佐藤さんの毎日
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- 今日は、どうぞよろしくお願いします。劇団とっても便利の佐藤都輝子さんにお話をさせて頂きます。最近、佐藤さんはどんな感じでしょうか。
- 佐藤
- 最近は、次に客演させていただくニットキャップシアターの稽古と、劇団とっても便利の次回公演の稽古。それから私、スタジオヴァリエの管理もしてるんですよ。プロデューサーとかじゃないんですけど。
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- そうなんですね!存じなかったです。
- 佐藤
- スタジオヴァリエの需要が最近高まっていて。昔は結構稼働率が高かったそうなんですが、劇団とっても便利のアトリエになってからは、貸し館はしていなかったんですね。去年ぐらいから少しずつ再開していて。劇団員で役割分担をして、ホームページを作ったり、見学会を開催したり、仲の良い照明さんに機材をメンテナンスして頂いたり、貸出要綱みたいなものをスペースイサンのスタッフだった方に協力して頂いて作ったり。バタバタしてますね。
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- 素晴らしい。
- 佐藤
- 他には、映像の仕事をたまにさせて頂いてるんですけど、来週は撮影があって。忙しくしております。
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- 大変ですね。仕事以外ではどんな感じですか?
- 佐藤
- プライベートですか。プライベートは・・・まあ、最近は安定しています。
劇団とっても便利
京大映画部を母体に、ミュージカル劇団として1995年発足。ロンドン・ミュージカルに強い影響を受けた作風が注目され、またたく間に、関西小劇場界で屈指の動員を誇る人気劇団に成長。参加したすべての演劇祭で最高動員を記録する。1997年に初の大阪公演、2001年に初の東京公演。以降、各地で公演。近年は、小柳ルミ子さんや元宝塚歌劇団の高嶺ふぶきさんをお迎えしての小劇場の枠を超えた公演や、東映剣会の福本清三さんをお迎えしての時代劇ミュージカル、ミュージカル以外にも名優小川眞由美さんを迎えての野外劇など幅広く上演。2014年公開 映画『太秦ライムライト』の製作他、出版事業、演劇教室運営まで手がける。(公式サイトより)
Knit Cap Theater presents「Oh!Radio」
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- 次に出演されるのは、ニットキャップシアターの「Oh!Radio」ですね。どんな公演になりそうでしょうか。
- 佐藤
- 何かね、ふざけた公演になりそうです。いい意味で。前回のコント公演はコントを何本も作りこんでって感じでしたが、今回はラジオショーということで、けっこう気楽に観てもらえる感じ。歌もあります。UrBANGUILD(アバンギルド)って、客席によっては見えづらいところもあったりするんですが、それを逆手に取って、音を重視しているみたいで。耳で楽しむ感覚の公演になると思います。
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- 佐藤さんは歌うんですか?
- 佐藤
- はい。歌います。ミュージカル女優として呼ばれてるので。
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- それは、歌わん訳はないですね。
- 佐藤
- なんか私、ニットで使われる時は面白枠になってきたんです(最初は違ったんですけど)。真剣にセリフを喋ってるけど、それが笑えちゃうみたいな。
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- それは、ご自身としては・・・
- 佐藤
- すごく嬉しいです。ふざけた事が好きなんです。そういう部分は、自分の劇団の作品では出す機会が少なかったので。「さらば箱舟」の時とかは真面目にやってたんですけど、いつのまにかふざけた面をニットのみんながすごく気に入ってくれて。
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- ファニーな佐藤さんが見れるということですね。
- 佐藤
- ファニーですね。
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- ラジオということは、いろんな仕掛けがあったりしそうですね。
- 佐藤
- 楽しみにしていてください。
Knit Cap Theater presents「Oh!Radio」
今夜はラジオをみにいこうっ Knit Cap Theater presents Oh! Radio Knit Cap Theater presents 第2弾は、 ラジオ風味でお届けするオムニバスコントライブ。 アバンギルドの美味しいごはんとお酒をお供に、のんびりニンマリしませんか? 愛すべき大人たちにささぐニット流レディオショー 公演情報 会場 UrBANGUILD(アバンギルド) 日時 2017年 3月 17日 (金) - 18日 (土) 各日 2ステージ [1st] 20:00- (open 18:00) [2nd] 22:30- (open 1st終了後) 上演時間 70分(予定) 料金 2,000円 + ワンドリンク 600円 (前売・当日とも) お問合せ 080-5337-7583(ナカタニ) ※今公演は、飲食しながら観劇していただけます。開演直前、終演直後は注文が混み合うことがありますので予めご了承ください。 ※会場にテーブル席を用意していますが、限りがありますのでお食事をゆっくり楽しみたい方はお早めの来場をおすすめします。 キャスト・スタッフ 脚本 ごまのはえ 構成・総合演出 澤村喜一郎 出演 高原綾子、澤村喜一郎、仲谷萌、門脇俊輔、ごまのはえ 池川タカキヨ、黒木夏海、佐藤都輝子(劇団とっても便利)、豊島勇士、西村貴治 音響・照明 三橋琢、加藤あずさ イラスト 藤本浩史(the coopeez) 宣伝美術 門脇俊輔 企画 澤村喜一郎、仲谷萌 制作・主催 ニットキャップシアター 毛帽子事務所 会場 UrBANGUILD(アバンギルド)
