M☆3「こいのいたみ」
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近終わった公演といえば、M☆3の「こいのいたみ」でしたね。大変面白かったです。殿井さんは見せ場がいっぱいでしたね。包丁を片手に猫を捜し回る、ランナー役を熱演されていて。
- 殿井
- そうですか。ありがとうございます。お正月早々駅伝選手のような格好でしたが、ランナーという設定があったわけではなくて、役名も別にありました。
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- あ、そうなんですね。
- 殿井
- 色んなシーンのあるお芝居だったので、シーンの順番をバラバラに稽古していたんです。小屋に入って、順番に場面が繋がった時に一連の流れが分かったんです。
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- というと。
- 殿井
- 今までランダム再生で聴いてたCDアルバムを初めて頭から終わりまで聴いたような。全部聴いて一枚のアルバムだなって思う経験を、音楽でなく芝居でしましたね。一本のプロットがない不条理劇なので、見ていた方はどういう風にご覧になったのか気になります。
M☆3「こいのいたみ」
公演時期:2011/01/09〜10。会場:AI・HALL。
弱男ユニット「教育」
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- 私が殿井さんを改めてすごい人だと思ったのは、弱男ユニットの「教育」でした。
- 殿井
- え、ありがとうございます。
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- やっぱり、すごい迫力を持っている人だなあと思って拝見していました。俳優全員が客席の周りをぐるぐる歩きながら演技するという演出でしたが、ずっと目で追ってました。ラスト、結婚を約束していた筈の男を追いかけるところとか、痛ましくて。
- 殿井
- 劇場全体がアクティングエリアになっていて、真ん中にピラミッド型の客席、というつくりになっていました。出演者は全員出ずっぱりでずっと{客席のまわりを}ぐるぐる歩いているんですが、お客さんの入った状態で6人で四面ある客席を360度カバーするのが難儀でした。やはり、稽古場と勝手が違って客席をはさんで反対側にいる役者の姿が見えなかったりするんです。劇場入りしてからすぐ手直しの作業になりました。そうですね、ずっと歩いていましたね。
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- ありがとうございます。今年は、他にKUNIOさんの公演にも出演されていましたね。見逃してしまいましたが、東京と京都で公演した「文化祭」。
- 殿井
- 東京も京都も、親切でエネルギッシュな人たちがいて、知らない街に行ってみるのもいいもんだなぁっと。今年は歩き回ったり、東京に行ったり、京都にいったり、ちょこっと岐阜の大垣にもいきました。最後は走ったり。
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- 名前の通り。
- 殿井
- あ、そうですね。名前の通り。
弱男ユニット「教育」
公演時期:2011/01/09〜10。会場:AI・HALL。
KYOTO EXPERIMENT「HAPPLAY」特別企画『文化祭 in KYOTO』
公演時期:2010/10/28〜29。会場:アトリエ劇研。
KUNIO
演出家、舞台美術家の杉原邦生さんのプロデュース公演カンパニー。特定の団体に縛られず、さまざまなユニット、プロジェクトでの演出活動を行っている。(公式サイトより)
大好きな時間
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- さて、殿井さんがお芝居を始めたのはいつからなのでしょうか。
- 殿井
- 高校の演劇部からです。学校に登校する日は毎日部活をしたいと思って、文化部二つ、かけもちしていました。
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- あ、そうなんですね。お芝居を始める前にはどんな芝居を見てきたのでしょうか?
- 殿井
- 高校の時に舞台を見始めたんです。高校生のおこづかいなので、年に数回、楽しみに見に行くみたいなおでかけみたいな感じなんですけど。そういえば、おさなごころに家族に連れられて遊気舎を観にいった記憶があります。関取の格好をした人が上下からお祝い用のクラッカーをくわえて出てきて、口の中で火薬を破裂させるさまを、何だか今でもはっきり覚えています。
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- あ、私もクラッカーは見たことがあります。女性でしたが。他にはどんな劇団を。
- 殿井
- 劇団☆世界一団さんをよく見ていました。地球人大襲来というのを見て、衝撃を受けました。
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- 今のsundayですね。私も好きです。何か影響をうけた作品はありますか?
