演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫 intvw.netからURLを変更しました

金田一 央紀

脚本家。演出家。俳優

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Hauptbahnhof Gleis5『The Exception and the Rule ありえないこと、ふつうのこと』

___ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、金田一さんはどんな感じでしょうか。
金田一 
4月の頭にやる公演の準備ですね。このチラシなんだけど。
___ 
いいチラシですよね。
金田一 
そうでしょ。以前からお世話になっているサカイシヤスシ(LaNta)さんにデザインしてもらいました。僕が「最近、こんな事を考えているんです」って話をしたら、「こんな感じでしょ」って出してくれて。「まさにこのイメージなんです」って思わず言ってしまった。
___ 
なるほど。楽しみです。現在は稽古中でしょうか?
金田一 
そうですね。稽古は一ヶ月間なんだけど。いやあもう試行錯誤ってこういう事なのかなって感じなんです。本読みから立ち稽古になったところで、ちょっと壁にぶつかって。
___ 
壁?
金田一 
ブレヒトの芝居って本読みの方が面白かったりするんですよ。「ここは砂漠です」っていう台詞があって、能とか狂言のように、自分の状況や思っている事を説明するセリフなんです。本読みの段階でそれが凄く面白くて、これは出来るだけシンプルにしようと思ってたんだけど。
___ 
ええ。
金田一 
それが読みから立ち稽古になるとトーンダウンしちゃったように思ったんですよ。本読の時はバッと頭の中に広がっていた風景が、立つとそこになるんです。立ち稽古になると風景がその場所に決まっちゃうんですよ。稽古場ももちろん無限の可能性を秘めている空間なんだけど、でも俳優が身体を使って演じると、どうも、一人一人のお客さんが見ている風景の可能性がどんどん狭ばまっちゃって。それはどうもいかんなと。しかも、登場人物が自分の考えている事を全部お客さんに説明しちゃうし。だから、読みの時の面白さを舞台に持っていくにはどうすればいいか?を考えていますね。
___ 
座組が面白いですね。
金田一 
今回、役者さんがすごくいい人が集まってくれて。高杉さんに藤原さん。今回主役をやってくれる阿形くんが面白いし動けるし。それから笑の内閣の由良君が別の芸名で出てくれるんだけど、面白いんですよ。声が小さいのに存在感があるの。あの人は面白いわ。
___ 
どんな特徴の作品になるんでしょうか。
金田一 
今回は囲み舞台です。お客さんの隣に役者がいて台詞を言うんですよ。これは結構、毎回好評で。劇場公演もやるんですけど、カフェでの公演はそういう形式です。
___ 
そういうシチュエーションで、登場人物が考えている事を話しかけてくるって凄く面白そうに思えますね。
金田一 
いやあ、もう・・・。囲み舞台でお客さんの周りをウロウロするというのは決まっているから、その面白さはあると思うけど。
___ 
小声で話しかけて来られたらゾクゾクするかもしれない。
金田一 
あはは、小声はなかなかないかもしれないけれど。市川タロ君に今回出てもらうんですけど、「小声で話しかけてみて」とお願いしたらホントいボソボソした声で。面白いんだけど、でもお客さん全員に聞こえるようにしないといけないからね(笑う)。
Hauptbahnhof/ハウプトバンホフ(略称Hbf.)

Hauptbahhof(ハウプトバンホフ)は、金田一央紀によって2010年末に結成されたパフォーマンス団体です。読みにくいのと書きにくいので、「Hbf」と呼んでいただいてもかまいません。Hauptbahnhofはドイツ語で「中央駅」という意味。見知らぬ町にやってきても「中央駅」にとりあえず行けば町の大まかな形は見えてきます。そんな駅のような存在が演劇にもあっていい。演劇といってもどんなものを見ていいのかわかんないという人たち、演劇とは全く縁のないところにいた人たちや、これまでもこれからも演劇に携わっていく人たちにとって、とりあえず集まって自分の位置を確認したり、自分の活動の拠点にしたりする場所を作ろう、という気概で設立されました。「Gleis(グライス)」はドイツ語でプラットフォームのことですが、Hauptbahnhofでは一つの公演作品をGleisで数えていきます。第一回公演は「Hauptbahnhof Gleis1」となります。現在は演技のワークショップを開催したり、小さなカフェや小規模の劇場などで金田一央紀の演出する作品を発表しています。演劇のジャンルを問わずに劇空間のグルーヴを求めて演劇作品を作り続けていきます。(公式サイトより)

