シーズンがはじまる
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。蓮行さんは、最近はいかがですか?
- 蓮行
- 最近ですか。まず季節でいうと、俺様シーズンが始まって来ましたね。どういう事かと言うと、僕は寒いのが駄目で。寒い季節が終わると、長い花粉症の時期が始まる訳ですよ。それが終わると、いよいよ俺様の季節が始まると。
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- ええ。
- 蓮行
- 冬が終わった段階では20〜25%稼働率が上がり、俺様の季節だと当社比100%となります。もっと長い人生スパンで言うと、20歳から演劇を始めて今は40前なので、丁度折り返し地点なんですね。世の中的にも、人生的にも、業界的にも中堅ですね。中日ドラゴンズで言うと森野選手あたり。派手にタイトルを取ったりする訳じゃないけれど、生え抜きとしての重要なポジションを占める選手っているじゃないですか。そういうところかな。
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- 俺様シーズンになると他にどのような事が出来るようになるのでしょうか。
- 蓮行
- あのね、高橋君は良く知っていると思うんですけど、僕はグズなんですよ。
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- いえいえ。
- 蓮行
- 旅公演の宿泊先で、8時半に起きたのにも関わらず10時半の集合に間に合わないくらいの。コーヒー飲んだり朝食を食べたりしていて、それでも気がついたら10時15分に荷物がまとまっていないというね。そういう、自分のグズな性分からすると、冬というのは鬼門の季節で。さらに、冬は着るものが多い。夏の数倍ある。そういう意味で言うと、夏は自分のグズの性質を相殺する訳です。暑いのは平気なので。
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- とにかく、寒いのが苦手なんですね。
- 蓮行
- 冬場なんか、歯磨きが面倒くさいという理由で2時間起きてたりします。めちゃくちゃ眠いのに。
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- ご自身の生活からノイズが無くなる季節という訳ですね。
- 蓮行
- そうそうそう。
劇団衛星
京都の劇団。代表・演出は蓮行氏。既存のホールのみならず、寺社仏閣・教会・廃工場等「劇場ではない場所」で公演を数多く実施している。
社会と折り合う
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- 先程「中堅」というお言葉を伺ったのですが、それはどのようなポジションなのでしょうか。
- 蓮行
- 我々のプロフェッションを野球に置き換えて考えた時、20代というのはとにかくバットを振れ、投げろという世界なんです。チームプレイを叩きこまれていく時期ですね。レギュラー10年となると、メジャーに行くだの別のチームにFAで行くだの。一方、チームに残った選手は仕事として後輩の指導をすることになる訳ですよね。指導をしなくても、背中を見せる。
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- ええ。
- 蓮行
- 若いうちは練習して活躍するだけで良かったかもしれない。でも、世代の真ん中として、若手選手をある程度見ないとあかんのやろうなと。僕は生え抜きなので。
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- 若手に何か一言頂けますか?
