演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

有北 雅彦

脚本家。演出家。俳優

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人間を演じる、うまいやりかた

__ 
今日はどうぞ、宜しくお願い致します。大阪発のコントユニット、かのうとおっさんの有北さんにお話を伺います。有北さんは、最近はいかがでしょうか?
有北 
よろしくお願いします。最近は、稽古稽古の毎日を送っています。スイス銀行さんの「暮らしとゾンビ」 と、劇団赤鬼の岡本拓朗さんプロデュースの「ロッキュー」 ですね。
__ 
お忙しい中、本当にありがとうございます!意気込みを教えて頂けますでしょうか。
有北 
いつもいわゆる脱力系コメディをやらせてもらっているんですけど、二つともがっちりとしたお芝居なので、これは頑張らないといけないと思っています。
__ 
なるほど、脱力系コメディされている方としては。
有北 
人の気持ちを表現するのは非常に難しいです(笑う)中でも、いい人を表現するのが難しいですね。かのうとおっさんの作品には良くない人間が非常に沢山出てきて、むしろ褒められる事のない人間しか出てこないと言ってもいいんですよね。そういう役だったらとても得意なんですが。「ロッキュー!」では、口うるさい人なんですけど根っこの部分ではいい人ですね。「スイス銀行」ではまるでダメな人なので、わりといつも通りやっています。
__ 
そういえば、かのうとおっさん作品には分かりやすいクズ人間ばかり出て来ますね。
有北 
自分たちでやる時は、徹底してダメな人間像を描くんです。客演すると、「やっぱり人間って、どんな人でも良い部分はあるんだな」と気付かされますね。
__ 
うまくやれるといいですね。
有北 
(笑う)
かのうとおっさん

'99年、嘉納みなこと有北雅彦により結成。独特の台詞回し、印象に残るビジュアル、笑いをベースに人の生き様を鋭く描く作風は小学生から60代まで広く支持される。'12年「関西ふたり芝居セレクション」優勝。(公式BLOGより)

スイス銀行第六回公演「暮らしとゾンビ」

公演時期:2013/6/7〜10。会場:in→dependent theatre 1st。

劇団赤鬼岡本拓朗プロデュース公演第二弾「ロッキュー!」

公演時期:2013/6/29〜30。会場:神戸電子専門学校ソニックホール。

「全力て!」

有北 
何故我々は、そういう風に、人間の良い部分を描く事が出来ないのか・・・
__ 
前回公演「大阪BABYLON」 の時も、主人公は最後まで徹底して人間の屑であり続けましたね。ちょっとは前向きになったぐらいで、実は何の成長もせず、他に女はいくらでもいるという事に気付いたぐらいでした。
有北 
そうですね。
__ 
「青春再来我愛你」 でもそうでしたが、行動原理があからさまに私利私欲で欲得ずくの登場人物達が繰り広げる、正視に耐えない醜い競り合いがかのうとおっさんコメディの魅力だと思います。
有北 
ははは。
__ 
本当に価値の無い人間、というのが名言されて、でも、それは誰しも持っている人間の側面で。何故彼らが、脱力系コメディという枠の中で描かれるとあんなにも魅力的なのか。
有北 
脱力していないのかもしれないですけどね。メールとかで知り合いに「全力で頑張ります!見に来て下さい」って書いて送ったら、「全力て!」って返ってきて、ホンマや全然脱力してへんと。全力出してると。どちらにするべきなのか本気で迷いましたね。全力で頑張らない方がいいのか、脱力しなければいいのか。
__ 
なるほど。一つ思ったんですが、脱力=リラックスとは、精神・肉体ともに抑圧を受けていない状態だと思うんです。その状態でやらかし続ける住人達はまさに性悪説的だと思うんです。
かのうとおっさんvol.17『大阪BABYLON』

公演時期:2012/8/24〜25。会場:in→dependent theatre 1st。

かのうとおっさんvol.16「青春再来我愛你(セイシュン サイライ ウォーアイニー)」

公演時期:2012/8/24〜25。会場:in→dependent theatre 1st。

人の欲とか打算、面白いですよね

__ 
さて、なぜかのうとおっさんではそのような人々を描くのでしょうか。たとえば移り気で打算的で目先の利益に弱い人々を。
有北 
人は本質的に嫌なところを持っていて、でもそこだけを強調したい訳ではないんです。本気の部分、素の部分が好きなんですよ我々は。
__ 
なるほど。
有北 
僕の周りにいい人が沢山いたら、今頃そういう芝居を作っていたのかもしれません。
__ 
そうではなかった?
有北 
(笑う)そうですね、いやいるんだけど、剥いていくと悪い部分があるんです。僕は、人の欲とか打算とかが大好きなんですよ。
__ 
人間の皮を剥いていく事に興味がある。それは、いつ頃からでしたか。
有北 
それはもしかしたら、高校ぐらいですかね。周りにロクでもない奴がいて、彼らとは今でも仲が良くて季節の変わり目には集まって飲んだり遊んだりしています。あいつらも大概アカンですね。そこに原体験があるのかもしれません。
__ 
人間には色々な面というか、悪い・しょうもない人格をその内に抱えていて、それも人間だといいう事を友人関係を通して自然に学んでいくのも一つの教育なのかな、と思っています。学校では教科としては教えられてはいないけれども、集団生活を通して自然と身に付いて行くのが理想でしょうね。
有北 
そういう訳で僕はナイーブなんですが、何故いま人を傷つけてえぐるような事をしているのか、自分では分かりません。ただ、凄く楽しいんですよ僕は。
__ 
楽しみたいんですか?
有北 
例えば稽古場で、僕らはとても笑うんですよ。ひどい事を演技してもらうととても楽しいんです。我々が楽しくなければ意味がないと考えていて、それを追求した結果、酷い人々ばかりが出てくる作品になりますね。
__ 
遠坂さんが年下の女の子に「バーカバーカ」とか言ったり。
有北 
唾吐いたりしてましたね。
__ 
それに、最後の最後に佐々木ヤス子さんが低級妖怪を演じる、不要なシーンもありました。
有北 
あれは彼女が八木進さんの代役をしていた時の演技をそのままを再現してもらっただけなんです(笑う)一応設定はあって、30cmくらいの大きさでお墓のお供えモチを食べる。あと、水も飲んでくれと。
__ 
「悪魔くん」のピクシーみたいな。
有北 
そんなイメージでしたね。
__ 
しかも、不要なシーンでしたしね。

