カストリ社第三号解散公演「花田一郎の述懐」
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- 今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。最近吉本さんはどんな感じでしょうか。
- 吉本
- 最近は、次回公演の稽古期間の真っ最中です。
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- カストリ社第三号解散公演「花田一郎の述懐」ですね。本番3週間前を切りましたが、どんな公演になりそうですか。
- 吉本
- まだ作品を作っている最中で、ちょっとまだ完成形が見えていない状態ですね。セリフがまだ入っていなくて、これから詰めていく感じです。
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- 今回は「フラッシュフィクション」という、10秒〜3分程度の短い作品を次々に見せていく形式の公演ですね。つまり、一人がたくさんの役柄を次々に演じるという事になるのでしょうか。
- 吉本
- そうですね、私もヤンキーっぽい役とかを演じます。何か、性格が強めな人が多いかな。
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- ご自身としては辛い?キツイ性格を演じるのは。
- 吉本
- いや、やりやすいです。もしかしたら自分は性格強くなりたいのかなと思ってます。
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- 本当は強くなりたいと思っている?
- 吉本
- 自分は本当はこう思っていたんだ、という意外な発見をすると、実は楽しいんですよ。素直に受け容れるようにしています。
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- このセリフを言ってしまっている、その気持ちが分かってしまう。
- 吉本
- 役柄の性格に、私が一歩寄り添うけど役の方も私に一歩近づいて欲しいと思うんですよね。私がどうしても、ここは弱く言ってしまいそうだと思う時、役の方が私を通して得た価値観で演じたり。お互い一歩、歩み寄ろうという作り方を私はしています。
匿名劇壇
2011年5月、近畿大学の学生らで結成。旗揚げ公演「HYBRID ITEM」を上演。その後、大阪を中心に9名で活動中。メタフィクションを得意とする。作風はコメディでもコントでもなく、ジョーク。いつでも「なんちゃって」と言える低体温演劇を作る劇団である。2013年、space×drama2013にて優秀劇団に選出。(公式サイトより)
カストリ社第三号解散公演「花田一郎の述懐」
作/福谷圭祐(匿名劇壇)・坂本アンディ(がっかりアバター)・演出/福谷圭祐(匿名劇壇)・坂本アンディ(がっかりアバター)。公演時期:2014/11/7〜9。会場:SPACE9(スペースナイン) 阿倍野ハルカスウイング館9階。
アバターズとの距離
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- 今回はがっかりアバター との合同公演ですね。どんな公演になりそうですか。
- 吉本
- 別の劇団と合同公演をするのは初めてなので、実は今日がっかりアバターの役者の方が稽古場にいらしたんですけど全然雰囲気も違いますし、どうなるか本当に分からないです。ただ、公演自体はこれまでとがらりと変わるんじゃないかなと思います。
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- アバターズがいますからね。
- 吉本
- 迫力が本当に凄くて、ウワッと来るものがあるんですよね。
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- 混乱している?
- 吉本
- いや、混乱しているのは私だけかもしれないんですけど。今日稽古をして、相手にどうアプローチしていけばいいのか戸惑いました。やりにくいという訳ではけして無いんですけど。
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- そもそも歩み寄ったりするべきなのか、みたいなのもありますね。
- 吉本
- (笑う)程よく歩み寄って、程よく離れつつみたいなのがいいのかもしれませんね。
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- 意気込みを教えて下さい。
- 吉本
- 私、フラッシュフィクション公演に参加するのが初めてなんです。作品の間の着替えと転換の連続を客席から見ていて、役者は大変だなと思っていて。でもだからこそやりたいと思っていて。そこに参加出来るというのが凄く嬉しいです。あの大変さに私も加われるのが嬉しいんです。
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- そう、私も「自白剤を飲み過ぎて」のDVDを拝見したんですが、あれは役者は転換が大変でしょうね。
- 吉本
- でもそれがカッコイイんですよ。見ていて気持ちいい場転。劇団員ですけど、そういう所も匿名劇壇の好きな部分です。
がっかりアバター
結成2011年6月。主催の何とも言えない初期衝動からほぼ冗談のように結束。2011年6月vol.1『岡本太郎によろしく』2012年11月vol.2『啓蒙の果て、船降りる』(ウイングカップ2012受賞)2013年6月vol.3『俺ライドオン天使』(公式サイトより)
これからも必要とされるように
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- 吉本さんが芝居を始めたのはどんな経緯があったんでしょうか。
- 吉本
- 元々声の仕事がしたくて、ナレーションの専門学校に行こうと思っていたんですが親に反対されて。近畿大学の舞台芸術専攻を受けたら受かったんです。じゃあ、ここから芝居をする生活が始まるんだなとふわーと入っていったんです。だから、最初から「芝居するぞ」みたいな感じでは始まってないんですよね。
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- 今はどうですか?芝居をするスタンス?