- 蓮行
- 口はばったいけど、自分たちがどういうアイデンティティで進んでいくかを早めに決めた方が良いと思う。そうしないと、取り残されるという訳じゃないけど、なんにもならないという事になる。今、僕らのような中堅世代で曲がりなりにも活躍というか、活動を続けられているのは、やっぱり頑張って自分たちの正体、それからやる事を明確に見出す努力をして、そして社会にコミットしていこうとしているからだろうと思う。
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- 活躍という事で真っ先に思い出すのはやはりヨーロッパ企画 ですね。
- 蓮行
- うん。ちょっとそれますけど・・・ヨーロッパ企画が売れてて悔しいとか、ネタで言うけどホントは全然そんな事はなくて。例えば駅でポスターが貼ってあったら画鋲さしてやりたくなるとかね(笑う)言うんだけど、本当に全然なくて。正直に言うと。
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- なるほど。
- 蓮行
- 衛星や僕個人を好きで面白いと言ってくれる人や、劇団員でもいいけど、ああいう方向で行きたかったとか売れたかったとか、そういう思いを感じてもらえる事についてはありがたいと思うんだけど、僕自身は全然そんな事はなくて。というか・・・芸能界とかテレビ界に出ていく事にはあまりピンと来ていなくてですね。
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- テレビ志向ではないのですね。
- 蓮行
- テレビなんてこの20年見てないから、最初からあんまりそれがやりたいという訳じゃなかったんですね。ヨーロッパ企画が素晴らしいと思うのは、テレビとかマスメディアの仕事をしながら、必ずしも大きい劇場だけでやることを良しとせず、百人しか入らない劇場で5回公演するような、つまり汗をかくことや骨を折ることを厭わず、肉体で表現し続けるところだと思う。電波やお金に強い指向性を持たずにね。僕の考えだと演劇は肉体労働なので。彼らも必要に迫られてやっている事かもしれないけれど。彼らの身体は我々よりも圧倒的にテレビとかメディアにマッチするところがある。
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- そうかもしれませんね。
- 蓮行
- そこで行くと、例えばJリーガーはイチローを見て「俺もあっち行けば良かったな」とあんまり思わないはずなんですよね。年俸高くて羨ましいなと思うかもしれないけどね。「でも俺ボール蹴ってる方が好きだし」。
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- なるほど。
- 蓮行
- 同じプロスポーツ選手だけど、隣接するジャンルだけど、やっている事が違うんですね。そういう事を前提にした場合、ヨーロッパ企画さんが京都を拠点だと言いはって頑張っているという事は、彼らは完全には電波主義ではないという事だ。東京に行くという事は電波主義だから。
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- 東京は、色々な可能性が近くにある地域ですからね。もちろん、何もしなくていいという訳ではないですが。
- 蓮行
- ヨーロッパ企画が見事なのは、その二つを上手くハイブリッドして渡って行っているのが素晴らしいのよね。平田オリザさんもそうだけど、TVに出ながら、自分たちの演劇を作り続けていく姿勢。そのようにして、社会とどこかで折り合う事をしないとなんにもならないんです。仕事をしながら、自費で個展を開くような美術系アーティストの方がよっぽど社会に認められると思う。社会性すらも否定するロック魂のところは、大いにやってくれと思うけれども。
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- 社会と折り合うには、どのような事が必要なのでしょうか。
- 蓮行
- 一言で言うのなら、自分達の手法にアイデンティティを明確に持って、劇団だったらそれを共有する事ですね。アマチュアでもプロでもいい、表現を目指すのなら、それを早く獲得しないと。イチローさんだって、高校卒業と同時にプロ野球選手になったんですから。教師もそう。先生を目指す多くの人は、大学入学前に、教育大を選ぶんです。もちろん、モラトリアムが長い方が芽が出る部分もある訳ですが、大学を卒業して2、3年モラトリアムをしながら演劇やって、それからプロを目指すというのは世の中から見れば遅いんですよね。結構、みなさん、ぼーっとしてるように見えてしまう。世間のスピードというものを考えたら、はよ決めた方がいいんちゃうと。
ヨーロッパ企画
98年、同志社大学演劇サークル「同志社小劇場」内において上田、諏訪、永野によりユニット結成。00年、独立。「劇団」の枠にとらわれない活動方針で、京都を拠点に全国でフットワーク軽く活動中。(公式サイトより)
愉快な生活
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- 蓮行さんは、ご自身のアイデンティティをもって自己実現されていますか?
