努力クラブ 第14回公演「救うか殺すかしてくれ」
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。俳優の海沼未羽(かいぬまみう)さんにお話を伺います。最近、海沼さんはどんな感じでしょうか。
- 海沼
- よろしくお願いします。ちょうど一週間前ぐらいに東京からこちらに帰ってきて、しばらくはゆっくりできています。
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- 今は努力クラブの「救うか殺すかしてくれ」の稽古期間中ですね。
- 海沼
- 去年までの稽古で全体の流れが確認出来て、今は細かいチェックをしている段階です。演出がすごく細くて、例えば「台詞のニュアンスをこう変えたのを見せてみてください」、って。映像の現場ではそういうことがあまりないので面白いなと思います。
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- 台詞のニュアンスが少しずつ更新されていく事で、何か積み上がっていくものがあるのかもしれませんね。
- 海沼
- 私は、絶対こうする!というよりかは持ってきたお芝居が違うと思われたら前前変えてもらってもいいタイプなんですけど、それよりも目の前の人にちゃんと反応できるお芝居をしたい。と思ってます。
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- 反応の演技。
- 海沼
- 初出演した映画は今泉力哉監督の「街の上で」という作品で。今泉さんは本当に俳優の反応を大切にする監督で、お芝居をちゃんとやりたいなと思ったきっかけの現場でもあったのでまだわかんないことが多いですが漠然とお芝居ってそういうものなのかなぁと思ってます。
努力クラブ第14回公演 KAVC FLAG COMPANY 2020-2021 参加「救うか殺すかしてくれ」
出演= 浅野有紀 大石英史 海沼未羽 北川啓太 佐々木峻一 重実紗果 西マサト 福井菜月 御厨亮 一人の中年男性がいます。自分の人生を呪っている珍しくないタイプの中年男性です。彼は恋をして、恋をしているという状態に陥ります。また彼は恋をしてしまいました。なぜなら恋というものにまだ諦めがついていないからです。そして彼は間違いを繰り返します。そのうちきっと彼には報いが訪れることでしょう。 正しいオッサンになれる自信がない。今のところ、自分のオッサン性を上手に育めている気がしない。このままいけばよくないオッサンになってしまうだろう。嫌だ。ただ、正しいオッサンとはなにか、という疑問もある。オッサン像における正しさとは。 自分の将来を考えたときに、華やかなものは想像できなかった。まったく輝かしくない。一切の光がない。無明。唾棄すべきような未来が僕には待ち受けている。でも、それはそれでいいんじゃないか。そんな人生でしか拾えない真に迫った愉悦さや気楽さがあるのではないか、と思って、願って、そういうのを芝居にしようと思いました。 たぶん芝居はスルスル面白いものが作れるだろうけれどものすごく迷っています、人生に。 会場=神戸アートビレッジセンターKAVCホール 日時= 2021年1月22日(金)-24日(日):全5回公演 22日(金) 19:30★① 23日(土) 14:00★②/19:30★③ 24日(日)11:00/15:00 ★①終演後アフタートークゲスト:多田淳之介氏(東京デスロック/演出家) ★②終演後アフタートークゲスト:渋革まろん氏(劇評家) ★③終演後アフタートークゲスト:依田那美紀氏(『生活の批評誌』編集長) スタッフ= 作、演出:合田団地 舞台監督:長峯巧弥 舞台美術:松本謙一郎 照明:渡辺佳奈 音響プラン=森永恭代/林実菜 イラスト:きんにく デザイン:午睡舎 制作:築地静香 応援:若旦那家康(コトリ会議) 企画・製作:努力クラブ 共催:神戸アートビレッジセンター(指定管理者:公益財団法人 神戸市民文化振興財団)
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- 海沼さんは、どんな表現が好きなんですか?
- 海沼
- 分かりにくいものが好きです。わかりやすすぎると少し気持ち悪いなぁと感じてしまいます。最近、好きだったドラマの特別編が放送されてたんですがわかりやすい問題提起とその答えでいい事を言うの繰り返しで、まるで教育番組だなと思ってしまいまして。もちろんいいこと言ってましたし、お茶の間で流す意味はめっちゃあるとは思うんですけど、なんか前のドラマより人物が生きてる感じがしなくて少し寂しかったです。まだ、色んな価値観が変わっていく初期段階なんだなぁと実感してぐったりしましたが作品だけでなく見る側のアップデートこそちゃんとしていかなきゃなと思いました。
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- ドラマの登場人物がそれまでのセリフとは正反対の行動をしたら気になる?
