京都ロマンポップ さかあがりハリケーンvol.5「ミミズ50匹」
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- 今日はどうぞ、宜しくお願い申し上げます。向坂さんは、最近はいかがでしょうか?
- 向坂
- 最近は三月の京都ロマンポップのさかあがりハリケーン公演「ミミズ50匹」の稽古をやっています。
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- タイトルが心を惹きますよね。
- 向坂
- まあ下ネタですけどね。役者50人を使っておうと思って。さかあがりハリケーンでは割と大喜利的なやり方で芝居を作る事が多いのですが、今回は大勢で同時にふざけている感じですね。
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- さかあがりハリケーンではこれまでコント公演が多かったと思うんですが、今回は長編ですね。しかも笑の内閣の高間総裁が主役。私は、常々総裁の演技がすごく面白いなと思っていて。俳優としての活躍をじっくり見たいなと思っていたんですよ。
- 向坂
- そうですね。確かに、ちょっと変わった位置取りのキャラクターですね。
京都ロマンポップ さかあがりハリケーン公演「ミミズ50匹」
公演時期:2012年3月1〜3日。会場:アートコンプレックス1928。
京都ロマンポップ 本公演「幼稚園演義」
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- さて、京都ロマンポップの昨年の本公演「幼稚園演義」。大変面白かったです。歌舞伎の格好とセリフを用いながら、内容自体は幼稚園児の心情をデフォルメしたものだという形式が非常にユニークでした。後半、向坂さん演じる主人公の男の子の語りだったという事が明かされて、その仕掛けの意味が分かるという流れも良かったです。セットも映像も、とても凝っていました。
- 向坂
- 実は歌舞伎にはあまり詳しくなくて。最後まで参考資料は使わなかったんですよ。変に引きずられるよりはいいかなと思って。
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- なるほど。
- 向坂
- 元々海外公演をしようと思っているんですが、その試作第一弾ですね。エセ歌舞伎を使ったちゃちい日本っぽさを他ならぬ日本人が演じる面白さが外面にあって、内容としては、日本という国の生活を、幼稚園児を通して伝えたかったんですね。日本人って意外とこういう所があるんだと、表現したかったんです。
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- そういえば字幕もありましたしね。海外が射程にあったんですね。
- 向坂
- 脚本家が、今海外に出ているんです。日本の文化を発進しようという思いもあって、僕が演出したら・・・という。形になって良かったです。
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- もう一度観たいです。
- 向坂
- あれは再演したいですね。他にも、「沢先生」や「人を好きになって何が悪い」も、脚本を練ってもう一度再演したいです。
京都ロマンポップ第11回公演『幼稚園演義
公演時期:2011/8/26〜30。会場:元・立誠小学校講堂。
こうじゃなきゃいけない見方なんて、ない
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- さて、向坂さんが作・演出をされる「さかあがりハリケーン」シリーズ。多分、これまで全てを拝見していると思います。いつも疑問に思っていたのですが、なぜいつも白塗りなのでしょうか?
- 向坂
- まあ、元々は一人が複数役を演じるコント公演に疑問があったんですよね。一人の役者が色々なキャラクターを演じていく時に、お上手ですねと思うんですけど、反面「同じ人がやってますよね」って思うんです。ウチは、最初から個性を消すつもりで白塗りをしています。演出をしていると、白塗りになった俳優達が、まるで自分の分身のような気がしてくるんですよね。ジョジョでいうスタンド能力のような感覚があります。
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- 同じ衣装を着た役者が違う役をやる事に違和感があった?
