健康の自覚があやふやの事
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、倉田さんはどんな感じでしょうか。
- 倉田
- うーん。どんな感じ。元気ですよ。
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- 例えば今日、雨が降っていますが、雨の日は調子が悪いとかそういう事はありますか?
- 倉田
- いや調子はね、基本的に良い事はないと思うんですよ。元気なんですけど、調子ええわーって事もない。でも調子が悪い事もない。ま、以前と比べて客観的には元気に見えてると思います。
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- 元気の自覚がない?
- 倉田
- 何とも言えないんですけど。言われるほど元気になったという訳じゃないけれども、別に昔から元気じゃなかった訳じゃないから。元気ですよ、って感じなんです。「どんな感じ?」って難しい質問ですね。
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- そういう風に、自分が元気かどうかの確信が持てなくなったのはいつから?
- 倉田
- お姉ちゃんがかなり大変な病気で。それに対して私はかなり健康で、次女なんで手の掛からない、言うたらほったらかしでいい子だったんです。でもお姉ちゃんはいつか近い内に死ぬんやなと。今はもうばんばん元気で子供もいるんですけど。
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- なるほど。
- 倉田
- 小学校高学年の時に、お姉ちゃんは死なへんのやと気付いて。もちろん仲良かったんですよ死ねばいいとかは全く思ってなかった。でもお姉ちゃんが死なないというのはちょっと何故かショックで、元気担当がイヤになったんですよ、今思えばですけど。私昔から健康で、骨折もしたことないし目もいいし鼻血も出さないんですよ。だから自分がどんだけぶつけたら骨折れるんか、どんだけ息止めてりゃ死ぬんか、という事に興味を持ち出した頃に、元気に対する意識が普通とはズレていたと思います。小学校3年くらいかな。今はそんな事思ってないですよ。でも健康である事に距離を置こうとしていますね。
「今あなたがわたしと指差した方向の行く先を探すこと」
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- 倉田さんの個展作品「今あなたがわたしと指差した方向の行く先を探すこと」について。こちらは数年前から何度も上演されていて、独特の形式(会場内で過ごしている出演者たちと観客が交じり合う)が特徴ですね。この作品は、雑談の時間がとても重要な要素を占めているんじゃないかと思うんです。出演者とお客さん、あるいは出演者同士だったりの。
- 倉田
- こういう風に普通に話したり、ですね。
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- 普通、「作品」って一定の時間にまとめるのが大事じゃないですか。でも「今あなたが〜」はお客さんが見れない時間が大量にあり、それどころかパフォーマンスが行われていない時間も相当ある。いきおい60%ぐらいがそんな時間で、結構みんな雑談したりぼーっとしてたりする。でもその「あそび」は実はもの凄く重要な部分として存在している。
- 倉田
- あれはね、雑談はすごく大事なポイントで。あの展示で、お客さんが入ってきたからといって話すのを放棄すると、これは舞台と一緒なんですよ。客が見る人で、こっちが見られる対象として安定している、みたいな事は別にやりたくなくて。造形大のgraduates under 30 selectedで浅田彰さんが「倉田翠の作品もいいんだけど、裸で立ってるとかそういう事しろよ」って言われたんですけど私はそういう事をしたいんでは全くなくて。いやそれは舞台人なら誰でも出来るし客をびっくりさせるようなのは舞台で出来ちゃうしそこでやればいいんです。私がアホみたいに展示をやり続けているのは、現実に起こるヤバい出来事(パチンコを元気の象徴だと言う人に出会ったり、死ぬと思ってたお姉ちゃんが死なんかったり)とかの衝撃に劇場は勝てへんのじゃないかと思っててて。
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- ええ。
- 倉田
- なるべく、現実の事と、見る・見られるが曖昧になるような作品を、身体表現としてしたいなと思っているんですよね。
「今あなたがわたしと指差した方向の行く先を探すこと」
出演者(展示物)が会期中展示場に居続け、そこで生じる人と人との関係を作品とする身体展示。(公式サイトより)
それは雑談の横で行われている
- 倉田
- 展示の中で会話をしているのがパフォーマンスかどうかが分からない、そのギリギリのところを攻めたいと思っていて。出演者には何も言ってないんですが、かなり要求はしています。
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- 演出としては何も言ってないんですね。
- 倉田
- そういうコントロールや細かい指示は何にも。お客さんと喋っている時に照明が当たったりマイクが手渡されたりしたら虚構度はバーンって上がりますよね。それを客に体感させるかどうかというのは個人の判断ですね。他の出演者のやってる事に乗るかどうかも任せていて。だから失敗する事もあれば成功する事もあるんですよ。
