中村さん
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- 今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。最近、中村さんはどんな感じでしょうか。
- 中村
- 最近は、飛び道具の本番とエイチエムピー・シアターカンパニーの本番が立て続けにあったんですが、それも終わって。明日が大学の卒業式です。京都女子大学です。
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- あれ、京都造形芸術大学だと思ってました。造形の人らと一緒に見かける事が多かったからかな。
- 中村
- 教育学部です。劇団S.F.P.に入って、そこから辞めてフリーになって、この間飛び道具に入団しました。造形大の人たちとは、ルサンチカの「楽屋」に出演したのが縁で。朗くんの演出で。
劇団飛び道具「アルト−橋島編−」
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- 「アルト」、大変面白かったです。ある島に住む人達の生活が、時代とともに終わっていく様を丁寧に描かれていました。中村さんは主役でしたね。
- 中村
- ありがたいポジションで。役もらったときはびっくりしました。藤原大介さんとHauptbahnhofの「ありえないこと、ふつうのこと」で一緒に共演したことがあり、そのご縁で呼んでいただきました。
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- 藤原さんとは、育ての母親と義理の娘役でしたね。
- 中村
- なんだかあんまり違和感のない感じでしたね。藤原さんのおばあさん役が、あんまり女おんなしくはないようにさじ加減が絶妙で。私もなんだか絡みやすかったです。
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- 無理してない感じでしたね。
- 中村
- 私の方は、育ての親を相手にする演技、そこにどんな厚みを持たせられるかを気にかけてました。やっぱり最後の別れのシーンでテンションの掛け方が強くなるのかもしれないと思って、そこは凄く考えました。
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- 詳しく聞かせてください。
- 中村
- ト書きに一行、娘が義理の母に抱きつく、とあって。一歩引いて観ると「あるよね、こういうシーン」って思われるかもしれない。でも、生身である二人の関係性が離れるという、そういう瞬間を丁寧にしたいと思っていました。千秋楽にいらしてくださったんでしたっけ。
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- はい。泣いてましたね。
- 中村
- そうなんです。そういうシーンで涙を流すってすごく記号的になってしまうじゃないですか。だからあんまりやりたくは無かったんですが、結果出てしまったんですね。客席の温度も高かったし、役者さんも全員ハマっていたような気がするからあそこにいけて。でも、稽古から本番に至るやり取りの中では、泣こうとかそういう話は無くて。自然に出てきた、とかいうのは嫌いなんですけど、でも千秋楽は出ちゃったなと。
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- 結果的にはね。
- 中村
- はい。
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- 泣いてしまうという事に警戒しているんですか。
- 中村
- 泣いちゃったら、なんだろう、涙という多くの情報をお客さんに渡してしまう。あとちょっと酔っ払っちゃってないか、という疑いが俳優としてはあって。どこか、気持ちに倒れかかっている自分に心地よくなっているのではないか、という心配が。その危険性があるので、そこは狙わずに行こうと思っています。
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- 涙は演技の一つの結果として出てしまうから、その確定した事実によって視線が固定されてしまうリスクがありますね。
- 中村
- その時、ちょっとウェットになってしまったかな、と思って。でもその後の藤原さん演じるおばあさんが橋が取り壊されるのを見ているシーンのとき、私の温度を引き受けた芝居をしてくださって。それを袖から見てたとき、琴線に触れる何かはあったのかもしれないな、と思えました。
- __
- なるほどね。
- 中村
- でも、恐らくですが依(酔)ってないんですよ、多分お客さんとも離れていなくて。そういった他人と何かを共有できているような感覚はさじ加減が凄く難しいけど、舞台では起こる可能性があるんじゃないかと。そんな事を思う公演でしたね。
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- 私がいざそれを語ろうとすると余計な事になりそうです。
- 中村
- いえいえ、色々伺えたらと思います。
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- いや、本当に、言葉で飾ろうとしたり分析しようとしても無駄だと思う。その時にしか存在出来ない価値がなんじゃないかと思うんですよ。役者二人とも泣いてしまうような、あり得べくもない瞬間だった。
- 中村
- 今後俳優をやる上で、あれを追いかけるじゃないですけど、でも支えになる経験になったと思います。大事にしたいと思います。
劇団飛び道具「アルト-橋島篇-」
公演時期:2016/3/3~6。会場:スペース・イサン。
掘り下げる
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- 中村さんは京都の22歳を代表する役者だと思っています。
- 中村
- えぇっ、ありがとうございます。
- __
