演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

本城 祐哉

ダンサー。俳優。振付家

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冬に

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今日はどうぞ、よろしくお願い致します。幻灯劇場の本城祐哉さんにお話を伺います。最近、本城さんはどんな感じでしょうか。
本城 
今年の冬はもう出演作はなくて。来年初頭に舞台がいくつかあるので、それのリハーサルをそろそろ始めているという感じですね。
__ 
2ヶ月程度の準備期間ということですね。
本城 
幻灯劇場の新作もあったり、クラシックバレエとコンテンポラリーダンスの仕事があったり。選り取り見取りになってきますね。
__ 
幻灯劇場の新作「0番地」。とても楽しみです。舞台以外はどんな感じでしょうか。
本城 
今ちょっと足の裏にできものができていて歩くと痛いです。でも痛いのは最初の方だけで、脳から何か出るんでしょうね、しばらくしたら痛くなくなります。結構、脳から出る物質の存在はよく感じます。
幻灯劇場

映像作家や俳優、ダンサー、写真家などジャンルを超えた作家が集まり、「祈り」と「遊び」をテーマに創作をする演劇集団。2017年文化庁文化交流事業として大韓民国演劇祭へ招致され『56db』を上演。韓国紙にて「息が止まる、沈黙のサーカス」と評され高い評価を得るなど、国内外で挑戦的な作品を発表し続けている。2018年、日本の演劇シーンで活躍する人材を育てることを目的に、京都に新設されたプログラム『Under30』に採択され、2021年までの3年間、京都府立文化芸術会館などと協働しながら作品を発表していく。(公式サイトより)

幻灯劇場「ミルユメコリオ」

__ 
幻灯劇場「ミルユメコリオ」。東山青少年活動センターと関西演劇祭でしたね。大変面白かったです。本城さんは主に駅員さんと「老人4」役でしたね。
本城 
老人4と老人8と、最後は老人1を演じていました。それと牛と駅員さんと女子高生と観光客でした。
__ 
幻灯劇場四人のチームワークを感じた作品でした。
本城 
ストレートプレイ、お芝居だけをやるという経験が初めてだったんです。ミュージカルの中での芝居部分とかはあったんですけど。
__ 
伸び伸び演じられていると言う印象がありました。
本城 
いやいや、内心はずっとビクビクしていました。
__ 
本城さんらしさを感じるいい演技だったと思います。田舎と東京と言うテーマで、東京に対する憧れと愛憎を強く感じる作品でした。私は最近東京へのコンプレックスが薄くなってきたような感じです。今でも憧れはあるんですが。本城さんはいかがですか。
本城 
あるっちゃあるんですけど、東京に仕事に行くたびに絶対ここには住みたくないなと。もちろん、たまに行くぶんには楽しいです。住むのはやっぱり、東京は人が多すぎて。まあニューヨークみたいな感じですね。あと、東京の人は歩くスピードが速いとよく聞いていますが、実際は大阪の方が早くて。人のスピードが遅くて、僕はせっかちなのでイライラしていました。大阪では勝手に、歩くスピードが速い人用のレーンが出来たりする。
__ 
合う場所に住みたいものですよね。反面、「ミルユメコリオ」では過疎化する運命にある自分達の村を売ってしまうんですよね。そして村がゴミ処理場になってしまう。自ら招いた悲劇。
本城 
そのまま村がなくなるのも寂しいので、どっちがいいんだろうなと思いながら台本を読んでいました。実は僕の地元も町おこしですごく都会化してきていて。駅前には何でもあるようになったんです。元々はベッドタウンだったのが商業施設が出来てその中に市立文化会館が入って、病院も移転してきて。ワイワイしてきています。歩いて行けるところにユニクロが出来て嬉しくもあるんですけど、知ってる景色が変わっていくのがちょっと寂しく思えたりします。久しぶりに帰ってきた人たちはどう思うんだろうなと。
__ 
それは京都市でも同じような事が起こっていて。知り合いが「百万遍の風情が変わってしまった」と。確かに、古い書店やゲーセンがあったところに快活クラブやサイゼリアが出来て、まるでどこにでもある大学都市みたいになってしまった。私の地元の富士宮も多少そんな感じで、でも元よりの町並みはそこまで急激に変わってるわけではない。穏やかに変わっているんですよね。
本城 
穏やかでも、変わった後では全然違うんですよね。
__ 
まあ、ペースの問題じゃないですね。
本城 
ユニクロがあったところに、すごく大きい牛の皮革の加工工場があったんですよ。僕が小学生の頃に潰れました。
__ 
それは無くして欲しくなかったですね。その工場はきっと、文化遺産でしたね。
幻灯劇場 第八回公演『ミルユメコリオ』

Story 平均年齢79.4歳。少子高齢化が来るとこまで来てしまった町・オワリ。 町にただ一人残る10代の少女・夢子は、母親と花屋を営みながら行方不明になった父親が帰ってくるのを待っている。生物学者の父は「ミルメコリオ」を探しにアフリカで消息を絶ったのだと母に聞かされ育った夢子。しかし本当のところ父は、自分と母親を捨て東京の女と蒸発したのだという真実を、夢子は知っていた。店を継がされ身動きができなくなる前に、夢子は東京へ父親を探しにいく。 2019年8月9日(金)〜12日(月・振休) 京都府 京都市東山青少年活動センター 作・演出:藤井颯太郎 出演:小野桃子、藤井颯太郎、橘カレン、本城祐哉

