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衣笠 友裕

俳優

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fukuiiiiii企画「歪ハイツ」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。最近、衣笠さんはどんな感じでしょうか。
衣笠 
よろしくお願いします。最近は、大学の卒業前なので引っ越しの準備とかで忙しいです。
__ 
京都を出る準備ですね。後顧の憂いなく旅立ってほしいですね。
衣笠 
そうですね。もう会えない人もいるのかもしれないので、少し寂しいです。
__ 
衣笠さんは京都造形大なんですよね。大学での思い出を教えて下さい。
衣笠 
お芝居の勉強を4年間やってきて。色んな人たちと一つのモノを作るという事の大変さを毎回のように痛感していました。あまり、大学の外で遊んだりとかはほとんどありませんでしたね、海に行ったりとか。
__ 
そうなんですね。
衣笠 
でも、普通の大学生とはきっと違って、中身のある4年間だったと思います。作品製作の中で楽しい事を見つけたり、人間関係を作っていったりとか。
fukuiiiiii企画「歪ハイツ」

公演時期:2014/2/14~15。会場:元・立誠小学校。

あくまで想像でしかないけれど・・・

__ 
fukui企画「歪ハイツ」。とても面白かったです。衣笠さんのやっていた役が、アパートの住人たちを洗脳して陰惨なリンチを繰り広げさせるというとんでもないサイコ野郎でしたね。見ていて怖かったです。
衣笠 
ありがとうございます。僕もやっていて怖かったですね。
__ 
ご自身でも?
衣笠 
終わってから色んな人に「キヌって怒ったらあんな感じよな」って言われて。そんなワケないて否定するんですけど、役にハマってたと。これは自分はちょっと危ないんちゃうかなと思うんですけど、でも反面やりやすかったんですよ、確かに。何でやりやすかったのかは分からないんですけど。それが良い事かどうかも分からないですけど。
__ 
やりやすかったというのは、気持ちが理解出来たという感じ?
衣笠 
いや、気持ちは全然理解出来なかったです。振る舞いとか喋りがスッと入ってきて、自分の口から言葉にしやすかったんです。台本の力なのかもしれないです。
__ 
仕草とか、表情とかかもしれないですね。実はさっきインタビューしたダンサーの方が、ダンスを放棄するような踊りがしたいと仰っていてですね。自分の演技を置いてこれる、そんな演技が実践出来たという事かな。
衣笠 
もし自分がああいう立場になったらこうするやろうな、という決め付けでやってました。それだけ自分で決めつけたのがたまたま嵌ったと思うんですよ。見当ハズレだったら「やりにくかった」という感想になったと思うんです。
__ 
自分の考えとたまたま合っていた、から。
衣笠 
そうですね、人を殺した事も、人に通電した事もないので分からないんで理解はきっと出来ない。あくまで想像でしかないんですけど、ちょっとは寄せられたのかなと思っています。

主役・脇役

__ 
造形大で学んだ事が「歪ハイツ」にどんな感じで活かされたと思いますか?
衣笠 
今回は主役でした。4年間で主役をやった事はなく、いつも脇役ばっかりだったんです。あんなに出ずっぱりなのはあれが初めてで。自分の中で、あれだけの台詞を言えるのか、2時間舞台に立てるのか。でも、主役も脇役もやる事は一緒なのでやり方を変えようとは思わなくて。で、目立とうとも思っていなかったんです。どっちもやりたいんですしね。今回の歪ハイツで言えば、主役と言えば主役ですけど、最後に生き残るのは他の人だったし。「歪ハイツ」は皆が主役だったのかなと思うようになっていて。
__ 
なるほど。
衣笠 
そういう意味で、オレが目立つぞというのはなくて。皆目立ってほしい、っていう気持ちがありました。ずっと脇役やってきたからというのもあったのかなと思います。結果的には目立ったのはあるかもしれませんが、脚本により焦点を当てられたんじゃないかと思っています。4年間の経験が、上手いこと還元出来たのかなと思っています。

