悪い芝居vol.16『スーパーふぃクション』
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- この度は取材をさせていただいて、誠にありがとうございます。悪い芝居の畑中さんにお話を伺えます。今日はどうぞ、よろしくお願い致します。
- 畑中
- こちらこそ、よろしくお願いします。
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- 畑中さんは最近、どんな感じでしょうか。
- 畑中
- 「スーパーふぃクション」の稽古が7月の終わり頃に始まりまして。8月12日に全員揃って、今はガッツリ稽古をしています。
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- 楽しみです!どんな作品になりそうでしょうか。
- 畑中
- 今回のテーマとして、「倫理VS本能」というのを掲げています。
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- それは・・・本能が勝ちそうですね。
- 畑中
- どうでしょうか。でも、お話自体はすごく分かりやすいんですよ。単純に言うとONE PIECEみたいな。
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- 意外な感じがします。
- 畑中
- チラシにも書いてあるのですが、理解されない男「冠虚(カンムリウツロ)」と誤解しかされない女「朝焼澱美(アサヤケヨドミ)」のお話です。すごく単純なストーリーなんです。でも、やってる側としては全然どうなっているのか分からないんですね。登場人物の誰にも感情移入出来ないんですよ。
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- おお・・・
- 畑中
- 意味わかんない、でも見ちゃう、そんな作品になりそうです。それから、実は楽器を演奏して歌も歌います。悪い芝居はライブ活動もしているのですが、今までの音楽活動と演劇作品を凝縮したような作品になると思います。
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- 畑中さんはトランペットを吹かれますよね。
- 畑中
- 私はちょろっとだけですけど。今回出演されるSun!!さんもキーボードを弾かはるんですよ。この前スタジオで弾いてはって、これだけ弾ければ楽しいんだろうなってぐらい上手なんです。
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- 芸達者ですね、Sun!!さんは。
- 畑中
- ダンスも歌も凄いし教えられるし、マルチな人って感じですね。
悪い芝居
2004年12月24日、路上パフォーマンスで旗揚げ。京都を拠点にしながら、東京・大阪などでも活動する劇団。メンバーは12名。ぼんやりとした鬱憤から始まる発想を刺激的に勢いよく噴出し、劇世界と現実世界の距離を自在に操作する作風が特徴。「現在でしか、自分たちでしか、この場所でしか表現できないこと」を芯にすえ、中毒性の高い作品を発表し続けている。2009年より、パワープッシュカンパニーとして京都の劇場ARTCOMPLEX1928から2011年まで3年間の支援を受ける。そのパワープッシュカンパニーとしての最初の作品「嘘ツキ、号泣」が第17回OMS戯曲賞佳作を受賞。各メンバーの外部活動や、2011年は、劇団事務所である築80年の京町屋で1ヶ月半26ステージの家屋公演「団欒シューハーリー」を敢行するなど、劇場以外でのパフォーマンスも精力的に行っている。誤解されやすい団体名の由来は、『悪いけど、芝居させてください。の略』と、とても謙遜している。(公式サイトより)
悪い芝居vol.16『スーパーふぃクション』
公演時期:2014/9/11~16(大阪公演)、2014/10/21~26(東京公演)。会場:HEP HALL(大阪公演)、赤坂 RED THEATER(東京公演)。
不条理が服を着て歩いている
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- 「登場人物の誰にも共感出来ない!」っていいですね。人間は、目の前に何かあればそれが人だろうと動物だろうと物体だろうと感情移入出来る能力を持っていると思うんですけど、それは重力とか質量保存とか精神とかの絶対の法則やシステムに根ざして生きている以上、好むと好まざるに関わらずずっと動いている筈で。それが通用しないジョーカー的な存在が出て来ると、時として開放感を覚えるんだと思うんです。多分、笑ったりする。泣いたりもする。
- 畑中
- ふんふん。
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- そんなキャラクターだらけの作品というのはかなり調子が狂いそうで、愉快そうですね。
- 畑中
- そうですね。共感の話で言うなら、例えば目の前の人がコップの水を飲むのを見て、(ああ喉が乾いているんだな)と自然に分かるという事だと思うんですけど。でも次の行動が、(えっなんでそうしたの!?)という感じです。自分の感覚に変換出来ない、でも、だからこそ見ていられるのかな。
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- なるほど。コップの水にホットコーヒーを混ぜ始めたら困りますよね。そんな不条理さがある?