- 殿井
- 大学受験の夏に世界一団の作品をみたんです。「世界一団の博物館」という。信州大学の大学生が、誕生日に退学届けをだしにいく話でした。
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- 面白そうですね。
- 殿井
- その時、「ああ芸術系なら数学のルートの計算しなくても入れるかな」と発想の転換がありました。
なんじゃこりゃぁ!
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- それで京都造形芸術大学に。
- 殿井
- 大学に入って、まず、これまでみたことなかった映画や舞台にビックリしました。コンテンポラリーダンスなるものがあるのも知らなくて。ノートに書こうにも、知ってる語彙が少なくて。
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- ええ。
- 殿井
- そういうころに同じ学年の、ダンスに興味があって入ってきた人と話していると、語り口が熱くて面白そうに語っていて、うらやましくなったんですね。その熱意に惹かれて、ダンスの授業を取ってみようかなと。あと、当時授業でみた『Rosas danst Rosas』というダンスフィルムがカッコよくて、運動も苦手なので、まぁ自分には無縁だなぁと考えていたのですが。結局、学生時代の半分以上はダンスのクラスに在籍していました。はい。だから演劇一筋に志してきたわけでもないです。
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- なるほど。
- 殿井
- 大学に入る前後に、舞台でも、音楽や映画でも、「なんじゃこりゃぁ」というものに出会ったのは、幸運でした。私の出身は都会でもない田舎でもない住宅街なので、そういうところでみかけないものがゴロゴロしている。
指一本一本まで、意識して動かしてみたい
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- どこかで聞いたのですが、殿井さんはアニメーションが作れるらしいですね。
- 殿井
- (笑う)技術は全然ないんですけど・・・。針金が入った人形をちょっとづつ動かしていくんです。
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- おお、クレイアニメみたいな。
- 殿井
- 簡単な動作でも、いざ人形を動かしてそれらしくみせるとなると難しいです。普段自分がどうやっていたかを改めて思い返さないと。歩くことひとつとっても、膝が先だったかな?かかとかつま先か?と、改めて考えてみるとこんがらがってきます。
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- 難しいですね。
- 殿井
- 演劇やダンスの稽古エクササイズでもゆっくり歩く、動いてみる。というのがあるんですが、同じように難しいです。そういえば「教育」や、「文化祭」のときも、稽古のはじめの頃に「ゆっくり動く」ワークショップがありました。
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- はい。
- 殿井
- 普段無意識にしていることが実は、難しいというか奥が深いというか、思い知らされます。
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- 面白いですね。
- 殿井
- ロボットの開発みたいですが、常々指一本一本まで意識して動けるようになったらいいなあと思います。自分でできたら、人形でもできそうな気がするので・・・。
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- クレイアニメで日常の動きを作るには、自分の筋肉を人形に延長させて動き方を発見していかなくてはならない。制作するとき、人形を通して自分の演技を同時に見るという、普通ではありえない体験が出来る。
- 殿井
- そうですねぇ、いや、本当に拙くて私には演技というほどのことを人形にさせるだけの技量、人形作りの技術がまだないのですが・・・。ちがう分野をいったり来たりするというのは、何かしらの肥やしになってきたように思いますので、アニメーション制作もつづけていきたいですね。
質問 北川 大輔さんから 殿井 歩 さんへ
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- さて、前回インタビューさせて頂いた、カムヰヤッセンの北川さんから質問を頂いて来ております。「10年後の自分はどうなっているか、想像がつきますか?」
- 殿井
- いやー・・・。うーん。つかないです。
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- 「いま想像してみたら、どんなイメージですか?」
- 殿井
- つかないですね・・・。・・・生きてんのかな?うーん、未来の楽しみに取っておきます。
「ばーかばーか」への恐怖
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- 俳優としての殿井さんって、私はすごく魅力的だと思っていて。何だか、生活感はあるのにすごく緊張感が漂っているというか。弱男ユニットの「教育」を見たときにもそう思ったんですよ。