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- あの空間で成功した瞬間は興奮しますよね。
- 倉田
- まあ私その、大学の頃食べられなくて痩せたりして、学内のカウンセリングに行けって言われてて。女の先生と30分ぐらい話してたんです、たまにですけど。その人が、卒業後の展示に見に来てくれたんですよ。久しぶりに会って、私いまこんな事してて元気ですよ、でもまだあんまり食べられなくてと個人的な話を普通の会話のボリュームで言ってたら私も悲しくなるし。喋りたい事を喋っている私と同時にマイクを持っている私がいて、どっちも本当の私で。それはちょっとかなりやりたいことに近くて。その機会を、私はそれを期間中ずっと狙っているというか。
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- いくつかの異なる様相に同時に自分が含まれている事を自覚するその不思議さ。三条のギャラリー・パルクで拝見した時も、そうした刺激的な瞬間はいくつもありました。
- 倉田
- あれもやばかったですね。あの時は出演者に、それを重く課していたんですよね。あの時は、過去現在で自分にとってなるべくキツい事を形にしてって言ったんですよ。思い出すだけでうええってなるぐらいのものでないとダメって。展示中の舞台の時間は、自分のことをおもっきりしろと言ってました。メンバーも凄かったんでえらい事になってましたよね。
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- 頭がごちゃごちゃになりながらもスッキリするような感じがありましたね。出演者さんとどうでもいい事を話していたら隣で料理してたりとか、よく分からない占いに巻き込まれたりとか。ドキュメンタリーAVの架空収録みたいな下ネタに遭遇したりして。
- 倉田
- へー。全然覚えてへん。出演者だけがその全部を知れるんねんな。昔のように一週間出演者を拘束するとかが出来へんのですが、私に関してはずっといるので。この間の大学の時は私と玄済一さんだけが9日間ずっと会場に居てたので。むちゃくちゃ面白いですね。一回目の時、ずっと部屋の隅で見てる子とかもいて。ちょっとだけ参加して帰るのもいいけど、そういう居方もいいやろうなと思いますね。
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- そうそう、フラッシュモブみたいな感じに似てるなとちょっと思ったのかな。
- 倉田
- はい、フラッシュモブの何が面白いかって、その中に巻き込まれた人が、周りのパフォーマーがその日の為に練習してきた事に感動するからなんだと思うんですよ。それと照らし合わすとすると、あの展示の場合はほんまに用意してきたかが分からないようになっていて。浅田彰さんの言う「全裸で立ってろ」とはそういう意味でも違うつもりです。そんなんされたら困りますよね。まあ、私も舞台やってるからその面白さも分かるんですけど。
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- また見たいですよね。
- 倉田
- 展示?
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- はい。
- 倉田
- これもね、またずっと作り続けたいなと思ってます。舞台で出来ひんくなっちゃったところを展示でガス抜きしている部分はあって。まあ、やりすぎると日常生活に支障をきたすし。生活の方に掛かってきちゃう、ギリギリの部分をやりたいのかな。でもしんどいですけどね。でもまだまだするつもりなんで、また来て下さい。長時間で。
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- 一日、ずっと隅っこで見てたいですよ。
- 倉田
- それしたら段々、展示物化していくと思いますよ。
村川拓也×和田ながら×punto
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- 3月末の「村川拓也×和田ながら×punto」のお話を伺えればと思います。
- 倉田
- ちょっと長くなりますけど、実はこの企画の前身は「すごいダンスin府庁」 という企画だったんですよ。いっちゃん最初は国民文化祭の一環で開催されて、二回目は相模さん演出の作品と倉田演出の作品をやって。
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- 「天使論」と「ファミリーマート」ですね。
- 倉田
- 最初は府の事業で始まったんです。出演者も公募制にしました。たぶん、若手を主催者にした企画を国民文化祭の中に入れとこう、という感じです。でも、それで終わっちゃったんですよ。終わっちゃうのかよ、と思って。で、二回目からは誰にお願いされるわけでもなく自分で続けようと。
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- ええ。
- 倉田
- 府が私みたいな者に力を貸すというのが大事なことなんじゃないかと。まあ、めちゃくちゃ大変なんですけどね。
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- なるほど。
