蟻・を・殺・す
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- 今日はどうぞ、よろしくお願い致します。最近、嘉納さんはどんな感じでしょうか?
- 嘉納
- 最近は時間があるので、手作りで色んなものを作ったりしていますね。
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- なるほど。例えばどんなものを。
- 嘉納
- 虫よけとかですね。
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- 虫よけ?
- 嘉納
- 家に蟻が登ってくるようになりましてですね、最初は殺虫剤を使ってたんですが、だんだん効かなくなってきまして。では手作りで作ってみようと。調べたら薬局で売っているハッカ油というのが効くらしく、それをアルコールと混ぜて、水で薄めてスプレー容器に入れると除虫剤になると。そういうものを作ったりしていました。
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- なるほど。
- 嘉納
- それが割と効きまして。良かったですね。殺すよりは、寄せ付けないような効き目があります。
かのうとおっさん
'99年、嘉納みなこと有北雅彦により結成。独特の台詞回し、印象に残るビジュアル、笑いをベースに人の生き様を鋭く描く作風は小学生から60代まで広く支持される。'12年「関西ふたり芝居セレクション」優勝。(公式BLOGより)
スクエアvol.32 楽園ジゴク
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- 先日、スクエアの舞台「楽園ジゴク」が終わったという事で。どんな経験でしたか?
- 嘉納
- スクエアの山本さんとはちょこちょこお話したことがあって、でも他のメンバーの方は知らなくて。始めてお会いしたら40歳の方々だったんですが、私実は同い年くらいの方と現場にいた事がないんですよ。恐ろしい現場でした。
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- 恐ろしいとは。
- 嘉納
- 怒声が飛び交うという事じゃなくて、みんな一人一人レベルが高いんですよ。これがレベルの違いなのね、と。一番痩せた公演でした。
スクエアvol.32 楽園ジゴク
公演時期:2013/5/24〜26。会場:ABCホール。
この生きづらい世界で
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- かのうとおっさんの作品、とても好きです。何というか、性悪説を体現したかのような登場人物たちの放埒な姿を見ていると、人間そのものを許せるような気がするんですよね。その奥に、地獄を肯定してやるんだ、的な姿勢を感じるんです。
- 嘉納
- ありがとうございます。そういう事だと思います。
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- クズばかりが出てくる芝居だと思うんですが、書いている方からしてはいかがでしょうか?
- 嘉納
- 特にここ2・3年はそういう方向になってきている気がしますね。それまではちょっとおかしい人々を書いていたんですけど。
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- なぜそのような人物を描くようになったのでしょうか?
- 嘉納
- 生きづらい世界だと思うんですよ。ちゃんとしないといけないんですが、そうしたくないなあという気持ちがどこかにあって。立派にいようとすると、ちょっとしんどい。
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- 成長したくないというのは大変文学的なテーマだ、みたいな評論がどこかにあったような気がします。そういう気持ちが嘉納さんにはある?