- 「京都」の、役者という感じね。ひと捻り加えるのが好きで、既存の価値観に対して牙を剥くみたいな。まあ、それは勝手に私がそう思っているだけの偏見なんですけど。
- 中村
- なるほど、ありがとうございます。
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- 中村さんの場合はさらに捻って、行き過ぎた存在感ではないというところが新時代みたいな。だって就職するし、飛び道具に入るし。
- 中村
- 飛び道具に入団するという報告をさせてもらった時、周りの方にすごくありがたい言葉ばかりを頂いて。
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- 飛び道具という劇団が素晴らしいのは、きっと調和の力なんですよ。そこに中村さんが入るのは、単純にとても似合っているし、楽しみです。
- 中村
- なんか、さっき言って下さったように、あんまりこだわりは無いというか。演劇は好きなんですけど、所詮演劇、されど演劇、ぐらいの気持ちでいた方がいいのかな、と。この間飛び道具の先輩達と飲んだ時に、考えてからやるんじゃなくてやってから考えろって言われたんです。自分が何故このタイミングで、この言葉をこの音程で、この間で、この目線でやったのかを、出来るのであればしっかり考えて考えて考え詰めたら、自分の人生の根底とか生い立ちにまで掘り下げられるから。そこまで行った芝居はなかなか簡単には否定されない。そこで否定されたら、その人とは相容れないんだなって諦めがつくから、と。
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- ・・・。
- 中村
- 私は、誰に対してもあまり否定はしたくない。まずは受け容れてみようというのは、あります。
諦観のこころ
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- 受け容れてみようとする?
- 中村
- そうですね、分かるのは無理だと思うんですけど。
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- 受け容れる・・・。それがキーワードになって10年ぐらい経っていますが、日本は多文化共生社会になろうとしてなれていないじゃないですか。
- 中村
- はい、はい。
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- なりそうもないじゃないですか。
- 中村
- (笑う)そうですね。
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- お互いに受け容れ合ってうまくやっていけるかというとそうでもなく、どこかでショートして、こじれている。いつものこの流れが終わったら、反動で、たぶん次は「論理的であろうとする」が流行るんじゃないかなあ。これインタビューになってないですね。
- 中村
- 反動はありそうですね。ただ、どこかでやっぱり諦観の姿勢を持たないと保たないんじゃないかなと思うんです。実は十代の頃、割りとトゲトゲとした考えを周囲に対して持っていたんです。それが、いつかの時に、言ってもしょうがないんだな、と諦めた瞬間があって。人間って面白いな、くらいの適当さで物事を考えようと出来るようになりました。
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- なるほどね。
- 中村
- まあ、今後とも、ゆるっと楽しんでいきたいなと思っています。起きたことと、出会った人と大事にして。
就職するとどうなるか
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- エイチエムピー・シアターカンパニー の「静止する身体」 も良かったです。あれは、ご自分で書かれたんでしたっけ。
- 中村
- そうですね。自分で書くのは稀有な経験で、ありがたいというか。
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- あのテキストは本当の事なんですか?
- 中村
- 指示としては、どこかふわついたフィクションの方にゆるやかに行って欲しいという指示でした。私の書いたテキストについては、全くのウソです。
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- あ、そうなんですね。電車の中で演出家が話しかけてくるというのは。
- 中村
- 台本を読んでた、までが本当です。
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- 内定を蹴ったのは?
- 中村
- 願望です。就職します!
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- あ、どうしよう。その辺を記事に書くべきか書かざるべきか・・・。
- 中村
- いや、就職したくないという訳ではなくて。そのあたりもものすごく考えたんですけど、どちらかと言うと、演劇を続けるために就職しようという気持ちがあって。色んな人がいると思うんですよ。一回社会に出ないといいものは作れないと言う人もいれば、就職しようがしまいが関係ないって言う人もいる、みたいな。そういう話もたくさんの人としたんですよ。
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- 中村さんは、まずは就職すると。
- 中村
- そうですね、まずは社会に出て頭を打って、公演のチケット代金3000円が、社会の中でどれだけの重さを持っているのか感じた上で演劇に戻るのは、私にとっては良いんじゃないかと思ったんです。まあ、目先の公演に飛びつきたいという気持ちはありましたけどね。
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- 入社は来月から、ですか。
- 中村
- 3月22日から研修が始まります。
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- 職種は?
