僕のむこうの風景
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。虚構の劇団「エゴ・サーチ」 大阪公演、大変面白かったです。本当に面白くて。一番凄いと思ったのは、最後の修羅場のシーンからラストにかけての展開でした。情報量が凄くて、掛け合いの流れがまるで全員で一つの表現をしているかのような、物語演劇なのに、レビュー公演のようなあの一体感。そして清々しい、爽やかなラスト。
- 小沢
- ありがとうございます。関西での劇団公演はこれで2回目だったのですが、こんなにも喜んでくれる方が多くてびっくりしました。そうですね、清々しく終わったと思って下さったのは、もしかしたら一つには沖縄の離島でラストを迎えるというのが大きいんじゃないかと思うんです。誰もが一度は憧れを持つ場所だと思うんですよね、「南の島」。
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- 確かに、作品の最初のシーンも島でしたね。
- 小沢
- この作品の稽古が始まる前の8月後半くらいに、物語の舞台のモデルになっている鳩間島に行ったんです。
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- 沖縄の離島ですね。
- 小沢
- そこは本当に、1時間程度あれば徒歩でも一周出来てしまうくらいの小さな島で。風や光や、何か言葉にしてしまうとちっぽけに感じてしまいますけど、その通り大自然の中の島だったんですよ。
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- 小沢さんは、その島を象徴するような役柄を演じられましたね。
- 小沢
- そうですね。初演と同じく、その島に住む沖縄の妖精・キジムナーという役柄です(笑)あの島にはじめて行って、改めてもの凄くプレッシャーを感じました。もう圧倒されて。この大きな風景の中、僕はただ一つの点だった。それを前に僕には何が出来るんだろうとか思った時に、役者として出来る大きな楽しみであり、大切な役割について気付いたんです。
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- 役を演じる以外の?
- 小沢
- 自分がここで受けたエネルギーを、舞台上から生で「伝える」ことです。すごくシンプルで当たり前のことかもしれないですが、それは実は一番大切なことなんじゃないか、って。島で実際に生きている人たちからもらった、生きる力。風景が持っている力。あの島で体験した空気の味や、波の揺れを思い出すと、イメージがぱーっと開いていくんですよね。僕にはそれが見えているし、それを感じているだけで、その僕を見てくれているお客さんはそこから想像をしてくれる。きっとこれは、僕が見ているものに真実味があれば、届くはずだと。ということは、そうか、伝えるというよりは「忘れない」ことなのかもしれないですね。感動を受けた風景を忘れないこと。出会った人たちとの感触を忘れないこと。それを舞台上で想う。そうすればきっと伝わるはずだと。それが、役者としての最大の楽しみだし、それをやらなくてはいけないのかもしれない、と。
虚構の劇団
劇団。詳細はリンクを参照のこと。
虚構の劇団「エゴ・サーチ」
公演時期:2013/10/5〜20(東京)、2013/10/24〜27(大阪)。会場:あうるすぽっと(東京)、HEP HALL(大阪)。
すこしずつすこしずつ好きになっていく
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- 小沢さんが演劇を始められた経緯を教えて下さい。
- 小沢
- 僕の姉は画家なんですが、姉の友達の関係である舞台のチラシデザインをしていたんですね。僕はそれまで、映画に興味があってワークショップだったりオーディションを受けていたんです。でも中々上手くいかなくて。そこに姉が「こういうのがあるよ」と教えてくれたのが「阪神タイガーウッズ」という名前の、いまはもう無き京都の劇団のワークショップだったんです。そこの主宰である方に興味を持ってもらえて。エチュードをやったりしたんですが、今までそういう事をしたことが無かったので新鮮だったんですよね。皆で何かでっち上げたり、お話にしたり。自分以外の人物になるという事がこんなに楽しいのかと。
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- なるほど。
- 小沢
- 当時はガラスの仮面の北島マヤみたいな天才になりたかったですね。あんなに深く、そしてたくさんの他人の人生を生きる事が出来たらと。当時、自分の事が嫌いでコンプレックスをずっと抱いていたんです。少しでも現実逃避出来たらという気持ちもありました。自分とは違う人間になりたかった。それでもコンプレックスや嫌いな部分は拭いきれなくて、だから今でも基本的には、なぜ役者をやっているか、と聞かれたら、小沢道成という人間を魅力的にしていきたい、と答えると思います。
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- ご自身を魅力的にしていく?