愛着と自由さ
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- ニットキャップの芝居にどんなところが共鳴したりするんでしょうか。
- 佐藤
- 日常と言うか、生活の中にあるちょっとおかしなもの。それに何か愛着を感じているなあ、と思って。ちょっと変な、変なといったらヘンだけど、お手本にはならない人を愛してる感覚がすごい好きです。うまく言えないですけど。
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- はみ出してしまっているものというか、人生のレールを踏み外しているのにそれに気づいていない人々。
- 佐藤
- そうそう。本人たちは盛り上がってるけれど端から見たらちょっとおかしい、とか。
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- でもそれを嫌味ではなく、上品に書き上げているごまさんの文章の力が凄いですよね。
- 佐藤
- 台本を読んでるだけでも、ごまさんがどういう風にしてほしいのかがわかるんですよね。テンポがちゃんとある。でもやり方は役者に任されている。みたいな。
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- 昔ニットがやっていた、「どん亀」シリーズを思い出しました。全てダメな主人公が、全ての行動に失敗し、でも彼の人生は無惨ではないような気がする、みたいな作品なんですよ。愛が溢れた作品でした。近年、ニットキャップシアターは伝記や古典を題材にした作品を作っていくようになるんですが、奥底にあるものは変わらないと思うんですよね。
- 佐藤
- 私も元々はニットのお客さんでした。そうですね。流れるものは変わってないですよね。
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- 意気込みを教えてください。
- 佐藤
- いっぱいふざける。今回総合演出の澤村くんをはじめ、ニットに集まる人たちは「こんなのどう?こんなのどう?」ていうのを面白がってくれるんです。自由にやらせてくれる。元々は私、自分の演技を全て決めるタイプだったんですよ。台本に、自分の感情の流れや、アクセントとかトーンとかをみっちりと付けるタイプでした。でも、コントだとそれがすごく不自由に感じるようになってきて。その場その場をどういう感じで乗り切っていくか、をやらせてもらえるんです。ミュージカルはそうもいかない。コントはいかに構えず、真面目にふざけられるか。
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- 個人的にも、人との会話においての「おふざけ」は長年のテーマです。アイデアを生み出す瞬発力も必要だし。
- 佐藤
- それはもう、失敗を恐れないのが大事ですよね。
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- そうですね!
- 佐藤
- で、すぐに置きにいくんですよ私。一回ウケたらそれを踏襲してる。本番になったら毎回同じことをやってる。それはそれで大事なんですけど、今回は冒険をしたいな、というのがあります。
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- その領域、色々な考え方がありますよね。アドリブを否定し、稽古で作ってきたものを信じる劇団もあれば、普段から本番のやりとりや雰囲気に劇団ごと合わせていく人たちもいる。本番で出てきたものを大切にし、俳優の判断に任せる演出家もいれば、稽古と本番の中間に行きたい役者たちもいる。
ピルドレン「ばーじん・ぼーい」
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- ピルドレン、お疲れ様でした。面白かったです。
- 佐藤
- ありがとうございます。池川くんは、私をよくあの役にしたなと思って。役者としての普通の印象やったら、楠さんと私の役は逆だと思うんですよ。
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- そうかもしれませんね。
- 佐藤
- 実際に私が演じたのは「独特な世界観をもつサブカル女子」で、楠さんの役は「なぜかモテる女の敵」。ダブルキャストでお互い反対の役でも上演しよう、という話もあったんですけど、製作期間の関係もあって叶いませんでした。まあ池川君もどこか私を面白がってるんですよね。彼とはなんか不思議な信頼関係があるんですが。
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- 二人とも歌いますしね。
- 佐藤
- 私も池川君の感覚は面白いと思ってます。
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- 佐藤さんにああいう面があるんだなと。新鮮でしたね。
- 佐藤
- 劇団員も見に来てくれたんですけど、「あんなところ初めて見た」って言ってくれました。
ピルドレン#0「ばーじん・ぼーい」
公演時期:2016/12/16。会場:喫茶フィガロ。
ここまでの道
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- 佐藤さんが演劇を始めた経緯を教えてください。・・・あ、すみません、佐藤さんにばかり喋らせてますね。
- 佐藤
- いえいえ。ふだん私聞き役なので。
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- あ、そうなんですか。
- 佐藤
