やっている事は変わらないけれど
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- 今日はどうぞ、よろしくお願い致します。
- 山崎
- お久しぶりです。6年ぶりですね。前の記事読んで、昔、こんな事言ってたなあと思いますよね。
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- そうですね。時間が経ちすぎましたね。あの頃と比べて、何か、決定的に変わった事とかはありますか?
- 山崎
- 見る人が増えるまでは、何か変な事をやってると思われるようにやっていたと思いますね。名も知れぬ劇団だから。だからこそ却ってそういう作品が作れたのかもしれないです。それと比べると今は、期待して見てくれる人や、評判だけ聞いてもらっている人の予想を裏切って刺激を与える事をしていますね。守りに入っているとかじゃないんですけど。やっている事は変わらないんですが、その対象が変わってきているなと思います。
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- なるほど。昔は、変わった事をやりたいという気持ちは強かった。
- 山崎
- もともと、物語やセリフを作品として書くというこだわりは無かったんです。だから、人のやっていない事や、話題になりやすい特徴を作り出せていたんだと思います。でも最近、やっと戯曲を書く事を意識し始めて。その上で、お客さんが求めているものと、僕らがやりたい事を探していこうと思っていますね。
悪い芝居
2004年12月24日、旗揚げ。メンバー11名。京都を拠点に、東京・大阪と活動の幅を広げつつある若手劇団。ぼんやりとした鬱憤から始まる発想を、刺激的に勢いよく噴出し、それでいてポップに仕立て上げる中毒性の高い作品を発表している。誤解されやすい団体名の由来は、『悪いけど、芝居させてください。の略』と、とても謙遜している。(公式サイトより)
悪い芝居vol.13『カナヅチ女、夜泳ぐ』
公演時期:2012/06/13〜20(大阪)、2012/07/10〜16(東京)。会場:in→dependent theatre 2nd(大阪)、王子小劇場(東京)。
「期待は裏切らないが、予想は裏切る」
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- 今の悪い芝居はそうなんですね。お客さんが求めている事と、悪い芝居がやりたい事。ニーズとニーズをマッチングさせるという事ですか?
- 山崎
- 人それぞれ好きなものが違うんですが、今時代の流れ的に求めているものがあると思うんです。僕は「次は何をしてくるんだろう」という期待には照準を合わせたいですね。昔と比べて、アンケートだけじゃなくネットでも反応が返ってくるようになって。僕はそれにアンテナを張る事はしています。もちろん、やりたい事からそれる、という事ではなくて。
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- 宮下さんが仰っていたんですが「期待は裏切らないが、予想は裏切る」という事ですね。
- 山崎
- ああ、そうかもしれませんね。どちらかと言うと、予想を裏切る事に重点を置いているかもしれません。極論を言うと、興行的にコケてもいいんですよ。大事なのはお芝居を見てもらう事であって。
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- おお・・・。
- 山崎
- 希望としてはお客さんがもっと入って欲しいし、成功したいという気持ちはあります(隠すことではないですしね)。でも、だからと言ってお客さんが入るようニーズだけに合わせるようなものを作るよりは、次以降も見たいなと思わせる、そういう作品を作りたいです。すごく広い希望を言うと、僕らを見る事でもっと演劇が広く見られればいいなと。
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- 悪い芝居を見る事で、演劇そのものに目が向く?