Hauptbahnhof Gleis5『The Exception and the Rule ありえないこと、ふつうのこと』

公演時期:2014/4/4〜6。会場:人間座スタジオ。

おかえり、金田一央紀

___ 
Hauptbahnhofには「中央駅」という意味があるんですね。今回、Hauptbahnhofが京都に移ったのを記念してのインタビューになります。
金田一 
ありがとうございます。
___ 
大学時代を京都で過ごし、留学を経て東京で演劇やタレント活動をしていた金田一さん。東京に戻って気づいた事はなんですか?
金田一 
大学生の時に東京で遊ばなかった自分にとっては、東京に行ってもどこで遊んだらいいか分からなくなってしまうと。六本木とか浅草とか、ついおのぼりさんになっちゃうのね。そんな感覚があったという事。あと、東京の人たちは凄くお酒飲むんですよ。カーテンコールで「じゃあこの後、お酒を飲みにいきましょうか」って。
___ 
それは憧れるなあ。
金田一 
お客さんも一緒にお酒を飲めるみたいな。そういうのはいいなあと思った。早稲田卒の人に多いみたいだね。それからものすごく演劇人がいっぱいいる。その中で、30歳越えて演劇やっているような人はやっぱり上手になってるんだよね。へたくそって言われたら自然に辞めて別の仕事をする(職もたくさんあるからね)。淘汰されていって、「あの人上手いよね」って人はやっぱり残っていくんですよ。不思議なのは、「自分に役者は向いていない」と分からせるようなきっかけが、常に東京にはあるみたいなんだよね。
___ 
そんな空気感があるのかな?
金田一 
うん、あるかもしれないね。

都市と彼の10年

金田一 
京都に来る前に、人に「何であんな時間の止まった場所に行くのか」と聞かれたんですよ。僕はその言葉の意味が分からなくて。止まっちゃいないだろうと思ってた。んで来てみて、その「時の止まった」という事、ちょっと分かった気がする。スピード感がないのかもしれないね。
___ 
分かる気がします。
金田一 
演劇のレベルとか進歩の話じゃなくて、自分達のやりたい事を手あたり次第やる、という体勢じゃなくて、自分のやりたい事を突き詰めてやる。そういう芝居をしている人たちが多いという事なのかな。それが僕に繋がっているのかもしれない。
___ 
金田一君は、今は「掘り下げている」?
金田一 
どうだろう。大学卒業して10年経って戻ってきて、こっちでも演劇を作って。別にブランクがあった訳じゃないけど、もうほとんど演出の素人のところから作ってる感覚なんですよ。「いい加減お前演劇分かれよ」って気持ちになっているんです。京都の、時が止まっている感覚が、どこか僕に繋がっている気がする。
___ 
突然だけど私は、個人的には京都の演劇人には共通して、「敵愾心」そのものが身に付くんじゃないかなと思います。もしかしたらそれが、掘り下げ本能の核かもしれない。変な事を言うようだけど。
金田一 
敵愾心?東京への?
___ 
分からない・・・対象は大阪かもしれないし、政府かもしれないし、既存の物すべてかもしれない。基本的には何かに反抗するという気概があるんですよ。実感として凄くある。学生運動からそれが引き継がれているのかな?
金田一 
うんうん。
___ 
何となくそのまま普通の事をやる、みたいなのを嫌う、みたいな。だから感情を表現する演技が、パロディ以外では少ない気がする。抑えたり無表情になって、その奥の表情を引き出すためにね。善し悪しはともかく、そこに何かある事を祈って。
金田一 
確かにね。東京の方が派手なんだよね、変化が。「毎回あいつ、同じ事やってんな」というのが、あんまりないような気はする。それでも、残っていくのはスタイルを確立させた人ばかりなんだよね。

「discipline」

金田一 
みんな凄いよなあ。自分の演劇の姿勢を、ちゃんとぶれずに持てているというのが羨ましいのかな。
___ 
持ちたい?
金田一 
ちょっと、そう思う。ロンドンにいた時、「君のdisciplineを見付けなさい」と言われて。
___ 
ディスプリン? ポリシーという事?
金田一 
なんつうのかな、つい出てしまう創作の姿勢というか。それを見つける為にロンドンに留学したんだけど、そんな簡単に見つけられる訳もなくてさ。でも、「お客さんと一緒に楽しめたら面白い」というのは見つけたん。自分が面白いと思うものを明確に持てたら、それで多分、3年は芝居をやっていけると思うなあ。

質問 Q本かよさんから 金田一 央紀さんへ

___ 
前回インタビューさせていただいたQ本かよさんから質問です。「自分のサインはありますか?」
金田一 
色紙に書くような奴はないけど、同志社小劇場にいたときに、パンフに手書きで書いた事はあるかな。

質問 永津 真奈さんから 金田一 央紀さんへ

___ 
永津真奈さんからも質問を頂いております。「部屋を片付けるのは得意ですか?」
金田一 
めっちゃくちゃ下手です。部屋が汚い事で有名。
___ 
ゴミ屋敷?
金田一 
そこまでにはならないけど。部屋に物を置くとき、定位置を決めておけないんですよ。それこそdisciplineだな。