- 吉本
- 今でも、私は一生これから芝居をやっていくぞと決めた訳じゃなくて。縁と運で、福谷さんに声を掛けて頂いて。だから続けている、というのが大きいです。
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- なるほど。
- 吉本
- 私は匿名劇壇が好きなので、これからも必要とされるように面白くあり続けたいです。面白く思われなかったら終わりなので。飽きられないように頑張ろうと思っています。
旗揚げ公演「HYBRID ITEM」に立ち会う
- 吉本
- 匿名劇壇の芝居を見たのは「HYBRID ITEM」でした。それまで、授業の一環として何本か舞台は見たんですが、「こういうものか」ぐらいしか思えなくって。でも「HYBRID ITEM」は凄く面白くて、何回でも見たいぐらい面白かったんです。衝撃的で。
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- それまで見てきた中で一番面白かった?
- 吉本
- うーん、お金の掛かっている舞台は、やっぱり凄いなと思う事はあるんですけど。面白さの種類が違う感じかな。でも、総合的には一二を争う感じでした。
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- 「HYBRID ITEM」、私は拝見していないんですが、何が吉本さんの心を押したんでしょうね。
- 吉本
- 福谷さんの戯曲は言葉が重要だと思うんです。それを正確に伝えつつ、同世代の心を正確に突いてくる。言葉の選び方も、役者さんの言い方も、すごく新鮮に感じたんです。
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- 今の時代の言葉であり、そしてもちろんリアルな会話演技に共感を感じた。
- 吉本
- 演劇ってシェイクスピアのようなコテコテの、普段の生活ではないセリフだと思ってたんです。でも、日常生活で起こっている会話だった、それがセリフであることを新鮮に感じたんです。
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- 現代のアクチュアルな言葉で、セリフの実感を与えられるのが匿名劇壇の強みなのかな。観客のメディアリテラシーを信用している。
- 吉本
- そうだと思います。こんな事やっていいのかなというシーンもあるのに、それが分かるし面白いんです。
匿名劇壇 旗揚げ公演「HYBRID ITEM」
公演時期:2011年5月。会場:近畿大学アート館。
難しいセリフの話
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- LINX'Sでの匿名劇壇の作品「ハイパーフィクション」を見ました。面白かったです。まさにメタフィクション作品でしたね。元劇団員達が関係性の迷路に落ちてしまうお話。
- 吉本
- ありがとうございます。
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- どんな事が大変でしたか。
- 吉本
- 松原さんとの掛け合いのシーンが難しくて難しくて。会話をしつつ、でもただの会話じゃなくて、やっぱり見世物なので、本心でセリフを言うんですけどここは聞かせる、みたいな。ここは相手のセリフを聞いて。会話するって本当に難しいですよね。
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- 会話劇、難しいですよね。
- 吉本
- 相手のセリフが聞けていないとか、自分のタイミングでセリフが言えなくて気持ち悪くなっちゃったりとか。
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- 普通の会話でありながらそれが面白いというのは難しいですよね。多分、吉本さんにしか出来ない会話劇があるんでしょうね、きっと。
先生と私
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- 吉本さんは確か、DRY BONESという劇団に入ってたんですよね。
- 吉本
- はい。今は辞めています。でも、入って良かったなと思っています。主宰の竹内銃一郎先生の仰っている事が難しいけど面白かったんですよ。最初は簡単そうな、自分でもやれそうなのに、突っ込まれて聞かれると自分があまり考えていなかった事に気付く。稽古場はその連続でした。
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- 突っ込まれると、考えていない事に気付かされると。
- 吉本
- 考えていっても、「つまらない」と切り捨てられてしまう。同じ事をやったら駄目だし。最後には先生に演技を説明されて演技を付けられる。それが役者として最悪、みたいな。稽古というより、先生との戦いみたいなところがあって、みんな疲れてました。
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- なるほど。
- 吉本
