演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

遠藤 僚之介

ダンサー

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夏の夜

__ 
今日はどうぞよろしくお願いします。最近、遠藤さんはどんな感じでしょうか。
遠藤 
最近は色々と環境が変わって、若干気持ち的にバタバタしています。
__ 
ところで最近、とても暑いですね。どう過ごしていますか?
遠藤 
最近やっと扇風機を出しました。ハイベッドに寝ていて、高いところで寝ているから暑いんですよ。部屋の熱気が全部僕のところに来るので、暑くて。
__ 
そうするしかないですよね。寝苦しいですか?
遠藤 
寝苦しかったです。
__ 
扇風機に当たりすぎて死なないように気をつけてくださいね。
遠藤 
え、何ですかそれは。
__ 
そういう迷信が韓国ではあるらしいんですよ。
遠藤 
へぇ。

花のような

__ 
遠藤さんが先日、FOuR Dancers vol.69 で上演した作品がとても良かったんですよ。今日は是非、あの作品についてお話が出来たら、と思っています。まずあの作品をどう呼んで良いのか分からないんですが・・・
遠藤 
ありがとうございます。タイトルはまだつけられていなくて。今回はどちらかというと「実験」みたいな作品なんです。
__ 
私が拝見したのは、体を黒く塗った男が客席の後ろから出てきて、ゆっくりとした動きで体をもたげながら舞台へと降りていくという光景でした。踊りなのか、そもそも人間なのかどうかわからないし、もちろん感情があるかどうかも分からない。でもその存在がなんだかちょっと簡単には手の触れられないもののような気がしていました。聖なる何某か、なのか?淡々と舞台の方に近づき、その舞台の方には煌々とした明かりが放射されていて、その手前で黒い者が体を揺らしたりしていたんです。これも本当にゆっくりと。回転したり、そして花が咲くような変容を見せたんです。その存在の中だけで濾過されていくものを感じさせていました。例えるなら花のような存在。普通は人間界には姿を現さないようなものがいま眼前に現れ出ている。
遠藤 
ありがとうございます。そう見て下さったんですね。
FOuR Dancers vol.69

公演時期:2017年6月1日。会場:UrBANGUILD。

色々な「問う」

__ 
まず伺いたいんですが、あの作品はどの様な成立があったのでしょうか。
遠藤 
まずアイデアとして、光の演出が先にあったんですよ。あの照明をまずは使った上でどうやって自分の肉体を使ったダンスに昇華するか。ですので、さっきおっしゃっていただいたようなダンスは後から出来たものなんですけど、とはいえ、もともと僕の体にあったものが出てきているんだと思います。本質と言うか、普段やっていることの積み重ねというか。
__ 
それはまさに、実験から静かに炙り出されたご自身の本質。そういう精神があったからなのか、なんだか批評したい気分にかられたんですよ。
遠藤 
以前FoURDANCERSに出演したのは益田さちさんが振り付けた作品で、それは益田さんの思いが現れたものだったのだと思うんです。それを表現するためにはどうすれば良いか、というクリエイションでした。今回は実験というスタンスでしたが、思いがけず自分自身の事が出てきた作品になったかもしれません。思い返せば自分自身というものが何で構成されているのか、このところのテーマだったので。裸になるのも、自分を他者の目の前にさらけ出すことによって他の人達には自分がどう見えるのかを問いたかったんです。