二択

__ 
お芝居を始められた経緯を教えて下さいますでしょうか。
衣笠 
実は高校が、結構いい私立で、そのまま大学に内部進学で上がれたんですよ。高3の夏に試験があって、その認定も貰ったんです。そのまま行くのが、何か違うなと思いまして。はっきりとはしてなかったんですけど。そのまま大学に上がったら親しかった友達と一緒にいれるし、生活は変わらなかっただろうし。
__ 
ええ。
衣笠 
でも他のいい大学に行けるほど成績は良くなかったんで、芸能界に入るか自衛隊に入るか、だったんですよ。それを母親に言った時に、「自衛隊いいんちゃう」って言われて。
__ 
ええっ。それは凄いですね。
衣笠 
内部進学の事は自分に任せると言われてて。行くんなら自衛隊でもいいんちゃう、と。先生に相談したら「俳優を目指すならこんな所があるよ」と薦めて下さって。二週間後に面談入試があったので、受けたれ、と思って入試して。で、受かって。受かったんなら入ろうか、と。めっちゃ俳優になりたいと思ってきた訳ではないんです。

一本のインパクト

__ 
造形大に入られての印象、いかがでしたか。
衣笠 
映画学科なんで高原キャンパスだったんですけど、最初の印象は怖かったですね。やっぱり芸大なんで、難しそうな絵とかいっぱい飾ってあるじゃないですか。最初は少し苦手だったんです。難しそうやな、と。今思うと芸大の方が自由なんですけど、あの時は普通の大学のほうが好き勝手出来てたんだろうなと思っていましたね。
__ 
高原校舎は確かに、ちょっと物々しいですよね。
衣笠 
映画製作の為にみんな走り回ってて、みんなピリピリしてたんですよね。ものすごい緊張した覚えがあります。入ってしまえば気楽なんですけどね。
__ 
入学当初に衝撃を受けた作品は何ですか?
衣笠 
舞台で言えば、僕らが入学した年の五月に一本公演があったんです。先輩にあたる大西礼芳さんの一人芝居でした。大学で見る初めてのものだったんで、その時のインパクトは凄かったです。生で先輩が芝居をしてる、ああ、こうなれるんやという期待が湧きました。

何も決まってないけれど・・・

__ 
しかし、よう東京に行く決意を固められましたね。
衣笠 
いえ、でもあまりまだ何も決まってなくて。一昨日まで東京に行ってたんです。今までの自分の出演をまとめたDVDと写真と手紙をまとめて、色んな事務所に行ってきました。オーディションをしてない事務所にも行って、「一度でいいのでお話させてください」って、これだけ預かって貰えないでしょうかと。やっぱり厳しいなという手触りで、多分見てもくれへんやろうなと。もちろんオーディションのある事務所さんにも相談させて頂いているんですけど。
__ 
手応えが無かった?
衣笠 
そうなんですよ。
__ 
まあ、受付の人はそうなるでしょうね。いい結果になる事をお祈りしています。

いつも

__ 
いつか、どんな演技が出来たらいいと思われますか?
衣笠 
あんまり、お手本にしている俳優さんとかはいなくて。どんな方を見ても凄いな、この人はこんな演技も出来るんやと思って見ていて。最終的に、この人の芝居は何やってもこんな感じ、というんじゃなくて、色んな役に挑戦していきたいです。そうした中で、自分の引き出しが増えればいいなと思っています。最終的にこうなりたい、というよりかは、どんどん違う方向に進んでいきたいと思っています。こんな役もやれるんや、と思われたいですね。
__ 
ご自身の演技を見てもらった方に、こう思ってもらいたいとかはありますか?
衣笠 
小学校以来会っていなかった友達が舞台を見に来てくれた時、「自分やと分からんかった」って言われた事があります。
__ 
おおー。
衣笠 
それは十何年と会っていなかったから、そりゃ分からんやろうという話で終わったんですけど。今後、色んな人に顔を覚えてもらって、作品を見てもらった後に「君やと思わんかった」と言ってもらえたらなと思います。
__ 
「いつも同じ」と思われたくない。
衣笠 
そうですね、僕は結構、変な役ばかりやりたがるんですよ。

