がっかりアバター「あくまのとなり。」
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- 今日はどうぞ、宜しくお願いします。最近、夢子オンデマンドさんはどんな感じでしょうか。
- 夢子
- 最近は公演の稽古ばかりです。
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- がっかりアバターの次の公演、「あくまのとなり。」ですね。とても楽しみです。
- 夢子
- そうでございます。ああ、ありがた・・・や。
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- さっき乾さんに取材させていただいて分かったんですが、アノがっかりアバターが「下ネタなし」というのは若干衝撃的ですね。
- 夢子
- みんな下ネタ集団だと言ってますけど、あんま思った事はないですね。
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- 乾さんによると、がっかりアバターにおける下ネタはまあ大体お好み焼きのカツオブシ程度の存在だそうですが、いかがですか。
- 夢子
- そうですね、個人的にはネタにすら思ってなくて、伝えたいことを敢えて下ネタで包んでるんじゃないかなって。勿論楽しくてやってる部分もあると思います。
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- なるほど。今回の見所は。
- 夢子
- 全部・・・でもあんま難しいです。みんなそれぞれに見所があるので。
がっかりアバター
結成2011年6月。主催の何とも言えない初期衝動からほぼ冗談のように結束。2011年6月vol.1『岡本太郎によろしく』2012年11月vol.2『啓蒙の果て、船降りる』(ウイングカップ2012受賞)2013年6月vol.3『俺ライドオン天使』(公式サイトより)
がっかりアバター「あくまのとなり。」
公演時期:2014/5/15〜19。会場:シアトリカル應典院。
涙の落ちた谷
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- この作品、あらすじを読む限りでは自分の中にある悪意に苦しめられるというお話なのかなと思いました。夢子さんは、見た人にどう思ってもらいたいですか?
- 夢子
- 楽になってほしい。
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- ・・・。
- 夢子
- 普段生きていて、辛い事やイヤな事あるじゃないですか。今回の作品、痛いシーンが多いと思うんですけど、でも見るとスッってなる作品だと思います。アンディさんの演出、前回までとすごく変わっていて。下ネタをしない以上に、作り方自体も上手になってるというか。
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- 「元気になる」とかじゃなくて、「スッとする」「楽になる」。観客席にいる人の人格が抱えている抑圧を、舞台が代弁する事で逓減するという事なのかな。(舞台上の俳優が観客に共感するという構図が成り立つ?)
- 夢子
- 元気出すってしんどいと思うんですよ。感情を上げさせられる。無理した状態だと思うんです。
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- ええ。
- 夢子
- いや本当になんかこう、痛々しい表現が多いですけど。同じ痛々しさを持つ人がもしお客さんの中にいたとしたら、その人のツボに入ったとしたら、スッとなってくれるんじゃないかなあって。
夢子が始まった日
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- オンデマンドさんが演劇を始めた経緯を教えてください。
- 夢子
- 高校の演劇部からです。私が入った時、既に先輩は1人だけでした。私も最後には一人になっちゃったんです。大会には出ました。友達にめっちゃ無理言って裏方してもらって。
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- がっかりアバターとの出会いは。
- 夢子
- 高校卒業して専門行って、卒業しても就職出来なくてバイト転々として、職業訓練校行って、ふにゃふにゃになってて。人生で演劇が唯一褒められたんです。やろうかなと思って、でも知り合いとかいなかったので、「大阪 劇団員 募集」で検索したらいっぱい出るんですけど、どれを選んだらいいか分からなくて。mixiで探したら、だいぶ遡ったらあったんです。がっかりアバターの旗揚げ公演、小屋だけ押さえてメンバーがいないと。
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- ありえないですね。
- 夢子
- 他の劇団の募集を見たら、週何回稽古に来れるかとか公演の感想書いてとかめっちゃ敷居が高かったんですけど、がっかりアバターは「パンツ履いてたらOK」みたいに書いてて。パンツ履いてるからいけるかなと。
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- ええ。
- 夢子
- HP見たら、ウイングカップを穫った「啓蒙の果て、船降りる」 の紹介文にすっごい下品な事が書いてあって。どうせならここまでしたいなと。それで連絡取って、アンディさんに会いました。来月で1年になります。
がっかりアバター第二回公演「啓蒙の果て、船降りる」
公演時期:2012/11/10〜11。会場:ウイングフィールド。
「生きてこそ」
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- がっかりアバター、若手劇団で最も注目すべきロックバンドなんですよ。マジで。
- 夢子
- ありがたや・・・マジで。
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- 次の公演がひたすら楽しみです。さて、夢子さんが見るアバターズの内情を・・・。ご自身は坂本アンディさんとがっかりアバターにどんな思いを抱いていますか?