- 嘉納
- 20代の頃、立派になろうと振る舞っていた時期があったんです。いい人であろうと、自らを演出しようと、例えば相談されたら「大丈夫だよ」とか答えたり。しばらくして、このままだとつまらない人間になりそうな気がして辞めてしまったんですよね。3ヶ月くらいで。立派な事を言ったりしてたらああこれクソつまんねえなと。
本音
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- 有北さんにお話を伺ったところ、彼の原動力はしょうもない人への愛情だという事が分かりました。
- 嘉納
- そう、そうですよね。ちょっとロクでもないところを見せてくれないと友達にはなれないよな、って気はしますよね。あとは銭湯でお互いの裸を見せ合わないとね。
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- かのうとおっさん作品では、登場人物は本音をモノローグで言ってくれてますよね。私達が日常生活で「思っても口に出せないこと」どころか「不謹慎すぎて意識の上にすら上げたくないような打算」を易々と代弁してくれる。非常に露悪的なパフォーマンスなんですが、それは何故かとても笑える。かのうさんは、なぜそういう人物を描きたいんでしょうか。
- 嘉納
- 台本を書く上でそういう台詞の方が映えるんですよね。立派な事を言っている台詞って、わざわざ舞台上で見なくてもいいような気がするんです。それと、人がそういう本音を言っているのを見たいんですね。「モテたい」とか「モテてる奴は全員死ねばいいのに」とか。
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- 台詞が映えるというのは何だか分かりませす。
- 嘉納
- 立派な人たちばかりが出てくる芝居が、面白いとは私には思えなくて。やっぱり喜んでもらいたいですからね。
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- 受け付けない人もいるかもしれませんね。
- 嘉納
- ああ・・・やっぱりいるんじゃないですかね。方向性を間違えたら、何か言われてしまうかもしれません。
部活選び
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- 嘉納さんがお芝居を始めたきっかけを教えてください。
- 嘉納
- 高校では陸上部に入ろうと思ってたんですが、無かったので演劇部にしました。それが最初です。
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- 演劇が陸上の代わりの選択に?
- 嘉納
- 中学時代に友達に借りたガラスの仮面と、あと5歳くらいに学童保育のお遊戯会で「セロ弾きのゴーシュ」をやったんですが私はヒバリ役で「私たちは喉から血が出ても歌うのになぜあなたは弾かないのですか」という台詞を泣きながら熱演してたらしくて。あとは、高校入学時、部活選びで迷っていた時期にウチにきた祖母のすすめですね。
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- 有北さんとの出会いは。
- 嘉納
- 大学の演劇部です。私が2回生で自主引退したときに文化祭があって、私も時間があるし、何かしたいなと。演劇部で馬のあったおっさんを誘って、文化祭で自主公演したのが最初です。それから外部公演をし始めて。卒業してからも続けています。
ウケを狙う少女
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- いままでの目標とこれからの目標を教えてください。
- 嘉納
- あまり目標とは関係ない生き方をしてきているんですが、何となく、なんか笑いが取れる人になれたらいいなと思っていました。アドリブとかだとそこそこ笑いを取れるんですが、台本とかで笑いを取れるというのはとても難しいですね。いまは、割と自由自在になりたいなあと思っています。
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- 20代の頃から、笑いを取りたかった?
- 嘉納
- 取りたかったですねー。でも、やっぱり若い女の子に笑いを取れって難しい話ですよね。いまぐらいになると周りの目線が違うし、自分のなかでも、こんな感じでいったれ、というのが分かってくるし。
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- なぜ、そのぐらいの女の子が笑えないんでしょうね。
- 嘉納
- 女の子はなるべく、おとなしく、笑われないように育てられるからかも。どちらかというと、被笑わせられ側みたいな。男の子はもっとやんちゃで、笑いを作る側としてやってきている。よっぽど台詞が面白くないと、女の子が笑いを取るのは難しいんですよ。男の人が作る漫才とかコントは見てて面白いんですけど、やはり男の人が作る男の人の面白さなんですよね。
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- それが演劇にも延長してきているわけですね。
- 嘉納
- 男性の作家・演出家さんだから、かもしれませんね。男性が考える女性の面白さは、やっぱり男目線なんですよ。上手い方もいますけど。でも、女性ならではの笑いは、例えばユニット美人さんとか、女性にしか作れない笑いだし。それでモテるという事はないと思うんですけどね。その、モテるというのを、一旦供物として犠牲にしないといけないかもしれませんね。
生きる
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- いつか、どんな演技がしたいですか?
- 嘉納
- 大河ドラマみたいな演技がしたいです。というか、大河ドラマに出たいです。制約の多い演技が。昔の女性の、型が決まっていて制約が多い演技。
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- それは何故でしょうか。
- 嘉納
- 何か面白そうだなと。「何でもやっていいよ」と言われると、自分のやりやすい演技をしてしまうというか。不自由な感じをやってみたいです。
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- その上で、笑いを取りたい?