こういう映画が、自分にはガツンときます

__ 
変な役をやりたい?それはまさに「歪ハイツ」のような?
衣笠 
そうですね、何か、ピュアな恋愛モノというよりは、ドロドロとした作品の方がやりたいのがあって。あと、物凄いアホみたいなコメディもやりたいし。そういう方に興味が行ってますね、いまは。結構、自分で言うと恥ずかしいですけど恋愛とかそっちに行きやすいと言われがちなんですけど、僕自身は全然そっち向きじゃなくて。
__ 
なるほど。
衣笠 
映画とかを見ていて、「こういう役がやりたい」と、ちょっと悩むぐらい思ったりしてますね。
__ 
具体的に、どんな映画ですか?
衣笠 
「クラッシュ」という洋画で、ある交通事故を基点にした群像劇です。事故の当事者や、たまたまそこに居合わせた人たちが事故の前後の過程を描いた作品です。全員普通の人たちなんですけど、どこか変わった性癖があったり家庭事情があったり人種差別があったり。主役という主役はいないんですけど、凄く広い世界を見ている気がして。
__ 
その世界の臨場感がある、そんな感じかな。
衣笠 
そうですね、主役がバッチリ決まっている映画ってその人を主軸に見ているんですけど、クラッシュみたいな映画は誰にも感情移入せずに、一人一人の感情とか思いをちょっとずつつまみ食いしていく感じがしていて。別に、登場人物達の話という感じじゃなくて、こういう世界があるよね、という提示なんですよね。人ってこうだよね、という感じで終わっていくんです。そういう映画が、自分にはガツンときます。

質問 松永 渚さんから 衣笠 友裕さんへ

__ 
前々回インタビューさせて頂いた、松永渚さんから質問を頂いてきております。ちなみに衣笠さんは俳優以外にも映画監督と舞台の演出をされるんですよね。
衣笠 
監督は3回生の頃に1度。演出は4年間で3回だけしました。
__ 
そこで「演出家と役者、監督と切り分けられていると思うんですが、ご自身の気持ちの違いがあれば教えてください。」
衣笠 
俳優をする時は出来るだけ下っ端でいこうと思っています。言われた事をやりながら、たまに反発しながら。そうやって演出と戦っていこうと思っていますね。でも監督とか演出をする時は下っ端では出来ないので。出来るだけ人の上に立っているという意識を持っています。大学で舞台をやっている時は、やっぱりプロではないので。出てもらう役者それぞれが、ちゃんと今後の役者としての生活に影響を与えられるような演出をしていかないといけないなと思っていました。
__ 
それは、良い影響?悪い影響?
衣笠 
多分、悪い影響も与えているとは思うんですが(笑う)僕も含め成長途中なんで。後輩の子達が出た時は、その成長を促せて、もっと飛躍出来るように。結局はライバルを育ててる感じになっちゃうんですけど、それぞれの芝居が上手くなっていっているのを見ると嬉しくなりますね。

