演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

山口 吉右衛門

演出家

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ルドルフ×このしたやみ企画 チェーホフ「熊」

__ 
今日は宜しくお願い致します。
山口 
宜しくお願いします。
__ 
山口さんは、最近はどんな感じでしょうか。
山口 
最近は、ルドルフ×このしたやみ企画のチェーホフ「熊」(※1・2・3)の準備中です。あと、実は大阪大学の大学院に演劇学の研究室に入ったんですよ。
__ 
あ、そうなんですか。
山口 
あまりにも、お芝居の事も知らんわと思ったんです。次にやるチェーホフも、シェイクスピアも、ブレヒトも。それでいいのかなと。
__ 
昼は学校行って、夜に稽古ですか。忙しいですね。
山口 
学校だからレポートもあるし発表もあって、それ自体が勉強になるからあれなんですけど。締切に追われる日々ですね。
劇団劇団飛び道具

京都を拠点に活動する劇団。

このしたやみ

2007年2月、京都府立文化芸術会館にて行われた、Kyoto演劇フェスティバルの実行委員企画として「傘をどうぞ」「ソウルの落日」の創作を演出 山口浩章、俳優 二口大学、広田ゆうみという座組で創作した事から発足した演劇ユニット(公式サイトより)。

ルドルフ

京都を拠点に演劇作品を創作する集団。

ルドルフ×このしたやみ企画 チェーホフ「熊」

アトリエ劇研提携公演・京都芸術センター制作支援事業。公演時期:2010年1月22〜25日。会場:アトリエ劇研。

僕は寒いのが本当に嫌い

__ 
確かに、このしたやみさんのメンバーで初めて見たのは「熊」でしたね。非常に面白かったです。チェーホフ、どんな所が面白いのでしょうか?
山口 
一見悲劇みたいな感じがあるんですけど、そこはチェーホフ自身で言ってるように喜劇なんですよね。出来事自体は同じでも、ちょっと俯瞰して見ると喜劇になる。簡潔に人生を描くんですよね。それが滑稽で、面白いと思うんですよね、僕は。
__ 
簡潔に人生を描く?
山口 
一つのセリフにその人の人生が包まれてるんです。自分の人生を背負っちゃってるから、会話が成立してないんですよね。普通、こう言ったらこう返す・・・みたいなんじゃない。どんどん横道にそれたりする。ロシアのゴーゴリという作家の「鼻」という作品をリーディングでやった事があるんですけど、何か近いんですよね。同じロシアだからか。とても入りやすい気がするんですよ。単純に面白いし、落語みたいで。あと、僕は寒いのが本当に嫌いなんですよ。そこがロシアの人の性格と似てるのかもしれないですね。寒いとこうなるよねっていう。閉じこもってる事って悪いと思われがちですけど。
__ 
引きこもってナンボみたいな。
山口 
そうそう(笑う)。そういう視点があるように思います。

オペミスから始まった

__ 
今日はですね、山口さんがお芝居を始めたきっかけを伺いたいなと。
山口 
キッカケは、本当にダメなキッカケですよ。がっかりな。
__ 
それは是非聞きたいです。
山口 
高校の時、好きなクラスの女の子が演劇部にいたんですよ。お芝居の事全然分からないのに文化祭での上演とか見てたんですよ。その子の事しか興味ないのに。
__ 
あ、高校の頃は何もやってなかったんですね。
山口 
で、大学1年の春休みに、高校のOBの人が芝居をやると。照明オペがいないから手伝ってくれと言うんです。で、手伝いに行ったんですよ。
__ 
初めての芝居ですね。
山口 
一番最初のステージからオペミスなんですよ。
__ 
いきなりの。
山口 
誰もいない所にスポットライトが落ちて、別の場所で人が踊ってるんですよ、あっと思って消して。一番最初の、お芝居が始まる幕開けでオペミスしたんですよ(笑う)。
__ 
(笑う)
山口 
で、終わってからその子に「次は一緒の舞台に立てるといいよね」的な事を言われて、舞い上がって大学の劇団に入ったんです。でもまあ、今は感謝してます。今お芝居をしていなかったらという事を考えると、やっぱり出会えて良かったなと思います。

稽古場がないからって

__ 
今、お芝居を続けている理由とは。
山口 
何でしょうね。前は、お芝居を好きだから続けているという人をバカじゃないかと思ってたんですよ(笑う)。何も儲からないし。好きだからって。子供かと。今は、自分がそうなってるんですけど。
__ 
あはは。
山口 
前は色々考えていて、理由も沢山あったんですけどね。
__ 
どういう機会で考えが。
山口 
以前、これからの演劇の活動について考えるみたいなシンポジウムに出席した事があったんです。いま何が問題で、今後どう環境づくりをしていくか、というテーマを演劇の制作者や評論家の人が喋って、お客さんも参加するみたいな。そこである俳優さんが言ってたんですよ。その人本番明けでお酒も入ってたんでしょうね、(ちょっと舌足らずに)「ちょっとね、色々分からない。難しい事は分からないんですけど、やりたいからやってるんスよ。問題があったら、例えば稽古場が無ければ探すし、寒ければ毛布持ってくるし。それぐらいの事なんですよ」って。それ聞いてて、ホントそうだと思ったんですよ。僕の周りの稽古場や劇場が減ってる。けど、それで芝居を辞めようなんて思った事ないんですよ。
__ 
そうですね。
山口 
ないならないで見つけたり、外でやったりする。稽古場がないという理由で芝居辞めた奴なんて聞いた事ないですからね。辞める時なんて、他の事に興味が移ったりとかそういう事でしょう。
__ 
まあ、芝居をやろうと思ったらそこにたまたま無料で使える稽古場があったというだけの事ですからね。