- 自分のこと喋るのは苦手なんですよ。でも頑張りますね。二十歳の時に、劇団のHPを観て、稽古見学に行ったんです。その時なぜかテレビの取材が来ていて、劇団員の人たちがすごく稽古を頑張っていて。で、「あ、ちゃんとした劇団なんや!」と思って、オーディションを受けて、次の秋公演に出演する事になったんです。でも一幕しか出番が無くて、二幕の間は楽屋でずっとモニタを観てました。そういう経験があったんですよ。
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- おお、そうなんですね。
- 佐藤
- でも、少ない出番でも、劇団とっても便利の作品にハマるものを感じたんです。劇団に入るまでは、国連の職員を目指して勉強頑張っていて、大学院に飛び級で入ったり。でも、何か、自分がやりたいと思って目指していたのか、人がカッコいいと言ってくれるのを目指していたのか分からなくなって。で、何か、自分が好きなものをやらなきゃ、と思ったんですね。アカペラサークル周辺をうろついてたころに出会ったんです。
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- 必然ですね。
- 佐藤
- そうなんですかね。私、物心付いた時から聖歌隊に入ってたんですよ。父親が牧師で、教会に住んでて。でも高校生くらいから反発するようになって、聖歌隊もやめてしまって。けれど歌は続けたくて。演劇の中で歌う事は今まで自分がやってきた事と近い気がしたんだと思います。
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- 良かったですよね。ハマったと言うことはとにかく幸せだと思いますよ。
通じた時・・・
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- ミュージカルで好きな瞬間はいつですか。
- 佐藤
- 自分の出ている時ですか。お客さんが自分の歌にすごく集中していて、歌っている内容と理解している内容がちゃんと一致していると、届いてる、って分かる瞬間が私の演劇人生にも何度かあって。いつもその瞬間に出会えるとは限らないんですけど。
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- 分かるんですね。
- 佐藤
- 分かる気がしているだけかもしれないですけど、「あっ、分かる」っていう瞬間があります。それは、自分が取り繕わずに舞台に立てている瞬間なのかもしれないですけど。
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- 相手がどこまで理解出来ているか、そのレベルは分からないですが、理解しているかどうかだけは分かりますよね。そう、それだけはデジタルに分かる。そんな気がする。
- 佐藤
- そうですね、そういえばそれにはちょっと敏感かも。
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- 聞き役だから?
- 佐藤
- うん。だから、たぶん、届かないと思い始めた頃から、自分で喋るのをやめたのかもしれませんね。演劇をやっていない友達と離れていった時期があって。価値観の違いを意識しちゃったりして。でも演劇やってる人とはスムーズに話せたり。
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- とても良く分かりますよ。
- 佐藤
- 分かります?そんな事ばっかり思ってるんですよ。そして今のところ、私にとっては歌うことがその壁を突破できる手段みたいです。
性格ってなんだろう
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- ご自分の性格で、良いところと悪いところは?
- 佐藤
- 良いところは、度胸があること。
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- 度胸?
- 佐藤
- ある程度の範囲、で。ブロードウェイやウエストエンドに飛び出して行ったりは出来ないけど、京都で、自分の人生を生きていく度胸はあります。
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- 素晴らしい。悪い面は?
- 佐藤
- 後先を考えないところがあります。あと、言わなきゃいけない事を飲み込むとか。でもギリギリまできてバーン、って爆発してしまう。我慢の結果、最悪のタイミングで。
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- FullHouseで言う、DJですね。
- 佐藤
- DJですか。ステファニーじゃない?DJはいい子のイメージですけど。
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- いい子で、でも人に言えない辛い部分を抱えていて、そこから自由になりたい。でもそういう訳にはいかないからキミーに憧れたりするんですよ。そして、ジェシーすら困らせるレベルの暴走をしてしまう。
- 佐藤
- あー・・・自分はステファニーのイメージでしたよ。外に出している自分はDJなのかな。でも本当は、ミシェルのように可愛がられていたい、という本心があると思う。
最近興味のある領域を教えてください
- 佐藤
- パントマイムに興味があります。身体を使った表現の幅を広げたいと思ってます。日常の動きとかでも、私、雑なんですよ。もっと身体の動きに気を付けたいですね。それと、青春スポ根アニメを最近よく観てます。今は「ハイキュー!」その前は「弱虫ペダル」「ちはやふる」「響け!ユーフォニアム」。私、全くアニメ知らなかったんですけど、観はじめると結構面白くて。
公演が終わって、どんな気持ち?
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- 佐藤さんは、どんな演技をしたときに達成感がありますか?