質問 高木 貴久恵さんから 衣笠 友裕さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂いた、高木貴久恵さんから質問を頂いてきております。「一番古い記憶を教えて下さい」。
衣笠 
家族旅行で温泉に行った帰り道、転んでペロペロキャンディーを割った事ですね。家の近くまで着いて、歩いていたらこけちゃって。持っていたペロペロキャンディーが全部粉々になったんです。袋から出して間もないのに、全く手を付けてなかったのに。めっちゃ悲しくなっちゃって物凄い泣きました。でも家に帰った後に、母が一個一個洗ってくれて、パズルみたいに一個一個をお皿に並べてはいって渡してくれたんですよね。
__ 
ええっ。
衣笠 
その時、嬉しかったんですけど、ちょっと・・・自分が割ってしまった事でここまで手間を掛けさせてしまった事に悲しくなってしまって。そういう感情で、喜びたいけど喜べないみたいな状態で一つ一つをポリポリ食べたのが一番古い記憶です。
__ 
その、御母上の行動は教育そのものですね。だって、飴は粉々になってしまったけれども、手間を掛ければ戻す事が出来る。とは言っても、完全な元の飴ではない。そういう重大な事を伝えられた教育だったと思うんですよ。最初の記憶になるぐらい。
衣笠 
しかし、そこに僕は罪悪感を覚えてしまったんですよ。
__ 
お母上は、その引け目に気付いてましたよ。
衣笠 
あ、そうなんですかね。
__ 
飴を一つずつ口に運ぶ時、微妙な表情をしていたでしょう。びっくりするぐらい泣き始めた息子と、粉々になった飴、復元してみせたけれども、今度は複雑な表情になってしまって。それはお母上の心に、どのような思いを生じさせたのでしょうか。
衣笠 
何かちょっと、おかんとしても、悲しいじゃないけど、キュッとなる感情があったんじゃないかという気がします。別に新しいのを買えばいいかもしれんし、しょうがないよと諭したらいいかもしれんし、もっと簡単に終わった話かもしれんし。多分、電車の中でずっと大事に持ってたと思うんですよ僕は。帰り道、家の近くになるまで袋を開けなかったぐらい大事に。それが、母親にとっては、僕が大事にしている事が分かったと思うんですね。あともうちょっとで家なのに割れちゃったという事に対して、ちょっと悲しくなったのかなと。
__ 
旅行の帰りのお土産を大事に扱っていた。これは息子の、家族に対する裏表のない愛情表現であると母上は取ったでしょうね。だからこそ、新しい飴を買うという案は旅行の思い出を帳消しにしてしまいかねない。家に着くまでに待ちきれずに封を開けてしまった・・・パンドラの箱ですよね。
衣笠 
そうですね(笑う)
__ 
その悲しさに対して、何かをせずにはいられなかった。すっぱり諦めるという選択肢もあったが、でもあえて修復してあげる事を選んだ。そういう教育を選び取り、息子に見せた。もしかしたら、その時点で息子への放任教育は始まっていたのかもしれない。そうでなければ「自衛隊ええんちゃう」とか言わずに内部進学に行ってくれと言うはず。放任とはつまり、自由と責任という事ですね。
衣笠 
そういえば母は僕のわがままに対しては厳しく、反面、大切なものが失くしたり取られたりしたらすぐに直したり替りを持ってきてくれたんですよ。新しいものを欲しがってもダメって言うんですが。なんか、僕が大切にしているものを同じように大切に扱ってくれたと思います。

明日、出会うその日までには

__ 
これから、表現を始められる人たちに何か一言。
衣笠 
俳優って、自分が役に入り込んで演技をする分、それを見る人に対して嘘を付いているんですよね。その事を忘れないでほしいと思っています。「おれは俳優だぞ」って偉そうにするんじゃなくて、俳優自身は謙虚にいなくちゃいけないんじゃないかなと思います。自分が仕事をしている上で常に嘘を付いているという自覚を常に持っていたら、楽しんで嘘を付いていいと思うんです。
__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
衣笠 
やっぱり大学と違って、ものすごい厳しい世界に飛び込もうとしているんですよね。そんなにすぐには売れないですし。1年、5年、もしかしたら10年と物凄い貧乏な時期になると思って。どれだけチャンスを取りに行けるかと思っています。待ってても仕事は来ないので、自分から攻めていかないといけないので。
__ 
そうですね。
衣笠 
大学だったら3・4回になったら自分で監督が出来るしキャスティングもされるんですが、そんなに甘い世界ではないので。大学に来た頃の「この映画に出たる!」っていう勢いがあったんですが、そういう初心を思い出して。でも焦りすぎず攻めて行けたらいいなと思っています。
__ 
ありがとうございます。これからも、関係性を大事にしていってください。
衣笠 
そうですね。向こうの事務所の方にお会いした時も「この世界は出会いが全て」って仰られて。どれだけの人に出会って、どれだけの人に気に入ってもらえるかと。
__ 
リアルな話、「気に入って下さい!」って攻めて来られたら引きますので、遊びというか空白というか、そういう余裕が結構重要だと・・・何でもそうなんですけどね。

フォトアルバム

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
衣笠 
ありがとうございます。
__ 
どうぞ。
衣笠 
(開ける)これは・・・
__ 
アルバムです。立てられるようになっています。卒業記念という事で。
衣笠 
嬉しいです。使います!
(インタビュー終了)