演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

鳴海 康平

津あけぼの座芸術監督、第七劇場代表、演出家

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津あけぼの座スクエアクリエーション2 葉桜

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。
全員 
よろしくお願いします。
__ 
3月の「葉桜」を西陣で上演されるという事で。まずは、最近、どんな感じでしょうか。How are youという意味で。
鳴海 
実は私、去年の4月に三重に引っ越してきてまだ1年経ってないんです。初めての冬と年越しをしたんですけど、地元と景色が似ていて、東京にいた頃には味わえなかった懐かしさがありますね。
__ 
餅は何個食べられました?
鳴海 
私たちが去年新しくオープンさせた劇場がある美里地域で、ちょうど餅つきをイベントとしてやっている団体がありまして。そこにお邪魔して、動けなくなるぐらい餅を食べました。七升ぐらいついていたのかな。実は去年もそこにお邪魔してたんですけど。
__ 
冬は寒いですか?
鳴海 
寒いです。北海道は家の中があったかいから、そこは違いますね。寒いのは東京も同じでしたけど。
津あけぼの座

2006年10月の開館以降、演劇公演・トークカフェ「ZENCAFE」・ワークショップ事業など、客席数50席の小規模空間のメリットを最大限活かして活動をして参りました。2012年3月から、津市栄町に最大150席のスペース「津あけぼの座スクエア」を2つ目の劇場としてオープンいたしました。これまでの津あけぼの座で培った劇場運営のノウハウを活かし、アーティストにも来場いただくお客様にもご満足頂けるよう目指して参ります。人々が交流し、文化芸術を発信し、研究できるスペース。ワークショップやアウトリーチ活動を積極的に推進し、地域に住む方々に還元する劇場。そして、全国にもクオリティの高い文化芸術を発信できるスペースとなるべく運営してまいります。(公式サイトより抜粋)

第七劇場

1999年、演出家鳴海康平と数名の俳優によって創設。作品製作時以外には、日本人独特の身体性を発展させた俳優訓練を恒常的に行いながら、日本の古典芸能である「能」や「歌舞伎」の動きや、舞踏やコンテンポラリーダンスの要素を取り入れた作品を製作。TVや映画などの映像表現、「文学の演劇的発展」などとは異なる演劇独特の表現効果を追求する演劇を目指し作品を製作。また演劇に関する状況を研究・改善するための運動も行う。(公式サイトより)

津あけぼの座スクエアクリエーション2~「葉桜」を上演する~岸田國士「葉桜」~

公演時期・会場:2015/2/28~3/1(三重公演・津あけぼの座スクエア)、2015/3/7~8(京都公演・西陣ファクトリーGarden)。演出・舞台美術:鳴海康平。出演:広田ゆうみ(このしたやみ)、川田章子。

川田章子さんの芯

__ 
さて、「葉桜」ですが。ゆうみさんと川田章子さん。この川田さんは三重県の方なんですね。
鳴海 
そうですね、オーディションで。
__ 
ゆうみさん、川田さんはどんな感じですか?
広田 
そうですね、色んな事に染まってない感じがします。これから色んな事が増えていくような。無垢な感じがします。でも喋っていると芯があるんですよね。
__ 
なるほど。
広田 
それが、彼女の俳優としての芯につながって、それが強くなっていけばいいなと思います。先輩としてそう思いますね、あと顔が似ていて親近感が湧く。
鳴海 
目元が似てますよね。

ゆうみさんの所為

__ 
今回、この企画はどのような経緯で始まったのでしょうか。
油田 
pan三重のいいところでも悪いところでもあるんですが、お酒を飲む席で次の企画が決まったりするんですよね。去年のGWに「このしたやみ」さんと一緒に安部公房の「人間そっくり」のリーディングでツアーをやったんです。金沢の打ち上げの時に、少人数で出来る芝居をしたいな、となりまして。岸田の戯曲に「命を弄ぶ男ふたり」という作品があって、あれを山中さんと二口さんでやったら面白いよねと言ってたら酔っぱらったゆうみさんが「葉桜をやりたい」と言い出して。そこに居合わせた鳴海さんを演出にしようと・・・そういう事が多いんですよ、一週間後に企画書が上がってきたりして。
__ 
ゆうみさんのせいなんですね。
全員 
(笑う)
広田 
男二人の芝居、男女二人の芝居はたくさん良いのがあって、それがずるーいと思って。「葉桜」かなとふわっと言ったんです。
油田 
最初は二本立てにしようとも言ってたんですけど、それは鳴海さんの負担が重いだろう、と。女優さんはオーディションで募る事にして。
__ 
居合わせた人たちで企画が始まっていく感、いいですね。久しぶりにそういう感じを思い出しました。
油田 
この少人数だからかえって良かったのかもしれないし。鳴海さんは別の席にいたけど。
鳴海 
私は別の席で飲んでいたんです。
山中 
小さい企画だから、色んな場所に持っていけるんですよね。何かでリクエストを貰ったら、リニューアルして持っていけるし。