- 中村
- ホテルなんです。お客さんと直接触れるような仕事も良いかも、と思っています。まだ係は決まってないんですけど。
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- おおっ!私、昔京都駅前のホテルでバイトしてましたよ。
- 中村
- そうなんですね。結構、演劇の人でホテルで働いている人多いですよね。
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- 多いですね。THE ROB CARLTON もまさに。
- 中村
- そうですよね!
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- ボブマーサムさん曰く、ホテルは非日常の空間ゆえ、非常に演劇的である、と。私は、中村さんは「お客様の陰になって支える」、色んな対応が出来るタイプのホテリエになってほしいです。これは別に中村さんの雰囲気から判断している訳じゃなくて、由緒あるホテルだからこそ、大きな役割をしっかりと果たしてほしい。お客さまにサービスを売りに行くんじゃなく、そっと観察を続け、困っているサインを発したお客さまに近づいて、自分が持っているサービスをご紹介するタイプの寄り添い方が理想的です。
- 中村
- 塩梅ですよね。
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- にこやかに、でも鋭くお客さんを見て。そういう地道なサービスを続けたら、見てくれる人は見てくれると思いますよ。
- 中村
- 私、面接とかでもそんな事言ってたと思います。お客さまの支えになって、何を求めているのかを察する事が出来るような。
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- あ、そうなんですね。ホテル業界は確かに演劇人いますね。ぜひ、ROB CARLTONに出て欲しいですね。
- 中村
- そう、まだ女性出演者は出た事がないんですよね。私是非出たいんです、コメディ大好きだから。笑の内閣や和田謙二に出られたと思ったらシリアス担当だったり。楽しかったですけれども。
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- なるほど。夢が広がりますね。そして、ホテルマンとしてもキャリアを積み上げて言って欲しいです。この際。めちゃくちゃ応援しています。出来る事があれば何でも言ってください。
- 中村
- ありがとうございます。とりあえず、やるからには頑張ろうと思います。就職する事に希望を持ち始めました。
エイチエムピー・シアターカンパニー
大阪を拠点に活動する劇団。「エイチエムピー」は“Hamlet Machine Project"の略。1999年にドイツの劇作家ハイナー・ミュラーの『ハムレットマシーン』を上演するための「研究会」を結成。その後、2001年から劇団として活動を始める。その実験的な舞台創作とリアリティを追及する手法が評価され、かなざわ国際演劇祭、大阪現代演劇祭〈仮設劇場〉WA、精華演劇祭、演劇計画2007「京都芸術センター舞台芸術賞」など、数多くの演劇フェスティバルに参加している。「現代美術」とも称される舞台空間と俳優の造形力に定評がある。(公式サイトより)
エイチエムピー・シアターカンパニー『静止する身体』
公演時期:2016/3/11~13。会場:アトリエ劇研。
THE ROB CARLTON
京都で活動する非秘密集団。(こりっちより)
色々な事が出来る
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- そういえば笑の内閣『超天晴!福島旅行』 で演歌を歌ってましたよね。やたら上手でした。
- 中村
- あの時は、中村個人としてのパッションはありつつ、それを押し付けるのではなくて。でもそこを嘘付いてしまったらあの役であの歌を歌う意味が無いから。高間さんの「まずは福島に行って欲しい」という意思には賛同出来たので。個人としても役としてもさじ加減を気をつけながら、でもどこか熱いものはあったと思います。
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- バランスを崩すと難しいですからね。
- 中村
- 緊張はしました。
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- いざとなれば歌えるって、いいですね。
- 中村
- やれ、となればやります。S.F.P.に入る前には大学で軽音に入ってたんです。ギターボーカルやってました。1年ぐらいしてS.F.P.を見て、バンドをゆるやかに辞めて、演劇に入りました。
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- 入学と同時に音楽を始めた?
- 中村
- そうですね。
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- それは有能なのか行き当たりばったりなのか。
- 中村
- 何がしたかったんでしょうね。楽しかったからいいんですけど。演劇の方に行っちゃったんです。
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- ギターも弾けるんですね。
- 中村
- まあまあ、軽くは。
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- 芸達者ですね!