- 倉田
- 今回一緒にやる、村川さんと和田さん。村川さんとはまだ出会って時間も経ってないんです。実はちょこちょこ接点はあったんですが、作品に出演させて頂いたのは結構最近なんです。(こういう事を言うと嫌がられるかもしれないんですが)村川さんの作品好きなんですよ。カッコイイと思う。和田ながらは同級生で(私は学年の良くない方の優等生で和田は本当の意味での優等生で)作品の雰囲気が好きなんです。ながらの真面目な性格が出つつも、ちょっと悪さが出てるっつうか。それを府庁でやったら何か化学反応が起きるんじゃないかと思って。単純に、せっかく二人の演出家にお願い出来たし、場所を色々探してpuntoさんに出会ったんです。
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- なるほどね。
- 倉田
- 逆にね、府庁ではないところだからこその面白さもまたあるだろうし。これもまた良い形かなと思います。
村川拓也×和田ながら×punto
公演時期:2015/3/27~29。会場:punto。上演作品:『終わり』演出:村川拓也 出演:倉田翠、松尾恵美/『肩甲骨と鎖骨』演出:和田ながら 出演:穐月萌、高木貴久恵、田辺泰信 料金:一般:1,500円/高校生以下:無料 ※要予約
すごいダンスin府庁
2011年の国民文化祭で第一回が行われた。 『すごいダンスin府庁 2011』 http://sgid.michikusa.jp/ 参加者(順不同): Revo(田村興一郎)、harubaru、Hmmm〜、ミスター、井澤佑治×広樹輝一、村上和司、今村達紀、淡水、倉田翠×きたまり×京極朋彦/『すごいダンスin府庁 2013』 http://sugoidance.tumblr.com/参加者(順不同) : 今村達紀、竹内英明、田辺恭信、松尾恵美、玄済一、相模友士郎、増田美佳
劇場も好きですよ
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- 倉田さんは、劇場外の公衆に触れる場所に作品を置く事にどんな意義を見出しているんでしょうか?
- 倉田
- 劇場も好きですよ。逆に野外劇には全く興味は無くて。展示に関して言えば、展示と舞台の間をやりたいので劇場感は要らないんですよ。特にポリシーは持っていないですね。ただ、質が良ければ音響とか照明とかのごまかしが無くても見れるものにはなるんやろうなと思っていて。村川さんと和田さんのお二方がどういう風に作るのか、居れる事になるのかが楽しみですね。舞台って、立ってるだけで舞台感ってのがあると思うんですけど、普通の空間だと「居る」のが既に大変ですからね。
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- 劇場の、劇場にいました感ってありますよね。お客さんが勝手に意味を汲み取っていくやつね。
- 倉田
- それが良いところでもありますからね。私もいくらでも照明当ててくれよと思いますから。でも普通の空間に立つと負荷が大きくなってくるんですよね。衣裳もメイクも照明もないから、自分がしっかりしていなくちゃ居られへんと。恥ずかしすぎて。蛍光灯の恥ずかしさみたいな。どういう風に、居る為の道を探すのかが、劇場外の作品の面白さだとは思いますね。
村川さん
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- 村川さんの作品で最後に見たのは「エヴェレットゴーストラインズ」 だったかな。私はKEXで拝見しました。
- 倉田
- 私は劇研の初演を見ました。カッコイイんですよね。村川さんは元々映像作家なので、編集をめっちゃこだわってするじゃないですか。1秒とかの単位で登場したり退場したりを組むんですよ。そのこだわりは映像的で、「このシーンでバンと人が登場しなければ意味がない、それまでやってきた事が無意味になる」とかのレベルで。「エヴェレット」もかなり緻密で。まあ、出演者が来なかった時もありましたけど。
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- 作品の性質上ね。
- 倉田
- 『瓦礫』って作品で、野渕杏子さん・中間アヤカちゃんと私が参加した村川さんのダンス作品、ものすごく細かかったんですよ。これまでの振付家の中で一番細かったと思う。ちょっとした出ハケを1時間ぐらい練習したりして。よく分かんないんですけど、もうそこは何かがあるんだろうって信用してるので任せられます。好きだからかな。
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- なるほどね。
- 倉田
- でも、村川さんはあの村川拓也感とは裏腹に普通の男の子やと思うんですよ。だからすごい。
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- 笑顔の似合う、ね。
- 倉田
- でも編集は細かいところまでこだわる。異常なところまでね。この間「沖へ」という映像作品を見たんですけどめちゃくちゃ面白くって。カット割りとか区切りとかを細かくこだわっているってのが伝わって。村川さん、コンセプトを重視するタイプだと思われがちですけど、私は、コンセプトとかよりも技法寄りの人やなと思いますね。それは和田さんに関しても同じで。変なこだわりがあるんですよ。