- 小沢
- 一年に4〜5本舞台で役をやらせてもらっているんですが、色んな役の人生を味わえるんですね。舞台が一本終わると、確かに自分が何か変わっているんです。強くなったり弱くなったり、嘘をつくのが上手くなってたり下手になってたり。人とコミュニケーションを取るのが昔から下手だったんですが、役者を続けていて、少しは好きになっているんですよ。という事は小沢道成という人間が少しは魅力的になっていて、いろんな要素を吸収している。もしかしたら、悪いものを吸収しまくるかもしれないですが、それはそれで楽しみです(笑)最終的にはお爺ちゃんになった時に、いい人生だったと思いながら死んでいけたらいいかなと。
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- 初めてお会いするタイプの方です。
- 小沢
- そうなんですか。
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- 役者の生き方としては珍しいような、いや、それこそが最高の理由のような。
- 小沢
- 「人を楽しませたい」という気持ちが前提にあるんですが、突き詰めていくとそういう理由になっていきますね。
一秒ごとに発見するぐらい
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- これは自分を変えた、という作品はありますか?
- 小沢
- 沢山ありすぎて、どれを言えばいいかな。大きく自分を変えたのは、劇団に入ってからかな。京都で芝居をやっている時はどこにも所属をせずにフリーでやっていたんです。東京にでてきてから今の劇団と出会ったのですが、フリーの時とは違って、何年も一緒にお芝居をつくる仲間がいて、環境があって、もちろん今回みたいに再演をやる時もあるんです。その「再演」というのをやった時に、特に思うことなんですが、初演と比べて周りの仲間も僕も明らかに「変化」しているんです。そりゃ3年も経てば少しは成長するだろと思うのですが、そういう気付ける場所というのは今までありませんでした。今回の「エゴ・サーチ」をやっていてもそうなんですが、全てが新鮮で、あれだけ稽古も本番もやったのに発見することが面白いぐらいにでてきて。そういう気付ける環境が出来たことは、もの凄く大きな変化ですね。自分を変えれる場所、というか。
カーテンコール
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- 舞台に立っていて、どんな瞬間が好きですか?
- 小沢
- カーテンコールの時です。
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- なるほど! 昨日拝見した「エゴサーチ」のカーテンコールは、全員、何だか潔い感じがしましたが。
- 小沢
- 本当ですか。でも、そんな感じになったのは最近だと思います。それも覚悟が付いたからじゃないかな。2時間の舞台を確実に面白いものにする。そういう意思を皆で確認するところから始まるんです。舞台が終わった時に、お客さんと一緒になって作り上げた結果がカーテンコールなので。感謝を込めたあの瞬間ですね。
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- 私は初めて虚構の劇団という集団を拝見したのですが、大変強い集団力を感じました。ラストの流れるようなシーン展開は、全ての演技が整理されていて、全員で一つのセリフを喋っているぐらいの、キレイで見事な演劇だったんですよ。
- 小沢
- 嬉しいです。
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- お客さんが、笑っているんだけど同時にすすり泣いているような人もいて。
- 小沢
- 鴻上さんの作品の特長だと思うんですよ。人を救えるくらい大事な言葉をエネルギーを、鴻上さんの作品は持っていると思います。
飛ぶ
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- いつか、こういう演技が出来るようになりたい、というのはありますか。
- 小沢
- 実は未来の目標が具体的にはないんです。というよりは、今目の前にある舞台に対して、確実に面白いものを届けるんだ、という責任と覚悟を背負っていけるように努力したいと思います。
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- 今後、一緒に作品を作ってみたい方はいますか?