- それでも楽しかったんです。先生の発想とか説明とか言葉選びとか演出が面白いんですよ。自分が考えてきた事はなんだったんだろうと。経験を元に自分で演技プランを考えて、先生に面白いと言わせてやるみたいな戦いが。
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- 叩かれてもその言葉を面白いと言い切れるのは凄いな。
- 吉本
- いや、近畿大学の先生はそういう方が多くて。腹立つな!くそ!と思っても言ってる事は正しいし、個々の抱く色がやっぱり面白いなと。いつか絶対面白いと思われたくて、辞めるまでずっと挑戦してましたね。
素直になってみる
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- 吉本さんの、役者としての最近のテーマは何ですか。
- 吉本
- 素直にやろうと思うようになりましたね。一周回って。何も分からなかった頃って、自分の感じたそれをそのままやってしまうじゃないですか。今はそこに戻ってきている気がします。
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- 普通にやる。感じたままに。
- 吉本
- 直感的に感じたままやると演出家に指摘されるんですけどね。それに頼っている部分はあるんですけど。
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- あの濃い面々の中で吉本さんが放つ異彩がどうなるのか期待ですね。
- 吉本
- そうなんですよ!今でも不安です。どういう立ち位置で行ったらいいんだろうと今でも不安です。
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- 福谷さんは一体、どういう事を考えて吉本さんに声を掛けたんでしょうね。
- 吉本
- そうなんです。
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- そこも含めて楽しみにしております。
質問 早川 康介さんから 吉本 藍子さんへ
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- 前回インタビューさせて頂きました、劇団ガバメンツの早川康介さんから質問です。「僕の事をどう思いますか?」
- 吉本
- えっ。
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- この方は劇団ガバメンツという大阪のコメディ劇団で、今年の夏に青年座で脚本・演出を任された方ですね。
- 吉本
- すみません、知らなかった方なので・・・
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- いいですよ。
- 吉本
- コメディって演劇の中で一番難しいと思っているので、そこで評価されているって凄すぎてちょっと言葉が出ないです。困った。存在が大きすぎて
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- 「困った」でいいですか。では次の質問。「こんな質問をしてしまう僕の事をどう思いますか?」
- 吉本
- ええ!?上から目線なんですけど、頭の良い方だなと思います。ちょっと困るような質問をしてくるのが、何か仕掛けてくる感じがして。
私の声、もっと・・・
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 吉本
- 声を褒めて頂ける事が多いので(自分で思った事はないんですけど)、それを武器に出来るように頑張りたいですね。東さんとか松原さんってダンスが凄くて、自分には出来ない事は何だろうって。だから今、声楽のレッスンに通ってます。
楽譜クリップ
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
- 吉本
- えっ。
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- あ、そういうコーナーがあるんです。つまらないものですが。
- 吉本
- ありがとうございます。(開ける)あ!・・・もうめちゃくちゃありがたいです。
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- 楽器を演奏されると伺ったので。
- 吉本
- いま声楽やってるんですけど、楽譜がめくれちゃうんですよ。
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- 良かった。ぴったりだったんですね。でも明後日が誕生日だと知ってたらもっと良いもの買ってましたよ。それ550円だから・・・。
- 吉本
- いえ、もう充分です。ありがとうございます!
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- ちなみに吉本さんは、クラリネットも吹けるんですよね。
- 吉本
- そうなんです。ニシノさんから「自分から福谷さんに推してみたら」と言って下さったんですけど、ブランクがあるので・・・もうちょっと練習してから切り出そうと思います!