- 夢子
- アンディさんは色んなジャンルの音楽を聞いてて。稽古場に音楽を掛けただけで、一瞬でワアッてなるんです。そして、演劇の歴史を最初から追ってやっていってるんですよ。とんでもない人だと思います。自分の事を天才だと言うのでなんやねんて言われるんですけどホントに天才かもしれなくて、山田かまちみたいに若くして死ぬんじゃないかと。本当に心配しています。
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- 天才は早死するらしいですからね。
- 夢子
- 長生き、どうか、してほしい。
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- 「長生き、どうか、してほしい。」このままだと36歳とかで死・・・
- 夢子
- そんな事はないです。そして、一番優しい人です。人間としても尊敬しています。
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- がっかりアバターについては。
- 夢子
- きっと、私たちの事を気に食わない人もいるんですよ。味方も敵もそれ以外の人が居ても良いのかなって、だから媚びなくてもいいんじゃないかって。違う角度を持つ人達、として受け止めて貰ったらなあと思います。
質問 乾 寿々香さんから 夢子オンデマンドさんへ
花のように過激に生きる
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- 前回公演「おしゃれな炎上」 での、目玉になり果てた弟を食べて踏みつぶす演技が良かったです。あのシーンがあったから、全体の印象が引き締められたと思うんです。
- 夢子
- ありがとうございます。アンディさんが生んでくれた役を精一杯やって生きて死にたいですね。アンディさんの書いた台詞って、嘘っぽくなく心から口に出せるんです。その人物として物語の中で生きていられるんですよ。私なんてただの24・女・フリーターで、何もかもうまく行ってないのに、でもそんな役の役者でいると、すごく楽になれるんです。
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- 嘘をつきたくない。アンディさんのセリフは、自然に出せる気がする。
- 夢子
- 上演時間2時間の夢の間、生きてるという感じを得たいです。「俺ライドオン天使」の時、お客さんの感想ツイートの中に「生きるってこんなに過激だったのか」という表現があって。
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- おお・・・。
- 夢子
- 普通に生きている事が既にドラマなんだ、って思って。私、これまで出演した3作品全部で「幸せになりたい」ってセリフを喋ってるんですよ。お金とか安定した生活とかそういう意味じゃなくて。
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- 夢子さんの演じた人物は全員追い詰められた人生だったと思います。解放されたい、という事だったのかな。
- 夢子
- 全員、それぞれにエグい生き方をしていて。今回の作品は痛みとか愛とか葛藤を描いています。目を逸らさずに幸せを見つめています。ひどい事をする人物にも背景や環境や抱えている痛みがあって、その痛みや負い目がお客さんの中にもあったりしたら、どこか肩の力が抜けると思うんです。そういう所が、がっかりアバターにしかない魅力なんじゃないかと思います。
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- がっかりアバターは今まで地獄を描いてきたと思うんですよ。「誰の心の中にも地獄がある」、これは闇金ウシジマくんの評論の一つなんですけど、何故地獄絵図を見ると心が楽になるのか。もしかしたら地獄という情景に心が行く事で、抑圧から解放されるんですね。それが魅力と言えるでしょうね。
がっかりアバター「おしゃれな炎上」
公演時期:2013/12/27〜12/29。会場:ウイングフィールド。
歩いていく、歩いていこう
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- 夢子さんはいつか、どんな演技が出来るようになりたいですか?
- 夢子
- 心の強い役者になりたいです。自分の一生もままならないのに、人の一生をもうひとり分生きるなんておこがましいかもしれないんですけど・・・心を強くしたいです。
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- 次回公演「あくまのとなり。」の意気込みを教えて下さい。
- 夢子
- 今回の作品は、劇団の運営としてももっとしっかりしようと力を入れていて。作品の生み出し方も、大事に大事にやっていて。役者達も凄く大事に育てているんです。これまでは各々が役について悩んでアンディさんがそれを繋げるという感じだったんですけど、今回は全員で悩みを共有して、皆で育ててるんです。実際にディスカッションもしました。ラストは、今までのがっかりアバターになかった向こう側に初めて到達するかって感じです。それを目指しています。
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- きっと行けると思います。今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 夢子
- いま、坂本さんと松下さんが凄い頑張ってて。がっかりアバターとして次にやっていく事がどんどん決まっていっているんです。その中で、調子に乗らずに地に足を着けてやっていきたいです。役者として売れたいかどうかはともかく、劇団として売れたいです。その強みになる役者になりたいです。そして、お客さんの方に歩いていける作品を作れるようになります。
性
- 夢子
- がっかりアバターの下ネタについて、もう少しお話しておきたくて。本当に下ネタはカツオブシ程度で、下ネタを扱っている事でちょっと笑われたりされるのは何か違う気がするんです。下ネタをあざ笑うという事は、自分の性をもあざ笑う事なんじゃないか。性はネタではなくて、生きる上で欠かせない事なんですよ。
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- ええ。
- 夢子
- 生を生む為の性。その生も性を持っている。とても重要な事なんですよね。
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- 茶化したくない?
- 夢子
- したくないです。性にウソはないじゃないですか。好きな子の前で勃起したり濡れたり、そういう反応は演技出来ない部分だと思う。そこを包んでネタにしてしまう部分が、がっかりアバターにはあるのかなと思います。でも「がっかりアバター=下ネタのとこやろ」と言われると、ちゃうわ、と思います。気になってくださる部分としては必要だと思いますけど。
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- 実は私こそが、「がっかりアバター=下ネタ」で興味を持った部分もあって。でも、がっかりアバターの下ネタにとても切実なものを感じていました。あのとんでもない登場人物達が、その苛烈な生を全うする上で必要としていた性、が、放つ濃い匂い。今回はその中心部に何があるのか踏み込むという感じなのかな。
- 夢子
- あ、そう、twitterの感想で書いて下さいましたよね。切実って。嬉しかったです。
HIRAMEKI.のリング
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
- 夢子
- ありがとうございます。贈答品ですね・・・(開ける)袋の中の袋だ・・・(開ける)趣味のいい・・・これオシャレな、高い、私が一生入れないお店・・・(開ける)・・・あ、指輪ですか?私、指輪した事ないんですけど、指輪ってどこに付けるものなんですか?
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- はまる指に付ければそれでいいと思いますよ。
- 夢子
- はまる指に(笑う)hirameki。私に一番ない物や。私面白い事出来なくて、アンディさんに「(私が)決めうちするとおもんない」って言われたことがあるんですよ。乾さんはそういうところ、めっちゃ上手いんですよねえー。