葉桜のゆくえ

__ 
という事は、鳴海さんは「葉桜」自体にはそんなに思い入れはない。
鳴海 
そうなんですが、実は岸田國士に対しては少し苦い思い出があって。昔『驟雨』をナチュラリズムで演出したんですけど、納得いかなかったんです。でも今回のプロジェクトが動き出して、これはと思って。
__ 
ある意味、リベンジ?
鳴海 
そうなんですよ。岸田作品と和解したいです(笑う)先日読み合わせをした時に手応えがあって、この作品、良い形に作れるという実感があります。
__ 
母子二人の話ですね。
鳴海 
お芝居としては45分ぐらいのものになります。ええ、短いんですよ。
__ 
二人芝居を全国で持っていく。三重発信のポータブルな作品は珍しいというか、あまり記憶にないので楽しみです。どんな作品が見れるのか。
油田 
2007年に、三重県文化会館で平田オリザさんが「となりにいても一人」という作品の公演企画が作られたんです。2バージョンのキャストを公募で集めて。全国でそういう企画一斉に行う、という試みだったそうなんです。地方って、割と大きいスケールの公演の企画が通りやすいんですよ。沢山の人数が公募で出て、でも続かない。という。でも「となりにいても一人」はそうではなくて、割と絞り込んだクオリティの高い作品も作れるんだという事が分かったんですよ。平田オリザさんがそれを証明したというのはあります。
__ 
なるほど。
油田 
それからこのしたやみさんと仕事をして、鳴海さんとも出会って。地方から外に向けて、作りこんだ作品を持っていく事に、じりじりと迫っていった感じですね。あとは、実はあんまり大都会に出そうとは思っていないですね。去年は広島・金沢だったし、「人間そっくり」は松山・長崎・宮崎と、関西以西にしか行ってなかったり。演劇シーン的に、東京・大阪は意識していなくて、地域にいる演劇人同士でやっていきましょうというのも、お互い、面白いものが出来るんじゃないかと。逆に、向こうの地域の方が来てくださったりもするし。
__ 
都市部で作られてはいないという事は、集中して作られた作品と言えるのかもしれませんね。付随した情報が多すぎないという意味で。そのクオリティを目の当たりに出来ればと思います。
油田 
鳴海さんがこうやって三重に来ていただいたのもあるし、それは大きいですよね。これからいよいよ、パッケージの大きい作品も作れるかもしれない。4、5年ぐらいすれば三重からも本格的な作品が生まれ続ける土壌が整ってくるかもしれない。この「葉桜」が少人数の作品のモデルになって、段々と大きくなっていって。
__ 
若手に対する良い例になればいいですね。
油田 
本当にそうですね。