- 山崎
- 何故かと言うと、目の前で行われる奇跡的な瞬間を、お芝居は持っていると思うんです。僕らは、よい作品を上演する公演を打つというよりも、上演時間内でいかに魔法のような時間を作るかを意識しています。それを見て、「うわあ、演劇ってこういう事が起きるんだ」って知ってもらいたくて。それで僕らを見続けてくれてもいいし、他の芝居を探してくれるでもいいし。
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- なるほど。
- 山崎
- となると、いまこの世にないものを作ろうとするのは自然な流れだと思います。お客さんも見た事がない、未知のものですね。一番最初は目立とうと思って新しい事をやろうと思っていたんですが、いまはその動機がすっきりしてきた感じですかね。こういう姿勢になったのは、自信が付いたからかもしれないですけど。
奇跡の瞬間を探して
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- 奇跡の瞬間。それはやっぱり、同時性が鍵なんじゃないかと思います。同じ時代を生きていて、凄い事を今している人を見ると「うおお」と思いますからね。その構図を時空間ともに凝縮しまくったのが小劇場だと言えるかもしれませんね。
- 山崎
- 僕らを一つの点にして、お客さん自身の中に起こっている問題に、ふと目を向けたくなるような、そんな表現になったらいいなあと思います。それが一番出来るのは演劇で、もっとはっきり言うと小劇場だと思うんです。ゆくゆくはもっと大きな興行もしていかないといけないとは思うんですが、興行的な事は考えないといけないんですが、それを一番にはしたくないと思っています。
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- 個人に入り込めるのは、客席の近い小劇場以外にないと。
- 山崎
- 芝居ってやっぱり、色々近いんですよね。距離的にも、やっている人たちが一流のスターとかじゃなく、生活の傍ら芝居しているという。お客さんの、本当に柔らかくて神経むき出しのところに触れられるのは小劇場だと思うんです。だから好きなんですね。
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- それはきっと、恋愛に少し近いですね。
理想への距離
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- ざっくりした聞き方です。没頭出来ていますか? 今の作品でもいいし、演劇そのものだけでもいいのですが。
- 山崎
- 今は、結構没頭出来ているかな。一年三ヶ月くらい前から、バイトを辞められていて。時間が出来て、考えられる材料や考えの質とかは確実に上がっているんです。ペースが上がって、評価も上がったり賞ももらったりして。客演する時の意識も変わって・・・。そうですね、去年は明らかに没頭していました。でも、お芝居を作る事しかやらなくなった時に、もてあそばれているように思えてきたんですね。
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- もてあそばれる?
- 山崎
- 今まではバイト中に考えたような事を芝居にしていたんです。しかし今は、稽古以外の時間も作品に生かせられる生活になった。能動的に動ける時間が増えたと。それと同時に、理想がすごく高くなって。これで同じように演劇作りしていてはだめだ、演劇における奇跡みたいな時間を作らなきゃと。
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- 作る作業にもてあそばれている?
- 山崎
- そうですね。全部を作品に生かせられる自由があるんです。そういうのががーんと自分に迫ってくる怖さもありますし。何が決定的に違うというと、理想への距離が明確になってるんですね。世界地図だけ渡されて、「これでアメリカに行け」と言われたような気分。
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- ええ。
- 山崎
- 昔は地図も渡されずに、オーストラリアに到着して、それでも良かったんですけど。今は、アメリカに行くために飛行機代を稼がなくちゃとか、イカダを使う事に決めて、ならイカダを作る技術を学ぼう、とか・・・思考の仕方が違ってきたんですよね。一回もやめようと思った事はないので、没頭出来ているんですが、種類は変わったと思います。ワクワクしますけどね。
悪い芝居vol.13『カナヅチ女、夜泳ぐ』
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- このチラシ。この絵のシチュエーションをみんなで考えようの会です。こんな重装備で溺れている女。自分でカナヅチだと分からない筈はないので、つまり他人に流されてここまでノコノコと来てしまい、こんなシチュエーションになってしまっていると。この絵、進野さん(悪い芝居メンバー、演出助手)が描いたものだそうですが、どういうシチュエーションなのだと思われますか?
- 山崎
- ここはこういうものだよというのはあるんですが、それは想像してほしいですね。もう出来上がったものなので。それよりは、重力に関する僕らの感覚を感じてもらいたかったんですね。
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- 重力?