会話はスパゲッティのようにもつれる

__ 
全編、止まる所はあんまり無いのに、何故か静けさのようなものを感じていたということは、つまり私は、遠藤さんの中に「動かなさ」を見出しているのかもしれない。
遠藤 
「動かなさ」。
__ 
ネガティブな意味ではないですが、「遅さ」という属性なのかもしれません。
遠藤 
周りとの時間の差がある、ということなのかもしれません。作品を見ているお客さんの時間と、僕の中の時間の食い違いがあったからこそ、そういうことになったのかもしれません。正直、「みんな焦りすぎやろ」、みたいなことは思っています。「なんでそんなに焦んの」って。
__ 
アインシュタインの相対性理論みたいですね。その一方で、量子論における量子もつれの様な現象もありますよね。
遠藤 
ペアの量子の片っぽに変化があったら、量子間の距離に関わらず、もう片方にも同時に変化があるという。
__ 
この間そういう動画を見たんですよ。この世はすべて仮想現実であるとか。きっとタネはあると思うんですけどね。
遠藤 
あくまでまだ、僕たちの常識が至っていないと言うだけで、現象の全てを言葉で説明できないとあかんのかなー、と思いますけどね。そのままそういうものとして受け入れることはできないのかなー、と。いつも簡単な数式で全てを捨象すべきだと思っているようなんですが、そこに違和感があって。それはゴールじゃないんじゃないかなと。人間の頭では理解の及ばない宇宙がある、という発想はないのかなと。
__ 
科学者としては解き明かさないといけない使命感はあると思います。自然に対し、理屈を説明したがるんですね。「超自然的な存在」という割り切り方が我慢できないのかもしれない。ただ、芸術をやっている人間からすれば、そういう割り切り方や定義をしてでも向こう側に行きたいんですよ。少なくとも私はそうです。解き明かせないけれども、文系の究極の一つはそこだ。
遠藤 
芸術は科学のように厳密なルールなどは一旦忘れて、あるアイデアをたったいま思いついたみたいな形でポンと投げかけると、案外本質に近いところに当たったりして。そういうところが面白い。
__ 
そこに至るまでの道筋は楽じゃないですけどね。ちょっと話を寄せますけど、その「ポンと出たのがウケた」って面白い現象ですよね。作り手と受け手のバイオリズムが一致した瞬間なんですよ。だが何と、一気に何百人の観客と噛み合う瞬間がある。頑張れば究明出来るかもしれませんが、やっぱり、超自然的な存在がいるような気がしてきますよね。
遠藤 
バタフライ理論というのか、どこか知らない場所で起こった事件が今の僕らに影響を与えているのかもしれない。あまり詳しくないんですが、そういう理解で合ってますか?
__ 
多分大丈夫です。事象A⇒事象Bという流れがあって、要するに重要なのは間の「⇒」がただただ正当である、という事だけです。大皿のショートパスタのように山積しているからカオティックに見えるだけだと思いますよ。
遠藤 
普段の生活の中で、結構「縁」の様なものを感じながら生きているんですよね。ちょっと宗教っぽくなっちゃいますけど、大きな波の上で生かされているのかもしれない、そういう風に考えることがあるんです。だから、どんな波が来てもこの身体に受け容れて乗れるように普段から準備はしているつもりなんです。なるべくシンプルにして、自分を空っぽにして。こないだの作品で言ったら、あるひとつのアイデアの上に自分がどう乗れるか、そこから果たして何が見えてくるかを検証してみたかったんだと思います。

分断と最終的な合一、そして、侵略者

遠藤 
作り方としては逆算だったんですよ。当初頭の中にあったのは、トルソーに見立てた自分の体が機材のライトに照らされている、というのを最後に見せたくて。そうすると、光の部分と影の部分で自分の体を分割することができるなあ、と思って。そこから色を塗って見ようと思って。すると、光が当たっていない時でも光に照らされている体を引き継げるわけですよ。時間軸的に行ったら逆で、白い身体で黒い顔なので。でも最後に、ライトが到着して、そういうことか、と思って貰えれば。
__ 
分断性と、最終的な合一。
遠藤 
照明や自分の身体や音など、作品を構成する要素をバラバラに見せていく。何らかの意味は僕の身体が持っている。
__ 
トルソー。無生物が分断され、明かりによって同一性を得る。
遠藤 
ちょっと話は戻るんですけど、「植物に見えた」という感想は、自分のある部分が立ち現れたという事かもしれなくて。植物って、自己主張や自我の無さを宿命的に持っていると思っていて。花瓶にさせばインテリアになるし。首を切ったところであまり可哀想だと思わないのは、そこに自我を感じさせないから。
__ 
まあ人間はそう思わないですね。人によりますが。
遠藤 
植物の立ち姿というものは、自分の理想と言うか、目標としているものに少し近いのかなと思っていて。見る人がエネルギーを勝手に感じ取る存在。空っぽなんですけどエネルギーに満ちている。そういう状態が素敵だなと思っていて。動物は多分、自分の中にエネルギーを持って発信していっているイメージで(すごく主観的ですけど)、植物は環境のエネルギーで生きているイメージです。自分の体もそういう風に持っていきたい、と思っています。あくまで動物である僕がそれを目指すというのは難しいことなのかもしれませんが。
__ 
攻撃性のある植物もありますけどね。毒キノコとか。しかも、一見は危険そうに見えない種もあるし。しかし有毒無毒関係なく、植物がずっと受け身の存在であるかというとそれだけではなくて、彼らは地歩侵略を旨としている。私の部屋のベランダも、なんか柵の外から植物がじわじわ侵入しようとしてきてて。
遠藤 
ああ・・・
__ 
あいつらは言っても聞かないじゃないですか。
遠藤 
動物とかだったらシッシッてすれば逃げますからね。
__ 
静かで、居座るように存在していて、なにより意思が通じない。
遠藤 
脅威ですよね。しばらく経ったらいなくなる、みたいなこともない。生きてる時間軸が違うのかなと思いますよね。
__ 
環境と合一して攻めてくる、意思のないもの。