笑の内閣
笑の内閣の特徴としてプロレス芝居というものをしています。プロレス芝居とは、その名の通り、芝居中にプロレスを挟んだ芝居です。「芝居っぽいプロレス」をするプロレス団体はあっても、プロレスをする劇団は無い点に着目し、ぜひ京都演劇界内でのプロレス芝居というジャンルを確立したパイオニアになりたいと、06年8月に西部講堂で行われた第4次笑の内閣「白いマットのジャングルに、今日も嵐が吹き荒れる(仮)」を上演しました。会場に実際にリングを組んで、大阪学院大学プロレス研究会さんに指導をしていただいたプロレスを披露し、観客からレスラーに声援拍手が沸き起こり大反響を呼びました。(公式サイトより)(公式サイトより)
KYOTO EXPERIMENT 2014 フリンジ企画 オープンエントリー作品 第19次笑の内閣 福島第一原発舞台化計画−黎明編−『超天晴!福島旅行』
公演時期:2014/10/16〜21(京都)、2014/12/4〜7(東京)。会場:アトリエ劇研(京都)、こまばアゴラ劇場(東京)。
質問 長南 洸生さんから 中村 彩乃さんへ
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- 前回インタビューさせていただいた、悪い芝居の長南さんから質問を頂いてきております。ご存じですか?
- 中村
- そうですね、これも変なご縁で、学生の自主制作映画の現場で一緒になって。お互い名前は知ってて、挨拶はしました。
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- 「曲げたくないものはなんですか?」という質問です。
- 中村
- 自分の演劇哲学をあまり持たないようにする、という演劇哲学です。
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- 持たないようにする?
- 中村
- その時々に合ったものを信用する、現場の他の役者さんの考えを知る、みたいな。
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- なるほど。笑の内閣から缶の階まで、色んなところに出られる、と。
- 中村
- 現場によって言われる事も全然違うんですけど。
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- 中村さんは白いキャンバスという、強烈な個性を持ってますね。
- 中村
- ありがたいお言葉です。どこまでそれをちゃんと、キャンバスの中に収めていけるか。プラスチックのようなものじゃなくて、ちゃんと色が乗る素材でありたいです。
頭を打つ
- __
- 演技を作る時に、どんな手応えを感じたいですか?
- 中村
- 相手役との演技がハマったと思える感覚かな。Recycle缶の階の時、相手役の七井さんと会話がなんとなくハマったときがあって、演出の久野さんもお客さんも良いと言って下さった事があったんです。何かしよう、というより、引き受ける姿勢でしっかりとした方が、私の場合は居られるのかな、と。
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- それは完全に、受容の体勢ですね。
- 中村
- ブッ込むのも好きなんですけどね。
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- ブッ込んでいってほしいし、その直後、何か受け容れている、みたいな。
- 中村
- そうですね、どんどん頭を打って行ければ。
おちょちょ(https://twitter.com/0chox2)に出ます
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- 何か告知があれば。
- 中村
- 5月に、西一風の岡本昌也君の企画に出演します。ライブの対バンの中で演劇をする枠を設けて、彼の小作品を発表するという感じです。演劇は細々とですけど、勘は鈍らないように続けて行きたいと思ってます。割と評判みたいで、色んな会場から声が掛かっているみたいなんです。
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- それは楽しみです。参ります!
春はまだ先
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- そうそう、飛び道具に入った経緯を教えて下さい。
- 中村
- ここ半年くらい、定期的に演劇を作れる場所・帰る場所というので、劇団に所属することについて色々考えていて。その矢先、飛び道具の本番中の呑み会とかで冗談っぽく「うち入る?」みたいな流れがあり、最後の打ち上げで渡辺ひろこさんが「彩乃ちゃんが良いなら、飛び道具に入ったらと思うねんけど、どう?」って。それでもうその場で「入りたいです」と答えて。藤原さんのとこに連れてってもらって「ほんまに入る?」って聞かれて、「いいんですか」「いいよ」「じゃあ」という。
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- 良かったですね。
- 中村
- 気張らずに、良いバランスで続けていきたいです。
- __
- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 中村
- 基本的にはコツコツと、出会った人を大事にして。今日言った事もいつか変わるかもしれないですが、演劇やりたいなと思ってます。
グラノーラ
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。どうぞ。
- 中村
- ありがとうございます。拝見させていただいて。
- __
- どうぞ。
- 中村
- (開ける)これは。
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- グラノーラですね。
- 中村
- あ、グラノーラめっちゃ好きなんですよ。ヨーグルトに入れて食べるのが好きなんです。明日の朝食にします。