舞台で生きる

___ 
Hauptbahnhofで今後やりたい事はなんですか?
金田一 
京都と東京の二都市公演はしたいですね。
___ 
結構、お客さんの反応が違うんでしょうね。
金田一 
そうだと思います。でっかい芝居したいなあ。野田さんの昔の作品をやりたいんですよ。ずっとやりたいと思ってたんですよ。
___ 
あなたにとって、演劇を作るとはなんですか?
金田一 
うーん。いまちょっと自信を無くしてるからなあ・・・でも、唯一他の事より上手く出来ること。
___ 
演劇を使ってお客さんに与えたい事はありますか?
金田一 
ちょっと明日元気になってくれたらいいなあ、みたいに思ってます。不思議なもんで、悲しい話を聞いても元気になる事はあると思うんですよ。作品を見てへコんでも元気になったような気がする。笑って帰ってほしいという事じゃなくてね。
___ 
金田一君にとって、魅力のある俳優とは?
金田一 
凄く基本かもしれないけど、相手の台詞・自分の台詞にきちんと反応出来る人。
___ 
というと。
金田一 
台詞を投げかけられたら反応出来て、今を生きているかのような人は魅力的ですよね。ただ動きたいから動いているようなのじゃなくて。「こういう風に言われたら、私は下手に動く。けれど、今そういう風に言われたからここで止まって話を聞いている」というのがあるんだよね、役者って。それを自然と出来る人。でも、それくらいの役者じゃないといけないですよね。かといって「こういう風に言われなかったから動けませんよ」というのじゃなくて。
___ 
玉置玲央さんのユニット、カスガイの「バイト」という作品があるんですよ。その作品は役者の立ち位置を固定しなかったそうなんです。
金田一 
そういうのもあるんだね。
___ 
役者は台本の全てを知っているから、逆に難しい状況だったんだろうと思います。そんな中で凄く緊張感に溢れた作品だった。
金田一 
そういう事が出来る役者がカッコいいんだよね。自分の動きに根拠が持てている人、は相手が動く為のキッカケも与えてあげられるんですよ。ここで動けよ、みたいな。橋爪功さんが凄かった。ザ・キャラクターの稽古場の代役で僕が入ったんですけど、橋爪さんが何か原稿を書いている演技をしていて、で、書けなくなってしまった。ペンを机に音を立てて転がしたんです。「あ、今だ」と分かって、「どうしたの」って僕の台詞を言えたんです。パスをくれたんですね。うわあ、めっちゃいい役者だなあって思った。これかー、って。

挑む

___ 
最近の気付きやトレンドを教えてください。
金田一 
なんだろう。あ、最近、TVのCMが怖くてしょうがない。
___ 
TVのCM?
金田一 
歯磨き粉のCMで、あの人たちがどういう風に磨けばいいかやって見せているじゃないですか。何か、やらされている感を強く感じて。そのうち僕もCMを作るなんて話になったらおっそろしいなと思ってしまって。怖くなっちゃった。
___ 
CM以外の普通の映像は?
金田一 
たまに怖くなっちゃうね。この間までクイズ番組に出てたけどさ、そこで出来た知り合いが別の番組に出ていて、それを見ると・・・
___ 
こっちを見ている気がする?
金田一 
次はお前だ、って思ってしまう。俺、まだです!ってなってしまう。最近は嫌な夢も見るし。芝居しているとこうなるのかな。
___ 
作っている人の精神ってきっと芝居に影響するんだろうなと思う。観客は真っ暗な空間で誰かが作ったものを注意深く見ている訳だから、それはもう精神的な存在になっている訳ですよ。演出家の心の動きが作った、曖昧でよく分からない気味の悪い部分はものすごい影響すると思う。それが面白いんだと思う。
金田一 
昨日なんか、もうつくづく俺素人だなあって、超へこんで。顔合わせの時も超緊張したしね。
___ 
なるほどね。
金田一 
これはいかんなと。これは演出家として、自分の事をどうかと思った。悩むんだよなあ。凄い悩む。ブレヒトがなあ・・・ブレヒトの、「革命的な社会的身振り」が、一体なんなんだろうなあと思うね。ロラン・バルトがブレヒトの大ファンで、その評論文がもの凄い的確なんだけど全然分かんない。あと異化効果ね。普通じゃん、みんな異化してるじゃないか。
___ 
いやあ、僕は楽しみですよ。
金田一 
うん。頑張ろう。面白いものを作ろう。でも、この面白さがもっと欲しいんだよ。稽古は難航しております。今はね。

バターナイフ

___ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
金田一 
ありがとう。ACTUS。またいいお店で買うね。cocon烏丸のね。(開ける)おっ、バターナイフ。
___ 
使ってくれますか。
金田一 
全然使う。ありがとうございます。
(インタビュー終了)