- 海沼
- 気になるしそのことについて考えたり調べたりするのが楽しいというのがありますね。
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- 引っかかる表現って、お客さんを信頼してないとできないですよね。一話目の一番最初のシーンから最終回までずっと見てきて、人によって幅はあるけどそれぞれの解釈が積み上がってきてて、だから少し矛盾のある演技があっても推測してくれる。ついてきてくれる。
- 海沼
- 結局どんなドラマや映画や演劇でも感想は見る人の問題だと思っているから。最悪だと思えてもそれはそれで別にいい事ですし。
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- そもそもお客さんの感想を揃えるなんて無理ですもんね。
「台詞」の恥ずかしさ
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- 「救うか殺すかしてくれ」ですが、どんな事を稽古場で考えていますか?
- 海沼
- ずっと面白いなぁと思ってます。私は演劇をたくさん見るタイプではないしどちらかというと映画のほうをよく見るんですが演劇人の方々は安定感があってすごいなぁと思います。暗い文章を暗くしない力があるというか、個性とか人柄も出てるような気がして面白いです。
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- 演じる事って面白いですよね。
- 海沼
- 変ですよね。時々、セリフって何…?とか思ったりします笑 冷静になると、セリフをカメラの前で話して他人になるとか無理でしょ。と思います。時々ですけど。
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- それでも面白いと感じるときがある。
- 海沼
- お芝居を始めたときは本当に何が楽しいかわからなかったんですけど、最近はやっと楽しくなってきました。
面白いのポイント
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- 今後、どんな演技ができるようになりたいですか。
- 海沼
- こういうセリフではこういったお芝居をする。というものを忘れて、まっさらな気持ちでやりたいと思います
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- 決まりきった演技とかはありえないですもんね。
- 海沼
- あとはつまんないことはつまんないって言える俳優でありたいなと思ってます。そのぶん面白いものも面白いってちゃんと言いたいです。
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- 帳尻は合ってるけど面白くない物ってありますもんね。
- 海沼
- 自分のそういう面倒くささだけは失わないようにと思っています。
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- 演出家や映画監督が率いていく現場で動いても俳優が各部署の中心にいることは確かなので。その俳優がムードを作ったりあえて壊したりするのは大切ですね。
- 海沼
- まあでも全員で作るものですし。
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- 自分一人だけが暴走してもいけない。
- 海沼
- 暴走しても成立するならいいのかもしれませんが、俳優の気持ちよさが先行してしまうのは見る側にも伝わる気がして良くないな。と思います。感情を出すのって気持ちいいと思うんですよ、特に泣くこととか。だからこそそういう場面は自分が気持ち良くならないように丁寧に考えたいです。
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- 例えば会話劇でA役が「おい」と呼びかけたらB役が「はい」と返すシーンがあったとして、本番でそのシーンが上演される時にBは「はい」と返す蓋然性はないという事ですね。Aの「おい」に届く力が無かったたらBは無視してよい。そういう時はAがもう一度「おい」と呼びかけるしかない。
- 海沼
- そうですね。オーディションとかだと前の人と同じ演技をする人も多いんですが、私は純粋にそれは面白くないと思うのでしません。結局面白いか、面白くないか。と言う事でしか物事考えてないかもしれません。
コントロール
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- 自分の力を見せるのも、共演相手と協力するのも難しいですよね。自由と制限。
- 海沼
- 私はやっぱり漫画が好きなんです。表現の幅が広いんですよね。生身の人間がセリフを喋るとどうしても生々しい、「こんなセリフは言わんだろう」という気持ちが出てきてしまうから。漫画だったら一枚の紙が挟まるから、作者がキャラクターを通して表現したいことがスッと理解できる。構成演出、美術や衣装を先生が一人で作ってる(アシスタントもいるとして)全部に意味がある。そういう精密さが凄いなあと思うんです。
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- 文章は一次元、映画や演劇は三次元、そして漫画は二次元。二次元は空間や時系列の影響も受けにくいし有機物も扱わないのにイメージでもありますから、人の想像力を生かすには最適なメディアかもしれませんね。