- 佐藤
- 自分で決めてたことじゃない事が、狙ってないのにハマった時。
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- ああ、その時、新しい発見をしたとき、ですね。
- 佐藤
- そう、それを舞台上で。でもこれ、ちょっと、達成感ではないかも。
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- 今まで気付かなかった事に、新鮮な衝撃がある、みたいな感じですね。温故知新じゃないですけど。役者って、毎回そういう発見がありそうですね。
- 佐藤
- 達成感じゃないのかな・・・
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- 私だったら、どうかな。公演が全部終わった時は達成感がありますよね。
- 佐藤
- 私は、あんまり。公演が終わっても、「もっと出来たな」「次が始まる」みたいな気持ちになってしまって。打ち上げとかで昇華したらいいんだけど。変かな。
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- 終わりのない仕事なのかもしれませんね。
- 佐藤
- 去年、劇団の公演を5年振りにやったんですよ。その千穐楽が終わった瞬間は達成感あったけど、でもそれはプロデューサーとしての感慨なのかな。
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- 損な性分ですね。私もこのサイト、一切達成感ないですよ。
- 佐藤
- 無いんですか。かなり長く続けてますよね。
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- もう14年になって、500人以上の方にインタビューしてますけど何にも思わないですからね。
- 佐藤
- ゴールを決めている人は違うのかもしれませんね。達成感か・・・。
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- ちょっと我々には難しかったかもしれませんね。
初期衝動
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- いつか、どんな演技が出来るようになりたいですか?
- 佐藤
- 21歳の時に、ロンドンで「レ・ミゼラブル」を初めて見たんです。そのとき、最初の女性のソロを聞いた時、歌詞の意味もわからないのに、涙がぶわーって出て。
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- 衝撃を受けたんですね。
- 佐藤
- 今でもその感覚を覚えています。それがそのまま、自分の初期衝動になっているんです。その瞬間わたしは、その世界に取り込まれてしまったというか・・・あんな歌、聞いたこと無い。私は、人生が変わりました。他のひとの人生を変えたいとは思わないですけど、あんな歌が歌えるようになりたいです。
質問 藤原 美保さんから 佐藤 都輝子さんへ
ありがとう
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- 劇団とっても便利の魅力を教えてください。
- 佐藤
- 日本語で、オリジナルのミュージカルであること。あとはストーリーの不条理さ。一般にミュージカルというと、華やかで前向きなストーリーを想像される方が多いと思うのですが、本場ロンドンのミュージカルは、もっと自由で、取り上げる題材も多種多様です。便利ミュージカルもその影響を直接受けていて、人間や社会の不条理な部分を浮き彫りにするストーリーが多い。だから初めて観る方には奇妙な感触もあるかもしれないですが、このオリジナリティには重きを置いています。作曲・脚本・演出の大野が生み出す世界観と、それを実現する私たち劇団員と、外部から参加してくれるキャストやスタッフで、世界にたったひとつのミュージカルを作り上げる。これ以上に面白いことを、私はまだ他に見つけられません。私が入団した頃とは、劇団の様子もずいぶん変わりましたが、今だからこそ、今の私たちだからこそ、便利ミュージカルがお客様に届く、そんな気がしています。ダンスも歌も、超一級品とはいかないけれど、自分達のオリジナリティを曲げない事は尊い事だと思っています。
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- ありがとうございます。次回は是非ともまいります。楽しみです。さて、今日の取材はそろそろ終わりなんですが、何かお話になっておきたいことなどはありますでしょうか。
- 佐藤
- ニットキャップシアターの人たちにとても感謝しています。劇団の活動だけでは、関西の小劇場と広く関わりを持つことはなかったんですけど、ニットと関わってから、どんどん広がっていっていて。ピルドレンの池川君もそうだし、今日のインタビューもそうです。自分の演技やステージを広げていくきっかけをくれました。感謝しています。そしてもちろん、私の所属する劇団とっても便利にもとても感謝していて。私が抱えてるややこしさみたいなものも全部わかった上で、10年以上も一緒にやってきた仲間がいるということは、すごい事だなと思っています。感謝してます。そのことだけは言わなきゃと思っていました。
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- 今回は、ありがとうございました。最後の質問です。今後、どんな感じで攻めて行かれますか?
- 佐藤
- 京都で好きなことをやっていく。ですね。
いろはノート「き」
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- 今日はですね、お話を伺いとお礼にプレゼントを持って参りました。大したものではありませんがよろしければどうぞ。
- 佐藤
- ありがとうございます。(開ける)おおっ。ノートですか。
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- ノートですね。いろはにほへとの、すべての音をテーマにした表紙のノートのシリーズなんですよ。それは「き」ですね。お名前の一部に合わせました。
- 佐藤
- 普段ね、書くんですよ。なんでも。だからノート助かります。
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- 良かったです。