幻灯劇場 関西演劇祭2019参加作品『ミルユメコリオ』

上演日: 2019/9/22(日)15:30 2019/9/23(月)12:00 2019/9/28(土)15:30 会場:クールジャパンパーク大阪 SSホール 出演: 鳩川七海 本城祐哉 橘カレン 藤井颯太郎

感覚と身体と

__ 
今日は、ダンサーが演劇の舞台の上に立ったらどんなことを考えるのか、ということを伺いたいなと思います。一体何を考えるものなのでしょうか。
本城 
劇団で振付けをする時、ダンサー向けの伝え方ではあまり伝わらなくて。逆に、ダンサーに振付けが伝わる際のその情報量の多さに最近気づいたんです。僕は子供の頃にそのやり方を身に付けてて、全部無意識でやってて。で、それを言語化する機会がなかった。ただ単に体の中に入ってきたので、頭で何も考えずに勝手にできるようになってしまっていたんですね。
__ 
というと。
本城 
重心が右足から左足に移動するスピードとかを無意識に考えたり、振り向く時に肩から振り向くのか首だけで振り向くのか、それらの動きがそれぞれどのように見えて、どちらの方が良いのかを感覚と頭の中の映像でとらえていて。頭の中で考えないで自然に出来てしまっているな、ということを最近考えています。
__ 
イメージが予測出来る?
本城 
身体にセンサーが付いていると言うか。自分の体が今どんな形になっているのかというのが分かるというか。3D映像を撮るときの、モジモジ君みたいな、いっぱいセンサーが付いてるタイツを着てグリーンバックで踊っているのが頭の中にあるみたいな感じです。
__ 
普通の人の頭の中にプロットされる、「今自分の体はこうなってるだろう」のもやもやしたイメージから先に進んで、もはや分析できる資料になっている感じでしょうか。
本城 
そうですね。後ろ手に挙げている手がどんな形と角度をしてるかというのが分かるという感じです。それはダンサーなら自然にやれてることだと思うんですけど、それが自然にできない人たちに説明しようと思ったら「自然にやるんだよ」では伝わらない。それをどうやって言葉にするか。
__ 
言葉にすることで失われることと、新たに得ることがあると思うんですよ。
本城 
はい。
__ 
文章化する事でまず失われるのは、概念1と概念2が繋がる事で、概念1と概念0および概念1ダッシュのパスが一旦は無視される事。講師が選択する事で生徒からオルタナティブ性が剥奪されている。それはもう再選択出来ないけれど、方向性が指し示されることによって知見が形成されていく。
本城 
起こっている事は一緒なんですけど、良いことも悪いことも出てくると言うか。そもそも踊りを作る時に、あんまり他の芸術表現では出来ない・踊りでなければできない表現をやろうと思っていて。だから言葉にしにくいものをやりたいなと思って作るんですけど。振付けする時には、それはやっぱり言葉にするんですよ。一つの言葉があって、それはこうでもあって、こうでもある、というのをまとめずにまとめたというのが僕の最初のイメージで在って。言葉で伝えられないものを言葉で伝えようとしたことによって意識の共有は難しくもなるんですが。ダンサーに振りつけるなら、相手のタイプにもよりますけど、僕はあまり押し付けずに、イメージが違ってもそれはそれでいいだろうということにしています。が、ダンサーではない人にはそういう乱暴な渡し方ができないのでお互い戸惑ってしまうんですよ。でもそういうことをずっと考えながら、逆に、言葉と身体のできることと出来ない事が分かって行くと言うか。幻灯劇場ではそこに言葉が絶対に入ってくるので、そことどういう共存をするのか、相乗効果になる作り方から考える環境になっています。

"芸は真似事から"

__ 
(欲を言えば)ダンサーではない方に持っていて欲しいもの。例えば何でしょうか。
本城 
思い切り、ですかね。
__ 
思い切り。
本城 
お芝居をやったことのない人が台本を渡されて、どうしたらいいのか分からなくてとりあえず文字だけ読むみたいになるのと一緒で、踊ったことのない人たちに振付けても体が全然動かないんです。そういう風な状態だと、こちらとしても「どこまで理解できているのか」というのは分からないんですね。体が動いていないから。だからこそとりあえず、思いっきり動いてもらう。
__ 
たたき台ですね。
本城 
とりあえず思いっきり動いてもらえれば、渡された振りに対しその人がどう思ったのかが分かるので。そこから話していく事が出来るんですね。芸は真似事からという言葉が一番当てはまるかなと思っています。とりあえずうまい人の真似をすればいいというか・・・僕も小さい頃は自分の先生の真似しかしなかったんです。その人のコピーだねとまで言われるぐらい。それが一番の近道で、でも真似出来ない動きが出てくるようになるんです。その時にやっと自分の体のアビリティやオリジナリティが、制限という形で出てくるんです。出来る動きと出来ない動きが出てきて、同じポーズをしているはずなのにあの人の体と僕の体は全然違う。どうしてもあの人と同じ踊り方が出来なくなった。それまではずっと色々な人にコピーだと言われて、確かに僕は他の人よりも人の動きを真似るのが上手い、でもオリジナリティが無いと言われている気がして悩んでいたんですが。
__ 
体の成長と共に真似が出来なくなった代わりに個性が出来てきた。制限という形で。

