思うんですよね。そういう舞台がやりたいです。

饒舌な沈黙

片桐 
よく言われている事かもしれませんが、作品はその場にいる、お客さんを含めた全ての人で作るんですよね。
__ 
片桐さんは、そこに可能性を感じているんですね。
片桐 
同じ作品をやっていても、お客さんが参加していると感じた回は、全体として凄くいいものが出来た、と思えるんです。その逆もあります。演出に言われた事を忠実にやっていても、「これでいいのかな」と迷う瞬間があるんです。お客さんの「無言」という反応を皮膚で感じた時には、やっぱりそうなんですよ。
__ 
演劇は観客と作るものである、という言葉はよく聞きますが、なるほど。お客さんの無言のうちの反応を、舞台上の片桐さんが頭ではなく皮膚で感じている。その応酬は、作品に直接的な影響を与えうる。笑いとか拍手とかの表面のレベルじゃなく、もっと深いところで繋がってたんですね。
片桐 
結局、コミュニケーションなんですね。作品の上演はもちろんただの一方向じゃなくて、その交換が豊かであればあるほど、やる意義はあると思うんです。

やりたい事が出来る自分でいたい

__ 
ピンク地底人 「散歩する侵略者」 。最後の、片桐さんと諸江さんのシーンが秀逸だったと思います。私の捉え方としては、あそこで片桐さんが、自分の細かい反応の演技をものすごく意識してやっているんじゃないかと。
片桐 
そうですね、でも一方で、適当にやる事も大事なのかなと思うんです。
__ 
適当に?
片桐 
何でしょうね。うーん、・・・でも、自分の感覚に正直にやる事も大事というか。それは演技をする時だけじゃなくて、そういう生き方をしたいんですね、私はきっと。
__ 
つまり?
片桐 
やりたい事が出来る自分でいたいし、自分がこう感じているということをごまかしたくない。もちろん、人の意見を聞かないという事じゃないですけど。いや、社会人になって演劇を続けるって大変じゃないですか。うじうじ悩んだ時期もあったんですけど、今は、演劇が出来ない理由を探すのはやめようと思います。やろうと思えば出来るから、やりたいなと思っています。
ピンク地底人

京都の地下は墨染に生まれた貧乏な三兄弟。日々の孤独と戦うため、ときおり地上にあらわれては演劇活動をしている。夢は関西一円を征服することと、自分たちを捨てた母への復讐。最近は仲間も増え、京都を中心に大阪にも出没中。(公式サイトより)

ピンク地底人策略と陰謀の第11回公演 「散歩する侵略者」

公演時期:2013/2/15〜18。会場:アトリエ劇研。第8回アトリエ劇研舞台芸術祭参加作品。

質問 諸江 翔大朗さんから 片桐 慎和子さんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた諸江さんから質問を頂いてきております。「片桐さんは何をしているときが一番楽しいですか?演劇以外で」。
片桐 
温泉に入ってる時。あと、ジェットコースターに乗ってる時。
__ 
ジェットコースターが趣味なんですか?
片桐 
いや、高い所が好きなんですよね。飛行機に乗るのも好きだし。
__ 
私は苦手ですね。
片桐 
怖いのはもちろんあるんですけど、ものすごいエネルギーじゃないですか。あんな重いものが浮くだけの、もの凄い力が掛かっているのを感じると。

台詞を言う前提以前

__ 
今後、一緒に作品を作ってみたい人はいますか?
片桐 
スクエア の上田一軒さん。演出家としても俳優としても大好きです。そして、地点 の石田大さんが、凄く素敵だと思います。
__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
片桐 
このところ、今まで以上に舞台に出たいと思えていて。自分が好奇心を感じた、興味が持てるものは積極的にやっていきたいと思います。最近、演劇だけじゃなくダンス作品も多く見るようになって。
__ 
なるほど。
片桐 
台詞がない、文字の言葉がないという事自体が面白くて。台詞がない状態で舞台に立っていて、それで面白くあれるか?という問題意識を刺激されて。台詞を言う前提以前に、面白くあれるか。その人の在り方が問われると思うんですが、ちょっとその辺りをやってみたいと思うんですよね。
__ 
台詞がない状態で、舞台上のダンサーがそれだけで立てる、それだけの理由が何なのかという事ですね。
片桐 
はい。
__ 
もし片桐さんがダンス作品に出るとしたら?
片桐 
いいな、と思います。出てみたいですね。
__ 
何も知らない、初めて会うお客さんを引き込む為に、どこまで準備出来るかどうか、その状態に、持っていけるかどうか、なんですよねきっと。
スクエア

1996年、上田一軒、森澤匡晴の2人により「スクエア」結成。 主に、脚本を森澤匡晴、演出を上田一軒が担当し、 コメディの上演を目的に活動する。(公式HPより)

地点

多様なテクストを用いて、言葉や身体、物の質感、光・音などさまざまな要素が重層的に関係する演劇独自の表現を生み出すために活動している。劇作家が演出を兼ねることが多い日本の現代演劇において、演出家が演出業に専念するスタイルが独特。(公式サイトより)

フランボワーズビネガー

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
片桐 
いいんでしょうか。ありがとうございます。
__ 
どうぞ。
片桐 
(開ける)フランボワーズ・・・?
__ 
のお酢です。料理にも、水などで割っても飲めるみたいです。
片桐 
ありがとうございます。こういうの、好きです。
(インタビュー終了)