第三回東洋企画『太陽の塔の四つ目の顔を見たことがあるか』
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- 今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。最近東洋さんはどんな感じでしょうか。
- 東洋
- こちらこそ、よろしくお願いします。最近は稽古の日々ですね。これだけたくさんの人と作品を作るのは初めてで、探り探りしながら試しては悩んでの繰り返しです。学校に行ったり食事したりの時が救いという。
- 中嶋
- (東洋企画の劇団員で、今回のインタビューに同席されました)稽古の合間に学校行ってる感じですね。
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- 東洋さんは大阪大学に在学中なんですよね。稽古も学内で?
- 東洋
- 阪大以外の出演者もいますので、アトリエS-paceさんなど大阪の色々なところを借りています。ジプシー劇団ですね。
東洋企画
大阪大学を拠点に活動する演劇企画。代表は高知県出身の東 洋。現代芸術を考える会を中心に、プロ、学生を問わず、メンバーを集め創作を行っている。幻想的かつ美しい、独特の世界観と俳優の身体能力を活かした空間表現に定評がある。求めるのは『寓話性と流転の美』。いつか高知でお芝居したいなぁ。(公式サイトより)
第三回東洋企画『太陽の塔の四つ目の顔を見たことがあるか』
望遠鏡に残った円い記憶を追って 少女は走る 太陽の塔のど真ん中 「現在」の顔は今を表した顔なのか それとも今を見ている顔なのか コンクリートを拾い上げたとき、 一つの顔が浮かび上がる。 あなたにあたしの世界が見える? 会場:元・立誠小学校 講堂 日程: 2015年11月27日(金)~30日(月) 11月27日(金)18:00 11月28日(土)13:00・17:00 11月29日(日)13:00・17:00 11月30日(月)13:00 チケット: [一般]予約1,800円/当日2,000円 [学生]予約・当日1500円(要学生証) [リピーター割引]500円 演出・劇作:東洋 出演: 岸鮭子、中嶋翠、外山雄介、東洋、白井宏幸(ステージタイガー)、久保健太、まつなが、森岡拓磨(劇団冷凍うさぎ)、村上由規乃、石垣光昴、川原啓太(劇団ずぼら)、西田悠哉(劇団ちゃうかちゃわん/劇団不労社)、國枝千尋(劇団六風館)、佐岡美咲(劇団六風館)、堀田彩花(劇団六風館)、清水咲歩(演劇集団関奈月)、石田裕子、浜崎茉優(学園座)、都呂路あすか(はちの巣座)、茶髪(劇団万絵巻)、真一花琉(演劇グループSomething)、相間カンパチ、国本クイナ(学園座)、嶋崎光輝、高橋賢(演劇集団関奈月)、佐倉ハルキ(演劇集団関奈月)、洪一平(覇王樹座)、類家弘敬(覇王樹座)、吉田皓太郎、田中林檎(展覧劇場)、西能まりあ(自由劇場)、水木めい(自由劇場)、水野さくら(劇団六風館)、黒田美音(劇団六風館)、松田千怜(劇団六風館)、島崎秀吉(劇団カオス)、熊谷香月、日浅美久
38人の顔
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- 東洋企画の『太陽の塔の四つ目の顔を見たことがあるか』。38人と非常に出演者が多いですね。どんな公演になりそうでしょうか。
- 東洋
- 今回僕が目指しているのは、誰かが見た夢のようなお芝居なんです。夢というのは身近なんですけど、でも記憶の中のイメージが時系列関係なく混ざっていくものですよね。そんなお芝居を作れたら、出演者含め、多くの人とイメージを共有し連鎖していく。そんな事が出来たらいいんじゃないかと思っています。だから稽古で生まれた事を大事にしています。なるべく背景が違う方を広く集めたんですけど、そうした交差がより多く生まれたらいいな、と。
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- 交差する事。
- 東洋
- 集団によるイメージが連鎖する集団芸術を作ろうとしています。
- 中嶋
- 集団というより、群衆をイメージしています。集団としてまとまって動くというより、一人ひとりが個人のままばらばらに動いていて、放射状に散らばっている、そんなイメージなんですよね。
- 東洋
- ボルボックスという植物があるんですが、あれは個体に分かれていながら、集まって一つの方向にまとまっている。目指しているのは、そういう作品ですね。
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- イワシの魚群とはまた違うんですね。それは、どこにどんな面白さがあると思いますか?
