演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

根本 コースケ

演出家

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根本
まちょっと、最近時間があって。長い意味でどうしていこうかなあみたいなのを考えていたというか。
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うん。
根本
去年の公演「猿とおどる」を中止にしてしまって。
__
うん。
根本
体と心が付いていかなくなって頓挫してしまったから、もう一度自分の生活を見直していかないと思って。
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うん。
根本
色々な事を自分の中でもちょっと整理しないとと思っていたから。今日はそういう話になるのかな。
__
そうですね、「猿とおどる」については聞きたいと思っていました。その、具体的に問題もあったと思うんですが、作品の作り手として不十分な点を自覚したって事なのかなと。
根本
そうだね。まずはもう本当に、技術的な部分。あとは時間の少ない中でやってしまったからそれを乗り切る体力の部分が無くなってしまったというのと。でも振り返ってみると、技術的には相当、高度なというか高望みをしようとしていた部分があって。単純に今後回復して「猿とおどる」リベンジをしようとしてもちょっとすぐには出来ないんじゃないかなと今は思っているんだよ。あの時にやりたいと思ってたのは、去年の「茶色い絵本」をやった時から、何となくベビー・ピー的なものというか、自分の作りたい芝居の大きな形みたいな物が見えてきた気がして。
__
うん。
根本
大体、いくつかのストーリーの軸があって、それらの絡み合いを見せていくというような。「猿とおどる」ではそれを、3人という最小限の人数でやりたいなと。MEW'S CAFEというお店でやる予定で、なるべくお店の形を崩さずに、あまり仕込まずにやる予定でした。
__
そういうのでかなり難しいと思うのは、やはり照明とか、セットとかを作ったりすると入りづらさが生まれてしまうと思うんだけど、そういうのを外してやりたかったと。
根本
そうそう。
__
さりげない。
根本
うん。・・・さりげないってのは絶対ないんだけどね(笑う)。色んな形でやらないといけないなと思っている。普通の劇場の形式でもやっていきたいなと思うんだけど。でもそうじゃなくて、例えば知恩寺とかの手づくり市とか。あそこは京大の能学部の人達が勝手に踊ってたりしてて、それを観てる人もいればその横で古本を探してたり品物をみてたりしてる人もいて、ああいうざっくばらんな状況が凄く好きで、喫茶店は、劇場と手作り市の丁度中間ぐらいかなと思ってて。
__
中間。
根本
音楽をやっている人がストリートライブをやってたりするけど、そういう形式への足がかりになったらと思っていた、というのが一つ。
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うん。
根本
あとは、話の構造。基本的に手法・人物造形的にも軸が2本から3本あり、それが一つに集約していく、というような。
__
こないだの「みんなボブ」は。
根本
あれは一人20役ぐらい(笑う)。
__
うん。あれも軸が大体同じような世界の中で、5本位の話が並列的に語られていくわけだけれども。
根本
あれは役者5人で、二人がハケて、次に別の二人が出てきたら別のシーンになるけど、「猿と踊る」の3人という人数はそうもいかない。でも、落語とか漫才とかって、最初の枕で観客と対話して、だんだん劇世界に入っていくじゃん。それってやっぱり多重構造といえば多重構造で、そういう様式だからかも知れないけど、分かり易いし、違和感なく見れる。照明を焚いたり、走ったりするマイムなどの大仰な事をしなくても、あれだけ一人で分かり易く出来るのに。
__
うん。
根本
大人数でそうしたらより分かり易くなるのに、何故そうできないかというと、基本を踏まえずにいきなりハイレベルな所に行こうとしているからじゃないかと。そういう、古典芸能と、今まで自分が芝居でやってきた、ストーリーの重層性みたいなのを寄せていこうかと思っていた。
__
思っていた。
根本
しかし。結構、難しかったんかな。「茶色い絵本」時みたいにあまり話をまとめずにいければと思ったんだけど、その力も演劇人としての体力も足りなくて、ちょっとふがいないなと思ったんだけど、ここで無理をしても空回りするだけだなと思って。今回は公演を中止にするという判断をしました。
__
うん。
根本
自分の作りたい芝居の形も見えてきているし、これからも芝居を続けていきたいと思っているから、焦らんと気持ちを切り替えて、別のところからアプローチしていこうかなと思ってます。
ベビー・ピー