- 畑中
- でもその人物にしてみればちゃんと理由があるんです。全くの不条理でやってる訳ではない。役に感情移入出来ないけれど、お客さんもその場に参加しているような感覚になるみたいです。見ている人の話によると。それは冒頭の演出のせいもあってか。
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- 悪い芝居の冒頭のシーン!毎回驚きますよね。今回も楽しみです。
- 畑中
- これは本当にお楽しみなんです。舞台を見た瞬間、これは何かあるぞと思ってもらえるんじゃないかと思うんです。
倫理VS本能
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- 圧倒的虚業。非日常を社会にぶち込む所業、という言葉がチラシにありました。本来、劇場は舞台と客席の二つの集団で構成されています。舞台側が(稽古によって共有された)歴史をもって、可能性を客席側に投げかける構造がある。その時客席側は未読の領域をワクワクしながら切り拓いて進んでいる訳ですが、・・・そのオープニング、そんなに驚きというなら、いきなり奇想天外で、でも説得力のある風景が出てきそうですね。
- 畑中
- おお、そうなのかな。でも、テーマとして掲げられている「倫理VS本能」。イタズラ心ってありますよね。この静かな喫茶店でいきなり大声で歌い出したらどうなるのかな、とか。何か、目の前の人の頭をぶっ叩いたらどうなるかなとか、学校や会社に向かうのとは反対の電車に乗ってしまったら、とか。それが本能だと思うんですけど、そこを倫理で押さえて社会になじんでいる。でも、彼らは本能に従っている集団なんですね。虚業をぶちこもうと、本能に従って面白い事をしたい、それだけしかない、という感じなんです。まずは、どんな人達が出てくるか楽しみにしていただけたら。
進野さんの稽古場マンガ
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- ちなみに。進野さんの稽古場マンガが面白いですよね。似顔絵としても似てるし。山崎さんとか。
- 畑中
- 新メンバーの渡邊りょうさんも出てますね。あの決め顔、よくするんですよ。劇団猫のしゃもりも出てます。
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- そう、毎回1P目の1コマ目に出てますよね。
- 畑中
- 進ちゃんは毎日稽古場にいてくれて、稽古風景のラフスケッチをしたり色や絵を使う小道具を作ってくれたりしています。プロフィールの役職にも「絵描き」とありますしね。
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- 次が楽しみですね。今後も続けていってほしいです。
質問 高田 会計さんから 畑中 華香さんへ
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- 前回インタビューさせていただいた、京都ロマンポップの高田会計さんから質問です。「人生の修羅場を教えてください」
- 畑中
- そうですね・・・私、大学6年半行ってるんです。5年目が決まった瞬間、大変悲しかったんですが、親戚一同が「まあまあ、そんなの世の中にゴマンといるよ」と言ってくれて。しかし6年目が決まった時の正月、誰も何も言ってくれなくなってしまったんですよね。言っても23歳なんて全然何でも出来る年なのに、「もうダメだ」と思っちゃって。でも何か面白い事をしたいと。その流れで悪い芝居に入ったんです。
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- ああ。
- 畑中
- 劇団に入団が決まった時も、ものすごい喜びとともにもの凄い絶望もあって。今ではそれはいい事だったなと思っています。
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- なるほど。
- 畑中
- 何て言うんですかね。どう転ぶか分からない道に行った方が面白いと思ったんですよね。ずっと笑っていられるような道を選ぶより。だから、人生の修羅場は劇団に入団が決まった時、ですね(笑う)。
悪い芝居と出会う
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- 悪い芝居に入団した経緯を教えてください。
- 畑中
- そもそも、6回生の時に大学の演劇愛好会に入ったんです。ある時、立命館の西一風を見に行ったんですね。それがめっちゃくちゃ面白くって。
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- どんな作品でしたか。
- 畑中
- 田中次郎さんが作演された、「向こうで誰かが死んでいる話」。これが無料!?って驚いてました。後日、BOXに悪い芝居の「らぶドロッドロ人間」のチラシが落ちてて。一般の劇団、芝居だけやっている人たちのって見たことないな、じゃあ見にいこうと。当時は悪い芝居、学生2000円だったのかな。めっちゃ高いと感じたんですけど、西一風のOBの人が作ったらしいと聞いて。それは行こうとなって、今に至ります。入団を決めたのは「キョム!」ですね。ちなみに、音楽作ってる太郎くんもそうらしいです。
リード
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- さて、もう一度「スーパーふぃクション」に話を戻して。畑中さんは今回、どんな役柄でしょうか。
- 畑中
- いい焦らし役になれたらなと思います。シーンの合間合間を上手く繋いで、次の波に繋いでいく、そんな事が出来たらなと思います。
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- 素晴らしい。今回の作品において、稽古場で何が出来たら成功に繋がると思いますか?