- 蓮行
- うん、そういう意味では出来ていると思います。さほど有名になりたい訳でも、金持ちになりたい訳でも、かと言って創作にだけ打ち込んでいたいという訳でもなく。あまり高望みしない欲が集合して出来ている人間なので。
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- それでは、何をもって自己実現されていると思われますか。
- 蓮行
- それは、「ああ日々愉快だなあ」と思えているからですね。
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- 愉快。
- 蓮行
- もっとああだったらいいのに、とかあんまり思わない。それよりは、もっと胃腸が丈夫になりたいとか視力を回復させたいとか、そういう事。誰それのようになりたいというのは、ないわけじゃないけど、薄いです。
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- 蓮行さんの生活は愉快なんですね。
- 蓮行
- そうですね。気楽に生きています。もっと大変な思いをして、自分の身を捨てて活動している人を見ると申し訳ないですけどね。でも、お気楽主義の体現者として生きていくのもいいと肯定しています。
劇団衛星新作公演「サードハンド」
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- 新作、「サードハンド」について。どのようなお話なのか伺いたいと存じます。喫煙者としては嫌煙ファシズムの話なのかと思えて怖いのですが、チラシを見るとそこも折り込んで作られていそうな作品ですね。
- 蓮行
- 実は、煙草の問題というのは非常に特殊性が高いものではないかと思ってるんです。
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- というと。
- 蓮行
- 世の中には様々な問題がありますね。医療の問題、原発の問題、少子化問題。これらの問題の多くは、だいたい大きな受益者とそうでない者、つまり既得権者 対 非既得権者の構造に分けやすい訳ですよ。
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- 搾取非搾取の関係ですね。
- 蓮行
- そうそう。まさに持つものと持たざるものの階級闘争というか。しかし、煙草問題だけはこれがない訳です。誰が受益者なのかという事がこんぐらがっている。
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- 吸わない人間の横に、消費者として受益者が並んでいる訳ですね。
- 蓮行
- そこでまず、僕の個人的な考え方としては、喫煙者が家の中でタバコを吸って肺ガンで死んでも知ったことではない。それはまさに、家でマニアックなエロビデオを見ていようが、ネットゲームにハマって廃人になろうがいいという理由で。でも、ネットゲームにハマる人が人口の3割になると、ミクロな問題からマクロな問題になるんです。すると、これは全体の問題として考える必要がある。
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- どこを考える必要があるのでしょうか。
- 蓮行
- まずは、副流煙についてです。法律にふれない限りは下らない事をしても罪には問われないという愚行権というのがあります。確かにそうで、成年の喫煙を禁じる法律は存在しない。しかし、副流煙だけは明確な加害行為なんです。これをするなという言動を嫌煙ファシズムと断ずるのは許されない(それは全く別の問題だ)。ファーストハンド、主流煙を取り上げる禁煙の議論と、受動喫煙を生むセカンドハンド、副流煙についての議論は明確に分ける必要があるんです。
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- なるほど。
- 蓮行
- 我々嫌煙者も、完全全面禁煙まで行き過ぎるとちょっと、と思うんです。程度問題で、どこまでやるかなんですよ。
- 蓮行
- さらには、10年かそこらでこれほど価値観が激変したものはないんですね。
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- 昔は、タバコなんて吸っていて当然でしたからね。興味深いですね。
- 蓮行
- 喫茶店でも飛行機でも吸えた訳です。それを全然、誰も問題にしなかった時代があった。今の50・60代の方々はジェントルマンなのに、タバコのマナーだけは悪かったんですね。日本において、これだけ価値観が書き変わるのが異常に早かったものはない。ただ、副流煙を人に吸わせてはいけないという議論は既に終了しているんです。副流煙を嫌だと思う人が居る以上、それを無理に吸わせることは、憲法に規定された「公共の福祉」に反する。これは明確に言える。だから、僕は分煙していない飲食店は論外だと思う。憲法違反。僕は、日本国憲法は支持しているので。
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- そうですね。
- 蓮行
- 公共の福祉に反するという点で、副流煙や分煙に関する「論争」はもう終わった。家でタバコを吸っては駄目かというのは別の問題。だから、これ以上喫煙者をいじめる必要はないと思う。これから始まるべきなのは、いかにして喫煙者と共存するか。その社会実装の段階にきているのではないかと思います。
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- 社会実装。
- 蓮行
- このままでは、喫煙者の権利は長い目で見て阻害されると思う。新作「サードハンド」は、社会実装というレベルにおいて成される煙草論争の集大成であり、実装段階への火蓋である。そう思っています。
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- ここまでの話を伺って、失礼ながら意外でした。バランスがとれているのですね。
- 蓮行
- だって僕は数年来、副流煙論争を芝居という強力なメディアを使って作品にしようと思っていたんです。この論争に決定的な勝利を納めなければならないと。そういうふうにウジウジ考えている内に論争が終わっちゃったんですね。
劇団衛星新作公演「サードハンド」
公演時期:2012/6/23〜7/1。会場:KAIKA。
未知を求めて
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- さらに伺いたいのですが、クリエイターとして、そうしたコンセプトにどのような創造的価値を見いだしていますか?
