演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

たみお

脚本家。演出家

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ユリイカ百貨店+サギノモリラボ「TWO」

___ 
今日はどうぞ、宜しくお願い致します。たみおさんは最近、どんな感じでしょうか。
たみお 
最近は、「TWO」の稽古と、リーディングと、子供向けWSのあれこれと。子育てをしています。迷惑を掛け通しです。
___ 
私、この一年以内に取材した女性の5人ぐらいが結婚された方だったんですけど、演劇活動と結婚が両立していないみたいなお悩みをみなさん持っていたようでした。自信がないのですか?
たみお 
母親とはこうあるべきだという思い込みとかけ離れているんですよね。好きな人と結婚したのは幸せだけれど、これからあれやこれやをしていこうと思っていたのに、そのあれやこれやを向こうにしてもらってばっかりだなあ、と。
___ 
大好きな方と結婚出来たのは素敵な事じゃないですか。
たみお 
それもちろん。理想はもっときちんとして、もっと料理もして。しかも今は土日を創作の時間に充てさせてもらっています。もちろん家族の時間も持ってはいるんですけど。
___ 
旦那さんのご協力のもと、製作されているんですね。つまり、それはもう失敗出来ませんね。
たみお 
そうですよ。本当に。
ユリイカ百貨店

ユリイカ百貨店は 2001年より、脚本・演出を担当するたみおを中心とするプロデュース集団として活動を展開。幼い頃の「空想」と大人になってからの「遊び心」を大切に、ノスタルジックな空気の中に、ほんの少しの「不思議」を加えたユリイカ百貨店ならではの舞台作品を作り続けている。(公式サイトより)

ユリイカ百貨店+サギノモリラボ「TWO」

公演時期:2014/10/18〜19。会場:元・立誠小学校。

共作がはじまる

___ 
この作品・・・『ツー』?と読むんですか?
たみお 
ちょっと言いにくいので「ティーダブルオー」と呼んでいます。
___ 
ありがとうございます。いいチラシですよね。ビジュアル的に素晴らしいです。ここ3年ぐらいで見た中で一番、美しいと感じるチラシでした。
たみお 
あ、本当に?ありがとうございます!この遊園地の写真、全部切り抜いているんですよ。手伝ってもらったりして。
___ 
元は写真なのに、欄干の一本一本まで・・・凄いですね。さて、どんな作品になりそうでしょうか。
たみお 
照明デザイナーの魚森さんと、インターフェイスデザイナーの片山さんのお二人がお作りなったサギノモリラボというデザインユニットと一緒にやらせてもらうんですけど、面白い事を考えていらして。例えば、お客さん参加型のインタラクティブアートが演出として作品に組み込まれるという。
___ 
面白そうですね!
たみお 
それから、作品自体が移動し易いように作ろうと、
___ 
移動できる作品とは?
たみお 
海外にも持っていける。劇場を選ばずに出来る作品です。私の方は、暗転をしたいという気持ちがずっと強くて。この一年ぐらいはリーディング公演を主にしていたんですけど、会場の都合から暗転が難しくて。それを魚森さんにお話した時に、「一緒にしてみない」というお話を頂いたんです。暗転出来る、これはありがたいぞと思って。
___ 
面白い関係性ですね。
たみお 
ありがたかったです。

豆電球のささやき

たみお 
それから、KYOTO EXPERIMENTに出すので、日本語でも英語でも通じるもの。
___ 
それはめちゃくちゃお題が多いですね。移動できて、大人も子供も楽しめて、言語的にも問題ない。まさに、サギノモリラボとの共作ですね。
たみお 
題材としては、3.11の震災が大きいです。当時、気の向くままにトークショー等で色んなジャンルのアーティストさんがどんな事を考えているかを探っていくと、3.11の事を少しづつ消化しよう、癒やそうとしているような気がしたんですね。もちろん、構造的な事は解決出来ないし、そう簡単な事ではないんですけど。でも各々、少しづつアートで形にして、光をあてよう、癒やそうとしているんじゃないか。そう思ったんです。
___ 
最初にオフレコでお話していただいた、ある仕掛け・・・とても象徴的ですよね。
たみお 
ユリイカ百貨店でずっとテーマにあった事も、引き続いているんです。大切な人を亡くした誰かに、「今は目に見えないけれど、いつか立ち直れるようになっている、より良く生きる事が出来るようになっているんだよ」というメッセージ。有り難い事に、子供が出来てからもそれはすれ違わなかったんですね。自分の世界観が、子育てとケンカしなかった。むしろ、子どもたちにもっとそれと出会って欲しいなと。それは今回の事と重なって、ユリイカでやっていた事をそのまま作品にしてもいいんだなあと。
___ 
お子さん向けの公演でもあるという事ですね。
たみお 
小学生まで無料なんですね。子供達にも見て欲しいと思います。おとなにも、子供越しの風景を見て欲しいですね。童心に触れるというか。難しい事を扱うのもいいですけど、芝居はそういう迷宮の部分があってこそなので。でも、それは私には向いていなくて、私が作れる、ビジュアルとアイデアが少し変わっているというのが出来ればいいかなと思っています。今回の上演時間は45分と短いんですけど、やっていければと思います。