「このしたやみ」について

__ 
山口さんは「このしたやみ」で演出をされておりますが、それはどのようなキッカケがあったのでしょうか。確か、劇団飛び道具でも演出を担当されていますよね。
山口 
劇団飛び道具には、決まった脚本・演出というのはいないんですよ。その時その時に自分たちで思う良いものを作ろうというコンセプトで始まったんです。で、4年くらい前からかな。演出を専門にしようと思って。でもそれは劇団飛び道具では出来ないかなと。メンバーのスタンスにバラつきがあったりして。もちろんそういう劇団があっていいと思うんですけど。そんな時に、文芸の企画で一人芝居を二本するというのがあったんです。
__ 
「傘をどうぞ」と「ソウルの落日」ですね。その時に二口さんと広田さんに。
山口 
二口さんとはその一年位前にトリコ・Aで共演して、広田さんとは劇研の「12」という企画で会いました。二人とももの凄い怖いイメージがあったんですよ。今でも怖いですけど(笑う)。でも、それぐらいがいいかなと。ストイックな、ここは専門的に演劇の演出が出来るなと。
__ 
緊張感がありそうですね。
山口 
演出が全然偉くないんですよ(笑う)。そもそも演出だけやるというのが間違いで、役割が違うだけで芝居を作るという仕事は同じなんです。二人とももの凄い厳しく言う人なので、もう戦いの場なんですよ。でも、そういうもんなんじゃないかと。お互いに影響しあえる三人なんですね。それが何か、いいなと。面倒くさい場所ですが。
__ 
結成からそろそろ、2年ですね。
山口 
少しづつ、演出という作業が分かってきたと思います。学生の頃は演出なんて、演技指導の比重が大きかったんですよね。でもそれを俳優に任せる事で集中出来る。
__ 
具体的には、どのような作業があるのでしょうか。流れというか。
山口 
まずこちらから注文、いやお願いするんですけど(笑う)、その人なりの何かが出てきて。当然、こちらのイメージと違うものが出てくるのでそれを擦り合わせる。その繰り返しですね。
__ 
スリリングですね。
山口 
もちろん一回で決まるわけではなく、他の様々な状況によって少しづつ変わって行きます。そういう繰り返しの中で、演劇って状況に応じて変わっていっても良いんだって分かりましたね。

質問 蟻蛸蛆さんから山口吉右衛門さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂きました、蟻蛸蛆さんから質問を頂いてきております。「一番最初の記憶はなんですか?」
山口 
歩行器で歩いていたらアパートの階段から落ちた事ですね。でも無傷でした。
__ 
痛そうですね。
山口 
しかもこれ、僕の事じゃないらしいんですよ。
__ 
えっ。
山口 
それと、真っ白い大きな犬に咬まれた記憶もあるんですが、それも僕じゃないらしいんです。母親にこういう事があったよねって聞くと「ない」って。確かに傷跡もないし。
__ 
他の誰かの記憶を持っている?
山口 
かも分からないですね。
__ 
演劇的ですね。

質問 イシゲタカヒサさんから山口吉右衛門さんへ

__ 
さて、ずっと前にインタビューさせていただいたイシゲタカヒサさんからの質問を頂いてきております。「本番前に何か、している事はありますか?」
山口 
大体、イタズラとかしてますね。
__ 
どんなイタズラを。
山口 
人の小道具に落書きしたり。本番中に見たら驚くかなって。
__ 
最低じゃないですか(笑う)。
山口 
あと、出演者に対して「そうそう、あのシーンさ・・・」って言い掛けてやめるとか。
__ 
めっちゃ気になりますね。
山口 
それはよくしますね。手軽だし。
__ 
素晴らしい。

居酒屋のような劇場で

__ 
今後、山口さんはどんな感じで攻めていかれますか?
山口 
カウンターだけしかない居酒屋のような状況でやってみたいなと思いますね。特定のお客さんに作品を手渡すみたいな。広い会場で全員に、というのではなく、この人とこの人とこの人・・・みたいに、自分たちで作ったものを手渡す、というのがいいなと。
__ 
それは面白そうですね。お客さんを選ぶ、という訳じゃなく、顔が見れる距離で大切に渡すみたいな。
山口 
例えば、アトリエ劇研が改装する前はトイレが一つだったので、俳優さんがトイレを使う時にお客さんから見られてたんですよ。スタッフさんも気を遣ってくれてたんですけど。
__ 
私も見た事があります。若干、気恥ずかしい気持ちがしましたね。
山口 
僕は、別に見せてもいいんじゃないかと。別に幻想を売る仕事でもないと思うので、何やったらこっちも始まる前にどんなお客さんが来てるのか見たいくらいで。だって、人と人が会ったら挨拶ぐらいするでしょうって。

Topknotのハット

__ 
今日はですね。お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
山口 
え、マジですか?
__ 
もちろんです。どうぞ。
山口 
えー。大丈夫ですか(開ける)。あ、帽子ですか。
__ 
あ、お似合いですね。ちょっとホコリがつきやすいものなので、お気を付けて。
山口 
ありがとうございます。これはキャラが変わりそうですね。
(インタビュー終了)