- 東洋
- キレイな説明になるかは分かりませんが、「時代を語る」という事になればと思っています。説教臭い事をしたい訳ではないんですが、太陽の塔には今も四つ目の顔の施設というか跡地だけは残されているそうで、今は見えないんですが、知らない何かがそこに残されている、かつてそこになにかがあったという事を知っているか知っていないかでは全然違う。複数の時代で、集団や個人それぞれが何を目指していた・いるのか、という違いを感じて欲しいですね。
- 東洋
- そして、もし重なる部分があるとすればそれは何か。を、見た後に考えていただけるような。そんな作品が出来たらと思っています。
答えの見つからない問い
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- 人類共通のイメージを探る。私も昔から興味のある分野ですが・・・
- 東洋
- そうしたテーマがやり尽くされている事については、僕は自覚的です。前回の「藪の中」も、色んな人が扱っているテーマなんですよね。新しい事をやる・奇を衒う存在も必要だと思っていますが、同じくらい普遍的なテーマに挑む存在も必要だと思っているんですね。それは僕らの世代の中としても同様で。上の世代の方から見たらもう新鮮さはないのかもしれませんが、あえて若い僕らが挑んでいるからこそ生まれるものがあるんじゃないか。そもそも人が違うので、やり古された後に生まれた世代ですので、初めての人々なんですよね。パーソナルが大事にされる世代の作る「集団」というテーマ、という意義もあるんですね。
- 中嶋
- 古典的なテーマを扱うんですが、それをとことん突き詰めて、しかし全て拾い上げるにはキュビズム的な手法を用いるしかない、と東洋はよく言っています。色んな方面から見ても壮大な作品になると思います。そして東洋企画では「疾走感」を大事にしていまして・・・
- 東洋
- 毎回、本気で走ってますからね。
- 中嶋
- 稽古場でも「飽きさせるな」それどころか観客にも思考させる暇すら与えない。ただただ圧倒していく。それぐらいの勢いで押していく。終わってからようやく振り返る余裕が出来る、ぐらいの。
- 東洋
- スタッフの方々ともお話したんですけれども、古典的なテーマに明確に向き合いお客さんに表現するとき、明確にテーマを掲げるような事はちょっと違うのではないか、と。ただただお客さんにイメージを投げ続ける。38人のそれぞれバックグラウンドの違う役者達。
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- イメージの奔流ですね。
- 東洋
- お客さんにとったら全ての役者毎に受けるイメージも違うでしょうし、それが面白さがつながると思うんですね。
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- そこにどんな面白さを見出したいと欲望していますか?