- 向坂
- 演劇って、見立ての遊びじゃないですか。それ自体は凄く素敵な方法で、例えば枯山水はただの岩から段々と滝や島のように見えてくる。でも、「岩やしな」って思う自分もいるんです。役者が「雨だわ」って言ったら雨は降ってるんですよ。そういう見立てが無ければお芝居って何も出来ないんですよ。そのようにして、劇場空間で「見せる」「見る」の手法としてデファクトスタンダードになっている見立てをボケと捉えて、彼にツッコミを入れたら非常に面白いんじゃないかと思っているんです。
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- 素晴らしい。
- 向坂
- 雨降ってねーじゃんとかただの岩じゃんとか。基本を疑う事も面白いと思うんですよ。僕らが白塗りをするのも、そういう面白さを提示する為ですね。白塗りって、物凄く長い時間を経た様々な思想があるんですね。白塗りするには思想が要る訳ですよ。宇宙がどうとかね。それ自体は凄いと思うんですけど、僕自身はそういう教育は受けていないし、学んでもいないので。そうじゃない白塗りの使い方があると思う。お芝居に対してのこうじゃなきゃいけない見方なんて無いと思うんです。色々な見方があって良いと思う。それと同じように、色々な人が観ていいと思うんです。
御巫山戯
- 向坂
- 舞台が出来て、お客さんが入って見ている以上は楽しんでもらいたいですね。俳優が下手くそな芝居してても照明を浴びて光ってるというのは、何だかツッコミ待ちのボケだよねと思うんです。だから僕はツッコミを入れるんですが、最大限、そこで楽しんで帰ってもらいたいという気持ちがありますね。
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- なるほど。
- 向坂
- 面白いお芝居だけじゃないのは分かっているんですけど、素直にみているだけでは楽しめない時もあるんですよ。
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- ひねくれた見方を持つのは大事ですよね。批評的な見方を持つというのは。
- 向坂
- そうですね。批評的な見方。あー、どうなんだろうな・・・? 以前、アートコンプレックスにきたチェルフィッチュを見たんですよ。
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- ええ。
- 向坂
- すごい評判の劇団としか知らなくて、彼らの演劇がどういう文脈上で成り立って評価を受けているのか、岡田利規がどういう人なのかも頭になくて、名前だけしか聞いた事のない状態で見たんです。実際見たら、凄くお洒落で洗練されていたんですよ。喋りながら踊っていて。でも演劇をちょっとかじっている僕が見て、「あーなるほどな」って思うこれを、劇場に訪れた事のない高校生が見てどう楽しむのか。
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- ええ。
- 向坂
- 僕らは稽古場でチェルフィッチュごっこをしてそれなりに遊べますけど、中高生はあれを見てどうすればいいのか? でも、チェルフィッチュが白塗りで出てきて「コントです」って言ったら素直に見れますよね。
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- そうかもしれませんね。
- 向坂
- シーンと静かになっている劇場で、男女がずっとクーラーがああだこうだと言いながら踊ってるんですよ。話の内容もどうでも良くて、きっとふざけてると思うんですよね。地点も好きなんですけど、笑いたくなる瞬間とかあると思うんですけど、前衛的だと笑っちゃいけないんですかね?
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- いや、笑っていいと思いますよ。
- 向坂
- やっぱり、ふざけてますよね? 僕も三浦さんと何回かお話しさせてもらった事ありますけど、「ふざけてるんですか」って聞いた事はなくて。
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- どうでしょうね? やっぱり「これ面白い!」って思って繰り出していると思いますけど。つまり、ギャグとしての文脈を踏んではいないですが、結果的に笑いを立ち上がらせるものとしての意識はしているんじゃないでしょうか。
- 向坂
- おもろいと思ってやっているという事ですよね。もちろん、インタレスティングというよりはファニーという意味で。じゃあ、何で笑い声が起きないんだろう。皆、面白いと思ってないのかな? でも評判いいですよね。
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- 私も自分が面白かったら遠慮せずに笑う方ですが、沸点が低いまたは何でも受け入れる体勢にあるのかもしれませんね。俳優の方にお話を伺った所、笑ってくれた方がホッとするらしいですよ。
- 向坂
- なるほど。三浦さんの笑いって秀逸で、一周回ってるんですよね。お笑い芸人が本当に面白い事を劇場でやったら面白くない、という感じなのかもなあ。
質問 安田 一平さんから 向坂 達矢さんへ
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- 前回インタビューさせて頂きました、安田一平さんからです。「演劇をやっていて、楽しかった事はなんですか?」
- 向坂
- 俳優としてなら、舞台で集中している時間ですね。集中が研ぎ澄まされていった時に、空間を自分が把握して、しかもそこに自分の意思が反映されていると感じるんですね。自分がこうやったらお客さんが笑うな、というのが先に分かる瞬間。めったに無いんですけど、その時が気持ちいいですね。むしろ、それが無かったら芝居をやっていないと思います。
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- なるほど。色んなものがハッキリしている感覚?