- 嘉納
- そうですね、制約の上で取れる笑いもあるんじゃないかと思います。
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- その時代に生きた時代の女性の精神性を表現したいという訳ではない?
- 嘉納
- そういうのは私はしなくていいです(笑う)本読めば分かるし。現代になる前のつらい生き方を強いられた時代の民衆、みたいなイメージありますけど、そういう時代でもびっくりするような生き方をした人っているじゃないですか。そういう人にすごく自由を感じます。
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- 梁石日の「血と骨」とかが思い浮かびますね。その主人公は、女性と無理矢理結婚して作った家族を蔑ろに自分の為だけに全力で生きるんですけど。
- 嘉納
- そういう熱い物語がいいですね。私も「大地の子」とか「チャングムの誓い」とか好きなんですよ。パール・バックの「大地」とか、ユン・チアンの「ワイルド・スワン」とか。中国の、ちょっとスケールが違うよな、というのが好きですね。
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- パール・バックの「大地」、私も読みました。1巻の本妻がクールなんですよね。
- 嘉納
- 第二夫人と違って、愛して貰えないですしね。旦那が、愛してやろうと思ったが顔を見ると萎えたみたいな描写があって、可哀想でした。
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- この間ノーベル文学賞を受賞した莫言もいいですよ。
下心
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- 今後、どんな芝居を作りたいですか?
- 嘉納
- ちょっと悩んでいるところで。小振りの、こす狡い人間を多く書いてきたんですけど、それにもそろそろ飽きてきたので、なんかちょっとそろそろ違うのをやりたいですね。まあおっさんがどう考えているかは知んないですけど。まだ何をやりたいのかはまだ分からないですけど、やっぱり笑いがあるのがいいですね。
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- 嘉納さんのなかで眠っている可能性がノックしている感じですかね。
- 嘉納
- いや単に飽きただけだと思いますけどね。短編じゃなく、長編を書きたいです。どうかな、本音を隠して自分のいいようにするような人、それはまあ普通に誰でもするんですけど、レストランで隣に座った人たちが、明らかに嘘を付いている話し方をする時。それが透けて見えるような劇がいいですね。
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- 真意が透けて見えるような演技ですね。
- 嘉納
- 下心が見えたらいいですね。
質問 大石英史さんから 嘉納 みなこさんへ
風のように
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 嘉納
- かのうとおっさんとしては、他の都市での公演をやろうとしています。今までもイベントに呼ばれて長崎とか東京にも行ったんですが、違う都道府県にも行こうかなと。
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- それは、どんな動機が?
- 嘉納
- 誘って頂けたからですね。三重だったりとか。知らない人がいっぱいいる所に行きたいです。もちろん、大阪でも知らない人たちばかりなんですけど、いつも劇場にいらしてくれる方ばかりに甘える形で。すごく嬉しいんですが、甘えが出てくるのは良くないよな、甘えたくない、と。シビアな所がいいよな。
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- シビアなところで正当な評価が行われますからね。
- 嘉納
- そういう場所じゃないと伸びないですね。去年ぐらいから名前を知っていますよ、という方が増えてきていて。今もそんなに知られている訳じゃないですが、だったらもっと、知られていない場所でやりたいと。
おもちゃの聴診器とおもちゃのプロジェクター
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- 今日はお話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 嘉納
- あ、そんなそんな。
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- 大したものではありませんので。
- 嘉納
- ありがとうございます。(開ける)これは、プロジェクター?
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- はい。動物とか人間の内蔵が壁に投影出来ます。
- 嘉納
- これもう、ウチに帰ったら早速壁に映してみたいと思います。これは・・・?
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- 聴診器です。
- 嘉納
- へー。凄い。ありがとうございます。
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- 良かったら小道具でも。
- 嘉納
- そうですね。