村川拓也 『エヴェレットゴーストラインズ』
公演時期:2014/10/2~5。会場:京都芸術センター 講堂。
質問 油田 晃さんから 倉田 翠さんへ
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- 前回インタビューさせて頂いた、津あけぼの座のプログラムディレクター、油田さんから質問を頂いてきております。「演劇やダンスの可能性はどこにあると思いますか?」
- 倉田
- 凄い事聞くね。社会的な意味での可能性、無いとは言わないけど私個人は興味が無い事で、それはそれで良くないですね。例えば今ISILの人質の写真が出回っているじゃないですか。それをモチーフに作品を作る、という具体性は私の中には無いから。「可能性」というのはどうしても社会との繋がりを考えてしまいますけど、一旦そこは遮断して。
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- ええ。
- 倉田
- 特定のお客さんの心に、作品の中のちょっとした描写とかが小指程度でも影響すればいいなあと思います。私たちは劇団四季とか宝塚歌劇とかのレベルの事はしてない、けどそのかわりに、もうちょっとがつっと奥深いところに関われればと。社会には何も関係なくてもね。そうなればいいなと思ってる。
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- ありがとうございます。次の質問です。20歳下の後輩世代との関わりの話が出たんですが、その上での質問。「舞台のキャリアが長くなって、自分達が頑迷ではないかと思う事はありますか?」
- 倉田
- 私なんかまだまだ若造で、態度でかいと思われがちですけどかなり気もちっちゃいので。謙虚でないといけないといつも気にはしてるんですけど。頑迷さか・・・学生の頃とかに作っていた作品のわがままさをね、生きやすくするために抹消している部分がありますね。今は逆に、もうちょっと頑固であるべきなんじゃないかと思いますね。年下と話す時も、訳分からん話でもふんふんと聞けるし。自分の頑固さを意識する事はあんまりないかな。
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- 若い頃なんて、自分のやりたいことが念頭にあるから。それが自然なんじゃないかなと。
質問 鳴海 康平さんから 倉田 翠さんへ
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- 次なんですが、第七劇場の鳴海さんからの質問です。「最近泣いた時のエピソードは何ですか?」
- 倉田
- 言える奴で・・・微妙なんですけど、展示の時。パフォーマンスの時に村川さんに演出をお願いするパフォーマンスがあったんです。村川さんの思う、倉田らしいと思うことを私に演出して下さい、そんで最終的には絶対泣かせてください、と。で、「昔やっていた事があるバレエを踊って下さい、と。きちんとお客さんを意識して。その後、お母さんとの思い出を喋る。」という演出が付けられて。そりゃ泣きますよ。めっちゃ泣きましたね。泣けという指示をしている事も分かりながら、さすが村川さんと思いながら泣いてました。何故か分かりませんが、悲しくて泣いたんです。お母さんはね、ケーキを焼くんですよ。差し入れに持ってきてくれて。私一時期食べれんくなった時があって。その時もでっかいシフォンケーキを焼いてきてくれて。その話をしてたら超泣きました。
何か色々はその時で良いと思うこと
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- 今後、どんな感じで生きていかれますか?
- 倉田
- 何か凄い事聞きますね。生きていくという意味では、私はあんまり先の事は考えられへんタイプで。よく言う、何年後までには何かをするとかの計画もなくて。変な話、いまポンって死んでしまっても別に悔いはないんですよ。後々振り返って後悔しても構わないなと。
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- ええ。
- 倉田
- ダンスで売ってくぜとか舞台が好きでたまらないとかも無いんですよ。好きじゃないのかもしれない。でもやりたいと思う限り続けていこうと思っています。あと私いまフィットネスクラブのインストラクターとおじちゃんおばちゃんに体操教えて、あと個人レッスンをしていて。私はそういう、平行していく感じでいければいいなと思っています。それもその時で良いと思うんです。でも、今どう思っているかについて正直に生きていければと思います。
富士山の形をしたすりおろし器
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
- 倉田
- えっ、うそ・・・嬉しいです。凄いですね。
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- いえいえ。大したものじゃないんですよ。
- 倉田
- プレゼントっていいですよね。私もプレゼント癖あるけど。(開ける)なにこれー!
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- それはですね、富士山の形をした小さいすりおろし器です。
- 倉田
- めっちゃ可愛いです。これで何かおろしますわ私。あんまりおろしたりしないけどおろす。めっちゃ可愛い。