- 山崎
- このチラシの裏側、便宜上は下向きがあるんですが、たとえば出演者の画像は右方向に重力がかかっていて、スタッフクレジットや公演情報は左。チラシを横に向けたりしないと読めないんですね。それで、重力と向きを感じてもらいたいというのがあって。
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- 山崎さんの中では、いま重力が気になっているんですね。
- 山崎
- 人は何故か、反対側に行きたがったり、上にいったりと、重力とは別の方向に延びる事をよしとされる。万年床とか引きこもりとか、けして良い意味では使われませんね。どうしても、僕らはきっと重力と切っては切り離せないんじゃないかって。階段を上る感覚と下る感覚を同列に説明出来ない。
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- なるほど。
- 山崎
- この表側の絵も、実は左を下にすると女の子が空を飛んでいるように見えるんですよ。逆さにしても構造がまとまるし、天井が落ちてくるように見えるみたいな。
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- あっ、本当だ。
- 山崎
- と言っても、お客さんに浮遊感を味わってもらうためにお芝居から離れるという事はしたくなくて。物語をやる、関西小劇場の演劇でやるというのは変わらないです。そこで勝負するとした時に、下からの重力には逆らえないという事を忘れないように、物語を書いていこうとしています。
空も飛べないのに
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- 無重力か。このチラシの絵、水中にも見えますよね。
- 山崎
- そうですね。宇宙の無重力空間って水と似ているそうですね。一体、なぜ僕達はこのチラシのあぶくが上に行っているように見えるんだろう?それに囚われている僕たちが、気分が良い時に何故「浮き足立っている」「気分上々」って言葉を使うんだろう。
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- 上機嫌も英語でハイスピリットって言いますね。
- 山崎
- 空も飛べないのに、アニメにも漫画にも映画にもそういう描写があって、飛んだ感覚はないのに、何か知らんけどその感覚を想像出来るんですよね。ならきっと、お芝居でも、お客さんの脳みそか心か体か知らないですけどどこかを刺激したら椅子に座ったままでも飛んでいるような感覚を体験させることが出来るんじゃないかなと思うんですね。どうやったらいいかは分からないんですが。そのための物語を試行錯誤中です。何とかなると思っているんですけど。
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- まあ、まず、自転車に乗っている時は低空飛行しているような錯覚はありますよね。
- 山崎
- あと電車とかで、外を眺めている時に、何かの瞬間から飛んでいる自分を想像出来るんですよね。
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- それはきっと、人間に自然に備わっている共感感覚という奴ですね。他人の動作への共感がある。例えば流れ作業をする時に、自分一人でやるのと他人の手先を見ながらするのとでは学習スピードが違う。他人の動きを見ると、自分もそうしているように脳が錯覚する事が実験によって分かったそうですね。
- 山崎
- あー、そこですよね演劇にしか刺激できないところって。そこは僕も最近気づいてて、身体感覚から来る感情があるんですよね。好きな人の事を考える演技の時に、実際に考えるよりも、背中に風船を1万個付けた感覚を使う方がいい。その風船でフワフワ浮いてたら、はあっとなるんですよね。それを、お客さんにちゃんと誘導したらいいんだなと。それを、一人芝居の時に言ってました。
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- なるほど。
- 山崎
- それを、関西小劇場の悪い芝居でありながらやりたい。そこが難しいんですよ。相性が悪いのかもしれないんですけど。
質問 岡田 太郎さんから 山崎 彬さんへ
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- 前回インタビューさせて頂いた岡田さんから質問をいただいてきております。「1.岸田國士戯曲賞、いつか取れますよね!?」
- 山崎
- 何ですかそれ、分かりませんよ僕だって。でも取れるなら嬉しいですよね、うん。
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- 「2.水分(みくまり) での一人芝居で『想像できる事は全て実現可能である』という表現を身につけられたそうですが、それでも緊張はするんですか?」
- 山崎
- それはしますよ。緊張をしない部分もあると思うんですが。緊張を排除するようにコントロールするのではなく、それが鼓動と同等のものぐらいとして捉えるみたいな。緊張をしたとしても、クールに捉える。というのが、水分で学んだ事でした。
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- 個人と演技を分けている感じですかね。
- 山崎
- それは両方いた方がいいという事を演出家の司田さんに言われたんですよ。役としては雪山を見ていて、役者としては演技を考えている。
主水書房プロデュース「水分‐みくまり‐」
公演時期:2012/3/9〜11。会場:主水書房。
ここでしか感じられないもの
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- 佐藤佐吉演劇祭 。京都から2団体いきますね。かましていきたいという事ですが。