- 畑中
- 昨日も稽古場で話された事なんですけど、ずっとテンション高く進んで行くんですよね。だからお客さんも役者側も、一度作品から気を飛ばしてしまうと戻りにくいんじゃないかと。お客さんをちゃんと離さないでおく仕掛けや、集中力が大切なのかなと思います。
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- 大変そうですね。
- 畑中
- でも今のところ、稽古場ではあっと言う間に時間が過ぎて行くんです。積み上げていけている稽古場だとは思っていて。でも、そこから一段高く、ワクワクさせ続ける。そんな事が出来たらと思います。
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- ワクワクさせ続ける為には何が必要でしょうか。
- 畑中
- 役者がワクワクし続ける事はもちろん、お客さんが見たいものを、見たいスピードで見せ続ける事かもしれません。それが出来れば、テンポが早すぎても要所要所でお客さんをつかみ続けられると思うんですよね。私は全然出来てないですけど。役者がちゃんと風景を見続ける事。
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- お客さん側に共感する、みたいな事かな。
- 畑中
- ショーみたいな感じになるんじゃないかと思ってます。期待を込めて、ですけど。
やってやろうやってやろう
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- 最近の、演技を作る上での気づきを教えてください。
- 畑中
- ずっと言われ続けてきた事でもあるんですけど・・・舞台の上では、何も考えない方がいいな、と思っています。もちろん、稽古ではそういう細かい事を作り続けるんですけど、それを本番でやると、役として生きられず、閉じてしまう。何も反応出来なくなるんですね。だから、こうしようああしようというのは稽古場で済ませておくべきだ、って。
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- 素晴らしい。意識的になるべきところは意識的になる?
- 畑中
- やれてる人は無意識にやれてるんだと思います。引き出されるように台詞を言えるように、芝居は常にリアクション、と山崎さんからずっと言われていて。自分発信の台詞や行動であっても、相手の状態をどれだけ汲み取れるかどうか。それって、「やってやろうやってやろう」という態勢じゃ絶対出来ない事なんですね。
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- 正直者の会の田中遊さんが昔言ってたんですけど、相手に呼びかける台詞、例えばAが「おーい」というのが台本にあったとして。呼びかけられたBはそれに振り向くという台本なんですけど、もしBが「呼ばれていない」と感じたら振り向かなくていいし、たとえBが振り向いたとしても、「Bの意識がこちらに向いていない」と感じたらもう一度呼びかけても良い、と。そういうのって、役者の責任で作るべき領域ですよね。実は観客としてはそこをもの凄く重要視している気がするんですよ。
- 畑中
- 山崎さんもそのような事を言っていて。台本というのはあくまで記録にしか過ぎないから、台詞に「あははは」って笑う一行があったとしても、もし笑い続けたいんだったらずっと笑い続けていてもいいんだ。エチュードで出来た事が台本になると出来なくなる、ってすごく良くある事なんですよね。
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- そうですね。
- 畑中
- だから、もうリアクションリアクションと思っていて。課題ですね。
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- その上で伺いたいのですが、畑中さんが考える魅力的な俳優とは。
- 畑中
- さっきの話の回答とかぶっちゃうと思うんですけど。「見たいもの」を出した時に、そう来てほしかった!というのと、そう来るとは思わなかった!が両方出来る人が魅力的だと思います。村上誠基さんは大好きな俳優さんの一人なのですが、相手ありきのリアクションの芝居をずっとしてて。当たり前の事をしているんですよね。具体的な何かにずっと対峙しているように見える。そういう人は強いな、と思います。
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- お客さんが期待していながら、でもびっくりするもの。新しい価値観を見せられて、さらに納得してしまうもの。
「どうしてほしい?」
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- 本番で好きな瞬間はどんな時ですか。
- 畑中
- 楽になれた時。知らん内にやれていた時ですね。カナヅチ女 の時、砂場のシーンがあったんですが、ふわふわした抽象的な空間から砂の上に行くシーンがあるんですけど、本当にそう思えた瞬間があったんです。あ、いま地面が砂になった、って。気持ち良かったですね。それは常にやれてないといけないんですけど、きっと。
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- そうですね。
- 畑中
- それと、お客さんがなってほしい状態になった時。息を飲んで欲しい場面でそうなった、と実感したときに「よっしゃ!わーい」ってなります。
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- それが分かる。変化が感じ取れる?