- 蓮行
- 僕は価値観については切り分けて考えないことにしています。例えば東洋医学では、胃腸の調子が悪いというのは全く別の身体部位の、症状とも障害とも言えないような癖が原因になっていたりする訳です。人間の抱える問題についても、彼が属する社会と切り離して考える事は出来ないんですよ。
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- 問題を対象に考える時、それが持つ関係性を無視してはいけない。そのようなポリシーがあるのですね。
- 蓮行
- あらゆる問題は複雑系から生まれているんです。どのようなものも切って切り離せないんです。これは僕が発見した事じゃなくて、2500年前にお釈迦様が残している言葉なので全然威張る事じゃないんだけど。
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- ええ。
- 蓮行
- 僕は個人的な意見や、社会的なプロパガンダとか、ゲストにかわいい女の子を呼んでエッチなシーンを描きたいだとか。それら全ての要素に、全てに創造的な価値が生まれていると願っています。どうでもいいような部分を見て価値を感じる人もいれば、プロパガンダ的な部分をみて「芸術には必要ない」という人もいるわけですよ。それでいくと、毎度毎度、いきあたりばったりに芸術的な価値を考えています。基準は、僕が客席でみて「うおお!」と思うかどうか。
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- はっきりとしていますね。
- 蓮行
- そう。芸術的価値と一言で言うが、公演する場所によっても千差万別なんです。「大陪審」という作品にしたって、劇場だけではなく公民館で上演する場合もあるんですが、全然作品が違うんです。結果として、どのような価値が発生するかは、まあやってみなくては分からん訳ですよ。KAIKAで作品を作るのは3回目ですが、僕らもこの劇場のポテンシャルを完全に解放している訳ではないので。その力も借り、僕の非常にこだわっている作品を上演はするが、そこにどのような価値が生まれるかはほとんど想像がついていない。
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- なるほど。
- 蓮行
- 反面、そうしないと、劇団が持つ個性的な「様式」が語られるようになってしまう。平田オリザさんの静かな演劇しかり、地点の日本語の解体しかり。
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- 特長はまっさきに語られますね。
- 蓮行
- 今の芸術シーンが様式で語られてしまうのは、しかし僕は仕方ないと思う。短い言葉で印象付けるべき説明をせざるを得ないから。でも、それは正直気にくわない。
変容と変節
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- 以前インタビューさせていただいた若旦那家康という方に、衛星の噂話を聞いたんですよ。その昔、大阪万博ホールで上演された「宇宙巡査部長ガリバン」 という作品。40人あまりの役者が舞台上で白兵戦を演じるシーンがあって、一人がコンタクトを落として全員で探す事になるという演出があったそうですね。
- 蓮行
- よう覚えてんな(笑う)。
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- 話を聞いただけで面白いと思うのですが、考えてみれば私が衛星に入ったのも、そういうおバカ路線が好きだったからなんです。指魔術千手観音という作品が最初でした。そして10年。私は、今の衛星作品はそうしたおバカ路線と二分したように思えるのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
- 蓮行
- ええとね、路線を変更しているとはあまり思っていないです。色々な問題があって・・・まず、先ほど言ったように問題を切り分けず複合的に見ないといけない。
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- ええ。
- 蓮行
- 何せ21歳の頃から衛星をやっているんで、当然人間が変わる訳ですよ。21歳の頃に見えていた世界と、今見えている世界は違う。変わらないのは女の子にモテたいという原理主義ですが、そのターゲットも落ち着いた反応を見せてくれる層になった。だし、当時見えていた社会的問題と、現在のそれは違うんですね。さらに僕は、現在やっている事も十分ばかばかしいと思っています。
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- 当初のお馬鹿な作風についてはどのような感慨がありますか?