顔の見える観客

__ 
最近考えている事はありますか?何でも結構です。
鳴海 
去年の11月に私たちの新しい劇場がこけら落としを迎えたんですが、PANみえの芸術監督として、津の人たちがもっと劇場を使って人生を楽しんでもらう為にはどういう風に仕掛けていけばいいのか。その事ばかり考えていますね。もちろん作品の事も考えていますが。
__ 
劇場を使って人生を楽しむ。
鳴海 
それはどういう事かというと、もろもろの地域はリトル・トーキョーになってもしょうがないんですよ。良いところは参考にしつつ、大都市の縮小・劣化コピーではない劇場文化を作った方がいい。人口規模も文化の形も違うんです。津には津の文化の充実の仕方があるはずです。どういうスタイルや仕組みがしっくりくるのかを考えています。
__ 
東京以外の演劇人が必ず考えているテーマと言えるかもしれませんね。東京の人から見ると「京都は時間の停まった町」と思われている、みたいな話を聞いたことがあります。それはそうなのかなとも思うし、反感も覚える。鳴海さんは、東京から三重に越されて、「何かが違う」と感覚された事はありますか?
鳴海 
具体的には、東京にいた頃、公演を観に来たお客さんと触れ合える時間というか密度は相対的には薄かったですね。
__ 
短いんですね。
鳴海 
三重だと、劇場以外にも会う機会や場所があって、比較すれば濃いです。私自身はそう感じます。見に来てくれたお客さんの人生にコミットしているという実感が強い。良い影響か悪い影響かは置いといて。それは私にとってはとても嬉しいです。そうは思わない人もいるでしょうけど、私には性に合っている。フランスやドイツで公演した時も、多くのお客さんが私たちに話しかけてくれたことと重なる部分があります。
__ 
お客さんとコミュニケーションが取れる、それは上演側にとっては嬉しくてしょうがない事ですもんね。
鳴海 
もちろん、何千人のお客さんの目に触れるのもとても大事で難しいことですけど、顔の見える観客の一人ひとりの人生の糧になっているという実感も大切な側面だと感じます。私たちは民間の自由度と機動性を活かして、語り合える場としての劇場とその実感を大事にしたいと思っています。
__ 
そうした関係性を知らない人にとっては「時間が止まっている」と見えるのかもしれない?
鳴海 
それは、どうなんでしょうね。人間の身体のサイズは変わっていないけれども細胞が入れ替わり続けている状態は「時間が止まっている」と呼べるのかもしれないし。それとも、延々と流れている川の水面を見て「時間が止まっている」とも言えるかもしれません。東京は文化の新陳代謝も激しく輪郭が変わりやすいので時間が止まっているとは感じません。その意味では京都の印象はちょっと違うなと思います。
__ 
京都、新しいものが出てこないという実感がありますけどね。
鳴海 
クラシックという意味じゃなくすでにあるものを大事にしているというか。基礎が意識的にも無意識的にもしっかりある印象があります。上辺だけでコロコロ変わっていくんじゃなくて、発展させるにしても、リノベーションするにしても、その基礎の部分がどこかで作用しているように思えます。
__ 
ああ、京都はそういうところあるのかな。でも基本的には、京都で演劇をやっている人は常に反逆的というか、既存の物に対して破壊を試みている印象が強いです。というか、そうあってほしい。でもその根っこには、そういう、根っこへのリスペクトは確実にあるでしょうけれど。

ターニングポイントと半分こへの期待

__ 
第七劇場のやるべき事を教えてください。
油田 
それ、俺も聞きたい(笑う)
鳴海 
私たちの創作のポリシーは、国境を越えられる作品の製作です。三重という場所から国境を越えられる価値のあるものを作り、第七劇場がレジデントカンパニーになっているベルヴィルを、県や市だけではなく、劇場がある美里地域の人たちにも誇りとなって愛される劇場にする。その二つですね。
__ 
素晴らしい。
鳴海 
舞台芸術ってどうしても消えてなくなってしまうものですよね、それがいくらエポックメイキングなものであっても。見ていなければ語りようがない。
__ 
演出はそうした作業ですよね。
鳴海 
でも、いろんな時代でターニングポイントになっている作品はある。私たちも美里で、そうした作品を作る事がミッションのひとつだと考えています。
__ 
ありがとうございます。では、ご自身にとってのターニングポイントになった作品は。
鳴海 
鈴木忠志さんの「カチカチ山」。これは初めて富山県利賀村に行ったときに見た作品で、これはあらゆる意味で衝撃でした。それから、ピナ・バウシュの「カフェ・ミュラー」「春の祭典」の連続上演を韓国で見たんですが、終演後、膝に力が入らなくなった舞台体験でした。その計3つは私にとって大事件でした。
__ 
そうした重大な作品をもし作れるとしたら、それはどんなものだと思われますか?
鳴海 
さっき、油田さんの話にもあったんですが。地方都市だと一人の表現者がいろんな種類の活動をする必要が出てくる場合があるんです。たとえば絵本も純文学も児童文学もラノベも書かないといけない場合があるんです。もちろんそれぞれをそれが得意な人に任せるという方法もあります。いろいろなジャンルが求められる中で、私がある種のピリオドとなる自分の作品を作れるのがどのジャンルなのか、なかなか想像しにくいですね・・・ただ、変な話をしますけど私は50歳で死ぬつもりにしていて、あと15年なんです。一年に一作と考えたらあと15作。その15作で納得した創造活動を送るぞと考えたら、多くのものに触れて、考えて、その時その時で真摯に向い合っていく事でしか為しえないんだろうと思います。当然のことなんですが。
__ 
一回一回の積み上げという事ですね。
鳴海 
私はこれまで、存命していない作家の作品の演出がほとんどだったんですけど、この間のこけら落としで作った「シンデレラ」は油田さんの構成台本でした。油田さんのポップでスピーディーな作風を演出していて、私の中で開いた部分があったんです。これから15年、切って捨てずにやっていって、どの活動に対しても意味を見出して、楽しく苦しみながらやっていければと思います。
__ 
ありがとうございます。それが大きなものであれ小さなものであれ、良いものである事を願っています。
鳴海 
そうですね。それをご覧になったお客さんにとって糧になりたいと思います。作品としてのクオリティが劇場内の半分を占める要素だとすれば、それは私たちの仕事であり、作品を通して、残りの半分を占めるお客さん一人ひとりが自分自身や他者について思いをはせて考えを深めるような時間に貢献できれば、その劇場はとても幸福だと言えると思います。