根本コースケ氏などによる演劇ユニット。ナンセンスコメディ、熱いジョジョ劇、お祭り芝居など、想像力を強く掻き立てられる作品群。

ベビー・ピー「猿とおどる」

公演中止となった。予定されていた公演時期:2006年12月28〜29日。予定会場:Mew's Cafe。

ベビー・ピーのコント#1「茶色い絵本」

公演時期:2005年12月。会場:京都大学文学部学生控室。

ベビー・ピー#6「みんなボブ」

公演時期:2006年8月18日・20日。京都会場:shin-bi、大阪会場:BlackChamber(文化祭 =Culture Carnival= 参加作品)。

__
何か、最近面白いなと思っているような事とかない?
根本
面白いなと思っている事か。
__
うん。
根本
何だろうね。夜勤明けで知恩寺の手作り市に行って。それから古本屋に行ってぶらぶらしてたんだけど。
__
うん。
根本
次の日も夜勤で、また同じように古本屋に買い逃した本を見に行こうと思って行ったら、がらんと何も無い知恩寺の風景があって。
__
うん。
根本
知恩寺の市の風景を見て、ああ自分の芝居もこういうのがいいなと思ってたんだけど。ごちゃごちゃで、それぞれがそれぞれで頑張ってるんだけど、でも次の日にキレイサッパリ無くなってて。これもいいなと思っていて。そうありたいなと。
__
分かるわ。

場所

__
今後も一応は、ベビー・ピーの代表として。
根本
うん、今年はね。やりたくなると思うんだけど、まず最初に人集めて会場押さえてチラシ作って、って自分を逃げられない場所に置いてから創作をやってたんだけど。それで体を壊したというのもあるし。ホントに今年は公演をやらないくらいの勢いで休もうと思ってます。
__
うん。
根本
何だかんだ言ってストーリーを作るのは、最終的には自分だから。書くという作業に向き合っていかないといけないなあと思っているから。そこを消化する年にしたいなと。
__
独力で作品を作り上げる。
根本
やがての公演の為に書いておくという意味でもあるんだけどね。ベビー・ピーはやっていきたいと思ってるし。・・・演劇人としては、ベビー・ピーっていう場は大事だと思っていて。京都演劇界とは違う場所で好きにやってるというのもあるし。
__
うん。
根本
もっと、本当はこういう層の演劇ってあった方がいいと。色んな人を混ぜ込む場所としてベビー・ピーを機能させていきたいと思ってます。みんなちょっと、正解を求めてやりすぎだと思うんだよ。

磁場

__
正解か。そういう、正解というのは、製作者がそれぞれ、自分で形を決めるものだと思うんだけど。
根本
何かね、ちゃんとしようという気持ちとか、フリンジとか舞台芸術とかを他の芸術にもひけを取らないちゃんとしたものにせなあかんとか、そういう流れがあって、そういう活動はいいと思うんだけど。
__
うん。
根本
でも演劇なんて、はっちゃけたいからやるんであって。あんまり、いきなりちゃんとしようとしすぎてもいけないんじゃないかなと言う気持ちがあって。成功も失敗も包み込んだ場所としてベビー・ピーがあって、そこに磁場が発生するのが目指す所。正しい道筋から振り落とされてきたものがある場所としてあって、かつ物凄い作品も作れればと思っていて。
__
うん。
根本
だから、まあ今は焦らんといこうと思っていて。
__
冷却期間、熟成期間か。重要だと思います。
根本
そういってくれるとありがたいです。