ギャップ、制限、そして

__ 
振付けをするときに、「うまくは出来ていないけれども期待以上に良いイメージが生まれている」場合はどうしますか?
本城 
僕は結構、それは幸運だなと思っていて。実は僕の場合、具体的な振付けは稽古場でダンサーの体を見ないと思いつかないんです。その人たちの体に反応して振付けをするという感じなので、(大まかな軸やメソッドはあったとしても)人が違えば、つけていく振りも変わっていくという傾向があって。ダンサーとしてしっかりしていて個性がある方に降りつける時とかは「こんな動きは自分も中にはなかった」、という振付けが生まれることがあります。そうなったら、もう好きにしてください、それでいきましょうという感じです。
__ 
そのダンサーの身体を尊重する?
本城 
あてられている。僕はそこに反応しているというのがしっくりきていて。そこから振付けが降りてきている。
__ 
そういう稽古ができれば素晴らしいですね。
本城 
でもバレエ教室の中学生とかに振付けをする時は、僕が用意していた情景をその子達のレベルでどれだけ再現できるかという挑戦ですね。そこでは結構、僕の振付けをきちんとやってねという感じです。
__ 
「あてられている」。それはきっと、共同作業ですね。そういう関係性を築けるのはとても難しい。個人的なことを話しあうぐらいにまではならなくてもいいけど、目を合わせて違和感が無く、やり取りができるようになればいいですね。それは実は、技術のあるなしにかかわらず、そして、どういう時代の状況であろうとも、ほとんど独立して大事で難しいこと。
本城 
振付けの時にダンサーを見て思っているのは(無理やり言葉にするなら)、この人は僕の与えた振付けに対し、動きそのものから取っていく人とか、目線から最初に入ったりする人だとか。
__ 
つまり、ダンサーのそれぞれの受容感覚を感じるんですね。
本城 
僕の方も、この人の腕ならこのスピードで動くんじゃないかとか、この人なら僕にはできないあの動きができるだろう、とか。その人が一番出てくる、心地よく体を動かせるふうになったらいいなと思っています。

質問 南野 詩恵さんから 本城 祐哉さんへ

__ 
前回インタビューをさせて頂いた方から質問をいただいてきております。お寿司の南野詩恵さんからです。「小屋入り後に、衣装の人に対して期待している役割は何ですか?」南野さんは衣装の方なんですが、ホール入りしてからの衣装に関する仕事について、役者の方はどのような意識を持っているのか知りたいそうです。洗濯やプリセット等、劇場側でしてくださる場合もあるそうですね。
本城 
踊りの世界では、例えばクラシックバレエだと衣装を着てから背中のストラップを縫うんですよ。そこは自分たちで楽屋でやったりします。でも衣装の故障は絶対に自分たちでは触らないし。先に、自分たちでやるべきことややるべきではないことを名言してくださればありがたいです。システムがあれば絶対に守るので、そういうのがあれば嬉しいかもしれないです。

死後の世界へ

__ 
今日のインタビューはそろそろ終わりますが、最後に何かお話になっておきたかったことはありますか?
本城 
自分でも疑問に思っている事なんですけど、作品を作る時に登場してくるキャラクター(人物や虫)を作中で殺しちゃうんですよ。こないだは自殺する作品でした。それで、死んだ後の世界のシーンがよく出てくるんですよ。輪廻がある時もあれば、死んだらどこかに消えてしまうと言う作品もあるし。苦しむのもあれば、開放される事もある。
__ 
死ぬ瞬間がクローズアップされているわけではなくて、死んだ後のことのほうが重要?
本城 
死に向かっていくところと、その後ですね。
__ 
例えば因縁があって、悪いことをしたから地獄に行っただとか、そういうのは?
本城 
うーん、そこは色々ですね。興味はあるのかもしれません。ちっちゃい頃、母方の親戚が物凄い大家族で。おばあちゃんが何人もいて、葬式が子供の頃に何回もあったんですよ。人が死んだらどこへ行くのかというのを考えていたのかもしれないです。
__ 
その後があって欲しいですか?
本城 
自分の考え的にはそういう、死んだ後の意識とかはないと思っていて。宗教だとかスピリチュアル的なことは個人的にはほとんど信じていなくて。でも子供の頃は全部信じてました。
__ 
サンタクロースは?
本城 
サンタクロースも結構な年まで信じてたし。
__ 
作品にまでしてしまうぐらい自分から近づいていってるって言うことは、何か思ってるんでしょうね、心の中で。

パスケース

__ 
今日はお話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
本城 
ありがとうございます。(開ける)あ、パスケースですね。ちょうど今使ってるのがボロくなってきたので。
(インタビュー終了)