- 蓮行
- 僕が最初の方にやっていた「サロメ」 という作品。僕はとても愛しているのですが、今はチャック・O・ディーンという俳優がいないんですよ。彼の、20歳そこそこの肉体が作品の成立要件なんです。脳天気番長という作品も、岡嶋さんという得難い俳優はもちろん、やっぱりチャックさんがいないんですね。よしんば彼がまだ現役だったとしても、35歳の彼がセーラー服で女装して出てきたとしてもその面白さは我々が必要とするものではないんですね。
- __
- そうかもしれませんね。
- 蓮行
- また、冷静になって考えてみれば今再演を重ねている大陪審という作品もやはり馬鹿馬鹿しい作品なんです。お腹壊して人前でうんこ漏らしたという事を、ようも裁判所にまで持っていくわと。馬鹿馬鹿しさはさらに増していると言えるんですね。そこで行くと、けして路線を変更した訳ではなく、俳優としての身体の変容を受け入れ、さらに変わっていく現代の世界情勢と折り合った上で、僕らのやっている表現はけして変節した訳ではないんですね。
- __
- では、その上で目指していきたいものはありますか?
- 蓮行
- よくぞ聞いてくれました。無い。だって分からないからね。我々の作品作りのコアな部分は様々な状況が重なって刻々と変容していく。それは社会情勢であったり、ギャルもて原理であったり、さっきも言ったように複雑系だからです。
ターゲット
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- 劇団衛星のコックピット 。これもよく考えればバカバカしい物語ですが、新作「サードハンド」とどのような作劇上の違いがありますか?
- 蓮行
- 「サロメ」と「脳天気番長」ぐらい違います。そもそも、僕らの作品は実社会と人物の密接な関連を90分で描き出すということをやっているんです。サードハンドも現実の世界を元に作られた、広がりのある作品を作りたい。たかだかタバコが、しかし人の命を左右する時代ですね。
- __
- この10年の衛星の作劇については分かったと思います。エンターテイメントだけを最終目的として作っている訳ではないのですね。
- 蓮行
- むしろ逆ですね。エンターテイメント的な仕上がりになっているのは、僕に俗っぽさとサービス精神が備わっているからであって、それがなければむしろ平田オリザ作品のようになっていると思います。この間、平田さんの作品も演出させてもらいましたが、ちょっとエンターテイメント寄りになりました。参加者はほとんど演劇未経験の方で、「ちょっとここでこうやると面白いですよ」みたいな。とはいえ、僕はエンターテイメントというのはやりたくない。それよりは、くどいようだけど狙っている女の子をドキッとさせる事が大事なので。正直に言うと、野郎どもがどう熱狂してくれようが、(嫌とは言いませんが)そこはそんなに狙っていませんよと。
- __
- よく分かりました。
- 蓮行
- 正直に言うとね。
- __
- 大衆ウケするような作品ではいけないと。
- 蓮行
- そこは本当に難しいところで・・・。例えば、視聴率がいいテレビドラマが面白いとは限らないじゃないですか。また、視聴率が奮わないがもの凄く丁寧に作られた良いドラマもある訳ですよ。質とウケの関係には不確定要素があり、明確な一対一の対応はないんですね。だから、自分や狙っている女の子がゾクッとくるポイントでものを作らないと。まあ、画家も自分が描きたい、部屋に飾りたいものを描いている訳なんでね。
- __
- そうですね。
- 蓮行
- 僕らの経営のやり方にも関わってくるんですが、作品を通じて儲けようとするとどうしても、売らなきゃいけない訳だ。ミュージシャンだったら、アルバム10曲の中にとんがったものを2、3曲入れる事が出来るかもしれないけど、僕らのやっている演劇というジャンルではなかなかそういう事は出来ない。一つの作品の中に、都合よくいい顔を入れる訳にはいかない種類の芸術なので。
- __
- 一貫しているんですね。
- 蓮行
- 作品の売れ具合と僕らの収入が直結するモデルだと、むしろ、経済とか社会情勢とか、一般的なユーザー感覚とかの影響を受けすぎてしまうと感じてるんです。だから、エンターテインメントとは少しバッファを置いています。
- __
- 距離を置く。