手法

根本
まあ、ちゃんと勉強をしないといけないなと思っています。何か、自分のオリジナルっていうのは、自分の中にあるものがオリジナルというよりは、それを扱う手さばきというか、手つきみたいなのがオリジナルなんじゃないかと思っていて。
__
うん。
根本
その為には、この世界が良いと言ってきたものを取り入れていかなければなと。古典とか。
__
最近読んでるみたいだね。
根本
自分のオリジナルがそういうものを扱う手さばきにあるんだとしたら、入れれば入れるだけ、良い方向に回っていくだろうなと言う。
__
うんうん。
根本
そういうものに流されてしまわずに受け止める土壌みたいなものはこれまでの活動で出来てきていると思っているので、ここらで大事に入れて行きたいなと。
__
そういう手法が、自分の強みだと言っていたと。
根本
単純に、手法っていうのも違うかもしれないけれど。手法自体も借り物でもいいと思う。素材も。
__
手さばき。
根本
手法を持ってくる手法。
__
それぞれの世界について、根本君は一定期間考える。一つずつでも複数まとめてでもいいから、考察したり自分の意識に取り入れていくと。その、取り入れるプロセスにご自身の力があると。
根本
そう。どんなにニュートラルに理解したつもりでも、自分の口から喋ればそれは僕自身が言ってる事になってると思うんだよ。
__
ああ。
根本
前はそういう、借り物の言葉に警戒してた事もあるんだけど、でもあいだに自分のキャラクターがちゃんと媒介されるならそれはそれで大丈夫かなあと。
__
うん。
根本
ダンスとかしてても自分だけずれているような状態を、大事にしたいなと。うん。

根本
あと、カフカの「城」という小説があって。
__
うん。
根本
ある測量技師が、ある城の領地の測量をしにやってくるんだけど、土地の人に「お前なんか知らん」と言われて、「城に行って手続きをしてこい」と言われて城に向かうんだけど、いつまで経っても城に辿りつかなくて、町の人達と不毛なやりとりをし続けるという話で。
__
うん。
根本
それだけの話なんだけど。
__
不毛だな。
根本
でも、自分にとっての物語というのは根本的にその城みたいなもんなんじゃないかと思っていて。それ自体を直接出してくることは出来ない。でもその、目的地にたどり着けずに土地の人と延々やりとりをしているだけで圧倒的に城が浮かび上がってくる。物語も、それをそのまま表現する事は出来なくって、そこに入ろうとしているんだけど入れない人を透かして物語りは浮き出てくるんではないかと思っていて。「月を食べる」の時は、月がそれの役割だった。一時期、月自体を書こうとしていたんだけども失敗していて、でもその、お釈迦様(月)の手の上で滅茶苦茶に動き回る人を書く事で手のひらなり月なりが浮かび上がってくるという事に気付いて。
__
浮かび上がる。
根本
だから、余計なものやノイズを歓迎する方向で作っていった方が、真ん中のものを浮かび上げる事が出来るんじゃないかと。
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うん。
根本
そういう発想と、自分の手さばきっていうのかな、そういうのを生かしていきたいなと。
ベビー・ピー#5「月を食べる」

公演時期:2006年2日〜4日。会場:京都大学西部講堂。

広告雑誌

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(渡す)全然関係ないんだけどね、これ。この無関係性というのはどうかなと思って。
根本
ありがとう(開ける)。おお。
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ほとんど根本くんには不要なものかもしれない。
根本
いや、こういう知識の入れ方もしないといけないなと思っていて。
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へえ。
根本
凄いな。高橋君はこういうので勉強するの。
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全然。ちょっと渋めの雑誌だからいいかなと。
根本
いや、本当に、何でも入れて行かないとと思っていて。こういうの自分では買わないからなあ。立ち読みしても見出ししか読まなかったり。いい機会にします。
(インタビュー終了)