- 小沢
- たくさんいます!野田秀樹さんも好きだし、三谷幸喜さんも、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんも本谷有希子さんも好きだし。色んな方とまだ出会っていないので。たくさん出会っていきたいです。
質問 北尾 亘さんから 小沢 道成さんへ
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- 前回インタビューさせて頂きました方から質問を頂いてきております。東京の、Baobabというダンスユニットを主宰されている北尾亘さんからです。「ここ一年で一番恐怖を感じたのはどんな出来事ですか?」
- 小沢
- 今年1月に僕が立ち上げたEPOCH MAN〈エポックマン〉という僕が作・演出をやる企画をやったのですが、初めてゼロの状態から演劇をつくったんです。企画を構想して、台本を書いて、劇場をとって、稽古場とって、スタッフさんも役者の方達も声をかけて、宣伝をして、演出をして、とにかく演劇の仕組みを知りたくて始めたのですが、主宰という立場なだけで、この公演を絶対に成功させなきゃいけないプレッシャーが半端なくて(笑)結局はひとりでは出来ないことが多くて、たくさんの仲間に助けてもらったりもしていたのですが、パソコンのデスクトップ画面にやることのファイルを次々に置いていたので、その膨大なファイルの量を見た時には、さすがに怖かったです(笑)。
EPOCH MAN〈エポックマン〉
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- EPOCH MAN〈エポックマン〉。どんな作品を作られるのでしょうか。
- 小沢
- まだ一回しか公演をやっていないのですが、前回のは70分から80分の作品で、女性4人の芝居と、男女の二人芝居の二つの短編をくっつけた作品でした。僕自身が好きなのは、人の醜い部分だったりするんですね。女性の嫉妬心や執着心などのドロドロした部分。それが笑いになってしまいながら、心が痛くなるような。リアリティは大切につくるのですが、ひとりの役者がコロコロと役を変えたりと、基本的には生の演劇ならではのものは目指しています。自分自身が、何だかんだエンターテイメントが好きなので。
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- 面白そうですね。拝見したいです。
- 小沢
- ただの、リアルな生活を見せるようなお芝居はあまり好きじゃないんですね。視覚的にも楽しみたいし、音楽も大切にしています。ただ、まだはっきりとは、こういう作風です、こういう色です、というのは見つけていないのでこれから探していこうといろいろ挑戦していきます。
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- 彫刻で言うと、石の中から人物を取り出せていない感じ。
- 小沢
- まさにそうですね。その状態を楽しんではいるんですけど。映像も好きだし、落語も絵本も歌とかにも興味があるんですよね、最近。もしかしたら、毎回観にくる度に全く違う雰囲気の演劇になってるかもしれません(笑)とにかく今は、来年2月の公演に向けて次回作を書いています。
EPOCH MAN
虚構の劇団に所属する小沢道成が2013年より始める演劇プロジェクト。俳優として活動をしながら、劇団の自主企画公演で発表した数本の作品が好評を得る。人(特に女性の心の中をえぐり出すような作風と、繊細かつ粘り気がありながらスピード感ある演出が特徴のひとつ。問題を抱えた人物が前進しようとした時に生まれる障害や苦悩を丁寧に描きつつも、演劇ならではの手法で会場を笑いに誘う。(公式サイトより)
トリコ・A「つきのないよる」の思い出
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- トリコ・A「つきのないよる」も出演されてましたね。
- 小沢
- ありがとうございます。あの作品はまた全然役柄が違いましたね。
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- そうでしたね。悪女役の丹下さんを手球にとる小沢道成という、珍しいシーンだったなあ。
- 小沢
- 丹下ちゃん面白かったですよね。凄い好きです。山口さんの作品には、京都にいた事出演させてもらった事があって。だから今回も。それに、京都で一度共演させて頂きたかった方もいて。びっくりしました。
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- 小熊ヒデジさんもいましたしね。
- 小沢
- いやー、凄かったですよ。本当に尊敬すべき先輩ですから。小熊さんはね、目が凄いんですよ。
ぶつかっていこう
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 小沢
- ええと、攻めていこうと思います(笑う)。守りに入るタイプだったんですよ。安全な所に入りがちだったんですが、それでは次の所にいけないので。真っ向にぶつかっていかないと、何も動かないし始まらないので。攻めて行きたいなあ。
変わったシューズ
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 小沢
- え、そんな。ありがとうございます。お気遣い頂いて。
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- いえいえ。今回のプレゼントのテーマは「不思議な出会い」です。どうぞ。
- 小沢
- 何だろう。あ、この形は。(開ける)ちょっと、靴じゃないですか。
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- ただ、サイズがどうかと思うんですが。
- 小沢
- 多分、ぴったりだと思います。
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- 稽古場などで履いて頂ければと。