- 向坂
- モヤモヤしている事もあるんですけどね。舞台をやっている人ならお分かりになるかもしれませんけど、舞台上に針が落ちても分かるぐらい研ぎ澄まされた感覚があるんです。
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- 分かりました。ありがとうございます。「2.演劇をしていなかったら何をしていましたか?」
- 向坂
- 何でしょう。演劇をしていなかったら廃人ですからね。
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- 「3.好きな映画は何ですか?」
- 向坂
- X-MENシリーズと、北野映画が好きです。
「キス×キス×キス〜シークレットフレンズ1928〜」
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- さて、作品についてもう少し。以前の作品ですが「キス×キス×キス〜シークレットフレンズ1928〜」。大変面白かったです。
- 向坂
- ありがとうございます。フレンズって、アートコンプレックスプロデューサーの和田さんの事なんですよ。アトコンで公演しなくてごめんなさいという意味がありました。
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- あ、そうなんですね。主人公の女の子が大変可愛い作品でした。東京のマームとジプシーっぽかったですね。
- 向坂
- それっぽかったですか。ありがたいですね。KYOTO EXPERIMENTのプログラムでのマームとジプシーがずば抜けて面白かったんです。十代が感じる死の姿を繊細に描いて、終わりに向かう姿をビジュアル化していくセンスが凄く良くて。でも主人公の女の子の喋り方が凄いムカツくんですよね。ムカツく可愛さみたいな。これはもう、そのままやってみるしか無いと思いました。
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- なるほど。
- 向坂
- 皆、もっとマームとジプシー見た方がいいと思います。
京都ロマンポップ第11回公演『幼稚園演義
公演時期:2011年4月29日〜30日(京都)、2011年9月18日〜19日(東京)。会場:アトリエ劇研(京都)、シアターKASSAI(東京)。
不幸話
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- 向坂さんはこれまで、どんな劇世界を作りたいと思っていらっしゃいましたか?
- 向坂
- 本公演に関しては、作家のよりふじゆきがリアルな世界を描き出していくんですが、僕の方のはお客さんとの共犯関係を結んだ上で、嘘まるだしの舞台の上でちっちゃな嘘をボケとして切り取って提示します。具体的な話の方がいいですかね?
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- お願い致します。
- 向坂
- 次のさかあがりハリケーンは深夜食堂みたいにしようと思います。何でも出来るからなあ。どうしようかな。戦国時代がやりたいですね。僕もよりふじも日本史を選択していたので、
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- なるほど。深夜食堂。
- 向坂
- 不幸話書くの得意なんですよ。
湿った街
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- では今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 向坂
- そうですね。ちょっと年末くらいに色々考えていたんですけど、ちょっと色々、他の可能性を探る為に今出来ている話を白紙に戻したんですよ。そういう話を池浦君にしたら「バカヤロー」って言われて。「頑張ります」って答えました。
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- なるほど。
- 向坂
- 僕はこれからも京都を拠点にやっていくつもりなんですが、やっぱりもっと評価されたいですね。そういう事を考えていくと、やっぱり京都は湿っているように思います。「東京に行ったら売れるし」とかいうのはネタやと思っていたんですけど、やっぱり行ったら何かあるんですよ。基本冷たいんですけど、火が点いたらすぐ燃え広がるんです。では僕は10年も、湿った京都で何をしていたんだろうと。このままではカビてしまうと。
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- なるほど。
- 向坂
- ただまあ、東京に行って売れたら何とかなるというのは僕の好みではないんですよ。だから、湿った京都の環境に対してアプローチ出来たらいいなあと思っていますね。
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- 京都の湿った環境。確かに、観客席にアグレッシブさはないかも知れませんね。
- 向坂
- 京都で演劇を観る客層って、ほぼ大学生か大学出身者なんですよ。そこは学生の街だからなんですけど、きっと他の地域よりコアなんですよ。悪く言えば学生ノリで広い内輪ノリなんです。もちろん東京にもその傾向はあるんですけど。
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- なるほど。
- 向坂
- 東京の人はもうちょっと、素直な方も多いんですよ。ストライクゾーンが広い。観劇を趣味と言い切れるようなバイタリティもあるんでしょうね。何にせよ、京都の客層に関しては非常に特殊なんじゃないかと思いますね。
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- もっと客層に広がりがあれば、というよりは、色んな種の人に対してアプローチする企画公演があるべきかも知れませんね。
- 向坂
- そうですね。コンビニの前で屯している高校生が、演劇観に行ってほしいですね。本当は。
三文判ケース
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
- 向坂
- ありがとうございます。
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- 大したものではないんですが、どうぞ。
- 向坂
- なんだろう。(開ける)これは。
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- 三文判ケースです。印鑑を入れる時は、ティッシュ等で拭いてからにしてくださいね。
- 向坂
- ありがとうございます。これで契約が沢山出来るように頑張ります。