私の観劇思考

__ 
でも、頑張って作った作品が面白くない事ってありますよね。
鳴海 
そうですね。コンディションもありますけど、でも、頑張らなくても上手くいくなんて事はないんですよ。残念ながら頑張っても良いものになるとは限らない。ただ、良いものをつくるためには努力する必要があると信じないといけない、私たちはね。
__ 
そうですね。
鳴海 
私の観劇思考でもあるんですが、もし観た作品が肌に合わなかったとして、その時お客さんが自分にはなぜいまいち面白くなかったんだろうと考えてくれるのなら、それは作品と同時に自分についても考えているんだと思います。それはつまり、他者について考えているんです。自分にはピンとこなかった観劇体験であっても、価値ある劇場体験につなげる回路も私たちは作っていかないといけないんだろうとも思います。「何故面白くなかったのか考えてみませんか」と。肯定も否定もしないですが、その話ができれば2500円は決して無駄じゃないですよ、と。そういう文化の利用の仕方ができると、人生をまちがいなく押し広げることができる。

質問 呉城 久美さんから 鳴海 康平さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂きました、悪い芝居の呉城久美さんから質問を頂いてきております。「三重で、秘密にしておきたいぐらいオススメのお店のヒントを教えて下さい」。
山中 
ヒント?それ、みんな大体同じ店を思いついたと思います。
油田 
ははは。生レバーのとこじゃないですか?TRQ。
山中 
やっぱそうですよね。
油田 
答え言っちゃったよ。焼き鳥屋さんなんですけど、あけぼの座から近いんですよ。ちょっと高いんですけど、鳥の焼き肉みたいに焼けるお店なんです。で、鳥のレバーは牛ないのでセーフなんですよ。それが美味しいんですよ。来る演劇人に、必ずオススメするんですが絶対に写真は撮るな、と。
山中 
鳥のレバーだけはダメ。
広田 
合法生レバー。
山中 
あと、最近生酎を頼むと沖縄のシークワーサーがボコボコ入って出てきた。

芸術監督としての仕事と、芸術家としての仕事

__ 
これから、お芝居を始める人に一言。
鳴海 
可能な限り、演劇に限らず多くの作品を見て、多くを学んで、自分の言葉で考えることに努めてほしいです。
__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?サッカーのように、どういう風にボールを蹴っていくか、みたいな意味で。
鳴海 
私は今年で35歳で、多分もうFWではないと思うんですよね。ボランチ・アンカーとして前線にも出つつ守備もしつつ、ピッチのコントロールをして、もちろん勝つために狙ってシュートもしないといけないと思うんですよね。芸術監督としての仕事、演出家としての仕事もしながら、後進の育成もしないといけない、と。
__ 
全体を見ながら・・・
鳴海 
勝ちにいかないといけない(笑う)。
油田 
その準備をすればいいのかなと思っています。勝ち方は知っているので、その準備を。

一輪挿

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
鳴海 
ありがとうございます。(開ける)これは・・・花器ですね。
__ 
ビーカー型の一輪挿しですね。
広田 
ステキじゃないですか。
鳴海 
オシャレじゃないですか。ありがとうございます。
油田 
「葉桜」に合うかも。
(インタビュー終了)