- 東洋
- 僕はですね、謎に対しての興味が面白さだと捉えています。イメージが次々に繰り出される中で、その連鎖にキーワードを発見していく面白さもあると思います。頭を使って何かを見出していく、そんな面白さを体験出来る環境を作りたいと思っています。
- 中嶋
- 東洋の芝居が理解出来るのは、見た人だけ!と。感想をネットで見て、じゃあ見なくていいやとかではなく、本当に答えが無いからこそ、実際に見ないと分からない。そんなお芝居を作ろうとしています。
影が絡み合う
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- 突然ですが、桃太郎の絵本がなぜ日本に浸透したか?やっぱりそれは、冒頭に巨大な桃が登場したからだろうと思っています。あのインパクト。「桃」だけでは足りない、巨大でなければ・そして「どんぶらこ」が付いていなくてはならない。物語の2シーン目で早速、聞き手の頭に桃が仮実体として像を結んでいる。その疾走感が物語云々ではない凄みがあると思うんですよね。いわゆるツカミのイメージは最初から最後まで重要だと思うんですよ、特に膨大なイメージの作品をやるという事ならなおさら。「太陽の塔の四つ目の顔」では、そのあたりはいかがでしょうか。
- 中嶋
- 彼の脚本は、突き詰めると難しいものではないんですよ。でもそれは答えがないからだと思うんです。実は彼自身にも分かっていない。
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- なるほど。
- 中嶋
- 東洋企画の戯曲は全体を通して寓話性をテーマにしています。桃太郎で言えば、「大きな桃」=四つ目の顔、ですね。太陽の塔自体も大きな謎ですが、私たち自身も稽古をしながら答えを探って行っています。見ている人も出ている人も自分なりの正解を見つけ出さなくてはならない。そうした作品だと思っています。
- 東洋
- 難しいですね、僕がたった22年生きてきて、しかも揺らいでいる状態で出した答えですし。なんなら、来年には違う答えになっているかもしれない。普通に。
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- 今の時点でしか出せない答えもあるんじゃないですか?
- 中嶋
- そうですね。
- 東洋
- でも僕の22年しかかけていない『答え』を提示して押し付ける気はありません。気持ちは伝えます。1人の少女の寓話劇として。でもそこから先はお客さんが拾うところだと感じています。
- 中嶋
- だから、そんな作風を答えが分からないから難解な作品と取られる人もいるかもしれないのですが、今回に関しては、意味が分からなかったけれども思考する楽しさを含んだエンターテイメント作品として成立させたいと考えています。イメージの奔流が風のように感じられるような。
- 東洋
- それぐらい欲しいね。温かかったね、とか。
これから
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- さて、東洋企画。どうしていきたいですか?
- 東洋
- まず僕らがどういう団体かというと、7人の劇団員がおりまして、僕は彼ら自体がまず面白いと思ってまして。ただ、僕はあまり劇団制でやっていく事に(疑いではないですが)成り立たないのではないかと思っていまして。例えば毎回チラシをつくってくれてる劇団員の宣伝美術も、同じく劇団員の制作チーフも色んなところでやっていける人材だと思っていますし。まず集団としての成立。そして、個々の研鑽をしていく必要があると。だから劇団というネームは付けていないというこだわりがあるんですけども(笑う)。それから、幅広いお話が頂ける存在でありたいです。イベントプロデュースなどにおいても柔軟に、演劇以外での催しやイベントにもお応え出来る存在でありたい。
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- なるほど。東洋企画でしか出来ない事はなんですか?
- 東洋
- 僕の作品であり、僕らのチームでしか出来ない事。今やっている作品で言えば、大量のイメージの奔流で思わず人を立ち止まらせてしまう、そんなパフォーマンスは、ウチが確実に出来る事です。それから、その空間を活かしきる事。そのスペースを十全に使いきるのは、今現在東洋企画が得意としている事なのかな、と思います。
夢が絡み合う
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- どんな演劇が作れるようになりたいですか?