ドラマチックは終わらない

___ 
ユリイカを休止されている間、結婚して出産して、子育てもして。その間、お芝居はされていなかった?
たみお 
全然していなかったです。
___ 
必要ではなかった?
たみお 
もうやらないだろうなと。すごく申し訳ないんですが、過去の頂いたアンケートも「ありがとうございます」と手を合わせて焼却しました。
___ 
あ、お焚き上げしたんですね。
たみお 
色々溜め込んでいた衣裳とか脚本とかも。データで残せるもの以外はほとんど処分したんです。これからどうやって生きていこうかなあ、と。それぐらいに、いろいろご縁を頂いて、友人夫婦二人のための本を作らせてもらう事になったんです。二人のこれまでの人生と、出会いを一つの物語にまとめたものです。ちゃんと製本して、永遠に残るようにしようと思っています。
___ 
素晴らしい。
たみお 
その人の人生が、実はすごくドラマチックだということ。すぐ隣に生きている人の存在がすごくドラマチックなんだなと気付くきっかけになりました。それはもちろん、ユリイカでもずっとやってきた事ではあるんですけど。ずっと何かを作りたいというのはあったんです。
___ 
休止している間に、出会うべきものには出会っていたんですね。
たみお 
作家として必要な孤独は埋められていたんです。

母性が爆発

___ 
作家に必要な孤独を、家族の存在によって埋められた。それは、たみおさんにとっては喜ばしい事?悲しむべき事?
たみお 
ユリイカ百貨店は、2001年からずっとやってきて。必ずハッピーエンドにするという事で作品を作ってきています。いい景色が見たいという願いは最初から変わらないですね。舞台美術がキレイという事は、見ている景色がキレイという事だから。私が見たかったんです、その景色を。
___ 
なるほど。
たみお 
何かが欠落していたんでしょうね。
___ 
欠落があったから、風景を見たかった。
たみお 
それはあるかもしれない。ずっと何かが孤独で、現実って辛い事が多いな、って思ってたんです。せめて劇場に夢を求めていたんですが、年を経て好きな人と結婚して、子供が出来て、その子供が育っていく過程で、想像していなかったぐらいの母性の爆発があったんですよ。
___ 
母性の爆発。
たみお 
そうなんです、母性の爆発。産まなければ爆発しなかったと思うんですけど。子供が笑うともう、それでいいかと思ってしまう。凄く幸せな反面、ずっとモノ作りをしていた自分との葛藤があって。何か作りたいという思いと母性とで。実は3年間、それほど穏やかな毎日でもなくて、子供が寝た後に家出したり・・・
___ 
そうなんですか。
たみお 
そんなに穏やかに子育てしてた訳でもなくて、葛藤してたんです。

ママのなまえ

たみお 
自分の時間がコントロール出来ないし、思考回路を全部子供に取られる。でも、可愛いという気持ちが抑えられなくて、これが多分愛なんだろうなと思うんです。何かを作りたいという葛藤は残っていました。でも、ひとりになれない。
___ 
今は折り合いが付いている?
たみお 
今はそうですね。旦那さんには申し訳ないと思いながらも。長女には、「今のママの方が断然いい」と言われるんです。
___ 
ご長女はおいくつになったんですか。
たみお 
四歳です。
___ 
小さいのにそんな分別が!
たみお 
うちの子は凄いんですよ。ってどの親も言うんでしょうけど。「今のママの方がいいよ。でも『たみお』じゃないよね、たみおって変な名前はやめた方がいいと思う」ってすごい真剣に言われました。
___ 
今回は・・・?
たみお 
(笑う)名前を変えようと思ったんですけど、一応たみおにしていました。この間のリーディング公演の時も、私が「たみお」と呼ばれる度に「違う!」って凄い言われました。