- 蓮行
- もちろん、切り離せないんですよ。世界で俺様だけが分かる作品を作ってもしょうがない訳だし。彫刻のように後世までそのままの形で残るジャンルでもないんだから、同時代性として全く理解されないものは困るんですけれども。
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- 私は客席に身を置く事が多いので、そのサービス精神を期待するところは大きいですね。
- 蓮行
- それは、そういう事を言われてしまった時点で影響を受けるかもしれない。稽古場で「ほわんほわん〜」と浮かんだりね。
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- 失礼しました。
- 蓮行
- それは僕が取捨選択する事なので、気にしなくてもいいよ。
- __
- いえ、その、笑いを期待している訳ではないのです。ただ、今は特に公の部分に興味が向いているという事ですね。
- 蓮行
- 多分そうだと思う。その時その時のパッションによると思うよ。自分が思いもしなかったところが作品に出たりするので、ばしっと言えない。
劇団衛星興業「コックピット」
50席限定の完全可搬型劇場を製作し、各地で公演を行う。初演時期:2002/6/12〜15。会場:アートコンプレックス1928。
質問 椎名 晃嗣さんから 蓮行さんへ
後顧の憂いなく
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 蓮行
- まあ、とにかく劇団員の収入を増やしたいですね。
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- なるほど。
- 蓮行
- それから、社会保障を付ける。今は劇団員を個人事業主として雇っているけれども、ゆくゆくはね。やり方はどうなるか分からないけど、社会保険をどう付けるかを相談している段階です。・・・これ、劇団の人から出ているコメントじゃねえだろと言われるかもしれませんが。
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- それは、これからどんな作品作りを目指していくか分からないからですね。
- 蓮行
- どんな演劇作品でも対応出来るような態勢作りが必要なんです。我々がやるのはこれだと、社会の中で言うにはね。そうやって皆に、後顧の憂いなく、表現してもらいたいから。
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- 珍しいですよね。
- 蓮行
- どんなジャンルの人でも、同窓会でも、「小劇場をプロでやってるんですか?」って驚かれるんですよ。それどころか健康保険も、雇用保険も持っている、という事実が僕が創りだすべき芸術の一環だと思っているので。大川興業さんが、メーデーや株主総会を作品として行うようにね。それと一緒で、衛星の歴史も経営も、演劇作品の一つだと思っています。僕はこれを面白いと思ってやっています。
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- ありがとうございました。
温感ツボ押し
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- 今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントがございます。
- 蓮行
- ありがとうございます。ハンズの袋ですね。現金だといいなあ(開ける)
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- そうしたかったです(笑う)
- 蓮行
- おおっ。これは・・・。ちょっと高橋さん。ずいぶん気が効いているじゃないですか。
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- 蓮行棒です。その昔、稽古場で百均のを使っていましたね。蓮行棒と呼ばれていました。
- 蓮行
- 気持ち悪いくらい僕の志向性に合っているじゃないですか。すばらしい。今すぐそこのレンジでチンして使おう。既に肩が凝ってるから。