- 海沼
- 逆に映像の良さとしては、「撮れちゃった」というのがあるんですよね。生身の人間だから予期していなかった偶然の絵がある。そういうところがめちゃくちゃ面白いと思うんです。漫画は大体コントロールされている。
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- メディアにはそれぞれの強みがありますね。演劇はどうだろう。
- 海沼
- 隔たりがないから、やっぱりその場所で受ける圧がありますね。毎回純粋に感動しちゃいます。空間がいいなと思います。俳優さんがすごく楽しそうだなと思います。血が通ってると感じさせてくれる演劇は素敵だなと思います。
置き去りにしたくない
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- 反応の演技について考えたんです。俳優は反応の演技を完璧に作り上げることはできないと思うんですよ、台本によって前後関係を知ってるから。リアルな反応の演技を作り込むには役柄の思想と思考を研究するしかないんですよね。なぜなら役柄の思考がむき出しになるから。そう考えていくと、泣くという反応の演技は役柄の限界で、すごく実現が難しい。そこまで追い詰めるシチュエーションはそうそう無い。少なくとも大抵の人間は涙の代わりに前に無表情になる。それでお客さんが悲しい表現だと理解できるのはそれまでの蓄積があるから。そこまでたどり着けば勝ちだと思うんですよ。いや勝ち負けはないですけど、お客さんが引っかかるポイントを作り上げられるかどうかは役者にかかっている。
- 海沼
- 分かります。セリフはできるだけ変えたくないという気持ちはもちろんあるんですが、そのセリフを言える言えないっていうのは置き去りにしたくないなと思います。なのでオーディションだとしても、言えないものは言わないし、泣けないときは泣かないです。
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- 嘘をつけないんですね。
- 海沼
- 大変ですけどね、笑
質問 北川啓太さんから海沼未羽さんへ
アイスの話
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- 最近美味しかったアイスは何ですか?
- 海沼
- まるでガトーショコラみたいな名前のねっとりしたアイスがあるんですけど。濃い訳じゃないんですけどもちもちしていてめっちゃ美味しかったです。私毎日アイス食べるんですよ。
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- 特技に「アイスの早食い」とありますが。
- 海沼
- 少林寺拳法もやってたんですけど、特技と言えるのはアイスの早食いです。5人ぐらいで集まったら必ず一番早く食べ終わってます。男性よりも早く。
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- 良いですね。
- 海沼
- 良くはないです(笑う)。でもこれで支障なく 20 年と生きてるので問題ないかなと。
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- ひとつのパーソナリティですもんね。
- 海沼
- それはしょうがないかなと。
いつか
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- 海沼さんは見られたいほうですか?
- 海沼
- まだ見られたいですね。いつか、見られたくない方に行くのかな?とも思います。でも見られないと分からないことがあると思うし。まずは見られたいです。
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- パフォーマンスや演技の起こりの時に、他人の目が意識されてるかどうかについては?というのは、前々回に取材させていただいたダンサーの帰山玲子さんは、踊りを発心するときに他者の視線が無かった、必要なかったとおっしゃっていて。つまり踊るために踊るらしいんですね。そのあたり興味深くて。視線と発心、どちらが先か?
- 海沼
- 私は視線を無意識に意識してると思います。気にしいなので。いつか何も気にせずできればな。と思います。
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- 今後はどんな感じでやって行かれますか?
- 海沼
- 1年に2、3回、めっちゃ楽しかったと思えるような現場や舞台に参加できたらこれからも生きていけるなと思います。
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- 毎週は無理として、1ヶ月に一回じゃないんですね。
- 海沼
- そうだったら最高だと思うんですけど、きっとそれは難しいと思うので。大切に思えるものが増やせていけたらいいなと思います。
レターセット
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- 今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントを持って参りました。
- 海沼
- ありがとうございます。プレゼント、なんでも嬉しい。(開ける)あ、レターセット。めっちゃ嬉しいです。ちょうど私、去年好きになった漫画家の方にファンレターを送ろうと思っていたので。めっちゃちょうどいいです。