質問 真壁 愛さんから たみおさんへ

___ 
前回インタビューさせていただいた方から質問を頂いてきております。この春に解散しましたミジンコターボという劇団。その女優であった一人、真壁愛さんから質問です。「いま、何に興味がありますか?今後、何か新しく始めたい事はありますか?」
たみお 
海外のフェスティバルに出たい。なんか行きたい。新しい事なのかな。
___ 
新しい事だと思いますよ。この真壁さんは一日三時間ぐらいしか寝れないぐらい元気を持て余しているような人で、大阪から東京に自分の夢の為に行ったんですよ。今しか出来ないから。
たみお 
色んな方とお話していて、ある方が「人生は短いんだから、狙うなら大きいところを狙った方が良い」と。カッコいいですよね。親になったらそんな事出来ないと思ってたんですが、そういうアプローチもあるんだなあ、と。

・・・出会えて良かった

___ 
この作品を一番見てもらいたいお客さんはいますか?
たみお 
見てもらいたいお客さん、は、既にご予約を頂いております。客層という事なら、若い方に見ていただいて「こういうのもあるんだな」と思ってもらいたいし、お芝居が初めての方にも、めっちゃ見ている方にも、子供にもおじいちゃんおばあちゃんにも見てもらいたいし。そうですね、劇場をシェアする方の層が、バラバラであってほしいです。色んな反応がごちゃまぜになってくれたらいいなあ。
___ 
素晴らしい。共通して、どう思ってもらいたい?
たみお 
お話の作りはシンプルにしています。役者さんの面白い部分を出せたらと思っていますね。何か、こんなの出てきたぞ!って、単純に出し物を楽しがってもらいたいです。そこしかないかな。
___ 
サギノモリラボの仕掛けが楽しみですね。
たみお 
こうなってほしいというのはあるんですけど、お客さんの反応は全然予想出来ないですね。
___ 
端的に、お客さんに何を手渡したいですか?
たみお 
どうして「TWO」かと言うと・・・「一人では何も出来ない」、という。誰かと出会う事で、何かが出来上がっていくんですよね。既に出会っている人たちを改めて想って、出会えていたんだなという実感を手渡したいんだと思います。でも、そもそも自分という存在が、誰かと誰かが出会った末に出来上がっているんで・・・出会えて良かった、という。

見守る星を指さして

たみお 
子供を産んでからブログを停止してしまっていて。ある日突然、「待っています」というコメントを頂いたんです。その方と最近お会いする事が出来たんです。
___ 
ええ。
たみお 
この人が私の事を待っていたんだなあ、私の作品を見て下さってたんだなあ、という実感があって。私のひとつの支えになっているんですよ。遠くの方に見える星みたいなもので、そういう風に思ってくれる人がどこかにいるんだなと。生きる上でありがたかったんです。
___ 
時折にしか見えないけど、そこには確実にある星。
たみお 
誰かのふとした言葉で救われるものなんですよね。ちなみにメッセージをくれてたのは浮遊許可証の坂本見花さんでした。嬉しかったです。ほかにも色んな方に救われてます。

母になった作家の作品

___ 
最後の質問です。今後、どんな感じで。
たみお 
子供との時間を大事にしたいです。子供が可愛いんです、やっぱりね。その気持ちを大事にしながら、物語を作っていきたい。作ることが誰かの役に立つという事が分かって、それがとにかく嬉しくて。そういう点で創作も続けていきたいです。
___ 
なるほど。
たみお 
そのバランスをどう取るかというのが今後の自分の課題なんだと思います。続けていって、素敵だねと言われていければなと。
___ 
京都の宝物劇団として認知されていて、もう期待されているじゃないですか。
たみお 
ありがとうございます。その期待に添えるようでもありたいと思うんですけど、もう今の、子供が可愛くてしょうがないような状態の自分による創作というスタンスは変えられないんですよ。他人の子でも可愛いし、誰かと話していても「こんなに大きくなって」と感動してるぐらい。そういう自分の作品がどういうものになるのか、出会っていけたらと思います。
___ 
母になった作家の作品。どうなるんでしょうね。
たみお 
普通の人にも物語があって、それに気付いたのは演劇人だけじゃなくて、大津のお母さん達からもでした。言えば普通のOLさんと話す機会ってあまり無かったんですけど、話が面白かったり意外な視点を持っていたり。特別な人は限られているんだと勝手に思いこんでいたんですけど、みんな特別なんですよね。SMAPの歌みたいですけど。

箸置き二種四点

___ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがあります。
たみお 
ありがとうございます。すみません。
___ 
大したものではないです。
たみお 
(開ける)あ、かわいい。お箸置きですね。すぐままごとに連れ去られていくので大事にします。
___ 
もう一つあります。トマト型ですね。
たみお 
あ、かわいい。
(インタビュー終了)