質問 黒岩三佳さんから 有北 雅彦さんへ

__ 
東京で女優をしている黒岩三佳さんから質問を頂いてきております。「嫌いな人のタイプはなんですか?」
有北 
なんだろうな、普通に言うと、気持ちを分かってくれない人は嫌ですね。僕が人の気持ちを分かってしまうので。だから、機械とか苦手なんです。ケイタイが急にフリーズすると物凄く怒ってしまうんです。
__ 
なるほど。
有北 
話が通じる人は好きですね。話の通じない人は・・・

ハッピーエンドは不要

__ 
お芝居を始めたキッカケを教えて下さい。
有北 
高校の頃、友達に誘われて入りました。その友だちは演劇部に好きな子がいるから入ったんですけど、一人で入るのは下心が見え見えなので僕を誘ったみたいです。そいつすぐ辞めました。
__ 
かのうとおっさんの公演について。脚本を書いているのはどなたなのでしょうか。
有北 
僕と嘉納さんの二人です。そうした書き方は変わってるなとよく言われます。
__ 
かのうとおっさんに出てくる、目先の事に振り回されるダメな人物像をどう呼べばいいのかでしょうか。
有北 
そうですね、自分に正直な人間と言えるのでは。良くも悪くも隠さず、行動に移してしまう。
__ 
そうした人々が繰り広げるモラルハザードを何故描きたいのでしょうか。
有北 
(笑う)やっぱり、僕らが楽しみたいからでしょうね。最近気付いたのですが、昔は嘉納さんの方がひどい人間だと思っていたんですが本当は僕の方が酷いんじゃないかって。もしかしたら、酷くなっているのかもしれない。嘉納さんは、あれでもまだハッピーエンドにしようとしているんです。
__ 
そうでしょうか。
有北 
あはは。
__ 
嘉納さんをgate#extraで拝見した時に、小悪党なんだなあと思ったんですよね。
有北 
それ、最近も言われたと思います。大阪BABYLONで、嘉納さんがインサイダー取引で大儲けしたシーンの彼女の顔が「小物すぎる」と言われてました。

剥いでも剥いでも

__ 
これまで、かのうとおっさんを変えた作品はありますか。
有北 
「青春再来〜」は大きい影響がありましたね。
__ 
あの作品も、どうしようもない穀潰しばっかりでしたね。
有北 
そういう人々を主に描くのがとても楽しかったんです。それを再認識しました。「セクシー先生」という作品でもそう思ったんですが、僕が演じた男子中学生役はロクでもない事ばかり考える奴なんですけどちゃんと全部バチがあたるんです。罰が当たるべきだと思っているんでしょうね。
__ 
それが、かのうとおっさん学におけるモラル?
有北 
そうですね、悪い主人公は、最後には救われるべきじゃないんです。打算でしか動いていなかった女は輪廻の末に下級妖怪に生まれ変わったりするし。現実は、そんなものだと思うんですよ。棚ボタ的に恵まれている人はいますけど、悪い事をした人にはそれなりの罰が当たるんです。物語は描きようでなんとでも前向きになるんですが。
__ 
禊ぎ、ですね。露悪的な彼らは天罰を受ける、が、結局クズのまま生き続ける。人間を性悪説的に捉えながらも根底では愛しているのではないかと「青春再来〜」を見た時に思いました。
有北 
人間への愛はありますよ。ああ、この人ホンマはこういう人なんやなと思った時に喜びを感じやすいです。表面的な嘘とか取り繕いはすぐ分かってしまうんです。何かね、僕は非常にナイーブなので。そこをね、剥いで行きたいです。
__ 
いま剥ぎたいのは?
有北 
最近は女性に関して興味がありますね。巷にある物語では女性を理想化して描かれる事が多いですが、ちょっとやっぱり、そういうのは違うなと。女性は年代に関わらず、かなり打算で行動していると思うんです。僕もフェミニンだとよく言われるので、分かるつもりです。

あて書きの究極

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
有北 
公演するにあたって、沢山の色々な方々をゲストに招いていますが、もっと色々な人たちと関わって行きたいなと思います。基本僕ら、あて書きなんですよ。この人がこんな事をやったら絶対面白いというのが分かるんです。逆に、観に行ったお芝居で無理を感じる事は多いですね。
__ 
キャスティングですね。
有北 
円広志さんとか、ロザンさんとか、意外な人に出てほしいですね。

天才バカボンのポストカード

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今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
有北 
ありがとうございます。(開ける)あはは。
__ 
ポストカードです。
有北 
へー。ほんまや。ありがとうございます。使うのはもったいないですね。これは上等な。
(インタビュー終了)