- 畑中
- はい、でも後付けでそう感じているだけかもしれない。ですが、無意識に楽に演技が出来ている回ほどお客さんの呼吸が分かるような・・・お客さんがどうしてほしいのかが分かるような。その精度がもっと上げられたらいいなと思います。
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- 集中出来たとき、ですね。
- 畑中
- そうですね。俳優の立場から言うと、見せたいものって役者の内部にあるというよりは外にあるんだろうなって思っています。観客が見たいものを、役者が発するんじゃなくて、役者も見る、んじゃないかなと思っていて。イメージを共有するためには外側のものをお互いが見る、みたいな・・・言語にすると哲学的で宗教的なんですけど(笑う)
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- ワクワクしながら、ね。役者がずっと一つの方向に向かっていったら、観客席全体が一つの目になって、実はその目を持つのがいま現在の時代の社会その人で、舞台がどんどん客席と離れながらも劇場ごと別の世界に飛んでいってみたいな状況になったら凄いですよね。
- 畑中
- どこの劇団のどこの役者さんでも、ずっと、安定したものを提供しようと目指していると思うんですよ。でも、残念ながら偶然にしか起こらないものもあって。たまたま良かった、みたいな。それを意識的に出来たらいいなと思います。
悪い芝居vol.13『カナヅチ女、夜泳ぐ』
公演時期:2012/06/13~20(大阪)、2012/07/10~16(東京)。会場:in→dependent theatre 2nd(大阪)、王子小劇場(東京)。
そういう場所に身を置けたら
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- いつか、こんな演技が出来るようになりたい、というのはありますか。
- 畑中
- 常に楽にやりたい、と思っています。いまだに「やろうやろう」になっているので。
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか。
- 畑中
- そうですね。まずはもっと芝居がうまくなって(笑う)、客演なんかもガンガンしたいな。東京に行きたいというのはありますね。数が多いから分散されているというのはありますけど、この間行った「マボロシ兄妹」はある種理想的な環境で、毎日誰かの役者さんが、おおっそうくるかみたいな新しい事を稽古場でされるんですよ。意識が高い人が絶対数的には多いので、そういう現場に身を置きたいとは思っています。
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- マボロシ兄妹!その話をしてませんでしたね。見たかったです。
- 畑中
- プロデュース公演でしたけど、良くまとまった作品だったと思います。青山円形劇場の閉館前にやれて良かったと思います。私は演出助手だったんですが、役者さんがずっと古典の解釈みたいに台本について意見交換していて。完全に外から稽古場をみていると、自分が役者として言われ続けている事が、一体どういう事なのか分かることがあります。
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- その場所にいたかったですね。あのチラシ凄かったですよね。
- 畑中
- そう、スタッフさん全員が役者みたいだって山崎さんが言っていて。本当にそんな感じでしたね。
絵本「うきわねこ」
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 畑中
- わあ。ありがとうございます!(開ける)わぁーあ可愛い。「うきわねこ」。絵本好きなんですよ。絵本をもらいがちで。
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- あ、そうなんですか。猫が好きそうな気がしたので。
- 畑中
- いやあ好きなんですよ。野良猫を見かけたら追いかけたりしています。
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- 猫は、ゆっくりまばたきをしてあげるのが愛情表現だそうですよ。