木村玲奈振付作品「どこかで生まれて、どこかで暮らす。」

__ 
そして今年の秋に、木村玲奈さんの作品に出るんですよね。
遠藤 
個人的には今年の大きな山の一つだなぁと思っていて。この作品には立ち姿というものが必要とされているなと感じていて、ただちょっと、さっき言った波に乗るための準備というのをしすぎて、いま自分の立ち姿を見失っている所が逆にあって。そういう意味で自分を見つける作業を新たにさせてもらっているという感じなんですよ。玲奈さんの作品は秋に香港で上演する予定で、今年一年はそういう事をしないといけない年なのかなと思ってます。作品自体は既に何回か上演されてる作品で、メンバー変更に伴う調整をしています。元々の作品は3人だったんですけど、どうしても都合のつかない方がいて、新メンバーを入れるなら、いっそ4人がメインで踊る作品に新しくしようと言うことになったそうです。
__ 
ちょっと見に行けるかどうかわからないですが・・・頑張ってくださいね。

差異から

__ 
ダンスを始めたのはいつからですか?
遠藤 
ちゃんと始めたのは、大学を卒業してからです。たぶん4年前ぐらいからです。
__ 
ご自身にとって、ダンスのかえがたい部分とはどこですか?
遠藤 
自分の体を使う、ということですね。踊るときに結局出てくるのは自分の体であったり感覚であったり。それがダンスをしていく上で揺るがないものなのだと思っています。
__ 
最近のテーマは、さっきおっしゃっていたようなことですね。
遠藤 
自分を知りたい。ちょっとクサいですね。
__ 
今回はそれの超実践的バージョンですね。以前のテーマは何でしたか?
遠藤 
今取り組んでいるのは小テーマで、もともとの大テーマは「他人が見てる世界」というのに興味があって。人にはそれぞれ違う身体があって、その身体の持つ感覚を通して見た世界ってきっとそれぞれ違うと思うんですよ。
__ 
他人に乗り移らないとわからないですよね。
遠藤 
そう。ですので結構、人の作品で踊るのが好きなんですよ。視覚障碍を持った人と最近はずっと働いてるんですけど、目が見えない人の世界も興味深いですね。同じ時間、同じ場所に存在してるのに、僕たちと全く違う世界。というか、障碍という分かりやすい形で無くても、体型とか小さな差異によっても世界の見え方は全然違う。僕は割と筋肉質で、例えば走っている車の上を飛び越えられるんじゃないかと妄想したりするんですけど、そうでない人はそういう感覚は持てないから、見えてる世界に対して感じている空間の広がりが全然変わって来る。それに伴う発想や思考回路とかも全然変わって来る。今はそこへのアプローチはおいといてる感じですけど。
__ 
他人の感覚を理解するのに興味がある。
遠藤 
子供の頃は断れない性格で、クラスにいた障碍のある子の面倒を見てあげてね、友達になってあげてね、と先生に頼まれたりしてたんですよ。そこで身体的に明らかに違う子らと接する中で、面白いなと思ったり、逆にネガティブな感情を持ったこともあったり。
__ 
「違い」への意識が育ったんですね。

質問 藤原 美加さんから 遠藤 僚之介さんへ

__ 
前々回インタビューさせて頂いた藤原美加さんから質問を頂いてきております。「その人の体で一番見るところはどこですか?」
遠藤 
バランス感を見ています。絵を描いていたからかもしれませんけど、その人の立体感みたいなものとかを意識しています。やっぱり、ゴリっとした存在感みたいなものに惹かれます。

質問 久保内 啓朗さんから 遠藤 僚之介さんへ

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前回インタビューさせていただいた、劇団ZTONの久保内 啓朗さんから質問を頂いております。「体を使って何かを表現しようとする時、何を意識していますか?」というのは、ZTONもオープニングパフォーマンスで踊ったりするんですよ。そこで体の動かし方とか悩んでいるところもあるらしくて。
遠藤 
体の奥の筋肉とか内臓を意識しています。表面だけではなくて。そこを中心に動かしていて、あとはおまけみたいな。体のうねりの中に踊りの動きが入っていたら大きく見えたりします。

踊る

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今後どんな感じで攻めて行かれますか?
遠藤 
得た仕事を誠実に踊るだけです。

キャストパズル

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今日はですね、お話を伺えましたお礼にプレゼントを持って参りました。
遠藤 
あら。ありがとうございます。開けて良いですか?
__ 
どうぞ。
遠藤 
あ、Book1stの。(開ける)おー、知恵の輪ですか。難しそう・・・!
__ 
大分難しそうだという印象を受けますね。
遠藤 
レベル的には中なんですね。6段階中3。でもいいですね、好きなデザインです。
(インタビュー終了)