- 山崎
- まあ、ポーズとしてね(笑う)。かましていきたいとは言いました。うーん、何か・・・「俺らは、京都でお芝居に出会って、京都で作ってきたんだ!」というこだわりはすごくあるんですよ。これは特に思うんですが、僕達がこっちにいるからこそ考えられる事がすごく大事だなと。時代的にも。まあ京都はまだ都会ですけど、いま地方の人間が考えている事に目を向けてもらっている。意識としては地方だ東京だとかはそんなにないんですが、自分達の拠点というものを、ここでしか感じられないものを作品に載せるところが大事なんじゃないかと。
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- なるほど。
- 山崎
- 東京でかます、というよりは、僕達がいま考えている事を、場所が変わろうがしっかり伝えていきたいですね。
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- なるほど。別の地域からやってきた芝居は常にワクワクしますよね。私は、地域によって俳優の身体の味が全然違うと思っています。京都の俳優の身体は結構マジで違うと思うんですよ。
- 山崎
- ですよね。
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- 京都の俳優の身体は「謎を服に隠している感じ」がしますね。街の感じとか、生き方とか、終電がないから時間の流れが遅いことが影響しているんじゃないかと最近思います。
- 山崎
- 僕も、やっぱり好きなのはこっちの人たちが作っているもんなんですよ。どっちが優れているかとかじゃなくて。地元で食べる飯が美味いのと同じで、やっぱり、関西の芝居の面白さは感じますね。もちろん、別の土地の人からは逆の感想が出るかもしれませんが。それが腐らない内に、なるべく新鮮なまま届けたいですね。
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- まあどこでも、ユニークな俳優であろうと思ったら自分に合ったカンパニーに出会えるか作れるかが鍵ですよね。
- 山崎
- こっちにいるのは、有利なんですよきっと。ネガティブな意味じゃなくて、こちらで得られる感覚を大事にしたいですね。
佐藤佐吉演劇祭2012(劇視力5.0)
王子小劇場が自信をもってお薦めする、より多くの観客に観ていただきたい作品が集まる演劇の祭典。王子小劇場では注目すべき作品・才能が集う時にのみ、佐藤佐吉演劇祭を開催する。(公式サイトより)
原点
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 山崎
- 根本的なところは、昔からずっと変わってないと思います。僕の生活や劇団の環境が変わっても。もちろん、他に面白い作品や人があって、僕自身の面白さを見失う怖さもあるんですけどね。でも一番最初の「面白い、俺も芝居やってみてえ」「出来るかも」というのは変わらないと思うんです。絶対に。攻め方は変わるかもしれませんけど。でも、根っこの部分が変わったら、僕は芝居出来ないので。それがわがままになるような現場や時期はあるかもしれませんけど。スパンが空いても、それは自分のペースでやっていると思ってもらえれば。
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- ご自身にあった決定をしていけば、それは何でも正解ですよ。きっと。
もっと知り合えないか
- 山崎
- 今になって思いますけど・・・。劇団同士って、敵ではないですけども気にはなるもんなんですよね。あの人はこれをやってるだとか、あの人は何歳の頃これだけの事をしていただとか。やっぱり、演劇をもっと流行らせる為には、もう少し横の人が何をやっているのかお互い知っていても良いのかなと思いますね。僕らもワークショップとか始めたんですけど、もっとみんなで、共有する財産として伝えたらいいと思う。面白いと思うところを刺激する場所を作りたいなと思うんですよ。
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- なるほど。
- 山崎
- 数が限られているから、その分、接する時間が限られている。純粋に作品を通して共有しようとしても、時間が限られていて。京都でしか出来ない事を、地域関係なくやれたらなとちょっと思います。それはどうなるのか分からないんですけど。僕らは、お互いに、どんな事を考えていますよというのをもっと話してもいいと思うんですよ。自分らの小さい範囲を守っているだけでは、生まれるものは少ないんじゃないかなと。トキワ荘じゃないですけど。周りが、どういう考え方で作っているのかをもう少し知る事が出来たらいいなと。そういう情報の共有をする事で生まれてくるものはあるんじゃないかなと。
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- ジャンルが違っていても、分かる事はありますからね。
中椀
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- 今日はお話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 山崎
- ほんとにすいません。ありがとうございます。特集まで組んでもらってるのに。
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- いえいえ。最初の山崎さんインタビューの時はカップでしたね。無印の。今回はこれです。
- 山崎
- (開ける)あ、お椀ですか?今ね、超うどんを食ってるんですよ。フレスコで買ってきた18円位のうどんに高級なダシや具を合わせるのが流行っていて。普通に使います。ありがとうございます。