- 殿井
- あー・・・
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- 生活感はするけど、異常な感じがする。どことなく罪のにおいがするというか、申し訳なさというか。
- 殿井
- 生活感。例えば、先述の弱男ユニット「教育」では、私が演じた鈴木という女の人が、「妊娠資格者試験」(※)に落ち続けていて、やけと理不尽への反抗心から犯罪に走ろうかというところまで追い詰められていきますね。そのあと、ヒモにふられて制度自体を変えていこうと吹っ切れるわけですが、関西弁のセリフでしたし、はじめは他愛のない会話から始まるので、生活感があるのかも。
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- そうそう、エゴを前面に出す台詞表現でしたよね。ピンク地底人の「EX.人間」もそうだし。
- 殿井
- いわれてみると自分の不満をひたすら訴える、という点においては共通していますね。
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- ええ、緊張感にあふれた演技でした。
- 殿井
- 『EX.人間』、『教育』、『こいのいたみ』とよくじゃべる、それもちょっと恨み節というか、なんというかをひたすらしゃべり、しゃべりまくる。
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- そういう役でしたね。
- 殿井
- これまで死体の役とか倒れる人とかどちらかというと寡黙な役回りで、しゃべり言葉に近い言葉をもらうことになると責任重大だなぁとおののいてしまうところはあります。たとえば「ばーかばーか」とか何とか、舞台上で言うことになってるときに、いったことないですけど、普段の生活ではそんなこと言っちゃいけないことになってて、それを敢えて言うっていうのはリスキーなんですけど。暴力性を承知で意図的に書かれている言葉なわけですが。でも観ている人にとってある台詞がたまたますっごい傷つくわーっていう琴線に触れちゃうような、食いあわせの悪い言葉になるかもしれないなとか、色々考えてしまいますね。
その台詞は言える。もちろん覚えてる、でも
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- 傷つく?
- 殿井
- もしかしたら、お芝居の大団円でなんかすごい道徳的な一般的に善しとされていることを感動的に言っても、観客席にいる人を、落ち込ませるに足る無神経さ不躾さが、言った本人の意図しないところで備わっているかもと。
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- なるほど。それは、とても大切な感覚だと思います。その台詞が、お客さんの内面に対してどういう影響を与えるか、という想像ですよね。優しさかな。
- 殿井
- いや、優しさではないと思います。私もそうですが、客席で舞台をみる最中に「異議あり!」とはなかなかいえないんで、・・・。「明るく元気な方募集、大歓迎」と大きい声でいうとして。
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- その台詞は言える。もちろん覚えてる。
- 殿井
- でも、「明るくなくて元気ない方は、もちろんあんま歓迎じゃないよ。」と言外に言ってないと、どうして言えるんだろう、と。その影響力にたじろいでしまう。
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- いや、その恐れを、舞台で持てる人は珍しいと思います。
役柄はネジにすぎない、大事なのは
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 殿井
- うーん・・・。どんな感じかなあ。うーん。
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- 何かやってみたい役柄とか、こういう役者になりたいとか、こういう道を辿りたいとか。そうだ、どんな舞台に立ちたいですか?
- 殿井
- うーん。・・・、うーん・・・。役というのは、えーと、全体のうちのネジ釘くらいの部品ではないかと思うので。悪い意味でなく、ネジがささっているのは何の機械かが、問題・大切なのかなと思います。やりたい役を強いていうなら、海外ドラマが好きで、どこかの廊下を早足で歩きながら軽妙な世間話と仕事の打ち合わせをしているシーンがありますが、ああいうシーンはどうやったらできるものなのか、不思議であこがれています。大体夏休みの目標は紙に書いて三日を待たず潰えてきたので、この場をお借りして、不言実行できたらいいかなと思います。
さくらの入浴剤
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- 今日はですね。お話を伺えたお礼にプレゼントがあります。
- 殿井
- ありがとうございます。あ、鹿だ(あける)
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- 入浴剤ですね。開いた瓶には別のものを入れられます。
- 殿井
- 季節も先取りの感じで。ありがとうございます。