- 東洋
- これはずっと探しているんですが、人間が見る夢のような演劇です。風邪を引いた時に見る夢の、覚えていないけれども怖くて泣いてしまうような。でも演劇でしか出来ない形をやっていきたいと考えています。では演劇的とは何か?という事ですが、例えば男性俳優が女性の役を演じて成り立つのは演劇だけ、とよく挙げられますが僕も正にそうだと考えています。演劇だけの体験として、誰かの夢・自分の中の夢を覗いたような表現をしたいです。
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- 題材としての夢を描く。どんな手法があるでしょうか。
- 東洋
- 僕は寓話性に可能性を感じていまして、例えば「カチカチ山」を本気で舞台化したら面白いんじゃないか。あれで舞台上で人が狂っていく様を描けたら本望です。そこに、あるいは「夢」の本質が投影されていくのかもしれない。
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- 「カチカチ山」は大変ヤバい話ですからね。ラストに向けて登場人物達が全員おかしくなっていって、私怨を晴らす為だけに動くウサギには忌々しいが共感してしまう。最後、海に泥舟を浮かべさせる当たりの愚かしさはヤバい。あのウサギはもう殺す為だけに動いていますよね。
質問 西岡 裕子さんから 東 洋さんへ
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- 前回インタビューさせていただいた、劇団ガバメンツの西岡裕子さんから質問をいただいてきております。「大学で、どこのサークルに入ったらいいでしょうか」。実は西岡さん、大学に入りなおしたそうなんですよ。
- 東洋
- 僕は演劇サークルに入って幸せになったんですけれども。
- 中嶋
- 「現代芸術を考える会」とか。
- 東洋
- そうですね、僕らの希望としては現代芸術を考える会に入って欲しいという思いが強くあります。
- 中嶋
- でも学生生活を楽しみたいんだったら・・・。
- 東洋
- 阪大はアカペラサークルが強いんですが、稽古中に聞こえてくると趣がありますよ。
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- なるほど。「阪大に入ったら仲良くしてくれますか?」
- 東洋
- 全然なりますよ。もちろん。
野望
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- 野望やビジョンなどはありますか?例えば、小劇場を変えたいとか。
- 東洋
- 僕は正直に言うと、頭の中はそれほど小劇場型ではなくて。高知県出身ですので、小劇場が身の回りにはないんですよ。Youtubeで大きな舞台の作品をみて演劇を始めた類なので。小劇場を変えていこうとかではなく、より多くのお客さんを前にした表現を探ろうとしています。
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- そういう風に意識しようとなったんですね。
- 東洋
- 大きな劇場に行くのに、例えばちょっとおめかしをするとか、準正装で行くとか。映画館と比べてちょっとだか上流な、みたいなものに憧れてきたので、そこにふさわしい作品が作りたいです。
没入するとき
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- ところで、どんな絵画がお好きですか?
- 東洋
- やっぱりピカソのキュビズムが好きですね。と言いつつ、真逆のシャガールも好きです。趣味で見たりする程度ですので、突っ込んだ見方はしていないですけれど。
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- キュビズム。対象の角度を同時に描く時、観察者もまた複数の立場を同時に持つことになる、そんな鑑賞体験ですね。
- 東洋
- 僕はですね、シャガールとピカソが繋がってしまうのはそこだと思っていて。自分が前のめりになるのが楽しい。絵画には非常に奇妙な描かれ方をした、例えば真緑の鶏だとか、それに前のめりに没入させてくれる絵にやっぱり興味を持ちますね。評論家の方にとってみればもっとオーソリティのある見方はあると思うんですが、そうした鑑賞体験に出会うと楽しいし、考えのとっかかりを得られるような、そんな気がするんです。
小さい空間に戻る
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- 今後、どんな感じで攻めていかれます?
- 東洋
- 今回、ひとまず作品の風呂敷を広げたので、再びこれを畳んだ形で(空間を狭くするという意味です)小さい視点から世界を捉え直そうと思っています。描くのはいつだってパーソナルではなく大きな世界なのですが、作品のスケールを小さいものにした時、どういうものが、世界が見えるのか。そこは興味があります。世界を広い目で、俯瞰で見るという経験をした後では、やはり何かが大きく違うと思いますので。
ゼナ ジンジャー
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 東洋
- ありがとうございます。開けて構いませんか。
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- もちろんです。
- 東洋
- (開ける)これは。色々とご存じで・・・
- 中嶋
- 今までずっと、公演前にはユンケルみたいなものを常飲しているんですよ。
- 東洋
- ユンケルやらゼナやら飲んでます。あんまり良くないと思うんですけど飲んじゃうんですよね。
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- それはショウガエキスがフルに入っているものですので、風邪の時には良いかと思います。カフェインも無いので、寝しなに飲んだら効果が出るのかな。
- 東洋
- これで乗り越えられそうです。ありがとうございました。